やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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やはり相模南は……

side静・ジョースター

 

会議室に戻り、由比ヶ浜から企画のレクチャーを受ける。

必要機材や人員数、支給予算の使い道など実務的な面の他、企画意図や概要説明などの結構抽象的なものまで書かされる。こんなものは場数をこなしているからなんとかなる。

問題は構造物の図面まで描画しなければならない。

これが非常に面倒だった。

さらに……。

 

結衣「だから違うって!もっとこうばーんと!装飾は派手になるんだから!」

 

静「いや、わかんねーっつーの」

 

図を描くのが面倒だったことより、由比ヶ浜からの説明の解読が難航した。

感覚的な擬音とかそんなものばかりでホントに無理!まずは説明することの重要さを次の勉強会では主眼に置こう。中学の数学で習う図形証明からやらせようか?

 

結衣「ヒッキー!人数割り振り間違ってんじゃん!」

 

八幡「どうでも良かったからな」

 

結衣「なんだと?いいから早く直す!」

 

八幡「むしろお前書けよ。忙しいんだから」

 

一切書類から目を離さず、クラスの企画申請書をちらりとすら見もしない。

あまりの塩対応に由比ヶ浜がうがー!と唸り出す。

私はカリカリと書き連ね、何とか作業を進めていく。

真面目にやっている生徒、というのは執行部にとっても励みになるのか、めぐり先輩もにこにこしながら仕事をしている。普段のややピリついた空気ではなく、穏やかな時間が会議室に流れていた。

その空気を引き裂くように、ぎいと無機質な音がした。

 

相模「やぁやぁごめんなさーい。あ、隼人くんこっちにいたんだ」

 

相模もどきが後ろに二人、いつもの友達をつれてやってくる。やぁやぁじゃあねぇっつーの。何日ぶりのご出勤だ。欠勤一日でも普通は世間なら大問題だぞ!

葉山に声をかけ、そっちへ歩み寄ろうとする相模の後ろ首をハッチが掴む。

 

八幡「テメェがサボっていた間に溜まった書類だ。さっさと決裁印を押せ。それ以外の事は全部やってある」

 

相模「……なに?その態度。何様?」

 

八幡「なんだ。決裁印の1つも押せんのか?チンパンジーだって教えれば出来るぞ?」

 

葉山との会話を邪魔されたせいなのか、それともいきなり仕事の話をされたのが不快だったのか、相模擬きはしばし無表情でいたが、すぐに取り繕うと書類を受け取った。

ろくに見もしないでポンポンハンコを押していく相模と、端から受け取り再度確認した決裁済みファイルにファイリングしていくハッチ。もう完全に見捨ててるな、どうせ偽物だし……と思っているようだ。

 

結衣「なにこれ……あのさがみん、さがみんじゃあないみたい」

 

まぁ、そうだろうね。

一方で葉山は変わらず微笑みを湛え、あまつさえ声までかけている。

 

葉山「お疲れ、南はクラスのほう行ってたの?」

 

話しかけられた相模は普段の相模がやらないような妖艶な笑みを湛えて葉山を見る。

 

相模「うん。そうそう」

 

葉山「そっか……調子はどう?」

 

相模「じゅんちょーに進んでるかな?」

 

何がだよ。何が順調なんだよ。人外の考えていることはわからねぇっつーの。

一方の葉山も数秒の間を取った。白々しいその空白が次の言葉を際立たせる。

 

葉山「ああ、そうじゃあなくてさ。文実の方。クラスの方は海老名さんや三浦さんがちゃんとやっているみたいだからさ。俺なんかが役に立たないくらい」

 

葉山がわずかに影を背負い込んでいるように見えたのは気のせいだろう。

だが、そんなことよりも気になるのは、ほんの僅か、どう考えても意図的に含まれた微量な毒。

葉山にしては珍しい。これまで波風を立てないスタイルでやっていた葉山が……ねぇ。

私達にこき使われて怒ってるのかな?かな?

私的に訳すなら葉山の毒はこんな感じだ。

『文実、お前がサボってるおかげで俺が巻き込まれてんだけど、どういうつもり?』といったところ?(静的な性悪な意訳)

だが、そうした毒が相模には通じなかったようで普通に会話を続行する。

 

相模「あー、……三浦、いつもと違って超元気だよねー、頼りになるっていうか」

意訳(あの女、いつもうるせぇし、しゃしゃり出てきてうざいわー)

 

葉山「ははは、まぁ助かるし良いじゃん?悪いことじゃあないよ」

意訳(それ以上言うの止めときなよ?比企谷とかジョースターさんが殺気だってるよ?)

 

え?性悪意訳をしたのは私だけなわけないじゃん?当然、三浦を悪く言われてハッチやイーハ、雪ノ下もキレかけてるよ?

もうね、この程度の裏の読み合いって日常過ぎるんだよね?

みんな仲良くがモットーの葉山の言葉にさえ裏が出てきてしまうくらいだね?葉山がまさか私達側に来ることがあるなんて思わなかったわー……。

脳内でタイピングされ、視界に字幕が浮かんでいる。

わーい、アクトンが成長したー♪わけないじゃん。

とりあえず………

 

静「はやまー、由比ヶ浜と一緒にこれ片付けてー。由比ヶ浜だって戻りたいだろうし」

 

葉山「いや、そもそもこれは俺の仕事じゃあ……」

 

静「それが由比ヶ浜の説明がわからなくてさ。葉山ならそういうのわかると思って」

 

葉山「まぁ、そう言うことなら…」

 

元々相模がやるはずだった仕事を葉山に押し付ける。

うん、ごめん、葉山。由比ヶ浜の翻訳、マジで無理。

普段は戸部の翻訳をやってるから多分、あんた向き。

 

八幡「いつもながらやかましいな。鬱陶しい」

 

ハッチがとうとう承太郎おじさんの帽子を被った。目深に、目線を隠すように。

この行動の意味をよく知る者は口をつぐむ。

モード、承太郎おじさん。またはモード、スター・プラチナ・プライベート。

不機嫌が頂点に達したときの承太郎おじさんの状態。

これ以上刺激したら無駄無駄が飛ぶ。

物理的なのか、精神的なのかは不明だけど。

でも、そんな空気が読めないのか、相模は尚も葉山と会話を続けている。

その内容は黒い本音が見え隠れし、中国映画に時々あるぶっ飛び超訳字幕が視界の下に出てきて気が散る。やはり洋画は字幕なし、中国映画は吹き替えが一番だ。

ハッチは中国語も堪能だから首を捻るけどね。

そんな思考をパタンと携帯をたたむ音が遮った。

 

結衣「葉山くん!手が止まってる!演出打ち合わせ、夜にしてもらったし、これからみっちりやるからね!さがみんも邪魔!」

 

相模「ちっ!」

 

ばつが悪くなった相模は去っていく。そんな時…。

 

携帯『break down!break down!』

 

ハッチの携帯が鳴る。

 

八幡「承太郎から?悪いが席を外す」

 

そう言ってハッチは会議室から出ていく。

おじさんから何か連絡を受けたらしい。

 

いろは「下校まであと20分……」

 

静「まぁまぁ。最近はクラスの方に出れてなかったし、多少手間取るのは仕方ないんじゃあない?」

 

私が珍しく葉山を擁護する。

 

葉山「ありがとう……元々君達が作っておいてくれてればこんなことにならなかったんだけどね」

 

それでもどうにかじっくり時間をかけて書類を作り上げる葉山。

 

葉山「終わった……」

 

結衣「終わったね?」

 

葉山「悪かったな。助かったよ。サンキュー」

 

結衣「え?あ、うん。元々はスタッチのお願いだったから」

 

葉山「そうだったな。久しぶりだよ。由比ヶ浜とこうして同じ事をするなんて」

 

結衣「まぁ、内緒だけど色々あったからね」

 

スタンド使い的な問題があって敵対とかしていたからね。必然的に距離も開く。汐華の呪いが解け、こうして見てみると葉山も普通の一般的な奴だと思える。本質はこういう奴だったんだろうね。

こればかりはレクイエムに感謝かな?後が大変だったけどね。

葉山は戻ってきたハッチに書類を提出する。ハッチは何だかスッキリした表情でそれを受け取った。

ささっと読み終えてとんとんと机で角を整え、端を真ん中で軽く折ってパンチで穴を開ける。

 

八幡「受理した。お疲れさん」

 

ハッチは決裁書類をまとめてファイリングした。なにやら急いでいるようだけど……。

 

静「決裁印は?」

 

八幡「ん?ああ。もう押した。相模(・・)から了承を得てな」

 

え?その意味って…。

 

めぐり「比企谷君……それはまずいんじゃあないかな?」

 

めぐり先輩が声をかけるが、ハッチはそれを無視した。

ここまで強硬な形に出るということは…。

 

八幡「相模」

 

相模「……何?」

 

八幡「もう遠慮はしねぇ。覚悟しておけ」

 

宣戦布告。さっきのおじさんの電話で何か進展があったんだ!

 

相模「遊びは終わりってこと?こっちも調べものが終わったから良いけど?」

 

にらみ合いをするハッチと相模。

とうとうこの時が来たんだ。好き放題してくれたね?

 

いろは「ハチ君……」

 

葉山「比企谷……お前は一体……」

 

八幡「葉山。手を引け。ここから先はお前が入り込める世界じゃあない」

 

めぐり「そうだね。ここまでにしよっか。私が戸締まりしていくから、みんな先に出ていいよ?執行部は下校チェックをよろしくね?」

 

めぐり先輩が指示を出すと、私も含めた生徒会執行部が素早く散っていく。こうして下校時間の指導している文実が完全下校時刻を破る訳にもいかない。

早々に帰宅準備を済ませて会議室を後にした。

……が、次の瞬間には夕陽が夜中に変わり、私達は床に倒れ伏していた。なにこれ!キング・クリムゾン?

見ると、全員がダメージを受けて倒れていた。特にハッチは徹底的にやられている!

 

いろは「何を……ナイチンゲール・エメラルド。エメラルド・ヒーリング……」

 

イーハがスタンドを出して回復させる。

 

いろは「ハチくん!?」

 

徹底的にやられているハッチを回復させるイーハ。

 

八幡「………くそ。いきなり本性を現したかよ。相模の野郎……いや、ウルフスの丑め!」

 

ハッチが呼吸を整えて立ち上がる。

 

静「ウルフス……本当の相模は?ポルナレフさんは?」

 

八幡「………」

 

ハッチが黙って首を振る。

だから……ハッチは相模を攻撃する決心が付いたんだ。

 

結衣「そんな……今のさがみんは……ウルフス……」

 

由比ヶ浜が嗚咽を漏らす。

 

雪乃「……やりきれないわね」

 

めぐり「変わり始めていたのに……そんなのって」

 

ハッチは相模を善導しようと頑張っていた。まだ相模の魂が杜王町の上空を通過していないから、無事である可能性を信じていた。

ウルフスに乗っ取られたら、終わりだとわかっていたのに、希望にすがっていた。なのに……。

 

八幡「いくぞ。相模を……ウルフスを倒すぞ……どんな手を使ってでもな……」

 

相模南……体をウルフスに乗っ取られる。

 

←To be continued




大方の方々がお気づきかとは思われますが、相模は既にウルフスに乗っ取られてました。

しかし、その魂は導かれし小道を通過していない。
一体どういうことなのか!?

実際はもう少し引っ張ろうとも思いましたが、そろそろ無理があるのでここでドンパチです。

それでは次回もよろしくおねがいします。

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