side一色いろは
ハチ君は何かを隠している……。あの柔道場で流した2つの涙は……何かを意味している。
何を隠しているの?また……いなくなっちゃうの?
ジョナサンのように……それだけは……絶対にイヤ…
でも、わたしにはわからない何か取り返しの着かないことが起きている……。止めなければ…ハチ君を。
でも、運命は残酷でした。
わたし達の目の前で……ハチ君は散ってしまったのだから。
side由比ヶ浜結衣
??「あたしに身を委ねなさい?」
いや……
??「あたしに身を委ねれば、あなたは神になれる」
いやっ!来ないで!
??「逃げられないよ?遅かれ早かれ……あなたは今の仲間を捨てなければならなくなる…そして、新たな神になる………」
ガバッ!
結衣「イヤァァァァァァァァァ!」
周りを見渡す。いつものあたしの部屋だ。
最近、あたしの中の黒いモヤモヤがどんどん大きくなる。
あたしがあたしで無くなってくる……。
助けてよゆきのん!
助けてよヒッキー!
助けてよ……中二!
後から知った。これが柱の一族として目覚めかけていた前兆だったって。
全てを知った時には……ヒッキーが砕けた後だった。
side比企谷八幡
もういくつ寝ると夏休み。運命の時は刻一刻と迫っている。
八幡「うす」
いつもの部室、いつもの席に俺は座る。
仗助「おぅ、痛めた腰は大丈夫か?クレイジー・ダイヤモンドで治してやろうか?」
八幡「ちっ……知ってるだろ?先輩との取引をよ。お陰で体育は見学だ。まぁ、夏休みに入れば柔道の授業も終わりだ。次は剣道をやるよ」
そしたら今度は剣道部から依頼が来たりしてな…。
まぁ、そんなことはもうないか。俺はもう、その時にはいなくなっている。
もちろん、腰痛なんてのは嘘だ。
あの柔道大会の日、俺の殺気の威圧を乗り越えた先輩によって、俺は畳に叩き付けられた。
そして、勝者の権利によって1つの約束をさせられた。
金輪際、柔道部に関わらない事だ。最後の最後で見せた勇気にだけは敬意を評しなければフェアではない。俺の柔術の技は後輩たちに悪影響を及ぼす…とのこと。
まぁ、柔道からみたら反則のオンパレードだしな。
徐倫「で、あれから柔道部がどうなったか知りたい?」
八幡「ああ、一応は金輪際関わらないヘブンズ・ドアーを食らってるから、結果を知ることは出来なかったしな」
尋ねると、流石は教師。情報はキチンと収集してくれたらしい。
徐倫「新規部員は増えてないけど、辞めた人達は何人か戻ってきたみたいよ?」
八幡「へぇ……ま、あんなデモンストレーションで新人が入ってくるならどこの部活も苦労しないだろうな。アーシスだって事が無ければ、奉仕部だって今頃は廃部だったろうし」
徐倫「あんたね……どの口がそれを言うの?特にチーム奉仕部の記録は酷すぎるじゃあないの!」
振り返ってみると……
一回戦…
材木座義輝。一本勝ち
戸塚彩加。一本勝ち
比企谷八幡。相手に対して直接打撃による反則負け
二回戦…
材木座義輝。一本勝ち
戸塚彩加。一本勝ち(スタンド使用)
比企谷八幡。静・ジョースターと空条徐倫乱入による反則負け
決勝戦…
静・ジョースター。ブレーンバスターとアキレス腱固め使用による反則負け
一色いろは。技あり二回による併せ技一本勝ち
比企谷八幡。一本負け
わーい♪こうして記録にしてみると俺って全敗じゃあなあかぁ♪
八幡「俺って柔道の才能無いなぁ。オリンピック柔道金メダリストの夢は諦めた方が良さそうだ」
静「ほんと、才能ないねうちら」
徐倫「才能云々以前の話でしょ…あんたらの場合。あんなのが決勝じゃあ、ホントに茶番よ。レベルの高さに反比例して内容があれだなんて…まぁ、柔道部も全員とはいかなかったけど、辞めた人達が戻ったのは、例の先輩が来なくなったからみたいね?ハッチ、あんたなんかしたんでしょ。あの大将戦で」
まぁな。
八幡「別に。おめぇの席ねぇから。って言えばそれで終わりだったからな」
早い話がそれだ。
あの先輩にとって、この高校はきっと「帰ってきたい場所」だったのだろう。懐かしくて居心地がよくて、嬉しくて。思わず、逃げ込んでしまいたくなるほどに。
しかし、逃げたという事実はさらに自分を追い詰める。だから、そのストレスを抱えて、もっと先へ逃げたくなる。現実逃避の無限ループだ。
世間様やお天道様に見られていると思いでもしない限りはその事実にすら気付けない。
結局、逃げ出した事実によるストレスは本人だけしか解消できない。
引き返して対決するか、あるいは二度と関わらないところまで関係を絶つか…。先輩は立ち向かう道を選んだ。
人の領域を捨ててまで進んだやつらがいるのに、人の領域で挫折してどうする。……と。
窓の外を見やる。
遠く水平線の上、もくもくと立ち上る入道雲。運動部の掛け声にブラスバンドの音色。
帰って来たいなぁ……
フラッシュバックしてきた基本世界の記憶。
比企谷八幡はこの時、『俺にもいつか。戻りたいと、そう思う場所が出来るだろうかと』考えていた。
では、俺は………
いつの間にか、仲間たちがいるこの場所が帰って来たかった場所になっていた。
だが、夏休みに入れば俺は消える……。
人間、大切なものは無くしてから……無くなる寸前で大切な物が理解できるようになるものだと……思った。
『無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!』
携帯にメールの着信が鳴る。材木座からだ。
材木座『例の物が完成した。指定された幕張のサイゼにて落ち合おう』
………完成したか。もう、運命が仗助達にバレるのは時間の問題だ。ギリギリで間に合ったか…。
八幡「今日は会社に顔を出すわ。お先」
静「え?うん……」
俺はジョジョの返事に対してもそっけなく答えると、窓から飛び降りる。さて……鎮魂歌を奏でる準備をしようか……。
side葉山隼人
先輩「あれは人間を止めた力でなければ立ち向かえないものと奴等は戦っている…。あいつらに勝つというのは…そう言うことだ」
あの柔道大会で先輩から聞かされた言葉は、俺の心を抉った。いつか、勝ちたいと思っている相手は…そういう存在なのだと思い知った。
それでも……例え人の領域を超えたとしても、俺はあいつらに勝ちたい。
そんな事を考えた罰が下りたのだろうか…。
葉山「がフッ!」
俺の胸を赤い矢尻が貫いた。
なん………だ………これ……は。
平塚「ほう、葉山に適正があったとはな。これはいい手駒を手に入れた。そして聖なる芽を受けるがいい」
平塚先生から伸びる触手が俺の頭に付着し……。
…………
なんだこの全能感は……勝てる………勝てるぞ!
待ってろよ?ヒキタニ…
殺してやる…殺してやるぞ!ジョースター共々ぉ!
side比企谷八幡
第7倉庫
八幡「これでよし……」
形状、重さ…材木座が作った偽物は、本物とまるで変わらない物だった。
八幡「悪く思うなよ?材木座。導かれし小道でいつまでも待っててやるからさ…お前が死んだときは、好きなだけ殴られてやるさ…」
俺の手には、スタンドの矢が握られていた。
材木座の作ったフェイクの矢と入れ換えた物だ。
それをゴルフバックに入れ、俺は会社から出る。
「breakdown!breakdown!」
仗助から着信が入る。
八幡「もしもし」
仗助『八幡か……オメェは今から千葉村のボランティアが終わるまで、謹慎だ。会社にくることも禁ずる。自分でわかってるよな?』
八幡「……意地でも邪魔するんだな、仗助。だが、あれは必ず手に入れてやるぞ」
仗助『やらせるかよ。お前にレクイエムは…絶対にやらせねぇ。誰がお前を消させるかよ!』
八幡「なら……俺を止めてみせろ…仗助」
悪いな…既に準備万端なんだよ。
運命は……これで加速する。
すべては神の聖地で鎮魂歌を奏でるために……。
ー千葉村ー
八幡「じゃあな……消えるのは輝かしい未来を持つ者じゃあない。この邪悪の化身で良い。大好きだったよ。みんな……」
仗助「はちまぁぁぁん!バカ野郎ぉぉぉぉ!」
いろは「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
最期に見たいろはの顔は……悲しみに歪んでいた……。
そして時は現在に戻る
八幡「以上が本当の報告ですね」
いやぁ、あのときはまじでここに戻ってくる事が出来るとは思ってなかったよなぁ。
みんなのお陰だったけど。
材木座「思い返してみても録でもないな…」
戸塚「試合そのものもそうだけど、先輩が顔を出さなくなったのはそういうことだったんだ…」
小町「もう少しやりようがありましたよね?」
雪乃「何でも自分達で解決しようとするあなた達らしいと呆れればいいのか…」
材木座「許せんのはその後だ!八幡、貴様、既にあのときからレクイエムの準備をしておったのだな!」
良いじゃあないか。それでお前は死なずに済んだわけだし、オペレーション・リゲイン・ジェムストーンを経て俺も消えずに済んだんだ。
それに、あの大会には俺にとっては意味があった…。
俺の隣でみんなと談笑しているいろはを見る。
その左手の薬指にはペリドットの婚約指輪が光っている。
基本世界のあの日、あの時、あの場所で…。
比企谷八幡と一色いろはの運命の歯車は…確かに動き出したのだから……。
←To be continued
今回はここまでです。
これで7.5巻の柔道編は終わります。
小さな話ですが、八色ものでは外せない話ではなかったのでは無いでしょうか?
次回からは6.5巻の体育祭編へと移行します。本来ならば番外なのでしょうが、相模を味方にした以上は外せない話ですので本編扱いで進めていきます。
それでは次回もよろしくお願いします。