side比企谷八幡
うーん………あいててて………。
戸塚「ごめん……八幡。説明も無しにいきなり……」
ああ、思い出してきた。横牛の襲撃があったんだったっけ。奴のスラピーを感じ取った戸塚が、俺達を操らせないように手早く気絶させたんだな。
まぁ、俺も気が付いて鼻呼吸を止めていたから引っ掛からなかったんだが、それを説明する間もなかったからな。
ある意味ではファインプレーだったんだし、戸塚も悪気があったわけでは無かったから……うーむ。
戸塚「八幡……怒ってる?」
まぁ、いっか。
こうして落ち着いているって事で、ドンパチは終わったんだと思うし……。
修学旅行に来てからこっち、俺ってなんだか再起不能になってばかりのような気がするなぁ……。
八幡「怒ってないぞ。それだけ必死だったんだろ?」
ポルナレフ『そうだな。承太郎といろはが頑張ってくれた訳だし。結果オーライだ。それより頼みがあるんだが』
ポルナレフさんが話しかけてくる。
そうか。いろはが頑張ってくれたのか……。旦那の稼ぎが悪いときは妻が頑張るというが、ホントだな。
いろはには今回、何度世話になっただろうか…。
それと、ポルナレフさんの頼みって何だろう。この人が俺に物を頼んで来るなんて珍しい。
ポルナレフ『完全に動かなくなった私の体を、冷凍保存機の中に入れてはくれないだろうか?』
見ればポルナレフさんの遺体が無造作に転がっていた。
うわっ!早く仕舞わないと!
俺は戸塚と協力してポルナレフさんの遺体を冷凍保存機の中に入れ、スイッチを起動した。
ポルナレフ『ヤレヤレ。後でジョルノに生命力を注入してもらわなければな。昨日から解凍処置をしていたお陰で役に立つことは出来たが、さすがに今日はもう動かせないだろう』
八幡「お疲れさまでした。ポルナレフさん」
俺はポルナレフさんに深く頭を下げる。
ポルナレフ『私なんかよりも、君は労うべき大切な人がいるだろう?そっちを優先させるんだ』
それはいろはの事だろう。
仗助やジョルノ、材木座はまだ目覚めていないが、じきに目を覚ますだろうし。
八幡「そうですね。ではお先に失礼します。ポルナレフさん」
俺はポルナレフさんにもう一度頭を下げてミスター・ブレシデントの中から脱出した。
ココ・ジャンボの中から出ると、そこには酷い光景が広がっていた。何だ?あのポッカリ空いた穴は。
いくら参道より離れているからとはいえ……ちょっと派手にやりすぎだろ。
承太郎「目が覚めたか……八幡」
八幡「承太郎……悪いな、肝心な時にいつも……」
承太郎「気にするな。お前が悪いわけじゃあない。それに、戸塚を責めるなよ?」
八幡「解ってるよ。戸塚は戸塚なりに一生懸命だったんだ。横牛は?誰が倒したの?」
承太郎「…………止めは俺が刺したが、結果だけを言えば由比ヶ浜、アシストは平塚静だな……」
由比ヶ浜、すげえな。今回の修学旅行じゃ3回目の大金星だろ。それに平塚先生も………。
承太郎「あと、横牛に操られた者の中には一般のスタンド使いもいた。そっちはいろはが倒したそうだ」
八幡「そうだ!いろはは!?いろははどこにいる?」
承太郎「あそこだ……行ってやれ」
承太郎が指を指すと、そこにはいろはの手を取ってまくし立てている欧米人らしきヒョロヒョロした男がいた。
何かジェラシー。
八幡「行ってくる。お疲れな、承太郎」
承太郎「ヤレヤレ……いろはが絡むと途端に人が変わりやがる」
承太郎は帽子を目深に被り直し、ため息を吐いた。
side一色いろは
わたしの目の前で一般のスタンド使いの方、ライオット・ライフタウンさんは調子が悪そうにしていました。
エクセスを食らった人の大半は、免疫力が悪さをしてこういう状態になってしまいます。
これが明確な敵ならばそのままお亡くなりになられても構わないのですが、ライフタウンさんは巻き込まれただけです。話をしてみても、悪い人でもありませんし、スタンド能力を悪用した事も無かったようです。
生活を少し便利にするくらいの事はわたし達でもよくやる方ですからね。
………と言うより、わたし達も充分に悪用している方だとも言えますけど。
とにかく殺されかけはしましたが、ライフタウンさんも被害者です。
いろは『生まれつき心臓が弱かったんですか?では、わたしが治療してみて良いですか?』
ライフタウン『そんなことができるのかい!?』
いろは『はい。わたしの能力は、何となく理解して頂けましたよね?』
ライフタウン『僕は……こんな良い子を殺しかけたのか……』
いえいえ。むしろ謝罪なんですよ?
だってわたし達の事情にこの人を巻き込んでしまったんですから。
いろは『エメラルド・ヒーリング!』
わたしはエメラルド・ヒーリングを彼に打ち込みました。すると、調子の悪そうだったライフタウンさんの顔色がだんだん良くなっていきます。
ライフタウン『長年苦しんでいた心臓病が……ありがとう!君は聖女だ!殺しかけた僕を許してくれるばかりか、病気まで!ありがとう……ありがとう!』
ちょっ!困ります!むしろこれはこっちの謝罪なんですから!それと口止めなんですから!
いろは『ちょちょちょ!大袈裟です!むしろ謝るべきはわたし達なんですよ!あなたはわたし達の事情に巻き込まれた被害者なんですから!これはその謝罪と言いますか……とにかく聖女は止めてくださいごめんなさい!』
いや、何で拝み始めるんですか!人の目があって恥ずかしいですよ!
八幡「いろは、どした?」
あ、ハチ君が気絶から覚めたようですね。
一通りハチ君に今回の事情を話します。わたしが死にかけた事を話すと興奮状態になりましたが、巻き込まれただけのライフタウンさんを責める真似はしませんでした。
ほっ………
ライフタウン『聖女様。この人は?』
まだ聖女と言いますか……ダービーさんと言い、わたしが病気を治した人って何でみんな必要以上に感謝してくるんでしょうか?
もう好きに呼んで下さい。どうせ今回だけの付き合いでしょうし。
いろは『わたしの婚約者です』
ライフタウン『ほほう、婚約者ですか。聖女様が選んだ人ですからさぞかし………。ええっと………こう言っては失礼ですが、顔付きは良いのですが、目がそれを台無しにしてますね……』
八幡『流石は何でもハッキリと言うアメリカ人。日本人なら遠慮して適当に困った愛想笑いでお茶を濁すところをズバズバと……でも言いにくい事までハッキリ言い過ぎじゃね?』
ライフタウン『oh!すいません!ステイツでも遠慮が無さすぎると良く言われています!』
まぁ、スタンド使いはみんな普通とはかけ離れているところがどこかしらありますからね。基本世界の人達もスタンド使いの素質は充分に持ってますし。むしろライフタウンさんは普通の人の感覚の方だとは思いますよ?
八幡『で、ライフタウンさん。今後は普通の生活に?』
ライフタウン『はい!今までは利己的な僕でしたが、聖女様のお陰で目が覚めました!今後は能力も人の為に役立てようかと思います!』
いえ……そんな深い意味はありませんからね?本当に巻き込んでしまったせめてもの謝罪以外の何物でも無いですから!ありもしない虚像を作らないでーー!
八幡「幼なじみで良かった……昔から関係をハッキリさせていて良かった……。無自覚たらしだ」
……聞こえてますけど?大体ハチ君がそれを言いますか……。まぁ、スタンド使いの女の子からしたら依存対象として最適の相手なんでしょうけどね。
八幡『そうですか。ですが、気を付けて下さい。スタンド使いとスタンド使いは惹かれ合います。今回のようにスタンド使いのトラブルに巻き込まれたら、SPW財団まで連絡を下さい。我々アーシスが救助にむかいますから。SPW財団をご贔屓に!』
宣伝を始めないで下さい。
変なところで業務を忘れませんね。
ライフタウン『oh!流石は聖女様の婚約者です!見た目の悪人顔に反してやることはヒーローですね!SPW財団、これからもお世話になります!』
八幡『顧客ゲット!まぁ…それがアーシスの業務なんですけど…』
八幡「邪悪の化身がヒーローとかねーわー。マジでねーわー。笑い話にもならんわー」
小声でボソッと言うときだけ日本語に切り替えないで下さい。あと、結局聞こえてますから!
ライフタウン『聖女様!本当にありがとうございました!これからも頑張って下さい!それでは僕はこれで失礼します!京都は危ないようですから、もうステイツに帰りますね?旅行ビザも関西だけですし!では!』
そう言ってライフタウンさんは何度も手を振りながら伏見神社を後にしていきました。旅行を楽しめなかったのは残念ですが、彼が悪い印象を日本に残さずに済んだのが幸いですね。これからの人生にスタンドが悪影響しないことを祈ります。
八幡「………いろは」
いろは「はい?……キャッ!」
ハチ君は急にわたしの後ろ首を掴み、そして自分の胸に抱き込みます。何ですか!?ちょー恥ずかしいです!
八幡「死にかけた………って聞いたぞ?」
いろは「…………はい」
ハチ君はそのまま何も言わず、無言でわたしを抱きます。
八幡「いろはの体温……こんなに温かい。いろはの匂いはこんなに甘い……それが……永遠に失われるかもしれなかったんだな………これがこんなに辛いなんて……初めて知った………こんな思いを、俺は前世でエリナに味あわせ、そして今でも……」
ハチ君は少し震えています。
そうですよ?わたしはいつも、こんな気持ちになっているんです。
少しは堪えてくれましたか?
八幡「………俺はバカだからさ。これからも何度もこんな気持ちをいろはに味あわせてしまうかも知れない…絶対に死なないなんて、無責任な事は言えない」
まったくこの人は、そういう所がダメダメですね。
いろは「そこは普通、嘘でも死なないって言うところじゃあ無いんですか?」
八幡「……俺にそういうの、期待すんな」
いろは「知ってます。何年夫婦みたいな生活をしていると思ってるんですか?それでも言いたくなるんです」
更にハチ君が抱き締める力を強めます。ちょっと痛いくらいですね。でも死んでいたかも知れない恐怖が、この痛みが生きているって実感させてくれます。
ハチ君が髪を鋤くように撫でてきます。上から下へ…おろしきったら一旦手を離してまた上から下へ…。優しく撫でるその手が……少しちょっと……エッチな感じがしてくすぐったいです。
八幡「手放したく無いなぁ………いろはを」
いろは「だったら、可能な限りはいつでも近くにいて下さいね?あ、専業主夫はダメですよ?旦那がヒモだなんてあり得ませんから」
八幡「それが一色いろはのクオリティだな。むしろ変に甘い言葉よりも愛しく感じる」
いろは「あー、それってエリナらしくないってことですかー?酷いですよー」
八幡「あざとい……いろはすあざとい」
いろは「ハチ君限定ですよーだ」
プッ!クスクス……。二人で笑い会うわたし達。
こんなところが実にわたしらしいです!
承太郎「ヤレヤレだ……見ているこっちが恥ずかしい」
小町「ホントだよね♪」
ーキングクリムゾン!ー
俺達は伏見稲荷を後にする前に平塚先生に別れを告げる事になった。
ジョセフ「助かったぞ。平塚教諭」
平塚「いえ、お役に立てて良かったですよ。ジョースターさん」
ジジイと平塚先生は握手を交わす。続いて承太郎ともだ。
平塚「出来れば私が今住んでいるこの京都の街を案内したかったが、生憎と私もこれから仕事でな」
仗助「講義の準備ってヤツか?」
平塚「ええ。授業をするのに、色々と準備が必要なのは学校でも塾でも変わりませんので。明日の出発には大井さんと見送りに行かせて頂きます。彼もまた会いたいと言っていましたので」
まさか平塚先生がこうして助けに来てくれるとは思わなかったな。憎まれたままで終わる関係たと思っていた。
平塚「それでは京都旅行の最後の1日、楽しんでって下さい。またウルフスが現れる可能性もありますから御武運を……と言うべきですか?」
ジョセフ「笑えん冗談じゃ。まぁ、お気遣い感謝するぞい。平塚君も気を付けるのじゃぞ?敵は元ブラッディ・スタンド使いもターゲットにしておるようじゃ。財団の方にも影から護衛が付くようになるかも知れんのでな」
平塚「わかりませた。なるべく気を張るようにしておきます。それでは私はこれで失礼いたします」
そう言って平塚先生は俺達に別れを告げ、帰っていった。
←To be continued
今回はここまでです。
次回からは東福寺に入ります。
それでは次回もよろしくお願いいたします。