side材木座義輝
ハーメルンとの戦いが終わり、警察の事情聴取も終わった。我らは表向きには巻き込まれただけであり、特に暴徒から襲われていただけだったので大した事もなく解放された。
千葉ポートタワー花火大会の集団暴徒化事件は首謀者、松田元記者による犯行で、被疑者死亡という形で幕を閉じた。
説明しようのない事件だったしな。
ジョセフ「送って行くが、どうする?」
結衣「うーーん……止めておきます。そこまで甘えられないですし」
結衣殿がジョセフ老に断り、我らは帰路に着く。
ジョセフ「そうか。シュトロハイムに結衣よ。今日はおつかれじゃったな。今度こそ気を付けて帰るのじゃぞ?」
材木座「了解です。ジョセフ老」
そう言って我らは別れた。
雪ノ下姉妹は再びマスコミの餌食にならぬよう、そのままジョルノ殿の車に乗り、帰宅しておる。
空条先生は一度学校に寄ってから帰るそうだ。
露伴先生と城廻先輩はわからぬ。いつの間にか姿を消しておった。
せめて挨拶くらいはしたかったのだが、明日になればまた先生の家で会うのだからどうしてもという訳ではなかったので気にせんようにした。
早めに解放されたとは言え、事件の影響は大きく、駅はかなり混雑しておった。
事件の影響からか、電車は少し遅れてホームに入ってきた。乗り込むと、ギリギリ座れない程度の込み具合で、我と結衣殿は扉の前に立っていた。
結衣殿の家の最寄り駅までは一駅。我が降りる駅までは数駅だ。大した距離ではない。
5分とかからず、電車は次の駅に到着しそうなアナウンスが流れる。
楽しいデートがウルフスとの戦いになってしまったので我らの間には微妙な空気が流れる。
結衣「あのさ……」
それまでお互い黙っておったのに、結衣殿がポツリと口を開く。
視線と息づかいだけで返事をすると、少し間を置いてから……
結衣「今日は……楽しかった?最後はともかくとして」
……我は思い返してみる。
うむ、楽しかったと思う。ウルフスの襲撃を除けば、露店でのやり取りも、共に見た花火も楽しかった。そう思える。
材木座「うむ。楽しかった。我は少なくともそう思える」
結衣「うん、あたしも………でもね?あ……」
ガタッと電車が揺れ止まった。扉が開き、ムッとした夜気が車内に入ってくる。
結衣殿は我と外を見比べどうしようか迷っておる。
考えるまでもない。デートとはおなごを送り届けてまでがデートであるというのは弁えておる。
我は結衣どの手を握り、電車を降りた。
結衣「降りちゃって良かったの?」
材木座「我はもう少し話をしたかったのでな。それに、あのタイミングで話を切られては気持ち悪かろう?」
結衣「そうだね……ちょっと言い出し辛かったから。ごめんね?」
そう良いながらも思い詰めた顔をしておる結衣殿。
材木座「近くまで送る」
結衣「ありがと……」
小さく礼を告げる結衣殿。
駅から結衣殿の家までそれほど距離は離れておらぬらしい。それでも履き慣れぬ下駄で歩く速度はやや落ちるようだ。
その履き物で良くあの激しい戦いを乗り越えられたものよ。ほとんど我のガンズ・アンド・ローゼズのプロテクターで覆っておったとはいえな。
ゆっくりとした歩調で、静かな町に二人分の足音を刻む。
夜が深まるにつれて、風が出てきたのか外を歩いていても、湿度や熱気はさほど辛くは感じない。
結衣「今日ね。ヨッシーが刺されたり、バラバラになったとき、本当に目の前が真っ暗になったんだ」
材木座「心配をかけて済まぬ………」
結衣「ううん。あたしを守るためだったんだもん。あたしは責めてるんじゃあなくて、むしろありがとってお礼を言いたい。………でもね?もうヒッキーの時みたいな事はイヤだって思っちゃう」
材木座「八幡の時みたいな事……であるか」
ついつい信長みたいな事を口に出してしまう我。
それは事故の事なのか、それとも千葉村の事なのであるのか我には判断が付かぬ。
結衣「リバースact1の影響だったって後になってからわかったんだけどね?それまでは謝りたくても謝れなくて、時間が過ぎるとどうしようってばかり思って焦っちゃって…ズルズル先延ばしになっちゃって……」
うむ。それは分かる。タイミングを逸すると何事も弱気になったりしてまずいと思っておっても先延ばししてしまうものよ。
結衣「あのね、ヨッシー……今日、戦っているヨッシーを見て思った。何度もヨッシーがやられそうになっているのを見て思ったんだ。こんなドメスティックバイオレンスな生活しているあたし達は、いつか大切な事を言うこともなく終わるかもしれないって!」
材木座「ドメスティックバイオレンスは家庭内暴力のことであるぞ?結衣殿」
結衣「あれ?じゃあドメスティック?」
材木座「バイオレンスだ、バイオレンス」
いずれにしても我々の生活は既に平穏などとっくに崩れ去っておる。
結衣「ヨッシー……あのね。あたしは出会って少しした頃はヨッシーの事を少しキモい人だと思ってたんだ」
材木座「間違ってはおらん。今でも我は女子から見たらキモい男であろう」
結衣「そ、それは否定できないけど……でもね、知れば知るほど、さらにあたしはヨッシーの事を知りたくなっちゃったんだ。知らないままなんて…イヤ」
歩みが止まってしまった結衣殿に合わせるように、我の歩みも止まる。
材木座「知らぬのとが悪いとは思わん。知っていることが増えれば面倒ごとも一気に増える。アーシスの事など、本来は結衣殿が関わるべき事ではなかったはずなのだ」
この裏の社会、知らぬことが幸せな事など多い。
スタンド、波紋、柱の一族、レクイエム、オーバーヘブン、アーシス、ウルフス………。
関わってしまったが故に、我らは抜け出せる位置から程遠くなってしまった。
我はまだ良い。前世からの因縁もあるからだ。
だが、結衣殿は………
結衣「抜け出さないよ。絶対に逃げない。あたしはもっと知りたい。お互いよく知って、もっと仲良くなりたい。困っていたら力になりたい。同じ苦しみを分かち合いたい。その覚悟なら、あたしはもう持っているつもりだよ?」
結衣殿は先導するように歩き出した。
出遅れた我はそのまま一歩後ろを歩く。
結衣「ヨッシー……あたしじゃあ、ヨッシーと共に歩くことは出来ないかな?あたしは……ヨッシーと共に歩きたい……あたしじゃあ、ダメ?」
何と言った?結衣殿は………我と共に歩みたいと申したのか?
材木座「我で………我で良いのか?結衣殿……なんの取り柄のない我なんかで……」
結衣「ヨッシーが良い……いつからかは分からない。だけど、あたしはヨッシーが…………」
すうっ………と結衣殿は息を吸い込み、そして確かにまっすぐに我の目を見て……
結衣「ヨッシーの事が………好き」
結衣殿は踏み込んできた。
この我に……我なんかの為に………
材木座「我は………面倒な男だぞ?結衣殿」
結衣「知ってる。だけど、あたしはヨッシーがカッコいい事も知っている。カッコ悪い事も知っている。ヨッシーが優しい事も知っている」
結衣殿は星空を見上げる。カラッと下駄を鳴らして石ころを蹴る。
結衣「ヨッシーはあたしを助けてくれた。千葉村でも、あの世界でも。その前からもずぅっとあたしの側で成長を見てくれていた」
材木座「そんなのは……我でなくとも戸塚殿や八幡だとて……」
その感謝も信頼も、あるいはそれ以上の何かであったとしても……。
それはたまたま一緒にいただけなのでは無かろうか。
仲間であるがゆえに当たり前の行動一つで我の人格を勘違いしておるだけではなかろうか。
だから、結衣殿が我に対する好意は、その感傷じみた確信は間違っておる。
材木座「我に……そういうのは期待せぬ方が良い。きっと我は………結衣殿を失望させる」
結衣殿は悲しげな瞳で我を見る。そして我らは一定の距離を保ちながら歩き続ける。二人の足音が夜の町に響く。
それが急に縮んだ。
結衣殿が急に立ち止まったせいで我はつんのめり、必然体が近づく。
くるりとこちらへ振り返り、柔らかな月光が結衣殿を照らした。
結衣「きっと、ヒッキーの事故の事がなくったって、あたしとヨッシーはあの部室で出会っていたと思う。そして、こうして花火大会に行ってたと思う」
材木座「無いであろう。出会うことなどあるとは思えぬ」
結衣殿はゆっくりと首を振る。その瞳は、潤んでいて街灯が反射しておる。
結衣「ううん。そんな事はない。あたしはあんな性格だったからさ……今でもあまり変わってないかもだけど、事故の事がなくてもいつかは悩んで奉仕部に行っていた。で、スタッチやヒッキー、ゆきのんと出会うの。その頃だったらヨッシーもいるかな?」
もしかしたらあり得たかも知れぬ未来。平行世界。
我々が行った世界は、我と結衣殿は出会うことはなかった世界。
一色殿が行った世界では出会っておっても我には別の者がおった世界だった。
だが、もしかしたらここと似たような世界があるのやも知れぬ。きっとあるのだろう。たら、ればの数だけ平行世界は存在する。
結衣殿の言っておることが、決して夢物語では無いことも我は体験して知っておる。
そう思っている間にも、結衣殿は熱の籠った声で続けた。
結衣「そしたら、ヒッキーとスタッチの性悪コンビがまたバカで斜め下の解決法……それでいて本質を見極めたやり方でリバース・タウンの特性を見出だしてさ、それを空条先生やヨッシー達が胃を痛めながらも苦笑いして解決して、その光景に良いなぁって思いながら、そこにある本物の感情に憧れてさ………あたしはその中に飛び込んで行くの」
我の脳裏にそれが浮かぶ。
それは温かくて……今のように苦しい戦いがあっても、その合間にある日常が楽しくて……性悪コンビに振り回される日々。
結衣「そして、あたしはきっと…ヒッキー達がバカをやりながら、派手な戦いの日々の中で…ヨッシーの小さな優しさや強さに触れて……好きになるんだと思う。そんな気がしてる」
材木座「それは………素晴らしく暖かい世界だろうな」
我がそう言うと、結衣殿はポロリと涙を落とす。
結衣「ねぇヨッシー……もう一度いうよ?あたしは傷付く覚悟も、命のやり取りをする覚悟はある。ヨッシーと進む覚悟はある。ヨッシーの隣で共に歩むのは…あたしじゃあダメ?」
………こうまで言われて言い訳を考えるのは、違う気がした。
材木座「我も……我も結衣殿に惹かれておる。我なんかで良ければ……よろしく頼む……結衣殿」
結衣「うん!」
ポロポロと涙を溢しながらも、輝く笑顔で結衣殿が返事をし、我に抱き付いてくる。
こんな人並みの幸せが我に降りて来ようとは……。
抱き合った状態で互いの顔は近付き……。
ヴヴヴヴヴヴヴヴ…!
くぐもった振動音が漏れ聞こえた。
結衣「あ…………」
空気を粉砕され、慌てて離れる我ら。
結衣殿は真っ赤な顔で巾着を開け、携帯を取り出す。
結衣「ママからだ……着信がずっとある……」
あの騒ぎで娘が心配になったのであろう。
普通の親なら心配しておらぬわけがない。
材木座「早く出てあげて、元気な声を聞かせるが良い」
結衣「うん。ちょっとごめんね?」
と断ると、少し離れて電話に出た。
結衣「あ、ママ?うん。うん。大丈夫だよ?ヨッシーが守ってくれたから。うん。今は家の近く。すぐ帰るから、心配かけてごめんね?うん。ありがとう。じゃあ」
そう言って電話を切ると、静に携帯をしまった。
結衣「うち、すぐそこだからここまででいいよ!ヨッシー……今日はありがとね?また、よろしくね。今日はママに会いたくなっちゃった……」
材木座「わ、我の方こそよろしく」
結衣「うん、じゃあ。おやすみ」
そう言って我のほほに…
チュッ
と、唇を当てると、結衣殿はバイバイと手を小さく振り、我も軽く手を上げて応えた。
照れ臭いのか結衣殿はたたたっと足早に家路につく。つんのめりそうになっておるのが心配になるが、近くのマンションに消えていくのを見送って我も歩き出して…すぐに止まった。出歯亀がいるのを発見したからだ。
材木座「そこで何をしておられるのです?露伴先生と城廻先輩」
ふたりは角の塀に隠れて覗いておるのを我に発見され、特に悪びることもなく、普通に出てきた。
露伴「リアリティーの追求だ。生のカップル誕生シーンなど、中々見れないものだからな。ましてや弟子のそれなどはそうそう見れない。良い研究だったぞ?義輝くん。やはり君は最高の弟子だ」
めぐり「いやぁ、もう少しだったのにねぇ。こんなロマンチックで最高のシーンのキスなんて、中々ないよねぇ。残念だったねぇ」
露伴先生は清々しいほど開き直り、城廻先輩は天然百パーセントでさらりと覗きを自白する。
材木座「な………な………ななな…」
露伴先生は真剣な顔で我の両肩に手を置く。
露伴「義輝くん!」
材木座「………何でしょうか?」
何かのアドバイスであろうか?それとも結衣殿との交際を応援する師の忠告だろうか?
露伴「これからは出来立てホヤホヤのカップルのリアリティーを君から学ばさせてもらうよ?これは君を師事することへの対価であり、正当な取引だ。良いね?」
違った。露伴先生はどこまでも露伴先生だ。
その漫画への飽くなきリアリティーの追求に痺れる!憧れる!
だが………叫ばずにはいられぬ!
材木座「我は……我は研究材料ではぬわぁぁぁい!」
露伴「む?流石に無粋すぎたようだ。逃げるぞ、めぐり君!」
めぐり「了解だよ?露伴ちゃん!」
そう言って露伴先生は走って逃げ出す。このお方は漫画家という運動とは無縁の生活を送りながらも体を鍛えておるから意外に早い!
城廻先輩も波紋に目覚めてから足が極端に鍛えられておる!逃がさぬぞ!今日という今日は!
材木座「待たぬかぁ!このダメ師匠夫婦ぅ!」
逃げる露伴先生と城廻先輩、それを追いかける我。
夜はまだ続く。
頬に残る結衣殿の唇の感触の名残が消えるまで、我らの鬼ごっこは続いた。
←To be continued
千葉市都市伝説
千葉の祭りの3ヶ条
SPW財団と提携しないと露天が荒らされる!しっかりと協定を結ぶべし!
SPW財団関係者に手を出すな!しっかりと人間関係の裏を取らないと潰される!
首筋に星形の痣がある集団を見たら逃げろ!露店の商品は金物屋に偽装して金物市にすべし!
はい、残すは5巻のクライマックスのみです。
材結回が終わり、二学期に突入します。
今後はどんな展開になっていくのでしょうか?
それでは恒例のを。
帰りの駐車場では陽乃を迎えに来たハイヤーがあり、それは過去に八幡をひいた車である➡ジョルノのハイヤーが雪ノ下姉妹を送った
八幡はここで事故の真相の全てを知る➡最初から八幡は事故のすべてを知っている
由比ヶ浜と八幡は雪ノ下の身辺の事について話をし、由比ヶ浜は雪ノ下を助けるように依頼する➡由比ヶ浜は材木座に告白をし、それを受ける
それでは次回もよろしくお願いいたします。