やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳
<< 前の話 次の話 >>

342 / 411
海老名姫菜は星の王子さまにスターダスト・クルセイダーズを重ねる。

side比企谷八幡

 

暗幕を張り巡らせた教室はすし詰め状態だった。

これ以上はお客を入れられまいと海老名が判断し、満員御礼の札を扉にかけるように指示が飛ぶ。

札をかけると俺は受付の長机を扉前に移動させ、これ以上は入れないように封鎖し、中に入る。

ついに舞台の幕が上がる。

葉山扮する「ぼく」のモノローグで劇は幕を開けた。

スポットライトが葉山に降り注ぐ。

観客達が一瞬わいた。

観客達が一瞬沸いた。どうやら葉山の友人達やファンが多く押し寄せているらしい。

砂漠の背景に、飛行機のセット。「ぼく」が描く絵は着ぐるみのような衣装を着た男子達が舞台に登場することで表現していく。ボアに絡み付かれた動物のイラストは男子二人が絡み付かれた状態で表現した。その滑稽な絵面に客席がどっとわく。

そんなところでも海老名の趣味がさらされているような気がする。出なくて正解だったと言うべきか…。戸塚と葉山……お疲れさんな。

さらに葉山の長いモノローグが続く。

そこへ、

 

王子(戸塚)「すみません。ヒツジの絵を描いて」

 

戸塚の影台詞が入る。

 

ぼく(葉山)「え?なに?」

 

小さく囁くような声を聞き逃した葉山に、再度同じ台詞がかけられる。

 

王子(戸塚)「ヒツジの絵を描いて」

 

そして舞台袖の戸塚にスポットが当たった。その可愛らしい格好と容姿にまたしても客席がざわめく。カワイー!とかという女子の声に、「ピキッ!」っと戸塚のこめかみに青筋が立つのがわかるが、役になりきろうとしているのか、キレるのを我慢している。コレが仗助なら舞台がメチャクチャになっているな。さすがはスピードワゴン。

二人が出会うことで物語は順調に動いていく。

「王子様」が自分のいた星での薔薇との出来事のくだりに入ると、緑の全身タイツを着て、赤いシャンプーハットをかぶった男子がオネェ言葉で語りだす。

その口調には照れが入ってるな。俺が文実でなければあの人のカフェにバイトに行かせていたぞ。本物のオネェ言葉が実地で体験できたはずだ。あの人のあれは完璧だぞ?演技ではなく、それが自然体なんだから。なのにカッコいいんだ。海老名に、あの人に弟子入りさせるべきだったと進言しなかった事が悔やまれる。

いっそ、シナリオもプロの小説家やシナリオライター、舞台装置もあの時計を作り出した科学者の紐……紐……ヒモなんとかさんに頼むべきだったのでは?

そのあともなかなか酷い。「王子様」が回った星々の回想シーンもビジュアル的にはほとんどコントだった。

これ、ポルナレフさん怒らないかな?海老名よ…お前はポルナレフさんの戦友だろ…。知らないぞ?

自分の権威を誇示し、保とうと必死な王子様は、家から持ち寄った豪奢な絨毯を何枚も重ねて身に纏っている。大和が暑さに悶えていた。頑張れ、ラグビー部。

自分を崇拝してくれ、認めてくれと言い出す自惚れ男は全身アルミホイルがはっつけてある。戸部の体がピカピカして眩しい。俺が演出だったら音石さんに頼んで電飾にチリペッパーを付けてるな。よりピカピカしてビジュアル的には派手になるだろう。

酒に溺れる事を恥じ、それを忘れる為にさらに飲む酒飲みの周りにはこれでもかとばかりに一升瓶と鬼殺しのパック。……あのさ、分かりやすいけど何で日本酒?せめて洋酒の空き瓶とかにしようよ。中身は俺が飲んでおくから。ちなみに小田だか田原だかは緊張で元から酒飲みみたいに赤かったが、その上に三浦がマジシャンズ・レッドで熱して更に赤くされている。止めてあげろよ。脱水症状になるぞ?

ブツブツと数字を数えては「ほら、私って重要な人物だから!」と叫ぶビジネスマン。海老名の指導の賜物か、それとも元々自己顕示欲が強かったルーム長のスーツ姿は無駄無駄無駄無駄ぁ!によく似合っている。

規則に縛られ電灯を点けては消す点灯夫は、煤けたような汚れまみれのツナギを着ている。セットの電灯の周りをぐるぐる回る役割は風見鶏の大岡にはちょっと相応しいのかも知れない。スタンド能力を無くしてなければ屍生人にやらせても良かったかもな。さすがにそれは死人への冒涜か…。吉良吉影あたりにやらせても良かったかも知れないが。

書斎から一歩も出ず、探検家に教えられたことを記す地理学者の周りには地図や地球儀。承太郎という冒険家兼学者を知る俺としてみれば、学者をなめんなと言いたい。物語だから仕方ないけどな。学者という職業はあれでいて結構体力が求められるからな。

現実はともかく、皆でアイデアを出しあい(多分ね)、川崎が頑張って(きっとね)作られた衣装は観客達にも大ウケだったようだ。露伴先生ならリアリティーがどうとか言い出しそうだが、文化祭の出し物としてはこの程度で良いのかも知れない。

そして舞台は王子様が地球に降り立ったところへやって来た。

砂漠に来てヘビと出会い、幾本もの薔薇を目にし、自分が持っていたものがありふれていて、なんでもないものだったことに気付いてしまう王子さま。もしかしたら原初のウルフスはそう感じてしまったのかもな。

戸塚のもの悲しげなセリフに、観客からすんと鼻を啜る音がする。

何か金髪の元シスターの異世界人が総武の制服を着て紛れ込んでる気もするが、見なかったことにしよう。

間違いなくあの性悪もどこかにいるだろう。

そこへ毛皮のコートにキツネ面の男が現れた。ああ、俺の好きなシーンだ。

王子さまがキツネを誘う。

 

王子さま「ぼくと一緒に遊ぼうよ。ぼくは、今すごく悲しいんだ」

 

顔を俯かせ、寂しげに台詞を言う戸塚。ちなみに海老名が書いたシナリオ第1稿には「やらないか?」になっていた。ホント何考えてんだ?あの女。

 

キツネが王子さまに答える。

 

キツネ「君と俺は遊べないよ。…俺は飼い慣らされていないから」

 

この、「飼い慣らされていない」というセリフが俺は気に入っている。「仲良くする」という行為を実に端的に、かつ現実的に言い換えている。

仲良くするというのは、実際色々なことに飼い慣らされていくようなものだ。相手に、あるいはみんな仲良くし、問題を起こすなという空気に。そして自分自身の都合や心さえも飼い慣らしていく。牙を抜き、爪を折り、棘を抜く。傷付けないよう、傷つけられないようまるで腫れ物にでも触るかのように慎重に取り扱っていく。そんな仲良しへの当てこすりめいた表現は俺の好むところだ。

俺はみんな仲良くとは反対の主義を持ってるからな。

そんな事を考えているうちに、シーンは先へ進んでいる。

 

王子さま「最初は草の中で、こんなふうに、お互いちょっと離れて座る。俺は君を目の隅で見るようにして、君の方は何も言わない。言葉は誤解の元だからね」

 

王子さまとキツネは対話を重ねていく。

そして、お互いがお互いを飼い慣らすのだ。

それでも別れが訪れる。

最後にキツネは王子さまに1つ秘密を教えてくれる。おそらくコレが星の王子さまでもっとも有名なものだろう。

大切な物は目で見えない。

 

キツネと別れて後、王子さまはまたいろいろな場所を巡り、舞台は再び砂漠へ戻る。

「ぼく」と王子さまは砂漠の井戸を探しにいくのだ。

 

王子さま「砂漠が綺麗なのはどこかに井戸を1つ隠しているからだよ」

 

戸塚の言った台詞に観客席から嘆息が漏れた。こちらも星の王子さまで代表的な一節だ。知っている人も多かったのだろう。

 

海老名「砂漠か……懐かしいな…」

 

三浦「そうだね……承太郎やジョースターさん、ポルナレフ……イギー……辛かったし、最後には死んじゃったけど、懐かしいね……」

 

………俺は何も言えない。殺したのは俺の前世のディオだったからな。

 

海老名「あ、ヒキタニ君を責めているわけじゃあないからね」

 

三浦「あの旅が……二十五年前のあーしらが花京院やアヴドゥルだった頃のかんそうだし。勘違いするなっしょ?ヒキオ」

 

八幡「わかってるし、もう罪にはとらわれねーよ」

 

静「当たり前だっつーの。また一人で暴走したら許さないからね?相棒」

 

沙希「ほら、もうじきいい場面だから黙ってなよ」

 

川崎に注意され、再び舞台に目を移す。

砂漠か……。もしかしたら海老名が星の王子さまを選んだのは、二十五年前の戦いを思い出したからなのかもな。趣味に走りすぎた感じがかなりあるけど。スターダスト・クルセイダーズの旅はジジイや承太郎、ポルナレフさん、三浦の前世のアヴドゥル、海老名の前世の花京院、サブレの前世のイギーの心を重ねる旅でもあったとジジイがらしくないことを言っていた。それはこの星の王子さまに通ずるものでもあったのかもしれない。会話を重ね、時間を重ね、一歩間違えれば死の全滅……。「ぼく」が承太郎やジジイだったとしたならば……王子さまはアヴドゥルや花京院、イギーなのだろう。そう、別れの時だ。ちなみに海老名はシナリオの第1稿には唇と身体も重ねることになっていた。海老名……それを俺と仗助やジョルノにさせるつもりだったのか。もしくは葉山と。和解を果たしたとはいえ、そればかりはやはり断る!

 

ぼく「王子さま。ぼくは君の笑う声が好きだ」

 

葉山の台詞に女性達が色めき立つ。しまった……MP3を忘れていた。シャツやタオルで商売できなくなったのなら、これを録音して売るのも手だったじゃあないか。

 

ぼく「ぼく達はずっと一緒だ……」

 

これまた葉山の台詞にふーっと満たされたようなため息が観客席に充満する。あれだ、これを撮影して腐女子をターゲットにしたCDを売ろう。葉山と戸塚の抱き枕付きで。承太郎達に見つからないように工夫する必要性がありそうだが。

海老名あたりはさぞかし満足そうな顔を………あれ?

海老名も三浦も涙を流している。

 

海老名「これ、ジョースターさんや承太郎、ポルナレフに見せたら喜んでくれるかな……」

 

三浦「あーしらの気持ち、あの三人ならわかってくれるっしょ。イギーにも見せたいよね?」

 

またスターダスト・クルセイダーズか。

そして、ついに別れの時がやってきた。

ヘビに噛まれ、音もなく倒れる王子さま。儚げで消え入りそうな戸塚の演技に客席が息を呑む。

舞台は暗転する。

一筋のスポットライトが葉山に当たった。

 

葉山「ぼくはいつもそうだった。大切な物は失ってから初めてわかるんだ……」

 

その後に消え入りそうな声が…海老名から聞こえた。

 

海老名「承太郎、ジョースターさん、ポルナレフ、アヴドゥルさん、イギー…」

 

三浦「今度は……簡単には失わせねーし…失わない…そうでしょ?ヒキオ…相模…ジョジョ…」

 

八幡「………ああ」

 

静「そうだね。ハッチもあんたらも……」

 

気がつけば俺たちの目にも涙が流れていた。

ジョースターの歴史は戦いの歴史。同時に失い続ける歴史でもあった。

 

ツェペリさん……川崎。

ジョナサンとディオ……俺。

シーザー……大志。

シュトロハイム……材木座。

ポコ……泉。

スピードワゴン……戸塚。

エリナ……いろは。

エリザベス……小町。

ペットショップ。

アヌビス神……陽乃さん。

アヴドゥル……三浦。

イギー……サブレ。

杉本鈴美さんと安宮重清と辻彩さん…城廻先輩。

ブチャラティさん……留美。

スージーさん……けーちゃん。

猫草……カマクラ。

 

一度は何らかの形で命を落とし、閣下やジジイが率いるアーシスに集った俺達転生者達。今度こそ……笑ってみんなで生き残る。

俺達転生者だけじゃあない。

ジョセフ、承太郎、仗助、ジョルノ、徐倫、ジョジョ、閣下、死んでいるけどポルナレフさん、ミドラーさん、ダービーさん、億泰さん、京さん、康一さん、由花子さん、康穂、露伴先生、間田さん、玉美さん、未起隆さん、トニオさん、音石さん、噴上さん、ミスタさん、トリッシュさん、フーゴさん、シーラさん、エルメェスさん、アナスイさん、エンポリオ、雪ノ下、由比ヶ浜、最近和解した葉山、相模……。

 

ウルフスを倒して……大円団を迎えるんだ。

 

戸塚演じる「王子さま」と葉山演じる「ぼく」にアーシスを重ねる俺。舞台は「ぼく」のモノローグで幕を閉じる。万雷の拍手が教室を満たした。気が付いたら俺もジョジョも拍手を送っていた。

 

「ホシミュ(星の王子さまミュージカル)」の第一回公演は大盛況で幕を閉じた。例え歌いもしなければ躍りもしない、名ばかりのミュージカルでも。ミュージカルという名の演劇でも。

これはジジイ達にも見てもらおう。そう思った…。

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

砂漠、大事な物は目で見えない…

格ゲージョジョにおいて、ポルナレフのエンディングでの「俺はいつだってそうだった。失ってから初めて気が付くんだ…アヴドゥル……イギー……」と言って飛行機の中で泣いているシーンのオマージュを入れてみました。

格ゲージョジョと言えば花京院は浮かばれないですね。
花京院はどのルートを辿っても死んでしまうんですから。
通常花京院は帰りの飛行機の中で、裏花京院も原作通りに……。
今回はそんな花京院の転生である海老名姫菜にスポットを当ててみました。第1稿は腐ってましたが。


それでは原作の相違点。

八幡はドア越しに見ていた→中で堂々と見た

越後屋様、毎度キャラをお借りして申し訳ありません。

小田だか田原さんは緊張して酔っぱらいみたいに顔が赤い→更にマジシャンズ・レッドで熱せられていた

ところどころにスタンドやジョジョキャラネタ

ラストに葉山の台詞を加筆

それでは次回もまた、よろしくお願いいたします。


※この小説はログインせずに感想を書き込むことが可能です。ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に
感想を投稿する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。