side空条承太郎
戸部翔。
こいつの登場は小さく見えてかなり大きかった。
もし戸部が来てくれなければ俺はあの光の矢に貫かれ、今頃は杜王町に飛んでいただろう。
来てくれたのが攻撃を跳ね返す戸部のノースアイランド・サードでなければ被害者を増やすだけだっただろう。
少しの間だけとはいえ、慣れない戦いで主導権を握っただけでも大したものだ。
調子に乗って能力と弱点が早い段階でばれてしまったのは痛いところではあるが、戦いようで何とかなるかも知れない。
問題が無いわけではない。
流れが変わったとはいえ、オロチの能力がとんでもないことは相変わらずだ。俺達だけではかなり高い確率でやられてしまうだろう。
次に戸部。能力自体はオロチ攻略に大きく効果があることは確かだが、いかんせん経験が無い。本当の意味でスタンドに目覚めたのがついさっきだからな。戦いに関する知識も勘もない。咄嗟に何か出来るというのは反射のレベルでの経験が何よりもものを言うからな。つまり戸部は自分の能力をまだ使いこなせない。
こちらで上手くフォローするしか無いわけだが…。
オロチ「ふぅ……そろそろ目障りになってきましたね。空条博士。あなたはどうあっても屈しないようです。つまりあなたをいたぶっても絶望というスパイスは得られない……ということですか」
承太郎「言っただろう。俺はジョースターの中でも特にタフな野郎だと。もっとも、精神が簡単に折れない事だけで言えばここにいる誰もがタフだがな」
オロチ「それは残念でなりません。さて、それではあなた方を倒し、色々と目的を果たしましょうか」
オロチは幾重にも重なったバリアを放出して俺達に飛ばしてくる。
戸部「べえ!俺に任せるっしょ!」
承太郎「ダメだ!素直に回避しろ!」
跳ね返されるとわかっていながらこんな分かりやすい飛び道具を撃ってくるハズがない。十中八九罠だ!俺は戸部を掴んでバリアの射線から回避する。
海老名達も俺と考えが同じなのか、戸部に頼らずに回避をする事をえらんだ。
戸部「何でッスか!あんなん俺の能力で跳ね返せるんッスよ?どうしてわざわざ回避するんすか!」
承太郎「そうさせるのが目的だからだ。お前がオロチなら、跳ね返されるとわかっていてあんな分かりやすい攻撃をするか?それも、お前の能力の弱点を看破しているにも関わらず……だ」
戸部「ええっと………まぁ確かにそうかもだけど、やってみなけりゃわかれねーべ?」
承太郎「やってみなければわからないならば、やらないのがベストな答えだ。これはサッカーの試合とかじゃあない。サッカーの試合ならば負ければただ悔しい思いをするだけで済む。だがこれは試合は試合でも命がかかった殺し合いだ。負ければ死ぬ」
戸部「死ぬ………」
承太郎「そうだ。いくら頑張ろうが、そんな過程なんてのは何の意味もなさない。ただ無様な死に様を野に晒すだけだ」
俺は奴の飛ばしたバリアを観察する。やはりな……。
正面から眺めているだけじゃあわからなかったが、回避をして横から見てみると仕掛けがわかる。
あれはただ飛ばしているんじゃあない。志向した方向にバリアが現れては消滅し、その先で新しいバリアを発生させては消えるを繰り返している。
承太郎「あれは飛び道具を撃ったんじゃあない。あれを跳ね返したところで跳ね返したバリアはその場で消滅し、俺達は新しく生成されたバリアでダメージを負っていた……」
戸部「じゃあ……あれを跳ね返したところで……」
承太郎「総武高校修学旅行アーシスツアー御一行はめでたく全滅の最期を迎えていたってところだ。試さなくて良かったな?それとも、それでも『試してみなければわからない』……と言うか?俺は構わないぞ?もう助けないがな」
戸部「や、やめとくッス……」
戸部は俺の言った意味を理解したのか、顔を青ざめて首を横に振った。
承太郎「良く覚えておけ……。お前の能力がバレた上で何かを仕掛けてきたならば、それは十中八九は何か罠が仕込まれている。過信せずに疑え。敵の裏を考えるんだ。そして工夫しろ!」
戸部「こ、今後は考えるッス!工夫ッスね!」
本当にわかってるのか甚だ疑問だな。
総武高校に通っているからには学力は悪くないはずだ。だが、勉強が出来ることと理解力があるということは話が別だ。戸部翔という人間は今一つ理解力については信用できない。
オロチ「今後……があればですがね?」
なにっ!?
気がつけば奴は俺達の背後に立っていた。バカな!
俺はくっちゃべりながらも奴から一瞬だって目を離さなかった……。時間を止められた感覚もない!瞬間移動か!
承太郎「オラァ!」
スター・プラチナで咄嗟に殴るも……
オロチ「遅いですね」
奴の攻撃の方がはやく、俺と戸部は殴り飛ばされる。
くっ!俺は耐えられるが戸部は……。
戸部「くぉぉぉ………」
やべぇ。ピクピク痙攣して動けねぇ!マズイ!
オロチ「その目障りな反射の力からまずは始末させてもらいますか」
オロチは攻撃を跳ね返せる警戒から、直接攻撃をしようと近付く。ゆっくりと歩いて近付くことで恐怖心を煽ることも目的なのだろう。
海老名「戸部っち!ハイエメラルド……スプラッシュ!」
三浦「クロスファイヤー!ハリケーン!」
いろは「エメラルド・エクセス!」
存在を消していた三人娘が戸部を助ける為に攻撃を仕掛けるが……
オロチ「甘いですね。仲間の一人をいたぶれば黙っているあなた方ではないと思っていましたよ。これでチェックメイトです。食らいなさい」
オロチは三人娘に対してバリアの攻撃を放つ。3人の弾丸を打ち消すと同時にその凶弾が三人娘に迫る。
戸部「やらせないっしょ!」
動けるようになったのか、戸部が三人を突き飛ばしてバリアの前に立つ。だから止めろ!そのタイプの攻撃はノースアイランド・サードの能力は通用しねぇ!
くそっ!この位置からじゃあ時間を止めても間に合わねぇ!
三浦「戸部ぇぇぇぇぇぇぇ!」
戸部「後は任せるっしょぉぉぉ!空条博士ぇぇぇ!」
俺の見立て通り、ノースアイランド・サードの能力が通用しなかったのか、戸部は何重にも重ねられたバリアの層を食らってしまう。
戸部「ぎょえええええええええええ!」
食らった戸部は吹き飛ぶ事も出来ず、その場に崩れ落ちる。
オロチ「虫けらにしては、よく頑張りましたね。さて、あなた達は極上のご馳走です。大人しくしていてもらいましょうか。特にエリナ・ジョースター。せっかく再起不能にした戸部翔を治療されては困りますからね。不毛なイタチごっこは終わりにさせていただきますよ?」
オロチは三人娘を蹴り飛ばし、ダウンさせる。
一色いろは(ナイチンゲール・エメラルド)…
いろはがやられたか……。生命線を失ったも同然か。
三浦「ぐぅ………一色……」
海老名「いろはちゃん………くっ!」
三浦と海老名も気絶こそしなかったものの、実質的に再起不能だ………。
海老名「承太郎……最期になるかも知れないから言うね。わたしは……承太郎が………」
承太郎「縁起でもねぇことを言うんじゃあねぇ!」
俺は奴に拳を入れるべく迫る。
しかし………。
オロチ「おっと。あなたのオラオララッシュは耐えられるにしてもそう何度も食らいたくはありませんので」
承太郎「や、野郎……オロチ……」
オロチの奴は倒された戸部の頭を無造作に掴んで盾にするべく俺の前にぶら下げる。
戸部「ぐ…………うううあああ………」
戸部が顔を歪ませて苦悶の声を出す。
オロチ「さぁ。正義の味方のジョースター家が仲間を見捨てますか?時を止めてオラオララッシュをしても構いませんよ?スター・プラチナの精密性なら戸部翔を避けて私だけを殴り飛ばすことも可能でしょう。しかし……」
奴は体の急所となる場所に戸部をピッタリと重ねる。
オロチ「いくら時を止めようと、私の全身全霊をもって決して彼を離しません。私の急所を射ぬく為には戸部翔を攻撃しなければなりませんが、あなたにそれは可能ですか?」
く…………。何て野郎だ。だがな、オロチ……。お前は少し勘違いをしているぞ。
承太郎「戸部。確認しておくが、お前は覚悟があってここまで来たんだよな?」
オロチ「はったりは止める事です。仲間ごと攻撃をするなんて真似があなた方には……」
戸部「や……やっちゃって下さい………俺ごと……俺はどうなっても……良いんで……海老名さんを……俺の好きだった女を………助ける為に……俺ごとオロチを…覚悟は出来てるッス……」
オロチ「ほう?ヘタレなあなたにしては中々のハッタリですね。そう言えば私があなたを手放すとでも?」
ヤレヤレだ……。
承太郎「俺も戸部もハッタリなんかじゃあない。俺はマジで戸部ごとお前をぶん殴るつもりだし、戸部は自分ごとやられる覚悟を持っている。それにな……何か勘違いをしてるんじゃあ無いのか?」
オロチ「勘違いですか?何をです?」
承太郎「俺は……俺達ジョースター家は、自分達が正義なんて思ったことはない。単純にお前達のような俺達以上に吐き気をもよおす悪が気に入らなかっただけの悪党に過ぎない」
俺は海老名を見る。この言葉は花京院だった頃の海老名に対して言った言葉だったな。
承太郎「この空条承太郎は学生時代、いわゆる不良のレッテルを貼られていた。ケンカでやり過ぎた相手は結局今でも治りきらずに後遺症を残しているし、威張るばかりで能無しの教師に気合いを入れ、二度と学校に来れずに路頭に迷わせたのも1度や2度じゃあない。料金ばかり高くて不味い飯を食わせるレストランの料金を踏み倒す事なんて今でもやっている。スタンド使いを倒す戦いでだって目的を果たすために何人もの一般人やSPW財団の職員を巻き込んだかわからねぇ。そんなのが正義の味方?笑わせるんじゃあない。結局は俺だってテメェらウルフスと同じ、悪党だ。下衆に落ちきってるか落ちきって無いかの違いであってな」
オロチ「ほぅ?」
承太郎「ジジイだってそうだ。ヤンチャをしすぎてガキの頃はケンカで何度も投獄されたし、仗助はとことんセコイ。ジョルノはギャングで法を犯しているし、徐倫はレディース時代にも逮捕歴を作っている。極めつけは静と八幡だ。まったく……。歴代ジョジョ達の悪いところばかりを詰め込んで煮込んだ闇鍋みたいな性格になりやがって……何がジョースターは正義……だ。こんなものが正義なら、犯罪をせずに立派にサラリーマンをしている善良な世のお父さんは聖人か?天使か?神か?」
本当に笑わせる。
正義、悪。それは地域や時代によって……それこそ人によって様々な解釈があるが、自覚の問題に過ぎない。
少なくとも俺は正義じゃあない。
承太郎「それに、面白いことを言ったな……神を名乗り、自分達こそ正義とのたまっているお前らウルフスが『正義のジョースター』……と。つまりお前は自分が悪で下衆であるという自覚があると言うことだな?」
どうせお前らは屁理屈を言うだけだろう。自分を正当化させるために言葉を重ねる。下衆というものはそういう物だ。まさしく吐き気をもよおす悪だ。
正義、悪。それらを論じる者は例外なく全てが悪。吐き気を催す悪だ。俺達ジョースターだって例外じゃあない。
ジョースターがジジイを除いて短命ってのだって、因果応報だろう。俺が今生きているのは奇跡に近い。本来ならば……基本世界の俺だって、本来ならば死んでいた筈だからな。
承太郎「悪く思うんじゃあねぇぞ。戸部」
オロチ「良いでしょう。やりなさい。空条承太郎」
承太郎「スター・プラチナ!ザ・ワールド!」
ブゥゥゥゥゥゥン。
せめて一瞬で楽にさせてやる。恐怖を感じないようにな。これが俺なりの優しさだ。酷い優しさもあったものじゃあないがな。
S・P「オラァ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
オロチの急所を殴る為には、戸部ごと殴るしかない。俺は戸部ごと何度もオラオララッシュを叩き込む。
承太郎「そして時は動き出す……」
戸部「ぐふぅ!」
オロチ「がはっ!」
二人が声をあげる。しかし………。
オロチ「忘れたのですか?多少はダメージになれど、スター・プラチナでは私に致命傷を与える事は不可能なのですよ。一人の少年の命を無駄に散らしただけでしたね。そして………死ぬのです。あなたも………さぁ、無に帰りなさい」
例の光の矢が……俺を襲う。
オロチ「何故………何故………無事なのですか?!どういう仕掛けが!」
やっぱりテメェは観察力が足りないな。
そして………土壇場でよくそんなことを思い付いたものだ。
戸部。
戸部「工夫ってのはこういうものっスかぁ!?空条博士!」
NIT「べぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!オラァ!さぁ!無に還るっしょぉ!」
オロチ「な、ナニィ!ぐほぉぉぉぉぉぉぉ!」
←To be continued
さぁ、戸部は一体何をしたのでしょうか?
それでは次回もよろしくお願いいたします。