やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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サブレ、比企谷家を去る

side比企谷八幡

 

そろそろ夕食の準備を終えようかという時間に、インターホンが鳴らされた。鍋の前や盛り付けをしている小町やいろはに代わって俺が出ることにした。一色の義父さんや義母さんが来たのかな?今日はこっちで夕食を食べたいとか言ってたし……ってあの人達なら合い鍵使って入ってくるか。

もうとっくの昔に比企谷家と一色家の間にある塀は取り壊され、今や二つの家を繋げようかという話まで出てきている。

変形の3世帯住宅?

 

ならばこんな時間に誰が来たんだろうか。ドアホンのカメラに映っていたのは髪型を整えていた由比ヶ浜だ。

サブレを迎えに来たのか。それを確認して玄関まで出た。

扉を開けると手を振られる。

 

結衣「あ、ヤッハロー♪」

 

八幡「おう」

 

結衣「はい、これお土産」

 

ガサッと紙袋を渡された。菓子折りかな?

むしろそれ以外だったら怒るまである。社会人のお土産の基本は菓子折り以外にあり得ない。

木刀とか、意味のわからない龍が巻き付いた剣のキーホルダーとか、そう言うのは個人的には好きだが人に渡すお土産としてはどうなのかと思う。

 

結衣「地域限定なんだよー」

 

八幡「へぇ……」

 

紙袋の中をちらっと見ると由比ヶ浜の言うようにご当地お菓子だった。よくある市販のお菓子の地域限定版だな。

友人知人へのお土産としては中々のチョイスだ。

当たり障り無いのを選びつつも、堅苦しくなく、それでいてどこに行ってきたのかを彷彿させる。

だが、それを見たときふと昔の事が思い出された。

 

八幡「これか…」

 

結衣「え?なんか苦手なものだった?」

 

由比ヶ浜は不安そうに紙袋の中を覗き込んでくる。

 

八幡「いや、そんなことは無いんだが、女子ってこういうお土産を絶対買ってくるだろ?それもクラスの女子全員に」

 

ジョジョは断っていたけどな。

 

結衣「うん、そうだね。そういうのやらない子もいるけど」

 

三浦がアヴドゥルと知る前は三浦を彷彿していたが、あいつの中身を知るとむしろ率先して買ってきそうだ。あの世界にもう一度赴いて団子やら買い込んでオフィスに持ってきたしな。

由比ヶ浜もあの組織のお菓子を買ってきた気もする。

 

八幡「その昔、俺の下駄箱にこういう地域限定のゴミが入れられていてな…。もうさ、犯人絶対クラスの女子の誰かだし、しかも間違いなく犯行隠す気なくて、その強気さがジョジョやいろは達の逆鱗に触れてな…イタリア旅行に連れていかれていた。数週間後に帰って来たソイツは俺を見るたびにガタガタ震えるようになってとうとう不登校になっていたな」

 

ふふっと黒い笑いが込み上げて来た。

 

結衣「ま、まさかパッショーネに……」

 

八幡「いや、パッショーネに連れていかれたけど、連れていかれた先は波紋の総本山のエア・サプレーナ島」

 

結衣「それはそれで悲惨な気がするし…。だ、大丈夫だよ!もうそんなことは起きないよ!」

 

八幡「だといいけどな」

 

結衣「大丈夫!総武高校都市伝説のヒッキーにそんな事が出来る猛者はアーシスの人間も含めてジョセフさんとか東方会長とかスタッチくらいしかいないよ!」

 

八幡「そこまでかよ!」

 

ぐっと拳を握りしめて力説する由比ヶ浜。慰めにもならない…というか、エア・サプレーナ島へ連れていかれた女子に同情している様子もあるが、まぁいいや。俺の植物のような平穏が保たれるならそれで良い。

俺は吉良吉影か!

二学期も平穏無事に過ごせそうで安心していると、由比ヶ浜が玄関からうちの中の様子をちょっと気にした。

 

結衣「サブレは?」

 

八幡「ああ、元気だよ。いろは」

 

俺がいろはを呼ぶと、サブレを抱きかかえたいろはが小町を伴って玄関までやってくる。

腕の中でサブレがばう!と鳴くと、由比ヶ浜が微笑む。

 

結衣「いろはちゃん、小町ちゃん、ありがとー」

 

いろは「いえいえ」

 

いろはに抱きかかえられたサブレを撫でつつ、由比ヶ浜が問う。

 

結衣「迷惑かけてなかった?」

 

いろは「ペッちゃんやカー君が主に相手していましたから。それにイヌリンガルとかで一緒に遊べましたし、楽しかったですよ」

 

結衣「イヌリンガル?ああ、あれか。昔、そんなのあったね」

 

八幡「今、アプリで出てるんだよ」

 

実際に見せた方が早いので起動してみると、由比ヶ浜がどれどれと俺の携帯に目をやった。試しに由比ヶ浜がサブレに呼び掛けてみる。

 

結衣「ほらほらサブレ、お姉ちゃんですよー」

 

するとサブレは目を鋭くして牙を剥く。

 

サブレ「ガルルル!」(あ?誰が俺のお姉ちゃんだ?このイギー様に偉そうな口を利いてるんじゃあねえ!)

 

結衣「さ、サブレェ!?」

 

絶望にも似た声音にサブレは更に反骨精神を剥き出しにして唸る。

小町が運んできてくれたキャリーバックにそっと入れてやる。じーっとファスナーを閉じて由比ヶ浜に渡した。

 

八幡「お前、サブレより下に見られてるな…まぁ、イギーだから仕方ないか」

 

結衣「え?忘れられていた訳じゃあないんだ」

 

半泣きながらもしっかりと大事そうにそのキャリーバックを抱える由比ヶ浜。

 

八幡「サブレの頭の良さは知ってるだろ?だから逆に人を下に見るクセがあるんだよ。異世界でも人外相手にいっぱい食わせたりしていたしな。最終的には気に入られて天狗にならないかと誘われていたし」

 

結衣「サブレ……凄い……」

 

サブレはメッシュに鼻先を引っ付けてく~んと鳴いた。

 

八幡「………じゃ、またな」

 

俺に懐いてくる珍しい犬なので、俺もついつい可愛がってしまった。いざ別れるとなるとそれなりに込み上げてくるものがある。それと名残惜しそうに鳴かれちゃなおのことだ。

 

いろは「結衣先輩。またサブレを連れて遊びに来て下さい。ペッちゃんやカー君も喜ぶと思いますから」

 

結衣「うん!もちろん!ヨッシーも連れて来て良い?」

 

ヨッシー?ああ、材木座か。

もちろん構わん。露伴先生や城廻先輩も大歓迎だ。

 

小町「もちろんです」

 

結衣「うん!ありがとね」

 

由比ヶ浜はお礼を言うと、サブレとその他の荷物をよいしょと持ち上げる。

ぼちぼち帰る頃合いだろう。そこで思い出した。

 

八幡「そうそう、雪ノ下のことだけどな、花火大会に来るかも知れないぞ?俺達もそうだけど、あれって自治体系のイベントだから地域のお偉いさんが家族で来たりするんだ。地元の大企業のSPW財団の枠で陽乃さんが来るのは確定してるから」

 

もっとも、マスコミの餌になるから来ないかも知れないけどな。

 

結衣「そうなんだ…。わかった!ヨッシーとか誘ってみるよ!それで……」

 

由比ヶ浜は早速材木座を誘うつもりのようだ。そして上目遣いで俺の方を見る。

 

結衣「ヒッキー達は?」

 

八幡「俺達はお偉いさん枠のゲストだ。肩が凝るから嫌だけどな」

 

結衣「あー……そうだよね…。みんなで行けたら良いなーとか思っていたけど、そっちの付き合いもあるんだもんねー」

 

まぁ、例え来賓枠で招待されてなくても材木座とのデートを邪魔するほど鈍くねぇよ。ここでの誘いは社交辞令だ。

 

いろは「こればかりは仕方がないですよ。地域に根差した経営をしなければいけませんから。それに、行かないとジョジョ先輩がむくれますし」

 

静「そうそう。当日は迎えに来るから、逃げたら恨むからね?お、サブレ。久しぶり」

 

サブレ「わん!」

 

いつの間に現れた?ジョジョ。

ジョジョは犬嫌いだが、サブレは例外だ。ファンタジー・スターダスト・クルセイダーズの絆というやつなのか、単に一週間生活を共にしていたから慣れたのか。

 

結衣「アハハハハ!もうすっかり仲良しだね♪スタッチとサブレ。じゃあまたね♪花火大会でもし会えたらよろしくねー♪」

 

そう言って由比ヶ浜は帰っていき、代わりにジョジョが家の中に入ってきた。あれ?仗助は?

 

八幡「おい、仗助はどうした?」

 

静「お兄ちゃん?今日は少し仕事で遅くなるみたいだから後で来るって」

 

八幡「あいつも忙しいな……」

 

静「まぁ、いつもの事だしね」

 

俺達はジョジョを伴ってリビングに戻った。

しばらくして仗助と徐倫もうちにあつまり、一色さんとうちの両親も帰って来てプチパーティーとなった。

相変わらずうちは賑やかだ。

 

 

ーキング・クリムゾンー

 

 

仗助「しかしよぉ、サブレがいなくなると静かになっちまったなぁ。あの鳴き声は俺の家まで聞こえていたぜ?」

 

一色さん夫婦とうちの両親はあちらの家で飲み会に雪崩れ込んだ。今は俺達幼なじみーズと徐倫だけがリビングで寛いでいる。

心なしか小町は元気のない様子でソファーに沈み込んでいた。一緒に洗い物をしていたいろはと顔を見合わせ、全員分の麦茶を注いで渡す。

 

いろは「お疲れさま、マチちゃん」

 

差し出されたグラスを受け取り、小町は一気に飲み干した。ぷはっと満足げに声をあげると、小町はいろはにグラスをテーブルに置く。

 

小町「いやぁ、疲れたね。我が子を送り出した気分だよ。スージーをジョセフに送り出した時の感覚だね」

 

ぐっと老け込んだ様子の小町は縁側でボーッとしているおばあちゃんのような穏やかな顔をしている。

 

徐倫「逆でしょ……おじいちゃんの方がマーチの息子だったんだから…」

 

ナイス突っ込みだジョジョ。

 

小町「うーん……確かにそうなんだけどね?リサリサが一緒にいた期間って、ジョセフよりもスージーの方が長いんだよね」

 

確か赤ん坊の頃に事件が起きてリサリサはジジイの元を去ったんだったな。

 

仗助「産みの親より育ての親という諺があるけどよぉ、産んだ子供よりも育てた子供なんていうのは初めて聞くぜ?どんだけ複雑なんだよ」

 

小町「うっさい。バカ孫。仗助お兄ちゃんだってその複雑な家系の人間じゃんか」

 

仗助「バカ孫って…確かにリサリサおばあちゃんから見たら俺は孫だけどよぉ」

 

確かに複雑な家庭だな。

俺達ジョースターは。

小町がごろ~んとやる気なく、ソファーに寝そべる。伸ばした手の先にあるクッションを引き寄せようとすると、そこでカマクラがすかーっと寝こけていた。しかも完全にリラックスしていてシェーみたいになっている。

もふもふの腹毛全開、超無防備。

それを見て小町の目がキランと光った。

 

小町「カーきゅーーーーん♪」

 

ガバッと飛び付き、腹肉に顔を埋め、肉球がもげそうなほどプニプニし、一緒になってごろごろいっていた。

 

小町「ハッ!今ならカー君の本音が聞けるかも!お兄ちゃんネコリンガル!ネコリンガル急いで!ハリー!ハリー!」

 

そんなん使わなくても妖怪ネコリンガルがいるのだが、あのオキツネ様が貸してくれるわけないか。

言われるがまま、携帯を取り出す。ネコリンガルを立ち上げて、さっと小町に渡した。小町は早速カマクラの喉元に携帯をつきつける。

 

カマクラ「ゴロゴロゴロ」(くるし、あ、杜王町……億泰……たすけ……かゆ うま)

 

静「カマクラー!」

 

いろは「エメラルド・ストライク&ヒーリング!」

 

小町「げふぅ!」

 

カマクラの危機を感じ取ったいろはがエメラルド・ストライクで小町を弾き飛ばし、カマクラが宙に投げ飛ばされる。

ヒーリングは弾き飛ばした小町を回復させる為だ。

 

徐倫「ストーン・フリー!」

 

一方で徐倫はストーン・フリーの糸ででカマクラをキャッチして仗助にパス。

 

仗助「グレート!いろは、徐倫!クレイジー・ダイヤモンド!」

 

パアァァァァ!

間一髪でカマクラは一命をとりとめた。

大丈夫か?この猫……というか、ネコリンガル作った奴は大丈夫か?汚染されてね?っというか、個人名まで特定できるってすげェな!あのオキツネ様のペットが作ってるんじゃね?

 

カマクラ「ニャアァァァァ…」(助かったぜ仗助…いろは、徐倫……)

 

仗助「良いってもんよ。お前も苦労してるな…カマクラ」

 

小町「カーきゅーーーーん♪」

 

カマクラ「(ビクゥ!)ゴロニャァァァァ」(コォォォォォォ)

 

懲りずに更なる追撃を加えようとする小町に耐えるためにカマクラは波紋を練り始めた。

寂しさを紛らわすようにやたらめったらカマクラを弄る。よほどサブレを可愛がっていたんだな。

ちなみにペットショップは難を逃れる為にこっそりとトテトテ逃げている。

途中でちらりとカマクラを見て

 

ペットショップ「クエッ」

 

と一言鳴いて猫用のドアを潜ってリビングを去っていった。

あれはわかる。御愁傷様と言っている。

 

カマクラ「フゥゥゥゥゥゥ!」(テメェ!このクソ隼ぁ!逃げるなぁ!裏切り者ぉぉぉぉ!)

 

ケーーーン!(逃げるんだよォォォ!)

 

その判断は間違いないぞ、ペットショップ。

小町による相撲部屋的な可愛がりとも見れるバイオレンスなじゃれ合いを若手ジョジョ達と冷や汗物でしばし眺めていると、小町が携帯の表示を見て声を上げた。

 

小町「あ、お兄ちゃん、電池切れそう」

 

八幡「ん、ああ」

 

差し出された携帯を受けとる。

確かに電池は残り数パーセントを指している。今すぐにでも切れてしまいそうだ。画面の上部に小さく表示された時間が視界に入った。結構いい時間になっている。

 

八幡「ちょうど良いタイミングだ。カマクラを解放してやれ」

 

小町「はーい」

 

最後に小町はカマクラを一撫でし、ソファから立ち上がるとリビングから出ていった。自分の部屋で本格的に休むのだろう。

 

仗助「じゃ、俺は一色家に行って飲み会にさんかすっか。徐倫はどうする?」

 

徐倫「付き合うわよ、仗助兄さん。イーハも戻る?」

 

いろは「そうですね。わたしも帰ります。おやすみ、ハチ君、ジョジョ先輩、カー君」

 

静「私も帰るわ。飲み会に参加できないし。お兄ちゃんも徐倫お姉ちゃんも深酒しないでよ?おやすみ」

 

幼なじみ+徐倫の懇親会はそこでお開きとなった。

残されたのは俺とカマクラのみ。

ようやく小町から解放されたカマクラは疲れた様子でとろとろと俺の方に歩いてくる。

 

八幡「お前もお疲れ様な」

 

カマクラ「みー」

 

立ち上げたままのネコリンガルが反応して文字が表示される。

 

「ヤレヤレだぜ」

 

それを見てつい笑ってしまった。

 

八幡「ああ、まったく。ヤレヤレだな」

 

俺の声に、もう一度カマクラが鳴いて返事をしてくれたが、携帯の画面は既に消えていた。

 

←To be continued




今回はここまでです。

それでは恒例の原作との相違点を。

お土産を渡さないのは三浦➡削除。むしろおかん三浦は率先して仲間内には世話を焼く。

過去のいじめは八幡が傷ついただけ➡いじめをした女子はイタリア旅行のエア・サプレーナ島ツアーにご招待され、トラウマを植え付けられた

クラスの中では八幡の存在はあまり認識されていない➡誰も八幡の敵になろうとするものはいない。

サブレを玄関まで連れてきたのは小町➡いろは

サブレは由比ヶ浜に対して、「この人、誰?」と忘れている➡忘れていない。が、サブレの中での由比ヶ浜家のカーストは結衣より上の位置付けのつもりなので「お姉ちゃん」と言ったのが気に障っただけ。

次に遊びに来るときは両親がいるときに、菓子折りを持って、挨拶がてらと小町が誘う。義姉候補計画発動➡普通に遊びに来るようにいろはが誘う。ハチ君は渡しません!いや、いらないし…by結衣

花火大会に由比ヶ浜は八幡を誘う。デート目的➡誘うには誘うが、友達枠の社交辞令。

小町は八幡を出かけるように画策する。本人は受験勉強を理由に行かない➡元々八幡もいろはも小町も来賓枠で行かなければならなかったので誘われても行けない。肩が凝るから一般枠で行きたいのだが、そうもいかない。

サブレが帰った後の夕食のシーンは比企谷兄妹のみ➡幼なじみーズと徐倫が集結

八幡の両親は仕事で不在➡一色家と飲み会

カマクラとジャレ終わった小町は勉強の為に部屋に戻る➡寝るために戻る。タイミング的に幼なじみ達の懇親会もそこで終了

「みー」で反応したネコリンガルの内容は不明➡「ヤレヤレだぜ」


それでは次回もよろしくお願いいたします。


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