side比企谷八幡
体育祭運営委員会の集まりがある今日。奉仕部からのメンバーは前回と同じ俺、ジョジョ、いろは、雪ノ下に加えて由比ヶ浜。それに部員では無いが、委員長の相模が参加。あまり大勢でぞろぞろと出向いても迷惑になるからな。
体育祭運営委員会の行われる会議室の時と同じ部屋だった。一時期は毎日のように通いつめていたところだ。
しばらくぶりに訪れた会議室は整然としていて、文化祭の準備をしていた頃の面影はどこにもない。
既に体育祭運営委員の人間もちらほらいる。その多くは生徒会の役員だ。どうやら委員会の中心メンバーは生徒会役員で構成されているらしい。
めぐり「ご苦労様~」
めぐり先輩が声をかけると、役員達は一礼してすっと脇にさがり道を開ける。よく訓練された忍者だな。
生徒会役員のほかはジャージ姿の生徒達。体型や雰囲気から察するに運動部員らしい。テニス部の伊勢崎や柔道部の津久井もいる。
なぜ彼らがいるのか不思議に思っていると、めぐり先輩が耳打ちをする。
めぐり「当日の手伝いのタメに各運動部から人を出してもらっているの。さすがに人員整理とか準備作業までは手が回らないから」
なるほどね。運営委員会と言いつつも、実質は生徒会の役員と俺達や相模みたいな有志のお手伝いで構成されてるみたいだな。
要するに委員会内で首脳部と現場班とが存在しているわけだ。そしてアイデア出しなんかの企画関係をやるってのは俺達は首脳部側って事ね。
その現場班にはどこか見覚えのある奴がいた。
向こうもそうだったらしく、俺と目が合うと隣の奴とひそひそと言葉を交わした。そして睨んでくる。
八幡「ああ、クビにした奴か」
それくらいしか記憶にない。ジャージ姿、そして机の脇に置いてあるのはバッシュケースだろうか。と言うことはバスケ部なのか。
名前とかは覚えていない。どうでもいい奴の情報をインプットしたって脳みそのメモリーの無駄無駄無駄。
相手にするのも無駄無駄なのでクビ子、クビ実を無視してめぐり先輩にいざわれるままに進み、会議室の前方へと向かう。
すると、その最奥でペラ紙をめくっている女性がいた。
八幡「東方先生…だと?」
意外にもこの人か…いつものパターンだと徐倫かと思ったのに。あまりにも意外すぎる名前を呼ぶと、朋子さんが俺達に気が付き、振り替える。
朋子「ああ、来たわね?悪いわね、無理に呼んでしまって。空条先生も後から来るわ」
朋子さんは申し訳なさそうに謝ってきた。そっか。徐倫もそのうち来るのか。
めぐり「はい、また頼りにして申し訳ないですけど」
八幡「直接呼べば良いじゃあないですか。また回りくどいことを……」
俺がジト目で朋子さんを見ると、朋子さんはふっと楽しげに息を漏らす。
朋子「あたしが頼んでしまったら、あんた達はあたしの関係者として動くでしょ?家族の事だからって。あたしはあくまでも、あんた達が自主的に来てくれる事を願ったのよ。来てくれて嬉しいわ。さすがは八幡達ね。仗助と一緒で、根は優しいわ。困ってる城廻を見捨てないなんて、あんたららしいじゃない」
いろは「まぁ、大切な仲間ですから。朋子さん…じゃあなくて東方先生」
朋子「期待してるわよ?静や八幡、いろは。体育祭ってどこでも似たような事しかやらないから、正直あたしも飽きてるのよ。あんた達なら面白いのを期待できるわね」
静「よく言うよ。波紋の戦士のハンデキャップでは毎回爆笑していたクセに」
朋子「だからよ。あれをしっちゃったんじゃあ、普通の体育祭なんて見ていてもつまらないでしょ?」
結衣「遊び気分だし……さすが東方会長のお母さん…」
由比ヶ浜……今更だろ。学校じゃあ猫を被っているけど、この人は仗助の母親だぞ?あの仗助のハチャメチャさはこの人から受け継いでいるんだからな?
それにさ、波紋の戦士のハンデキャップ、見てるだけなら面白いかも知れないけど、やってる方は大変なんだからな?毎年同じ行事を繰り返していたら飽きもするだろうけど。
でも、期待しないで欲しい。もう、波紋の戦士のハンデキャップなんて真っ平だ。
静「体育祭も徐倫お姉ちゃんがやるんだ」
朋子「まぁ、ああ言うのは若手がやるからね」
八幡「徐倫はわかるとして、朋子さんが若手…「ドラァっ!」…がはっ!」
朋子さんの拳が俺の鳩尾に突き刺さった。
さ、さすがは承太郎に並ぶ仗助のストッパー……平塚先生なんて目じゃないほどの良い拳を持っていらっしゃる…。
朋子「若くなくて悪かったわね!このクソガキ!あたしは監視役だよ!千葉村や文実みたいなハプニングが起きないように、ベテランが就くようになったんだ。まぁ、あんたらがいるなら妥当な判断よね。あんたらってば高校時代の仗助より問題起こしまくってるわよ」
自分でも自覚があるので俺達は誰も何も言うことが出来ない。
黙ってしまった俺達にジト目を向けてきた朋子さんは、ため息を吐いて気持ちを切り替えた。
朋子「ところで委員長はどう?決まった?まぁ、相模がいるところを見ると、予想は付いてるけど」
さすがは朋子さん。一目で見抜く辺り、ジジイの嫁さんだよ。
めぐり「お察しの通りです。ジョースターさん、比企谷くんには断られてしまいましたが、相模さんが立候補してくれました」
朋子「相模さん。文実での事があるからスムーズにはいかないだろうし、このバカどもが悪意をそらしてくれたとはいえ、あんたの信頼が回復したわけじゃあない。それでもやり抜く覚悟はあるのね?」
相模「は、はい!やらせて下さい!」
朋子「わかったわ。それじゃあ徐倫がきてから始めましょう」
俺達は首脳陣がすわる席に着席をした。
キングクリムゾン!
始まる数分前に徐倫が到着し、朋子さんの隣に座る。
相模「あ……遥とゆっこもいるんだ………」
相模はモブ子達に対してそう言い、控えめながらも手を振る。
遥「………。うん、よろしくねー」
二人が硬い表情で手を振り返す。もっとも、かたや文実をクビになり、かたやその原因を作りながらものうのうと文実委員長を続けた者。少なくとも相模に良い印象があるわけはない。いくら悪意を分散しようとも、相模に向けられる悪意を完全に消すことは不可能だろう。ましてや元々知り合いだったのなら尚更だ。
この運営委員を見渡して見ると、文実をクビになったものがちらほらいる。なるほど、体育会系の部活としては文実をクビになった者達は汚点なのだろう。その汚名返上をさせるために体育祭運営委員に参加させられている人間もいる。だとすれば、彼らを粛清した俺達も恨まれているだろうが、サボりを容認する原因となった相模を恨んでいるものも少なくない。
相模の事情を知っているのは俺達だけだ。他の文実を解雇された者達が関知することではない。彼らは苛立ちを込めた目で相模を見る。
相模はその眼差しに気付いて怯んでいる。
プランA発動。表向きの事情を話す事にする。
相模「えっと、すいません。……文実をメチャクチャにした責任を取らされて、体育祭運営委員の委員長を継続してやらされる事になった相模南です……よろしくお願いします」
ペコリと一礼する相模。だが、厳しい視線は緩まない。
とはいえ、会議を始められるようになったのは事実だ。
朋子「運営委員の監督を任された国語科の東方朋子よ。城廻さん。会議を始めて」
朋子さんが声をかけるとめぐり先輩が頷き、ほんわかとした号令をかけた。
めぐり「はいっ。では運営会議を始めます。相模さん」
相模「はい」
前回の事で心構えができていたのだろう。返事をする相模に焦りはない。
めぐり「今日は私と一緒に進行をやろうか。次回からは仕切りよろしくねっ♪」
一方でめぐり先輩も前回の反省を踏まえた上で、いきなり議事進行を振ることはなかった。今の相模ならグダグダになることは無いとは思うが、万が一を考えれば二人でやったほうが良いと判断したのだろう。前回の反省も踏まえているみたいだ。
めぐり先輩はさっと立ち上がると、ホワイトボードの前へと向かう。それに藤沢が続いた。ホワイトボードの横に立ち、シャッとペンを捧げ持つ。何本も。露伴先生の真似ですね?分かります。実際に使うのは一本だけだろうけど。
めぐり「ではでは、今日の議題は体育祭の目玉競技についてです」
宣言すると、役員からペンを受け取り、ホワイトボードに丸っこい可愛らしい文字で議題を大きく書き始めた。
そして、そのホワイトボードをベンっと叩く。
めぐり「みんなアイデアを出してこ~!意見のある人は手を挙げて!」
めぐり先輩が一座を見渡すが、みんな反応は薄い。
ああ、文実のスローガンの時はこの流れの後に大粛清祭りがあったからな。
そんな中で、文実にはいなかった由比ヶ浜がびしっと手を挙げた。
めぐり「はい!由比ヶ浜さん!」
こういう時は最初の一人が案を出せるか否かでその後の会議の活性度が変わってくる。どんな意見だとしてもまずは口火を切ることが大事なのである。むしろ、その発言のレベルは低ければ低いほどいいまである。
その点では由比ヶ浜は最適なトップバッターだと言えた。さすがやる気と結果が反比例するリバース・ビッチ。その特性を持って活路を見出だすとはなかなかやるな。
と、感心しかけたが、チラッと表情を見ると、普通に楽しそうに「あれも良いけど、こっちかなぁ~」とか呟いてて、そんな事を考えている節は全く無さそうだ。安定の由比ヶ浜……。普通に楽しんでるだけだった。
まぁ、そうだよな。そんな深く戦略とか考えて会議に臨んだりするタイプじゃあ無いよな!それだったらあの世界の模擬戦で真っ先に
結衣「部活対抗リレーとかっ!」
朋子「それだと部活に入っていない生徒が参加できなくて不満が出るし、運動部と文化部の差が大きすぎて配慮を考えないと……文化部?では若干数名の
俺とジョジョの事ですね?分かります。しかも鉄球付きでやらされかねん。朋子さんの呟きでホワイトボードに書かれた『部活対抗リレー』の文字には飢えからキューっと線が引かれる。
即座に却下されたらしい。
あれー?おかしいぞ~?みんな白い目で俺とジョジョを睨んでるけど何でかな~?わからん。
由比ヶ浜も俺達を睨みながらすごすごと自分の席に座る。俺達だけが理由じゃあねぇっての!
雪乃「気持ちはわかるわ」
雪ノ下が慰めるようにぽんと肩を叩いた。
結衣「ゆきのんも波紋の戦士じゃん……」
成り立てだからそこまで規格外じゃあないけどね。
めぐり「他にもじゃんじゃん出してね!」
なおも明るく言うめぐり先輩。
今度は雪ノ下がすっと手を挙げた。
めぐり「はい、雪ノ下さん!」
めぐり先輩に指名されると雪ノ下は落ち着き払った声音で答える。
雪乃「借り物競争」
朋子「生徒個人の所持品を扱うと紛失や破損のトラブルになりかねないんじゃあないの?」
間髪いれずに朋子さんが言う。恐らくは過去にもそういう事があったのだろう。仕方がない。助け船を出すか。
八幡「クレイジー・ダイヤモンドやゴールド・エクスペリエンスで解決?(英語)ヨーロッパクロスズメバチを使って』
ゴンッ!
徐倫『スタンドありきで考えるんじゃあない!しかも危険な殺人蜂じゃあなくて普通の虫にしなさいよ!』
八幡『え~?面白そうなのに……』
朋子『英語に切り替えている辺り、絶対に徐倫で遊んでるでしょ……あんた』
八幡『ブラボー!オー!ブラボー!』
ゴンッ!
徐倫『やっぱりかよ!』
静『続くわ!ハッチ!』
ゴンッ!
徐倫『続くな!』
八幡&静『これで今日も安心して眠れる』
ゴンッ!×2
徐倫『あたしは逆に胃に穴が開くわ!』
相模「あの~……何を言っているのかわからないけど、先に進めて良いかな~?」
相模が顔をひくつかせて怒る。
済まんな……だが、コレが無いともう落ち着かないんだよ。もう中毒なんだ。
めぐり「気を取り直して頑張ろう!次!」
こうなると誰も物怖じして手をあげない。それでも今日の由比ヶ浜は一味違った。再び勢い良く挙手。
めぐり「はい、由比ヶ浜さん!」
めぐり先輩もそれに応じて明るく軽やかにその名をよぶ。
結衣「パン食い競争!」
朋子「喉に詰まらせる事故、結構あるからねぇ~…。食べ物を粗末にするとすぐクレームくるし」
別に食わなくても良くないか?くわえてゴールすれば良いんだし…とは思うが、まぁ健康上の事ならしかたがない。助け船を出すか。
静「ナイチンゲール・エメラルドやゴールド・エクスペリエンスがあるじゃあ無いですか。(イタリア語)詰まらせたパンを蟻に変えて胃に流せば解決!』
ゴンッ!
徐倫『だからスタンドありきで考えるんじゃあないっつってんだろ!あと、何で蟻なんだよ!せめて食用の生き物に変えろよ!グロすぎるわ!』
静『え?この程度のグロさは日常的じゃあ無いの?』
ゴンッ!
徐倫『アーシス基準に物を考えるな!常識が無いのか!』
静&八幡『え?今更?』
ゴンッ!×2
徐倫『自覚あるなら少しは自重しろよ!お前ら、後でオラオラな!』
朋子「……オモチャにされてるわね…また胃薬の提供がありそうだわ」
徐倫『一年分を一月で使いきる自信があるわ』
誉めるな…。照れるぞ。ジョジョも満足そうだ。今日も安眠が約束されたな?
徐倫いじりはともかく、自主規制により『パン食い競争』は上からきゅっ!っと線が引かれた。
いろは「配慮ばかりですね」
朋子「最近はどこもうるさいのよ。何かと規制が多くて…」
答える朋子さんはうんざり気味だったが、じゃあ小中学生の頃のあれも規制してくれね?結構キツかったんだけど?
会議室全体の温度が下がり始めていた。ダメだぞ?エンジェル・ダストの使用は。
そんな中でもめぐり先輩は頑張って明るく振る舞っている。
めぐり「とにかく何か考えてみよう!ほかのみんなもどんどん意見言ってね!」
頑張っているめぐり先輩に触発されたのか、由比ヶ浜に雪ノ下、そして生徒会役員達も真剣にアイデアを出す。
意見はその後も出る。出るのだが、その度にどこかから反対意見が出ては潰されていた。ホワイトボードはもう酷いものだった。
『クロスカントリー(乱闘可、他人の家の中とか屋根とか下水道を泳いだりとか)』
『障害部屋(乱闘可)』
『棒登り玉割り(パンチで)』
『勝ち抜き格闘』
『400メートルハードル(直接攻撃による妨害可)』
『パン食い格闘(乱闘しながらパンを食いきった人間が勝利)』
『爆弾鬼ごっこ』
『ハンマー投げゴルフ』
『水中バトルロイヤル(直接攻撃及びピラニアによる妨害可)』
『ビル超え棒高跳び式タイムアタック(トランポリンは三回まで)』
『ハチャメチャ柔道(という名の異種格闘技)』
ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!ゴンッ!
徐倫「何他人の意見のように言ってんのよ!あんたら二人が言っている意見だろ!しかも乱闘ありとか爆弾鬼ごっことかピラニア有りとか何なんだよ!ビル超え棒高跳びタイムアタックなんて死人が出るだろ!」
他のも死人が出るかも?
ダメかな?く○おくん。
だってさぁ、途中から連想ゲームになってんだもん。このまま何も決まらないまま会議が終わりそうだし。肯定的な雰囲気の時は意見提言も受け入れられやすいが、ネガティブな状態の時はどんなに優れたアイデアも否定もしくは保留されてしまうのだ。
だから遊びに走ったのだが。
文化祭の時でも思ったが、人は社会性の動物である。空気と雰囲気とに同調する生き物である。波に飲まれ、人波に流されて変わっていく生き物である。
だから誰も流れに逆らおうとしない。
逆流することはそれこそ波風を立てることになる。俺達のように鋼の意思を持つ孤島のような人間でない限りは流れに逆らうことなどしない。
相模「みんな、意見を出してくださーい」
議事進行を担っている以上、一応は言ってみたのだろう。だが、これは悪手だったかもしれない。
知っている人間の声は良く通る。それが反感を持つものならば尚更だ。
さて、どうなる事なのやら。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
アニメ版ではギャグに徹し、明るく終わった体育祭編ですが、原作はそうもいきません。
果たしてどうなることやら……
あと、今どき『熱血硬派くに○くん』や、『ダウン○ウン熱血物語』……通称○におくんシリーズをご存じの方はいるでしょうか?
ドッジボールやサッカー、ホッケーにバスケットとスポーツ物も乱闘ゲームに変わるメチャクチャなシリーズです。一昔前に流行った格闘ゲームすらもハチャメチャな展開がありました。
私はSFCの第一作目の『初代熱血硬派くにお○ん』が好きでしたね。
それでは次回もよろしくお願いいたします。