side一色いろは
太秦映画村・借りきったセットの一室
八幡「ぅぅぅ………ぅーん………やめろウルフス……いろはを傷つけるんじゃあない!ぅぅぅぅ……まだだ!まだ消えるな!ザ・ジュエル!ぅぅぅ!」
凄いうなされよう………。
スタンドが完全にボロボロになっちゃいましたものね。
それだけ精神がボロボロになってしまった証拠です。
お疲れ様…ハチくん…。
でも……でも……。
何でウルフスはわたしがいないときばかりに現れるんでしょう。昨日の3つの戦いは……わたしがいれば、どれもみんなの助けになっていたのに。
1年……たった1年の学年の違いが、こんなにも歯がゆいなんて……。
いろは「ハチくん……」
八幡「ぐぅぅぅぅぅぅぅ!もう少しなのに!もう少しでウルフスを倒せるのに!やめろ!いろは!いろはぁぁぁぁぁぁ!うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
ハチくんのうなされが酷くなってる………。酷い悪夢を見ているみたいです。昨日、孫悟空を倒せなかった悔しさが、悪夢という形で再現されているみたいです。しかも、わたしがやられているという形で……。
いろは「ハチくん!」
わたしの太ももを枕にして眠っているハチくんの頭を抱きしめました。
八幡「ぅぅぅ……いろは……良かった……」
スゥ………スゥ………。
わたしの胸に抱かれて安心したのか、ハチくんは悪夢から解放されたようです。
八幡「いろはの匂い……スゥ………スゥ………」
わたしの香りがハチくんを安心させているようですね。まるで母親に抱かれて安心する子供のようです。
エンジェル・スマイルと言いましたか?こういうの。
承太郎「匂いと言うのは、本能を刺激するからな。いろはの匂いが、八幡を安心させているのだろう。これはお前にしか出来ない、一番の八幡の清涼剤だ」
いろは「じょ、承太郎!?」
承太郎「俺の事は気にするな。俺一人ではあるが、何があってもお前達二人を守り抜く。だからいろはは八幡に癒しを与えてやれ」
壁を背もたれにして承太郎は腕を組ながら、わたし達を見守ってくれています。その表情にあるのは、いつもの仏頂面で、射抜くような瞳ではありませんでした。穏やかで自然な微笑みが承太郎の顔に浮かんでいます。
承太郎「こうして子供のように寝ていると、今の八幡はカワイイものだな。普段は小にくらしくて、斜に構えていて、徐倫をからかっていじめて、静を性悪にして、ジジイの悪いところばかり似やがった小僧だが」
ギュウウウウ!
八幡「フガッ!?フガガッ!」
承太郎は言っててムカムカして来たのか、近寄って来てハチくんの鼻をつまみ上げました。
酷い言われようですよ?気持ちはわかりますけど。
いろは「承太郎?やめて下さい。また悪夢でうなされ始めますから」
承太郎「そうだったな。ましてや俺の匂いじゃあ、コイツは更に悪夢を見るだろうな」
……承太郎は、ハチくんの前世の片方のディオを殺した過去があります。
八幡「へへ……承太郎。いろはの匂いが羨ましいか?へへ……いろはは良い匂いだぞー、暖かいんだぞー。やらねぇぞー………」
承太郎「チッ!やっぱりかわいくねぇ……実は起きてるんじゃあないのか?この野郎…ヤレヤレだ」
承太郎はハチくんの頭をペチンと叩く。
八幡「おー、やったなー承太郎ー。また決闘だー」
ふふふ♪寝ていてもこれですか?ハチくん。
いろは「でも、承太郎が思ってる事には、ならないと思いますよ?多分、承太郎の匂いでハチくんがうなされるなんて事は……決してありません」
これはわたしの率直な感想です。だって……。
いろは「承太郎は根が優しいですもの。ハチくんだってそれはわかってると思いますよ?だから、父親とじゃれ合うようにしてるんだと思います。本人は認めないと思いますけど、甘えてるんじゃあないですか?」
実際、ハチくんは家族としてジョースター家に心を許しています。特に歴代ジョジョ達にはハチくんなりにひねくれながらも甘えているんだと思います。
ジョセフが祖父のようなものだとしたら、承太郎は父親のように思っているんじゃあ無いでしょうか?
本当の父親である義父さんと同じくらいに……。
ジョナサンの父、ジョージ・ジョースターは立派な紳士たるよう、ジョナサンを厳しく育てました。それがジョージなりの愛だとジョナサンも理解はしていました。ですが、やはり寂しかったのでしょう。
そして、ディオの父親、ダリオ・ブランドーはあのディオをもってしても最低の父親と罵っていました。
ダリオ・ブランドーの事はよく知りませんが。
少なくとも、ハチくん越しに聞く限りではそう思えます。
方法はどうあれ、自分の死後にディオがジョースター家の庇護下に入るようにしてあった限り、全く愛情がなかったわけでも無いとは思いたいですけど。
そして今………ハチくんのお父さんは比企谷兄弟を愛情深く接しています。下が女の子のマチちゃんを猫可愛がりしていますが、ハチくんの事も愛情深く育てています。
ハチくんもひねくれていますからよくケンカをしてますけど、それだってじゃれ合いの範疇のケンカです。
家族旅行の時なんてよく一緒に遊んでますしね。
そして承太郎。
承太郎の場合は男の子の父親としては理想の父親像をハチくんに見せているんじゃあ無いでしょうか?
背中を見せる…とでも言うんじゃあないですかね?
不器用な昭和の父親の姿を承太郎はハチくんに見せていると思います。
承太郎「あれで甘えてるのか…。父親か……こんなひねくれた息子は、御免だがな」
いろは「貞夫に言っちゃいますよ?それ?それとも、ホリィが良いですか?」
承太郎「む………」
いろは「クスクス……」
自分が高校生だったときの事をおもいだしたのか、承太郎が黙ってしまいました。
ほら。形は違いますけど、ひねくれた所とかは似ているじゃあ無いですか。
体育祭の時に泉先輩に貸したのは承太郎の学ランですし、深いところで一番影響を与えてるのは承太郎かも知れませんよ?
仗助が知ったら嫉妬するかも知れませんけど。
仗助は仗助で、ある意味で父親のつもりでハチくんに接している節がありますからねー。
承太郎「俺は確かに静に徐倫を重ねていた。お前や小町にも、もしかしたら重ねていたかも知れない。それが八幡にも息子代わりに重ねていた……そう言いたいのか?いろは」
いろは「多分そうですよ。あ、ヤッパリ承太郎はわたしにも徐倫を重ねていたんですね?パパ?」
わたしはコテンと首を傾げて言ってみます。
承太郎「……少しうざったいぞ。いろは」
これも父親に対する信頼と甘えですよーだ。
大体、女性が騒いだり、今みたいな事をしたらむすっと黙ったり、本気で怒鳴るのが承太郎じゃあ無いですか。
わたしくらいの年代の小娘の場合は特にイライラするというのが承太郎です。
そうしないということは、承太郎はやっぱりわたしを娘みたいに思ってくれているってことで良いんですよね?
承太郎「調子に乗るんじゃあない。どいつもこいつも可愛くない娘だ。雪乃くらいが理想の娘だろうな」
ペチン!
さっきハチくんにやったくらいの力でわたしの頭を叩く承太郎。でも、少し撫でたのは見逃してませんよ?
いろは「でもでもぉ、雪乃先輩を娘にしたらぁ、はるさんやジョルノももれなく息子と娘になっちゃいません?」
承太郎「ヤレヤレ……そうだったな」
溜め息をつくふりをする承太郎。だが、承太郎とてジョルノと陽乃とはもう何年もの付き合いだ。二人の事が嫌いな訳がない。
八幡「ゥゥ……ウーン……」
いろは「キャッ!」
ガバァ!
ハチくんはわたしに覆い被さって来ました。
もちろん、完全に眠っているので寝返りを打った感じなんですけど、これは完全に………
承太郎「絵面が完全にあれだな……お楽しみ中みたいな感じだな」
もうガッチリわたしをホールドして離さないハチくん。どう見たって襲われている女の子です。
八幡「スゥ………スゥ………ンッ……」
いろは「!!」
チュッ!
………起きてるんじゃあないですよね?
首筋にキスされてシャレにならない声をあげかけたんですけど!?
お返しです!
八幡「ンーーーーーッ!」
チューーー!
わたしはハチくんの頭を掴んで長めのキスをします。
承太郎「いろは……お前、俺がいることを忘れていないか?」
ハッ!そうでした!
わたしはそのままハチくんの太ももに脚を絡め、肩を押してブリッジの要領でハチくんごと体をひっくり返します。
柔道の時に言いましたよね?寝技だって苦手じゃあ無いって。
八幡「ウーン……ウーン……」
ひっくり返して元の膝枕状態に戻ります。
わたしが離れるとすぐにうなされ始めますから。
八幡「スゥ………スゥ………」
承太郎「完全にあれだな。赤ん坊だな」
いろは「ザ・ジュエルの全身に皹が入ったみたいですし、今のハチくんは幼児退行しているかも知れませんね?」
髪の毛やほっぺたを撫でてあげるとすごく安心した表情を浮かべます。精神が病むと幼児退行してしまうという症状の1つです。
いつも通りの無茶をしたわけですか。もう驚きません。呆れはしますけど。
パクッ!
小指に噛みつかないで下さい。わたしの指はおしゃぶりじゃあないですよ!
承太郎「………次は俺がやる……」
いろは「は、はぁ!?何を考えてるんですか!なんですか?口説いてるんですか?確かに承太郎はイケメンですけど未だに変なコートを着てますし帽子は脱がないですしなに考えてるのかわかりませんし何より父娘ほど歳の離れた小娘になに考えてるんですか無理です!ごめんなさい!」
承太郎「………レクイエムの話だ」
あ、レクイエムの事ですか。紛らわしいんですよ!
てっきりハチくんに便乗して甘えて来るのかと思ったじゃあ無いですか!
承太郎だって長いこと男やもめですし…。ホントに身の危険を感じちゃったじゃあ無いですか!
承太郎「既に完成しきってしまっているスター・プラチナだから、ジョルノのように至れるとは思わん。だが、八幡、静、ジョルノ……。若い者に無理させて、俺達が黙ってみている事しかできないなんて…出来ねぇからな」
承太郎は矢を取り出しました。何でそれを承太郎が…。
いろは「それは……その矢は……」
承太郎「忘れたのか?矢は第7倉庫に4本ある。その内の一本だ。昨日そこのバカが呼び寄せた矢とは別の物だ 」
そうでした。第7倉庫はわたしですら入れない禁断の場所。あそこに保管されているのはリサリサの形見であるスーパーエイジャと4本の矢です。
ディアボロが見つけた矢の内、1本はマリアナ海溝に沈みました。1本はジョルノがポルポとの戦いで破壊させ、徐倫のロケットに破片が入っています。1本は17年前に音石さんから回収。更に同じ時期に吉良吉影の父親から回収。そしてポルナレフさんが持っていたものはジョルノが持っていて。そして四年前にプッチから回収した1本…。
例外であるブラッディ・アローはハチくんが真実から消滅させました。
現存する4本全てが今は千場の第7倉庫に保管されています。
その内の二本がこの京都にあるなんて……。
いろは「でも、レクイエムの力は……」
承太郎「俺のレクイエムの能力はわかっている。スター・プラチナとザ・ワールドは同じタイプのスタンドだ。オーバーヘブンまで同じタイプの能力だったんだ。レクイエムも間違いなく同じだろう」
いろは「一人で背負わないで下さい…それではハチくんと同じじゃあないですか…わたしだっているんです」
承太郎「今、レクイエムの宿命を背負っているのはジョースターの血筋だけだ……これ以上の宿命をお前達に背負わせる訳にはいかん」
肝心な事を忘れてませんか?承太郎。わたしだって…
いろは「わたしだって、ジョースターですよ?承太郎」
わたしは着物をずらして承太郎に首の後ろの痣を見せます。この星形の痣は、わたしもジョースターであることの証です。
承太郎「そうだったな……」
いろは「それに、ジョースターだけが、これまでの戦いで勝利をもたらしたわけでは無いじゃあ無いですか。ツェペリの血統やスターダスト・クルセイダーズ、杜王町、ブチャラティチーム、エルメェスさん達……みんなの力があったからこそジョジョ達は今まで勝利をもぎ取って来たんです。それを忘れないで下さい」
承太郎「ふ………流石はエリナおばあちゃんだな。ジジイが一番怖い人は誰かと聞かれれば、真っ先にエリナおばあちゃん……と、言わせる事はある。いざとなったら、頼るかも知れないな。いろは」
いろは「ウンウン♪それで良いんですよ?承太郎」
それにしてもジョセフ……。何て事を孫に言ってくれちゃってるんですか……。またお説教ですかね?
八幡「スゥ………スゥ………いろは………」
ハチくんが寝返りを打って、わたしのお腹に抱きつきます。今日は子供みたいに甘えますね?ハチくん。
良いですよ?これでハチくんの心が癒されるなら……。
わたしはハチくんの頭を優しく撫でます。
ハチくんの体はナイチンゲールが治してあげます。そして、ハチくんの心はわたしが癒してあげます。
体は仗助やジョルノでも治すことは出来るかもしれませんが、心だけはわたししか治せません。
これだけは、他の誰にも譲らないですから。
承太郎「ふ……。変われば変わるものだな……。あのDIOが……な」
そう言って承太郎は背中を向けました。好きなだけイチャイチャしてろって意味ですかね?ではお言葉に甘えて、ハチくんをいっぱい癒しちゃいますか。
わたしは元の体勢に戻ったハチくんの唇に、わたしの唇を重ねました。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
最近は出番が少なかったいろは。
元々、原作では柔道編くらいで、本格的に登場していないキャラクターですから、今まで無理矢理登場させていましたからね…(^_^;)
特に修学旅行編は葉山にスポットが当たってますし。
次回は一方その頃は……です。
最近、出番が少なかった面々にスポットが当たります。
それでは次回もよろしくお願いいたします。