やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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つかの間の観光です。
とはいえ、八幡は観光どころではないですが。


清水の舞台

side比企谷八幡

 

不思議な力で俺以外のみんなは傷が癒え、外に出る。

気絶していた戸部に川崎が気付けを行い、適当に戸部が滑って転んで気絶したという形にしてクラスの列に混ざる。

何気に川崎がベホイミ役なのに不満を持っているようだが、勘弁してほしい。ベホマ役がいないのだから。

 

戸塚「というか、大丈夫なの?八幡」

 

戸塚が肩を軽く叩く。

 

八幡「ぎぃ!」

 

はっきり言って痛い。というか、左腕が動かない。自らやったこととはいえ、とんでもないダメージを負ってしまった……。

 

結衣「これ、いろはちゃんとかでも治せないよね?」

 

いろはでは無理だ。仗助でも難しいかもしれない。

失った血液を補充するという意味ではジョルノに肩のパーツを作って貰い、はめ込んでもらうのがベストだろう。

 

三浦「とりあえず、大人しくしておくし」

 

葉山「本来なら、そく病院行きの傷だものな」

 

そんな事になったら大事だ。警察が介入してくる。今はこの場を普通を装ってやりきるしかない。少なくとも、体を治療するまでドンパチが無いことを祈るしか無いだろう。

俺達はさりげなくうちのクラスが本堂に入るまでにクラスに合流を果たすことが出来た。団体入口から本堂へと入る。出世大黒や鉄下駄に錫杖などのアトラクション的な物が配置されているが、今の体調でそんなものを触る事はできない。顔色の悪さを悟られないようにさりげなくクラスの後ろを付いていくので精一杯だ。

さらに進んで清水の舞台。

流石に清水寺でも最大の人気スポット。

いつもなら夜中にこっそり忍び込んで清水の大舞台から飛び降りる事でも考えているところなのだが…。

 

結衣「うわ、すご……」

 

由比ヶ浜は舞台の欄干に触れて吐息を漏らした。さっきまで生きるか死ぬかの戦いをしていたというのに、現金な物である。この切り替えの早さが由比ヶ浜の強みでもあるのだろうな。単に何も考えていないだけとは思いたくない。

 

結衣「あ、そだ。ヒッキー、スタッチ、写真写真!……は、無理そうだね。凄い顔色悪いし……」

 

由比ヶ浜がポケットからコンデジを取り出す。小さいピンクのデジカメはいかにも由比ヶ浜らしい。

 

八幡「悪いな…体調そのものは波紋の呼吸で何とかなっているけど、左腕が動かん…撮ってやることは出来ん」

 

結衣「そうじゃあ無くてさ、一緒に撮ろうって言おうとしたんだけど……」

 

静「じゃあ三人で撮る?徐倫お姉ちゃん、撮って!」

 

おーい。さりげなく教師をパシるなよ。

 

徐倫「自分で撮れよ。少なくとも教師に気安く頼むんじゃあねぇよ」

 

とか言いながらもカメラを受け取り、俺達を撮ってくれる徐倫。

 

徐倫「はいよ。あたしの腕がいいおかげでよくとれてるわよ」

 

言ってカメラを由比ヶ浜に返すと、由比ヶ浜はさっそく写真をチェックを始める。デジカメはすぐに見られて便利である。今時フィルムのカメラがあるのかが不明だけど。今の時代は携帯でも写真は撮れるしね。ゲーム機でも可能なのだから。ゲーム機で必要だったのかは正直微妙なところだけどな。

 

葉山「せっかくだから、みんなで撮らないか?」

 

八幡「いや、何でだよ。普段は関わらない方向性じゃあ無かったのか?」

 

葉山「だけど、修学旅行中は同じグループだ。そこで打ち解けてきた……という事にすれば違和感はないんじゃあ無いかな」

 

八幡「おいおい。本末転倒じゃあないか。文実と体運の悪意を逸らすために……」

 

葉山「それはもう、果たされている。君達への悪意も、段々風化され始めている。そろそろ、良いんじゃあないか?俺達がつるんだとしても。俺達は仲間なんだろ?」

 

葉山からの歩み寄り。それは素直に嬉しい。

ウルフスに掛けられていた柱の一族とその眷属の呪い。

それから解放され、何の色眼鏡もない状態の葉山隼人という男は……黄金の精神の持ち主だった。

 

八幡「……好きにしろ。物好きめ」

 

これまで散々そういうのを否定してきた俺からの回答は、自分でもこれはないだろう……というヒネくれ具合だった。

 

葉山「ふ……了解。オーラル・シガレッツを使って良いかい?」

 

八幡「やめてくれ。本気で俺とは相性の悪いスタンドだな……相模といい、お前といい」

 

葉山「君でも苦手な物があるなんてね」

 

八幡「あるよ。むしろ人間全般が苦手とまで言える」

 

葉山「………」

 

葉山は仕方が無い奴を見るような感覚で、されど優しさを込めた困ったような笑顔を向ける。

 

海老名「は……は……ハヤハチ……キマシタワー!」

 

三浦「だー!また始まったー!京都に来たときくらい本気で擬態しろー!」

 

いい感じが台無しだ、海老名。

まったく……やれやれだぜ。

 

キングクリムゾン!

 

本堂から経路に沿って見学していく。

学生達の流れはそのまま地主神社へと続いていた。

地主神社は清水寺の境内に位置する神社だ。縁結びの神様として大変名高く、恋愛成就を願う参拝客で人気のスポットである。つうか、入り口にデカデカと「えんむすびの神」と、しかも赤字で書いてあるし。アピールしすぎだろ。清水寺に行ったた若者たちはまず間違いなく、こちらも参拝する。

ことに修学旅行生ともなればなおさらだ。神社の周辺はワイワイキャーキャー言いながら大変にやかましい。

まずはお参りを済ませ、それからみんな気合いを入れてお守りとおみくじを買う。

一応俺もお参りをしておくか。

いろはと末永く幸せになれますように……と。

 

レクイエム『なら、原石を研磨し、宝石となれ!真実を越えろ!』

 

………こわっ!神の声がレクイエムの声になってる!なにこれ!レクイエムって神なの!?神託なの!?どうでもいいけど、恋愛成就の神社でやめてくれね!?俺はレクイエムと成就する気はないから!神託じゃあなくて神罰だよ!マジで!

 

恐ろしい思いをした参拝を終えた俺は、特に何かを買う予定もなく、というか、肩が上がらないので秘技・黙って後ろからついていくを発動するしかない。気配を消してひっそりと。つうか、早くジョルノと合流したい……。肩を治したい…。

それとなく一団に混じりつつ、クラスの様子を見ていると、やはり人気ナンバーワンアトラクションは『恋占いの石』のようだった。効果あるんだかね?とはいえ、さっきみたいな例もあるからなぁ。何だったんだ?さっきの石は。

見れば多くの女子達がチャレンジしていた。挑戦する人の邪魔にならないよう、友人達が警備員よろしく、つうろを確保し、『じゃ、いくねー』なんて声をかけてからスタートする。

恋占いの石は離れた位置にある石の間を目を瞑って到達することができればその恋は叶うという。

スイカ割りみたいに誰かの助けを借りた場合には、その恋も誰かの助けが必要になるのだそうな。

さらに女子高生達が順番待ちをするなか、男子もその様子をチラチラと見ている。気になるあの娘がチャレンジしていようものなら、「やべ、あの子、誰か好きな人いるのかよ……、俺かな」とドキドキものだろう。いろはがやっていようものなら相手に殺意を抱く俺がいる。だってもう成就された関係じゃん?ということは別に好きな相手がいるということじゃん?やばい、想像しただけで泣きそう。

そうしたドキドキ情報収集目的の連中のみならず、ちょっとやってみたくて遠巻きに見ている男子もいる。その辺りが、少し男子の可愛いげを感じる。

のだが、その中に普通に並んでいる戸部くんはちょっと慎みが足りないのでは?

天の声『お前に言われたくねぇよ!』

 

戸部「いや、マジ俺、一発決めっから!」

 

戸部が周囲にアピールするように宣言すると、境内で合流していた大岡や大和もやんややんやと手を打って盛り上げた。折本のスタンドがあったらより盛り上がるだろうな。それにガッツポーズを返すと、戸部は目を閉じ、ゾンビみたいにゆっくりとした動きでゴールを目指す。

 

戸部「やべ、全然わかんねー!えー?マジこれまっすぐでいいのー?どーなのー?」

 

まぁ、人間目を閉じていると自分がまっすぐ向いているのかどうかもわからないものだからな。足踏みしていたって50歩後には位置がずれていたり、真横向いていたりするものだ。何らかの病気を疑われているという研究もされているらしいけどな。

という考え事をしている傍らで、戸部にアドバイスを求められた大和と大岡も面白がって適当な事を言う。

 

大和「まっすぐまっすぐ」

 

大岡「戸部、後ろ!」

 

戸部「ファッ!?後ろ!?」

 

言われて反射的に振り向く戸部。やべぇ、コレが徐倫なら時を止めて後ろに回り込んで、「今お前が見て、感じたものは未来のお前だ」というキング・クリムゾンごっこをしていたわ。

 

葉山「目を閉じたら振り向いても意味無いだろー…」

 

葉山が呆れてため息混じりに呟く。境内に笑いがこだまし、何とも微笑ましい雰囲気だ。楽しそうで何より。ブラッディ・スタンド使い達だったやつらも、呪いが解けて本来の明るさが戻って良かったって所だな。

 

海老名「これ、案外行くところまで行くかも?」

 

どこに行かせるつもりですかー?あと、第三者を呪うのは良くないと思いますー。出来れば味方を呪うのもやめてくださーい。

あ、結局戸部はこけそうになったところを葉山に助けられていた。

 

海老名「颯爽と戸部っちを助ける隼人くん!いいねーいいねー♪これがヒキタニ君だったならなおよし!」

 

八幡「良くねぇよ!」

 

戸部、お前の想い人はこんなだぞ?仮に結婚したら親戚には性悪が付いてくるぞ?暗雲立ち込めるぞ?

恋占いの石も一段落し、我がクラスの連中はおみくじ開封作業に取り掛かる。

 

三浦「っしゃ、きたっ!」

 

やけに男前なガッツポーズで喜びを露にする三浦。その三浦の手元を覗き込んで由比ヶ浜も驚きの声を上げた。

 

結衣「うわっ!優美子すごっ!」

 

海老名「大吉って出るんだねぇ~」

 

海老名も寄ってきてパチパチと手を叩く。

いや、あんたタロット占い師でしょ。流派違いでしょ。

それに、あんた好きな人がいたのん?

 

三浦「いやマジなんつーの?朝から二度もウルフス現れてっし?あーしの朝の占い最悪だったしー?こんなんでも運勢が変われば儲けものっしょ?」

 

違った。何でも良いから運気を変えたかっただけらしい。嬉しそうに綺麗に畳んで大事そうに財布にしまう三浦。おかんだなー……。

 

戸部「でもあれでしょ?ゆーても、大吉ってあんまよくないんだべ?こっから落ちるしかないから」

 

あっ!バカ!戸部!

 

三浦「あ?」

 

ちゃちゃを入れた戸部に三浦がわりと本気の睨みを見せた。マジシャンズ・レッドまで出現している。

無論、戸部もビビって「や、大吉なかなかレアだわー」とか無難なことを言い出し始める。

 

八幡「いるよなー、ああいう人の喜びにわざわざ水差すようなことを言って顰蹙買うやつ」

 

静「私達も小学校の遠足の時にはわざとやったっけ?」

 

八幡「うん。俺、アイツ嫌いだったし。徐倫相手でも冗談でやらないだろ。うん」

 

徐倫「だったら普段も自重してくれない?」

 

それはもはやライフワークだ。

 

海老名「あー、私。凶だ」

 

海老名が別段気にした……あれ?意外にもガッカリした感じ?

 

戸部「や、でもそれあれでしょー?こっから良くなるしかない的に良いことでしょ?」

 

三浦の大吉をからかっただけあって、その論法には気付いていたのか、さりげなく海老名のフォローをしていた。

頑張ってるじゃあないか。

……ま、少し気を利かせてやるか。気紛れに。

 

八幡「悪いおみくじ結ぶんなら上の方が良いんじゃあないか?なんかほら、神様的によく見えるとかなんとか」

 

海老名「邪悪の化身が言うと胡散臭い……」

 

………逆効果だった。

 

戸部「ま、まぁ、そういう意味があるんかぁ~。ちょっ、任してみ?」

 

海老名「え?うん…」

 

あ、表情が微妙。確かに海老名ならハイエロファントを伸ばして上の……いっそてっぺんに結んでしまいそうだものな。

戸部が一番高いところに背伸びしながらおみくじを結び付けているのを横目に、俺とジョジョも一応おみくじを買ってみる。

 

八幡&静「…………大凶」

 

シーン………。

仲間達の冷たい視線が俺に突き刺さる。

三浦の大吉で運気を変える的な気遣いや、戸部の海老名へのフォローを色々と台無しにした瞬間である。

 

八幡「次にお前らは…」

 

静「『色々とぶち壊しだ!』…と言う」

 

一同「色々とぶち壊しだ!………ハッ!」

 

うん、ゴメン。俺達のせいじゃあないと思うけど、なんか色々とゴメン。

 

静「アクトン・クリスタル」

 

相棒が俺のおみくじごと透明にし、木の上にアクトンact1で結び付けた。

俺達は微妙な気分で地主神社を後にした。

後は拝観順路に従っていくだけだ。

フラフラ歩きながら(比喩ではなく、マジで。血を失いすぎた…早くジョルノと合流したい)奥の院からの本堂・舞台を眺め、そこからは音羽の滝へと降りていく道に繋がっている。

三筋に流れる滝の前には多くの人が並んでいた。

パーテーションに区切られ、幾重にも折り返した列が連なっている。おいおい、ディスティニーランドばりに並んでんぞ、ここ。ファストパス?

その混雑ぶりに愕然とし、二人揃って立ち尽くしていると、頭をズビシッとチョップされた。

 

結衣「性悪コンビ、勝手に先、行くなし」

 

静「あれ?材木座は?」

 

結衣「クラス単位だからいないってば。ここ、ヨッシーと来たかったのに……」

 

それは俺もジョジョも同じなのだが……。すると、後から三浦達や葉山達もやって来た。

 

戸部「お、なんか水、流れてんべ。三本もあるし」

 

戸部くん、素朴な感想をありがとう。

 

葉山「音羽の滝だな」

 

葉山がこともなげに言うと、由比ヶ浜がガイドブック片手にふむふむと始める。

 

結衣「えっとね、それぞれ学業、恋愛、長寿にご利益があるらしいよ」

 

音羽の滝自体の説明書きには書かれていなかったので、片手でスマホを操作して確かめてみる。なるほど、左から長寿、恋愛、学業か。

そして、みんな迷いなく並ぶ。いや、俺達も並ぶけどね?

十五分ほど並んでいると、ようやく俺達の番がきた。

皆めいめいに柄杓をとり、水を汲む。

俺の前に並んでいた由比ヶ浜が真ん中の滝に狙いを定め……

 

八幡「まてぃ!お前は右の学業だろ!彼氏も既にいるんだし!」

 

結衣「えー!?」

 

お前はマジでご利益に頼らんとマズイレベルだろ!エンポリオやンドゥールや康穂がどれだけ苦労したと思ってる!

由比ヶ浜は口を尖らせて右の学業の水を汲んだ。

 

結衣「あ、すごい美味しい……」

 

飲み終えて、ほっと一息つくようにそう口にした。古くから伝わる名水だ。その美味しさは長い歴史に裏打ちされている。しかも湧水だし、季節的にも冷たくさぞや喉に気持ちが良いことだろう。

 

さて……狙いは左の………

 

三浦「………」

 

海老名「………」

 

戸塚「………」

 

沙希「………」

 

徐倫「………」

 

一斉に延びていた『長寿』の滝に群がる俺達。

だよねー。命がけで闘いをしているもんねー。

神頼みでもなんでも、長寿を願いたいよね~。

みんなで仲良く長寿の水を飲みました。

でもね?徐倫。いくら全員分持ち帰るつもりだからと言ったって、大五郎のボトルはやりすぎだと思うよ?

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。


久々の原作との違い。

八幡がクラスのみんなからカメラマンをやらされる→肩が動かないので不可能

恋愛成就の石では平塚先生が喝采を浴びていた→徐倫にはアナスイがいるので泣く泣く削った

海老名は戸部に「さすがは男の子」と言う→ハイエロファント・グリーンがあるからなぁ……

八幡はおみくじをひかない→ひいて大凶。オチ担当

音羽の滝では由比ヶ浜が真ん中の滝を飲む→いや、もう材木座がいるよね?学業の右へ。

由比ヶ浜は使った柄杓を八幡に渡そうとする→カットしました

八幡他が飲んだ滝の水は不明(勝手なイメージではあるが、三浦と川崎は真ん中の滝だと思われる)→長寿の水

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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