やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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一回戦・性悪コンビ&比企谷餓狼伝説チーム対ジャスティスブラザーズ

ジャスティスブラザーズのストーリー……

 

中国香港

 

大衆料理屋の「昇龍軒」

街を守るユンとヤンの幼なじみ、ホイメイとシャオメイが父親の手伝いで働いている店である。

ユンとヤンの兄弟は特にやることが無いときはこの店を手伝い、その報酬でただ飯を食べさせてもらっている。

普段のユンは憎まれ口を店主に叩いているが、それは幼少期に両親を亡くしている彼にとっては父親のように甘えている態度の裏返しなのかも知れない。

店主も娘であるホイメイとシャオメイがそれぞれユンとヤンに対して想いを抱いていることを知っているので、ユンの態度に目くじらを立ててはいても、将来的には娘達と結婚して本当の息子になってくれれば良いな…とは思っている。

 

店主「ヤン、あそこの坊主どもにコレをサービスしてやりな」

 

ヤン「気前が良いですね」

 

店主「あの坊主も双子だろう。昔のお前達を見ているようでな。ついついサービスしてやりたくなっちゃうんだよ」

 

ヤン「わかりました」

 

ヤン(ん?あの双子……何故か見覚えが……)

 

ヤンにはこの双子に既視感を覚える。大分昔に無くなった九龍城…そこにいた誰かに関係があった……。そんな気がするのだが……。

 

ヤン「これをどうぞ」

 

双子兄「頼んでいない」

 

双子の兄であろう髪の毛を逆立てた子供が生意気な口で返してくる。

 

双子弟「兄さん!失礼だよ!兄がすいません……」

 

おかっぱ頭の弟の方がヤンに頭を下げてくる。

 

ヤン「これはうちの店主からのサービスだ。俺も双子でな、小さい頃から俺達を息子のように可愛がってくれていた店主が昔の俺達をお前達に重ねたようで、ついサービスしてやりたくなったそうだ」

 

祟宗「そうなんですか。あ、僕は秦祟宗、双子の兄が秦祟雷です。サービス、ありがとうございましたと店主にお伝えください」

 

祟宗は丁寧に頭を下げ、ヤンに礼を言う。

 

ヤン「所でお前達、どこかで見覚えがある気がするが、気のせいか?」

 

祟宗「ええっと………」

 

ヤンがそう尋ねると、祟宗は困ったような表情を見せる。

 

祟雷「俺達はよく覚えていないが、昔九龍城砦に拐われていたことがあるらしい」

 

ヤン(やはり九龍城……。あそこに拐われてよく無事だったものだな……)

 

香港の九龍城砦。そこは一般の者が入り込めば、たちまち拐われてしまうと言われた香港の黒歴史が詰まった黒街である。

今は取り壊されてしまったが、迷路のように入りくんだ地形は一度入ったら出られないと言われる程であり、その地形により黒社会の者達が根城にしていた場所である。

行政の目が行き届かず、買収、薬物売買、武器の違法取引、賭博等が横行されていた場所。それが九龍城砦である。

そこに拐われていたと言うならば、言い淀んでしまうのも無理は無いだろう。

 

ヤン「それは済まない事を聞いた。それでお前達は今、どうしている?」

 

祟宗「今は兄さんはタン老師の元で、僕はキム・カッファン先生の元で住み込みの弟子にして頂いております」

 

ヤン「タン老師とキム・カッファン…だって?!」

 

キム・カッファンはかのKOFで毎度上位トーナメントに常連出場をしている格闘家なら誰もが聞いたことのある人物。

そして、タン・フー・ルー…。鎮元斎と並ぶ拳法をやる者で彼を知らないものは潜りと呼ばれている拳法の仙人だ。

基本的に街を守るということ以外は格闘界に興味のないヤンですら名前を知っている二人の師匠達。

 

ヤン「では、キム・カッファンとタン・フー・ルーは今、香港にいるのか?」

 

祟宗「いえ、何でもご用があるようで、僕たちを知人に預けるつもりだったそうです。ホン・フーさんという方らしいのですが……」

 

ヤン「あの警察官か……頼りになるとは思えないけどな」

 

香港警察の問題児、ホン・フーの事はヤンも良く知っている。無能ではないが、型破りの捜査でいつも揉め事を起こしている事で有名だ。

ホン・フーがもっと頼りになれば、自分達がこの街で自警団みたいな真似事をすることもない。

 

ヤン(ん?ホン・フーに秦兄弟?もしかしてこの子供達は!)

 

そんな時だ。店が急に騒がしくなったのは。

 

山崎「見つけたぜ?秦兄弟」

 

祟雷「き、貴様は山崎竜二!」

 

ヤン「山崎だって!?」

 

思い出した。元々九龍城を根城にしていた一匹狼のチンピラが起こした1つの騒動の事を。確か秦の秘伝書を巡ったサウスタウンの事件に秦兄弟が……。

 

祟雷「くそ!キム兄弟が席を外している時に!逃げるぞ祟宗!」

 

祟宗「う、うん!もう秦の秘伝書の騒動なんて真っ平だよ!」

 

秦兄弟が裏口から逃げようとするが……

 

ヤン「待て!裏も危ない!」

 

???「そういう事だ。捕まえたよ、クソガキ共」

 

シャドルーのテコンドー使い、ジュリが秦兄弟を気絶させ、捕まえる。

 

ヤン「お前は……ハン・ジュリ!」

 

山崎「首尾通りだなぁ?ジュリ。やっぱり先祖の魂に乗っ取られていねぇと、コイツらは大した事がないか…」

 

ヤン「山崎竜二とハン・ジュリ……山崎、今回はシャドルーと手を組んだのか!」

 

山崎はヤンを確認すると、小バカにしたような笑いを浮かべる。

 

山崎「久しぶりだな。まぁ、今回の雇い主はシャドルーを含めた色んな所って事さ。俺も忙しいんでな、ここらでずらからせて貰うぜ?シャドルーに目を付けられちまったんじゃ、香港も終わりだな。まぁ、いずれこの俺がぶちのめしてやるよ。オメェの兄貴も含めてなぁ!」

 

ジュリ「とっととずらかるぜ?山崎。こっちも暇じゃねぇんだ」

 

ジュリが去ろうとすると、その行き先を止めようとする者が現れた。

 

???「そこまでです!テコンドー使いの面汚し!」

 

???「お前、山崎と組んで何を企んでるんだ?」

 

ジュリ「ちっ!もう来やがったか。キム兄弟」

 

キム・カッファンの二人の息子、ドンファンとジェイフンだ。

 

ジュリ「おい、木偶の坊。足止めすら満足に出来ねぇのかよ?」

 

バイソン「それはこっちに言えよ!」

 

牙刀「ふん……」

 

ユン「く……コイツら……強い!」

 

見れば買い物に出ていた兄のユンが複数の人間に襲われている。

 

ビリー「へっへっへっ」

 

バーディー「………」

 

ユーリ「………」

 

ユーニ「………」

 

草薙京1「………」

 

草薙京2「………」

 

とんでもない人数に周りを囲まれている。何故か二人もいる草薙京。ベガ親衛隊。他にもシャドルーやギースの腹心のビリー。まともに相手をしていたら負けるのはこっちだろう。

 

山崎「全員まとめてぶっ殺してやっても良いけどよ、生憎とこっちも忙しいんでな。大人しくしておけば、危害は加えねぇよ。退くぜてめぇら。おい、シャドルーの兵隊さんよ。足止めは頼んだぜ?アバヨ!」

 

そう言って山崎を含めた中核の人間達は、秦兄弟を拐って逃げ出した。残るは量産型草薙京のクローンの雑魚達だけである。

 

ユン「くそっ!このままじゃすまさねぇそ!シャドルー!ギース!ルガール!」

 

量産型草薙京を倒しながら、ユンが絶叫した。

 

 

 

ジェイフン「完全にやられましたね……父さん達に何て言えば良いんだ……」

 

ドンファン「ちょっとした用事だったはずなのにマジかよ……親父にどやされるだろ。下手したら鳳凰脚の餌食にされるぜ?」

 

キム兄弟の弟、ジェイフンは父親同様に悪を絶対に許さない正義感溢れるイケメンで、対する兄のドンファンはどちらかと言えば不真面目なタイプの人間だ。

その不真面目さはジョー・東の影響があるようなのだが。とはいえ、まったく正義感が無いかと言えば答えはノーだ。態度とは裏腹に結構正義感は強い方なのである。

 

ホンフー「かー!キムが絡むといつもそうばい!山崎だけやのうてシャドルーやギース、更にはルガールまで絡んでくるとか、どぎゃんすればよかと!?」

 

香港警察のホン・フーは頭を抱えて嘆いていた。ホン・フーはジェイフン達の父、カッファンの修行仲間で、何気にカッファン夫婦の仲を取り持った友人関係である。

秦兄弟とは知らない仲ではない事から、カッファンは旧知の仲であるホン・フーを頼り、秦兄弟を任せたのであるが、まさか秦兄弟が狙われているなどとは夢にも思っておらず、おめおめと秦兄弟を拐われてしまった。

 

ユン「なぁ、キム兄弟。このまま諦めるのか?」

 

ジェイフン「諦めきれませんよ!祟宗は僕の弟弟子なんです!可愛い弟弟子が悪人に拐われて黙ってるなんて出来るわけが無いじゃないですか!」

 

ドンファン「親父が怖いしな」

 

ジェイフン「兄さん!これだから兄さんは!」

 

ユン「俺達よ、結構似てるよな?」

 

ジェイフン「はい?なんですか?こんな時に」

 

ユン「俺もさ。素直な性格じゃねぇからわかるんだよ。キム・ドンファン、お前、結構悔しいんだろ?カワイイ弟分を拐われちまってよ」

 

ドンファン「!?」

 

ヤン「兄貴。冗談は止めてくれ。俺はキム・ジェイフンほど行儀良くない」

 

ユン「おいおい、今はそんなことはどうでも良いだろ?で、どうなんだ?キム・ドンファン」

 

ユンがドンファンを真っ直ぐ見据える。

 

ドンファン「ああ!悔しいしどうにか取り戻してぇよ!祟宗は数少ない年下の弟弟子なんだからよぉ!でもどうするって言うんだよ!わからねぇよ!」

 

ホンフー「そげんでよかと。わらの親父、キム・カッファンだったらわで何とかせんとするが、そげんことば本来は警察の仕事たい。わら子供の出る幕ばないっちゃ」

 

ホンフーは動くなと言ったつもりであったのだが、それが逆に地雷を踏んだことに気が付いていなかった。

キム兄弟はタイプこそ違えど、結局はキム・カッファンの息子なのだ。

ジェイフンはそのまま父親通りに、ドンファンはちゃらんぽらんながらもドンファンなりに父親の事を尊敬していた。

 

ドンファン「そうだぜ……親父ならこのまま泣き寝入りなんかしねぇよな……」

 

ジェイフン「そうだね兄さん。父さんなら地の果てでも山崎を……ベガやギースを追い詰めて秦兄弟を取り戻すはずだよ。僕達もやるんだ。キム・カッファンの息子として」

 

ホンフー「ま、待つっちゃ!そげなつもりで言うたんじゃなかと!」

 

シャオメイ「ねぇ、ヤン。ヤン達も彼らに協力出来ないの?あの秦兄弟……他人事とは思えないの」

 

ホイメイ「ユン。お父さんも気に止んでるわ?それに許せないの。この香港でこんな事件が起こるなんて……いつものあんた達なら、黙ってないでしょ?」

 

ユンとヤンの幼なじみである姉妹が兄弟を焚き付ける。

ユンもヤンも姉妹に言われるまでもなく動くつもりでいた。

 

ユン「言われるまでもねぇぜ?ホイメイ。奴等はこれで何か企んでるみてぇだしな。チュンリー姉さんも参加するようだけどよ。頼りきりになるのは俺達の流儀じゃねえ」

 

KOSFの招待状をユンは取り出す。

世界的には無名な二人であるが、伊達に香港に潜伏中の山崎を始めとしたならず者達からこの街を守っていない。

元々双子はハワードコネクションやシャドルーから目をつけられていたのである。

 

ヤン「チン・シンザンのおっさんやフェイロンのおっさんからチーム勧誘をされていたのだが、断っていた。俺達にはこの街を守る義務があるからな……だが、気が変わった。秦兄弟の事を放っておいたら香港の沽券に関わる。それに、俺達の気が収まらない」

 

ユン「乗るか?キム兄弟。俺達でチームを組んで、殴り込みをかけようぜ?」

 

ユンとヤンは招待状をテーブルに置き、手を重ねる。

 

ドンファン「良いねぇ良いねぇ。殴り込みにKOFを利用するのは親父やテリーさん達の常套手段だ。やるぜ?俺はよ」

 

ドンファンがユン、ヤン兄弟の手の上に自分の手を重ねる。

 

ジェイフン「父のようにやると言っても正直手詰まりでした。僕も乗ります。テコンドーと、父の名にかけて!」

 

最後にジェイフンも手を重ねる。

 

ユン「派手なケンカになりそうだ。ホイメイ、シャオメイ!世界に羽ばたく俺達の姿を、ちゃんと見ておけって親父さんに伝えておいてくれよ!」

 

ホイメイ「しっかりやんなさいよ?ユン」

 

ヤン「兄貴は俺が見ておく。心配はするな」

 

シャオメイ「頑張ってね!ヤン!応援してるから!」

 

ジェイフン「やるよ、兄貴!」

 

ドンファン「かる~くチャンプにでもなってやるさ。ケン・マスターズだろうとチュンリー刑事だろうと草薙京だろうとテリー・ボガードだろうとリョウ・サカザキだろうと……それにベガやギース、ルガールだろうと全部俺が倒してやるぜ!」

 

燃える四人。

その影ではホンフーが嘆いていた。

 

ホンフー「もう知らんっちゃ!キムに抗議するバイ!」

 

 

 

 

sideなし

 

サウスタウンのイベントホール、メモリアルアリーナ。

普段はグリフォンマスクがホームステージとして使用しているステージにて、大半の一回戦が予定されているらしく、アリーナでは観客半分、出場選手達の偵察の為に来ている参加者達が半分といった感じで観客席が埋め尽くされている。

格闘技が盛んなこの世界。

数ある格闘技大会の中でも最高峰の大会であるKOFは、下手をすればワールドカップ以上に盛り上がる。

その流れを汲む今回の大会も当然、全世界が注目している大会だった。

 

リュウ「真空……波動拳!」

 

「うわぁぁぁぁ!」

 

KO!

Winner is リュウ!

 

リュウ「真の格闘家への道は……まだ遠い……」

 

空手家チームのリュウが真空波動拳でフィニッシュすれば観客は盛り上がり、別の試合では……

 

京「おおおお………食らいやがれぇぇぇぇ!」

 

草薙京が大蛇薙ぎで相手を火だるまにして会場を大いに沸かせる。

 

八幡「流石は全盛期のリュウさんや草薙京さんだ…。技のキレが凄いな………」

 

DIO「…………」

 

自分の世界ではリュウに胸を貸して貰ったことがある八幡が研究熱心に見ている隣で、DIOは黙ってみている。

 

八幡「お前の力も見せてくれるんだろ?DIO」

 

DIO「ご期待に応えられるかどうかはわからんがな。ガッカリするんじゃあないぞ」

 

八幡「は?お前、あのジョジョのDIOの転生か?」

 

邪悪の化身、DIOらしかぬ弱気な発言に怪訝な顔をする八幡。

一方でDIOは………

 

DIO(簡単に言ってくれる……)

 

ポーカーフェイスで平静ぶっているが、内心ではそれほど余裕のない状況だ。

何故ならば………

 

DIO(やはりこの世界の格闘家の身体能力は尋常じゃあない)

 

一般人はともかくとして、格闘家の身体能力は波紋の戦士のそれに匹敵するのでは無いかと言うのが八幡の分析だ。

更に言えば………

 

DIO(そもそも公式の試合とかの正々堂々というのがあまり経験ないんだよなー)

 

DIOは元々こういった正々堂々といった戦闘は得意な方ではない。

これまでで試合形式で参加したものなど数えるくらいしか無かった。

柔道部との遊び形式での試合くらいだろうか。

それですら反則負け二回にわざとやられたとはいえ、一本負け一回だ。

 

アンディ「二人とも。もうじき試合だよ。スタンバイをしておこう」

 

八幡「あ、そうだった。行くぞDIO」

 

DIO「ああ………」

 

八幡に誘導され、選手入場ゲートへと移るDIO達。

 

アンディ「ストライカーは僕がやろう」

 

突然控えに回ると言い出したアンディに目を剥く一同。

 

DIO「……ここで負けるかも知れないぞ?」

 

アンディ「それで負けたらそこまでだよ。今日の相手は君達とほぼ同世代だ。君達の実力を試す良い機会だろう」

 

DIO「………どいつもこいつも簡単に言ってくれるじゃあないか………」

 

DIOは渋面を作る。

普段の強気な態度を見ている者達からしたら、信じられないものを見ている気分だろう。

 

八幡「お前、本当にあのDIOか?『このDIOの戦闘力は世界一ぃぃぃぃ!』とか言うあのDIOの転生だろ?」

 

静「それは材木座(シュトロハイム)だよ………。それに、ハッチの弱気のソースはあんただよ。八幡」

 

八幡「俺?」

 

静「ねぇ残念前髪」

 

アンディ「ツッコミ上顎(うわあぎと)!」(特殊技)

 

試合前なのでドキツいツッコミは避けたのか、必殺技ではなく特殊技である浴びせ蹴りを静に放つアンディ。

 

静「八幡の実力は、格闘家としてはどうなの?」

 

アンディのツッコミを軽くいなした静が何事も無かったかのように質問を継続する。

ツッコミに対するリアクションが無しに等しいくらいに薄かった事に若干不満そうなアンディであるが、気を取り直して返答する。

 

アンディ「KOFに出場出来る実力はあるとは思う。けど、元々の大会とかの経験が少ないという点では、少し規模が小さい大会を経験させてあげたかった所かな」

 

DIO「やっぱりな……アンディさん。ストライカーで良いんだな?」

 

アンディ「??……ああ。構わないが……」

 

DIO「先鋒は俺が出る。相棒は中堅、八幡は大将に回ってくれ……」

 

八幡「???お前が大将じゃ無いのか?」

 

DIO「………楽できると思うなよ?むしろ………」

 

アナウンス『アンディ・ボガードチームとジャスティスブラザーズチームは次の試合となりますので、準備をお願いします』

 

アンディ「…………何を懸念しているのかは知らないが、試合だ。行くよ」

 

5人は試合会場へと向かう。

 

いろは「はちくん。DIOせんぱいは何を心配しているんですかね?」

 

八幡「わからん」

八幡(ジョースター家とSPW財団言えばスタンド使いの警察みたいな真似をしていたはずだ……つまり、スタンド使いとの戦いはほとんど日常のはず……。なのに何故、あんなに自信が無さげなんだ?)

 

八幡といろはは首を傾げながらアンディ達に付いていく。何故、DIOが弱気なのかを後で知ることになる。

 

 

プロレスリングを元に作られた1回戦のリング。

そこの踏み心地を確かめながらDIOはリングの外に立つ相手を観察する。

相手はガン○ムWに登場するデュ○・マッ○スウェルに拳法着と帽子を着せればこうなるのではないか……という出で立ちの少年だった。

ユン。

本来のストリートファイターの時代ならば、もう少し後の世界に登場するはずの男である。

香港の街を守る少年である中国拳法の使い手である。

ユンは派手にリングの外からスケートボードに乗って飛び込み、スケートボードから飛び降りて着地。

スケートボードはDIOの元へと飛んで行くが、DIOはそれを蹴りで弾く。

 

DIO「不意討ちのつもりか?」

 

ユン「避けられるとは思っていたけれど、涼しい顔をして対処するとは思って無かったぜ」

 

DIO「そんなんで驚くくらいなら、俺は生きてここにいない」

 

実際、DIOにとってはこんなものは不意討ちの内には入らない。

前世のエジプトで、背後からポルナレフにサーベルを頭に突き立てられた時の方がよほど対処が難しいくらいだ。

 

ユン「だからって、俺には勝てないって」

 

DIO「やってみろ……このDIOに対して!」

 

DIO VS ユン!

ラウンド1 レディー……ゴー!

 

ユン「まずは小手調べたな。よっ!」

 

抜き手を放ちながら、素早く一気に飛び込んでくるユン。

煎疾歩。

八極拳等でお馴染みの飛び込み突きである。

中国拳法を多少かじっているDIOにしてみれば何て事は無いはずの技なのだが……。

 

DIO「くっ!」(速い!)

 

DIOが知っている煎疾歩よりも遥かに速く、そして鋭い突きだった。

 

DIO(避けられん!)

 

避けるのは難しいと判断したDIOは腕を動かす。

柔術のカウンターを食らわす構えだ。

DIOは突きをいなし、ユンの体を崩して後方へと受け流す。

避けられないならば、いなせば良いという理論である。

 

DIO「無駄ぁ!」

 

DIOは体勢を崩したユンに対して拳を入れる。

 

DIO「小手調べのお返しだ……波紋疾走(オーバードライブ)!」

 

波紋の力を加えたチョップをユンに加えるDIO。

しかし………。

 

ユン「ピリッと来たぜ、ちょっとだけな!そらよ!」

 

ほとんど効いておらず、双掌打をDIOの腹部を狙って打つユン。

DIOはその双掌打を腕で受け、ガードを間に合わせるが………

 

DIO「ぐっ!」

 

腕にかかった負担が予想以上に大きく、顔をしかめる。

ユンにとっては通常技であるが、DIOにとっては鉄の棒にでも殴られたような衝撃。

この世界の人間の身体能力の大きさの差だった。

 

DIO(波紋で強化している俺の身体能力をもってしてもこれかよ………いろは……コイツはめちゃヤバいな)

 

表面的には涼しい顔を崩してはいないが、ゲームで言うならば必殺技を一撃ガードしたようなものだ(スタンド使いスタイルは本体モード時、相手の通常攻撃でも体力を削られる仕様)。

 

ユン「こんな技でダメージを受けるなんて、お前、クンフーが足りてないんじゃないの?」

 

ユンは次々とラッシュを放ち、DIOの体力をガリガリと削っていく。

スピードを基本としたユンの攻撃は、反撃もままならないほど素早く、そして鋭い。

DIOの懸念の1つがこれだ。

この世界の人間の基本スペックは、自分達の世界と比べても遥かに高い事。

上級波紋使いであるDIOの体力は、自分の世界ならばかなり高いスペックを持っている。それなのに、この世界では普通の格闘家に劣ってしまう。

それがDIOの懸念の1つだ。

 

DIO「悪かったな。完全な異世界人からしてみたら、お前らの世界の格闘家は規格外なんだよ。コォォォォ」

 

ユンのラッシュから隙を突いて、一旦バックステップで離れる。

しかし、ユンはそのバックステップで離れたDIOを逃すまいと、鉄山衡の要領で追撃を仕掛ける。一気に畳み掛ける算段なのだろう。

 

ユン「浮いて眠っちまいな!お前にゃこの大会はハードルが高すぎるぜ!」

 

ユンの肩口がDIOの手に触れる。

 

DIO「かかったな…」

 

良く見るとDIOの手から紫の棘が出ていた。ハーミット・アメジストだ。

ハーミット・アメジストには波紋が流されており、それによって痺れたユンに対して更なる波紋を流す。

 

DIO「間抜けめ!」

DIO(まさかジジイの技を使うことになるなんてな)

 

策士の業。

体に巻いたハーミット・アメジストに高圧電流のように波紋を流すジョセフのカウンター技だ。

ボーダーの世界では模擬戦闘でジョセフが向こうの陽乃に加えた攻撃でもある。

ラッシュで畳み掛けて来ようとしたユンの動きを読んだDIOのカウンターが成功した形だ。

 

八幡「ハーミット・パープル……だと?DIOがジョセフのスタンドを持っていたなんて………」

 

静「や、元々前世でもDIOはハーミット・パープルを使っていたから(ジョジョ第3部・幽波紋の戦士達を参照。DIO時代からハーミット・パープルを使っている)」

 

外野の声を無視してDIOはカウンターで浮いたユンに対して追撃を図る。

 

DIO「ハーミット・ウェブ!」

 

離れたユンを追って、紫の棘をユンに伸ばす。

ハーミット・アメジストはユンに巻き付き、その動きを封じる。

 

ユン「な、なんだこの棘は!」

 

DIO「さあな?更に食らえ!太陽のエネルギー!波紋!」

 

バリバリバリバリ!

巻き付けた棘に波紋を伝達させ、更にユンに電撃に似た波紋の塊を流すDIO。

 

DIO「こっちにぃ………来い!」

 

静「億泰さんか………?」

 

ユンにハーミット・アメジストを巻き付けたまま、自分の間合いまで引き寄せるDIO。

 

DIO「食らえ!超必殺……紫水晶の波紋疾走(アメジストパープル・オーバードライブ)!無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

ハーミット・アメジストをユンの全身に巻き付け、とどめの紫水晶の波紋疾走(アメジストパープル・オーバードライブ)を決めるDIO。

バリバリバリバリバリバリバリバリ!

 

ユン「ぐっ!ガアアアアア!」

 

DIO「無駄ぁ!」

 

最後に波紋を伴ったストレートを食らわせるDIO。

これで倒せなかった相手はこれまでいない。

ユンはダウン。しかし、DIOもガリガリと削られた体力により、片膝を突く。

 

ユン「効いたぜ……今の攻撃!」

 

DIO「チッ!浅かったか………」

 

DIOはバックジャンプで逃げるユンに追撃を仕掛けるべく、その後を追う。

しかし………

 

ユン「かかったな!飛天龍陣!」

 

バックジャンプの軌道を無視し、今度は前に落ちてくるユン。

 

DIO「………は?」

 

まさか空中で軌道を変えてくるなど夢にも思っていなかったDIOは、その踏みつけ攻撃をまともに受けてしまう。

 

DIO「ぶっ!」

 

ユン「ハイハイハイハイハイハイハイ!ハィィィ!」

 

隙だらけになったDIOに拳、肘打ち、蹴りの乱舞をお見舞いするユン。

滅多打ちの後に、DIOの顎にアッパーを決めて浮かせた所を……

 

ユン「これで止めだ!」

 

空中に浮いたDIOの顎に飛び蹴りを決める。

 

DIO「こ、このDIOがぁぁぁぁぁ!」

 

派手に吹き飛ばされ、そのまま動かなくなるDIO。

 

KO!

Winner is ユン!

DIO(ザ・ジェムストーン)…再起不能(リタイア)

 

ユン「だから言ったろ?俺には勝てないって!」

 

勝ちポーズを決め、ふらふらと戻るユン。

 

DIO「済まん……負けた。まさかあんな急降下があるなんて……」

 

一方、救護班に運び出されたDIO。

 

アンディ「急降下の攻撃は意外と多い。僕の幻影不知火という技だってその類いの技だ」

 

DIO「物理法則……どうなってんの?スタンド使いが言える言葉じゃあ無いが………」

 

静「あーあ、初戦の1ラウンド目を落とすなんて……ツメが相変わらず甘いっつーの」

 

DIO「鬼かお前は!」

 

相棒の静になじられ、更に傷つくDIO。泣きっ面に蜂と言うべきか、言葉の死体蹴りと言うべきか……。

 

DIO「………わかったか?相棒」

 

静「グレート。あんたの死は無駄にはしないよ。破門の戦死」

 

DIO「だから鬼か!」

 

静が引きずり下ろされたDIOに代わり、リングに上がる。

 

八幡「どういう意味だ?DIO……」

 

いろは「まるで今の敗戦はわざとやられたみたいな…」

 

DIO「や、俺なりにはやったぞ?俺なりにはな……」

 

含みのあるDIOの言葉に八幡といろはは首を傾げる。

 

 

静VSユン!

 

静「グレートに決めるよー?」

 

ラウンド2、レディー……ゴー!

 

静「アクトン・クリスタル!」

 

いきなりスタンドを展開する静。

 

ユン「なっ!人がもう一人!?」

 

静「これは私のスタンド!私自身の精神力を具現化した力だよ!反則なんて言わせない!ドラァ!」

 

ガコォォォォン!

マッハ・ドラァ!

承太郎が未来への遺産で使っていたスター・プラチナのダッシュパンチをアクトンで真似た技だ。

 

ユン「ぐっ!なんだこの攻撃は……重い!」

 

静「ドラララララララ!」

 

先ほどDIOが食らっていたラッシュをアクトンでやり返す静。

 

DIO「まず1つ。この世界の格闘家の身体能力は確かに異常だ。奴らの普通の攻撃でもガリガリと体力を削られる……が、近距離パワー型スタンドの攻撃を上回る程じゃあない。逆に……」

 

静「ドラララララララ!」

 

アクトン・クリスタルの攻撃は必殺技という訳ではないが、それでもアクトンの攻撃はユンの体力をガードの上からガリガリと削っていた。

 

静「本体じゃああんたらに敵わない!けど、スタンドならばあんたらとんでもパワーに対抗出来るどころか逆にお釣りが来るっつーの!」

 

ユン「ぐっ!がっ!うわぁぁぁぁぁぁ!」

 

とうとう体力が持たず、ダウンするユン。

 

KO!

Winner is 静!

パーフェクト!

ユン(中国拳法)…再起不能(リタイア)

 

静「グレート!またまたやらせていただきましたぁぁぁぁぁん♪」

 

結構、遠慮の無い攻撃でユンを沈めた静。

 

静「ま、実際の所はハッチとの戦いでダメージを受けていたみたいだけどね?紫水晶の波紋疾走でほとんど決まってたんだよ。ハッチが殺さないように手加減していたから」

 

アンディ「何!?DIO……手を抜いていたのか!?」

 

DIO「だから抜いてないっての。俺達のドンパチは基本的に命のやり取りだから、どの程度の力でやって良いのかわからなかったんだよ。普通ならば、あのレベルの紫水晶の波紋疾走でKOだからな……」

 

本来ならば紫水晶の波紋疾走はアーシスのジョセフ最強の技だ。

やろうと思えばその波紋のエネルギーで感電死させる事も可能な技である。

しかし、この大会は一応、殺人禁止だ。よって、どこまでスタンドの力を出して良いのか匙加減がわからなかったのである。

元々、こういった大会に出場経験がないDIOと静。

戦い方が普段とは違う故に、もし静が先鋒だったとしても、結果は同じだっただろう。

 

静「殺すつもりでやらなければ、勝てないって言うのがわかったからね♪この世界の格闘家は尋常じゃあ無いってのが分かっていたってのに。ま・ぬ・け♪」

 

DIO「チッ!当て馬を買って出てやれば……」

 

静・ジョースターも一応は女。

DIOと静の仲は男女のそれは無いし、場合によっては殴り合いのケンカもするが、それでも女である静が変にダメージを受けるのを嫌がったDIOが負けを覚悟でこの世界の人間に対してどこまでやって良いのかを体を張って試したのである。

DIOのこの行為に有用なのは静にだけではなかった。

エリナいろは、アヌビス陽乃、弥七、ノスフェラトゥの面々、承一郎、忍、承太郎、ジョセフなどにも有用な情報となる。

つまりは………

近距離パワー型のスタンド相手にするつもりでやっても問題はない………と。

 

DIO「次の試合があれば………やってやる!やってやるぞ!ナイフをしこたま投げてやる!」

 

ゴン!

KO!

 

アンディ「KOFのルール上、反則じゃ無いけど、流石に節度は守ろうね?DIO」

 

アンディのツッコミが決まったところで、次の対戦相手であるキム・ジェイフンがリングに上がる。

 

アナウンサー「静VSジェイフン!」

 

ジェイフンは強く静を睨み、足先に炎を纏う。

 

ジェイフン「今、あなた方から人を殺したことがあるようにも聞こえる発言が聞こえました……」

 

間違いはない。

DIOも静も、殺人の経験は多々ある。

修学旅行の時など、一年前は結構な人数をドンパチの末に殺害したり、再起不能にした数は枚挙していればキリがない。

 

ジェイフン「あなた方は……紛れもなく悪!悪は…許しません!」

 

父、キム・カッファンの教えを忠実に守ってきたジェイフンにとって、必要とはいえ殺人を犯した事がある静は悪そのものだろう。

 

静「否定はしないよ?どう許さないのか、見せて貰いたいっつーの」

 

ラウンド3!

レディー…ゴー!

 

静「アクトン!」

 

ジェイフン「その力は……見切りました!」

 

飛び込み、ジャンプキックを放つジェイフン。

その蹴りを素直にガードしたアクトンに対して着地様、右の回し蹴りを放つ。

様子見でそれもガードしたアクトンに対し……

 

ジェイフン「灼火襲!」

 

踏み込んで炎を纏った蹴りをガードの上から連続で蹴り込む。

 

静「ヒュウ♪本体でまともに受けていたら火だるまになってるっつーの」

 

ジェイフン「削れてない!?」

 

静「スタンドならば、あんたらの必殺技だろうが、超必殺技だろうが、私の体力を削るまでに至らないっつーの」※1

 

けろっとした顔で答える静。

 

静「アクトン!」

 

アクトン・クリスタルはフック、アッパーとジェイフンに決め、絞めに……

 

A・C「ドラララララララ!」

 

得意の拳のラッシュを入れる。

殴られて吹き飛ばされるジェイフン。

 

静「act1!」

 

吹き飛んだジェイフンに追撃を仕掛けるべく、静はアクトン・クリスタルをact1の小型妖精状態にして追わせる。

普段使用しているアクトン・クリスタルはact2。

等身大の近距離パワー型の状態ではパワーはあるが、射程は2m。対して子供の頃から使用している小型妖精状態のact1はパワーは落ちるものの、その射程は10と長い。

 

静「ダウン攻撃!ドラァ!」

 

ジェイフン「調子に……乗らないで下さい!飛燕斬!」

 

炎を纏ったサマーソルトキックが追撃の為に飛来してきたアクトンに決まり、アクトンが火だるまになる。

 

静「ぐえっ!」

 

アクトンのダメージがフィードバックされ、静自身もダメージを負って宙に浮く。

 

ジェイフン「そうか……そのスタンドやらにダメージを与えれば、その持ち主にもダメージが入るんですね!」

 

静「チッ!バレた!つうか、何でこの世界の人間はスタンド使いじゃあ無いのにスタンドが見えるんだっつーの!そのくせダメージを受けると本体にもフィードバックされるとか!納得いかないっつーの!」

 

そう。本来ならばスタンド使いでなくてはスタンドを見ることが出来ず(イエロー・テンパラス等の例外あり)、更にスタンドで無くてはスタンドに触れることが出来ないはずなのに、この世界ではそのルールが通用しない。※2

それでいながらスタンドがダメージを受ければ本体にもダメージが入るという不利な面だけはスタンドのルールそのものなので、スタンド使いにとっては極めて不利な世界だとも言える。

気を飛ばしたりすることが出来る世界なので、それがスタンド能力の代わりになっているせいなのだろうか?

 

ジェイフン「そうと分かれば遠慮はしません!半月斬!」

 

側転しながら大きく開脚し、遠心力を伴った踵落としがアクトンを襲う。

斬という技名でありながら、その足先には炎が纏っており、嫌でも三浦優美子のマジシャンズ・レッドと戦っているような錯覚に陥る静。

 

静「わわわわわ!」

 

慌ててアクトンでガードをする静。

しかし………。

 

ジェイフン「足元がお留守ですよ!流星落!」

 

静「うわッ!」

 

今度はスライディングキックを放ってくるジェイフン。

宙を浮くアクトンact1にヒットはしなかったものの、長らくact1を使っていなかった事もあり、遠隔操作でのスタンド操作の感覚を忘れていた静は、無防備な姿をさらしていた。

その隙を突いたジェイフンの本体への直接攻撃。

ジェイフンのスライディングキック。

静はスライディングをまともに受け、転ばされる。

ジェイフンはスライディングの勢いをそのままに軽く飛び上がって追撃の踵落とし。

スライディングからの飛び踵落としが流星脚という必殺技だ。

 

静「ぐっ!」

 

ダメージを受けつつも、後方回転受け身で素早く立ち上がる静だったが、ジェイフンの猛攻は止まらない。

更に軽くジャンプをして………

 

ジェイフン「飛翔脚!」

 

ユンがやったように物理法則を無視して急降下しながら静を踏みつけながら下降する。

 

ジェイフン「下です!戒脚!」

 

更に飛翔脚の着地と同時にまたもやスライディング。

これまでの一連の動作に対して上手くガードを固めていた静だったが、ここで異変が起きた。

 

アクトンが弾かれるようにガードを開けられ、消滅してしまったのだ。

スタンドパワーの枯渇。いわゆるスタンドブレイクである。※3

いくら強固なスタンドと言えども、耐久力を越えてしまえばその力を維持することは叶わない。

アクトンact1がact2に比べてパワー不足だった事も起因するのだが、静はアクトンに頼りすぎていたのだ。

スタンドブレイクを受けた静は完全に無防備な姿を晒してしまっていた。

 

ジェイフン「行きます!鳳凰天翔脚!」

 

一層気合いを入れたジェイフンが、再び飛び踵落としを静の脳天にお見舞いした後、飛燕斬の要領で静の顎を蹴りあげる。

炎に包まれる静がダウン。

 

ジェイフン「改心して下さい!」

 

勝ち誇ったジェイフンが叫ぶ。

 

ヤン「おい!まだ試合は終わってないぞ!」

 

ジェイフン「はっ!」

 

ジェイフンが慌てて静の方を見ると、既に静の姿は見えない。

 

ジェイフン「どこに行ったんです!」

 

静「目の前にいるっつーの………」

 

アクトン・ベイビー。

静が赤ん坊の頃から使っていた自身を透明にする能力だ。

 

静「スタンドを舐めていたね?スタンドは何か1つ、特殊な能力が存在するんだよ。私の能力は透明化……自分自身を透明にするだけならスタンドパワーが回復するまでの時間を待たなくても使える……。一瞬だけ……一瞬だけあんたが私を見失えば良い!今度はあんたが無防備を晒したわね!?食らえ!山吹色の波紋疾走(サンライトイエロー・オーバードライブ)!」

 

静もDIO八幡同様に波紋を伝授され、リサリサの転生である小町により効率良く波紋を強化してきた。

その波紋の強さは小町、ジョセフに次いでDIOと同等の強さを持っている。

 

静「ドララララララララララララララ!」

 

柱の一族相手にも通用するレベルの波紋を込めた拳のラッシュがジェイフンに炸裂。

サンドバックさながらにタコ殴りを受けるジェイフン。

 

静「食らえ!止めの……」

 

ヤン「させないよ」

 

相手チームのストライカー、ユンの弟であるヤンが静の背後から急襲。

 

静「しまっ……!」

 

背後から受けたダメージにより、静の動きが止まる。

 

ジェイフン「鳳凰脚!」

 

ヤンの援護により体勢を立て直し、無防備になった静に向け、ジェイフンがダッシュ。

父、キム・カッファン直伝の餓狼伝説における初代乱舞技、鳳凰脚。

 

ジェイフン「アータタタタタタタタタタタタタ!」

 

無数の突きやキックによってボコボコにされる静。

努力する天才、キム・ジェイフンはその若さで韓国の至宝、キム・カッファンの奥義である鳳凰脚をマスターしていた。

 

ジェイフン「アタァ!」

 

静「このジョジョが………このジョジョがぁぁぁ!」

 

フィニッシュの飛燕斬が三度、静にヒット。

顎に何度も炎付きのサマーソルトによって火だるまにされた静は、流石に起き上がれるだけの体力を残してはいなかった。

 

KO!(脱衣)※4

 

ジェイフン「ハッ!お怪我は……ありませんか?」

 

ジェイフンが静に駆け寄り、声をかける。

 

静「自分でボコボコにしておいて……今更……ガクッ!」

 

Winner is ジェイフン!

静・ジョースター(アクトン・クリスタル)…再起不能(リタイア)

 

八幡「マジかよ……初代ジョジョの転生と7代目ジョジョが再起不能(KO)って………」

 

DIO「うん。なんかゴメンね?二人抜き、頼むぞ?」

 

八幡「簡単に言うな!つぅか、何でお前はもうピンピンしてるんだよ!吸血鬼か!」

 

DIO「失礼な……波紋だよ、波紋」

 

相棒がやられたというのに意外と冷静なDIO。

波紋の戦士は簡単な骨折くらいならば、自力ですぐに回復が出来るので、肺や喉に致命傷を受けなければ大丈夫だと分かっているからだろう。

事実、先ほどユンにボロボロにされたDIOは、既にもうケロッとしている。

 

静「ごっめーん!ストライカーの事を忘れてた!」

 

DIO「つうか、服着ろ、服を」

 

静「いやん♪」

 

DIO「や、お前の半裸姿を見ても嬉しくとも何ともないから」

 

静「分かっていたけど、それはそれでムカつく!」

 

八幡「俺が気にするわ!」

 

いろは「はちくん!見ちゃダメです!」

 

いろはがすかさず八幡の目を隠す。

 

DIO「ほらよ。俺のブレザーでも羽織ってろ」

 

静「およ?ハッチにしては優しいじゃん?」

 

DIO「お前な……」

 

男女の感覚は無いが、DIOにとっては静は双子の姉貴分のような感覚である(戸籍上は同い年だが、実年齢は静はDIOよりも半年年上。一応、静は姉扱いである)。

姉の半裸を晒して平気な顔をして平気な弟はいないだろう。よほど仲の悪い姉弟ならば話は別だが。

 

八幡「まぁ、確かに俺も舞姉ちゃんが脱衣KOをされたらそうなるよな……」

 

DIO「え?舞さん、もう結構な歳……」

 

アンディ「ツッコミ昇龍弾!」

 

もうKOされた後なので、遠慮なく必殺技でツッコミを入れる内縁の夫(アンディ)

 

八幡「バッカ!舞姉ちゃんは今でも綺麗なんだぞ!?」

 

DIO「あ、だったら今度生画像を……」

 

アンディ「ツッコミ……」

 

DIO「ハッ!殺気!」

 

ターン!パシッ!

ツッコミを入れようとしたアンディよりも先に、どこかから発射されたゴムスタン弾が避けたはずのDIOに命中。

ザ・ジェムストーンで弾丸そのものはキャッチしたのだが……。

 

DIO「???」

 

何故命中コースに弾が飛んできたのか、理解していないDIOであった。

 

 

sideなし(エリナ・ジョースター側アルプス)

 

エリナ(まったく……わたしがいるのが分かっている筈なのに他の事を考えるなんて……ハチ君のバカッ!ボケナス!八幡!)

 

エリナ「ご協力感謝です♪イロハさん♪次は当てても良いですからね♪」

 

イロハ「何でわたしがDIOにツッコミ警告狙撃をしなければならないんですか………」

 

ノスフェラトゥの一色イロハがジト目でエリナを見る。

持っている狙撃銃からは煙が吹いていた。

DIOの回避予測をイロハがさとりの力で更に予測し、命中コースで発射したのである。

 

エリナ「この距離ならエメラルド・ストライクよりも確実にイロハさんの方が命中させられるじゃあ無いですか♪」

 

イロハ「わたしはむしろこの距離でDIOの思考を察知したエリナちゃんにビックリなんですけど……DIOに関して限定でさとりですね……槙○香なんですか…」

 

エリナ「次はハンマーでお願いします♪」

 

イロハ「大木槌を振り回す腕力はわたしには無いのでお断りしまーす」

 

 

sideなし(リング)

 

八幡(ジョースターの奮闘でかなりのダメージを与えたお陰でキム・ジェイフンは殆ど赤ゲージ(メメタァ!)だろうが、通じるのか?俺の技が………テリー兄ちゃんと渡り合ったキム兄弟に……)

 

事実、ヤンの援護攻撃が無ければ静は勝っていた。

しかし、負けは負け。

百戦錬磨のジョジョ勢(しかもレクイエムキャリア)二人があっさり負けた事で餓狼八幡は勢いに飲まれていた。

無理もない。KOF常連選手であるキム・カッファンの血を引くテコンドーのサラブレッド、キム・ジェイフンとキム・ドンファン。

これから八幡は手負いとは言え、ジェイフンに勝ち、さらに後に控えるキム・ドンファンにも勝たなければならない。

KOF初参加の緊張も相まってプレッシャーが押し寄せてくる。

 

アンディ「八幡……」

 

八幡「アンディ兄ちゃん………」

 

バン!

両肩を少し強めに叩くアンディ。

 

アンディ「気負うな。こんな大舞台は初めての経験だから緊張するなと言う方が無理な話だが、パオパオカフェでの試合と何ら変わりは無いんだ」

 

八幡はKOFこそ初めてであるが、普段はバイト先のパオパオカフェのリングに上がって試合をしているので、試合経験は豊富だ。

 

アンディ「更に君は千葉村でジョーに勝っている。良いか?ムエタイ界でも伝説になっているハリケーンアッパーのジョー・東に君は勝っているんだ。君はキム兄弟にも決して引けを取らない。自信を持つんだ」

 

緊張気味の弟分に対するアンディなりのエール。

頼もしい兄貴分の励ましは確かに八幡に伝わる。

 

DIO「俺達の分まで……頼んだぞ?間抜け面」

 

ワイシャツ姿のDIOがポンと八幡の肩に手をおき、珍しく真剣な目で八幡を見る。

 

八幡「ああ。こんなところで終わらねぇよ。待っていたぜ!この瞬間(とき)をよぉ!」

 

DIO「ああ。大事な師匠のアンディさんや恋人の一色に良いところを見せてやれよ?」

 

もう一度DIOは八幡の肩を叩き、八幡をリングへと押す。

 

八幡「ヘイ!カモンカモ……」

 

八幡がブレザーのポケットに手を突っ込み、目的の物を取り出そうとするが………。

 

八幡「…………?」

 

ポケットの中には変な紙切れがあるだけで、目的の物は入っていなかった。

八幡が紙切れを取り出して中を読んでみると……

 

『Good luck!by DIO』

 

と書かれていた。

クルッ!と背後を見てみると、DIOは……

 

♪~(¬ε¬ )

 

と、聴くに耐えない国民的ガキ大将の歌並に下手くそな口笛を吹きながら、くるくると赤い帽子を指先で回していた。(比企谷家の男のジンクス。楽器のセンスが壊滅的。口笛が恐ろしく下手)

その帽子は八幡が子供の頃、一番大好きな兄貴分であるテリー・ボガードから貰った宝物の帽子である。

 

八幡(あの野郎!エールを送る振りしてスリ取ってやがったのかぁぁぁぁ!)

 

八幡は紙をぐちゃぐちゃに丸めてDIOに投げ付ける。

二階堂紅丸が普段は下ろしている金髪のロン毛を戦いの時には逆立てているように、八幡にとってはテリーの帽子は戦いの時の大事なファッションだと言うのに…。

 

ジェイフン「そうですか。君はアンディさんの弟子なんですか……。昔、僕もアンディさんにお世話になったことがあるんです。いい試合をしましょう」

 

八幡(ん?まさかDIO……だとしたら……実に……実に漫画のジョースター家らしいじゃあないか。だとしたらここで放つべき言葉は……)

 

八幡「全力でいくよ。キム・ジェイフン!」

 

包拳礼をしてジェイフンを見る八幡。

不知火流のと言うよりは、八極聖拳の礼式だが、アンディも良くする礼式なので違和感は無いはずだ。

 

八幡VSジェイフン!

ラウンド4!レディー…ゴー!

 

八幡「飛翔拳!」

 

威力よりもスピード重視で片手で気の弾を放つ八幡。

不知火流骨法の気弾、飛翔拳。

いくつかある八幡の飛び道具の中でも隙が小さい技である。

 

ジェイフン「無駄です!」

 

ジェイフンは前転して飛翔拳を避ける。

 

八幡「ジョースターとのダメージが大きかったみたいだな!焦りすぎだ!」

 

飛翔拳を追って走っていた八幡がジェイフンに肉迫。

丁度前転が終わったジェイフンに対し、一歩ずつ進みながら掌底、左右の肘打ち、そして強めの双掌打を放つ。

撃壁背水掌。

相手のガードを崩しつつ連撃を放ち、最後の一撃で相手を浮かす技である。

そして、撃壁背水掌の直後に流れるように屈み込む八幡。

 

八幡「空破弾!」

 

両手を地面に付き、腕の力だけでジャンプする。

そして、山なりに飛ぶドロップキックがキム・ジェイフンに刺さる。

アンディが得意とする連続技は、しっかりと八幡にも受け継がれていた。

 

ジェイフン「ぐぅ!まだです!まだ終わりません!」

 

立ち上がったジェイフンが八幡を睨み付ける。

 

ジェイフン「シャドルーに拐われた弟弟子の祟秀(チョンシュウ)を助ける為にも………私達は……勝たなければならないんです!行きます!鳳凰脚!」

 

ジェイフンは独特のダッシュ体勢で突進する。

 

八幡「チョンシュウ……秦兄弟か………」

八幡(出来るか?俺に………)

 

八幡はジェイフンの鳳凰脚をガードする。

 

ジェイフン「アータタタタタタタタタタタタタ!」

 

八幡「ぐぅ!」

 

ジェイフンはこれで決めようなどとは考えていない。

目的は1つ。少しでも八幡の体力を削り、大将のドンファンに譲る為だ。

 

八幡「その覚悟を…乗り越える!」

 

鳳凰脚の乱舞をガードしきった八幡はジェイフンの胸に掌打を打つ。

そして………

 

八幡「斬影拳!」

 

神速の踏み込みで肘鉄を食らわせる。

斬影拳。アンディの代名詞とも言える突進技だが、八幡はそこからアレンジを加える。

 

八幡「撃壁背水掌!」

 

敢えて斬影拳1発の威力を抑える代わりに硬直を無くし、撃壁背水掌へと繋ぐ。

 

八幡「はぁぁぁぁぁ!撃・飛翔拳!」

 

慣れた連撃である撃壁背水掌をも途中で動作を止め、最後に特大の飛翔拳を発射する。

疑似・斬影流星拳。

斬影拳から飛翔流星拳へと繋げるアンディの斬影流星拳を真似た技だが、今の八幡はまだ、飛翔流星拳をきちんと練習していなかった。

故に中途半端な撃・飛翔拳を代用にした斬影撃飛翔拳を使うしか無かった。

 

ジェイフン「参りましたー!」

 

ジェイフンは今度こそ倒れ、ノックダウン。

 

八幡「もし……ジョースターにやられていなければ、こんな物じゃ倒しきれなかったな………」

 

KO!

Winner is 八幡!

キム・ジェイフン(テコンドー)…再起不能(リタイア)

 

八幡「よし!」

 

一応は慣習に倣い、勝ちポーズを決める八幡。

しかし、その内心では………

 

八幡(結構なダメージを腕に受けたな………鳳凰脚。恐ろしい技だ………これはインターバルを挟んでもダメージが残るな……)

 

DIO「よし!波紋で回復だ、八幡!」

 

静「や、ハッチは他人に治療の波紋を流すのは苦手じゃん?このジョジョがやる!」

 

ゴン×2

 

アンディ「インターバル中の選手に対して触れるのは反則だよ」

 

静「じゃあハッチのハーミット・アメジストを私のアクトンで透明にして波紋を流すのは?」

 

ゴン×2

 

アンディ「バレなければ良いって事じゃない!」

 

静「わかった!この会場にいるであろうイーハにエメラルド・ヒーリングをやってもらって回復!」

 

DIO「それナイス!おーい!いろ………」

 

アンディ「だからバレなければ良いって事じゃないって言っているだろう!ツッコミ飛翔流星拳!」

 

静&DIO「ぐはぁ!」

 

派手に吹っ飛ばされる性悪コンビ。

相変わらず懲りない奴等である。

 

八幡「これならアンディ兄ちゃんに出てもらうべきだったな」

 

アンディ「今ではとても後悔しているよ……」

 

頭を抱えるアンディ。

そして時間がやってくる。

泣いても笑っても最終ラウンド。ここで頑張るしかないと気合いを入れる八幡。

 

八幡(どうせ負けても裏で動くんだろうが……俺にとっては初めての大舞台…格闘家としては負けられないんだよ……)

 

性悪コンビにしてみれば試合の勝敗はあまり重視していない。むしろ裏でコソコソと動いている方が本領を発揮できるタイプだ。

大会への意気込みがそもそも違う。

だが、八幡は格闘家だ。簡単に試合を捨てる事など出来ない。

 

ドンファン「かるーく行きますか」

 

相手のドンファンは柔らかい体を示すかのように片足立をしながら、反対側の足を後頭部に付けてストレッチをする。

 

ドンファン「お前の技は見せて貰ったぜ?八幡。悪いけど、ここで敗退してもらおうか」

 

八幡VSドンファン!

ラウンド5!

レディー…ゴー!

 

八幡(まだだ……まだ手の内は見せない!)

 

ジェイフン戦で見せたように骨法使いと見せるように立ち回る八幡。

一方でおちゃらけた態度ながらも的確に足を操るドンファン。

 

ドンファン「飛翔脚!」

 

八幡「ぐっ!」

 

厄介なのが父のカッファンの技をそのまま忠実に行っているジェイフンに対し、ドンファンは持ち前の才能を生かして微妙にアレンジしている事だ。

例えばこの飛翔脚。

カッファンやジェイフンは降下しながら踏みつけるのに対し、ドンファンは背を向けながら鋭く何発も蹴り込んでくる。

 

ドンファン「ほうら!雷鳴斬!」

 

ベースとなっているのは恐らく半月斬だろうが、半月斬は踵落としの後に開脚しながら地面に一度座るのに対し、雷鳴斬は少し高い軌道で飛び踵落としをやった後に、両足で着地する為、隙が小さい。

 

ドンファン「空砂塵!はいはいはいはいはい!」

 

飛燕斬と双璧をなすキム流のテコンドーのもう1つの対空技、空砂塵。

サマーソルトキックを繰り出す飛燕斬とは違い、大きく斜め前方にハイキックを繰り出すのが空砂塵なのだが、カッファンの空砂塵は三発なのに対し、ドンファンのは足に電撃を纏いながら五発以上の蹴りを放つ。

 

八幡(大将を任される訳だ……やりにくいな……)

 

過去のビデオ等でキム兄弟の父、カッファンの技をなまじ知っているだけに、この微妙なアレンジに手を焼く八幡。

ヤンのストライカーを交えつつ、ここまで一進一退の攻防を続ける八幡とドンファン。

 

ドンファン「おーにさんこちら♪」

 

ドンファンが足を前に出してぷらぷらと挑発。

 

八幡「野郎……斬影拳!」

 

ここに来て挑発をかましてきたドンファンにイラッと来た八幡は斬影拳で突進。

わざわざ隙を作ったドンファンに対して速攻を仕掛けたのだが……

 

ドンファン「引っ掛かったな?足ビンタ!」

 

斬影拳をガードしたドンファンは片足で微妙に前に出つつ、下段から上段までの軌道を駆使して足を高速で往復させ、ガリガリと削る。

 

ドンファン「ほうりゃ!」

 

紫電脚。

足元を狙うカッファンの覇気脚のアレンジなのか、電撃を纏った足元への攻撃をやってくる。

八幡は辛うじて足をずらす事により、これを回避。

 

八幡(もう、良いよな?)

 

八幡は空破弾を打つ時のように前のめりに倒れ込む。

 

ドンファン「空破弾は見切ってるんだよ!スーパードンファンキック!」

 

ドンファンは飛び上がり、飛翔脚の要領で降下する。

電撃を纏った飛翔脚から空砂塵に繋げるドンファンの超必殺技だ。

鳳凰天舞脚というカッファンの技をドンファン流にアレンジした技なのだろう。

ここで八幡が打つ技が空破弾だったのならば変形ドロップキックを避けつつ、八幡の腹にスーパードンファンキックが決まっていただろう。

しかし、八幡が前のめりに倒れ込んだのは空破弾を打つ為では無かった。

 

八幡「今度はお前が引っ掛かったな!ライジングタックル!」

 

空破弾と同様に片手で飛び上がる八幡。

しかし、空破弾と違うのはその軌道。

斜め前方に飛び上がる空破弾とは違い、真上に飛び上がるライジングタックル。

テリー・ボガードが使う対空技だ。

キリモミ回転をしながら真上に飛んだ八幡の足がドンファンの背中を的確にヒットさせる。

 

ドンファン「ライジングタックルだと!?テメェはアンディさんの弟子じゃ無かったのかよ!その技はテリーさんの技だろ!」

 

八幡「ああ。アンディ兄ちゃん()俺の師匠だ」

 

もし、八幡がDIOにスリ取られていた帽子を被っていたのなら、ドンファンはその時点でテリーの影を見ていただろう。

しかし、帽子を被らずに……そしてDIOの意図を読み取った八幡が敢えてこれまで骨法で戦った事により、八幡の流派が骨法だとキム兄弟にミスリードをさせていた。

この罠とも言えない微妙な策。されど、もうじき決着が付くこのタイミングまでテリーのマーシャルアーツとジョーのムエタイを隠して来たことは大きい。

 

八幡「オラオラァ!黄金のカカト!」

 

逆立ちで上昇するライジングタックルから1つ工夫を加え、着地の為に宙返りした勢いを利用してジョーの気を纏った踵落とし……黄金のカカトを追加する八幡。

 

アンディ「僕達の指導がやっと、八幡の中で1つに纏まりつつあるね。ライジングタックルから黄金のカカトに繋げるなんて……兄さんのクラックシュートじゃ威力が伝わらないからね」

 

テリーの技にもクラックシュートという黄金のカカトと似たような浴びせ蹴りが存在するが、飛び上がりの段階から浴びせ蹴りを前提とした技であるため、クラックシュートでは今のような応用は出来ない。

テリー、アンディ、ジョーの指導を受けていた八幡ならではの攻撃だった。

 

八幡「まだだ!幻影不知火!」

 

そこから不知火流の急降下技、幻影不知火で急降下しながら肘をドンファンの鳩尾に食らわせる。

 

八幡「上顎(うわあぎと)!」

 

更に着地際に軽く飛び上がり、再び前方回転宙返りからの浴びせ蹴り。

 

DIO「白浜○一か?一人多国籍軍め……」

 

サン○ーに『史上最強の○子』という漫画がある。

その主人公は梁○泊という道場で空手、柔術、中国拳法、ムエタイの達人から指導を受けており、作中では状況に応じてそれぞれの技を組み込んだ連続技、『最強コ○ボ』という技を使っていた。

八幡もその主人公と同様にテリーのマーシャルアーツ、そしてテリーの養父・ジェフから教わったジェフ流喧嘩殺法の原型である八極聖拳(中国拳法)、アンディの骨法、ジョーのムエタイをミックスさせた総合格闘家。

『最強コ○ボ』と同じように状況に応じて技をミックスさせた応用技を無意識に組み込んだのだろう。

 

八幡「やっぱり、実戦に勝る修行は無いな!」

 

ドンファン「まさか、奥の手を使うことになるなんてな……」

 

八幡「なに!?」

 

ドンファン「始まるぜ!オレ様鳳凰脚!」

 

ダッシュから突撃してくるドンファン。

虚を突かれた八幡は、その突撃をまともに受けてしまう。

チルギ、ヨプチャギ、アプチャギ等のテコンドー技の素早い乱舞の後に先程の足ビンタを今度はまともに食らう。

 

ドンファン「これで決まりだ!飛燕斬!」

 

最後に電撃を纏ったサマーソルトキックを顎に食らう八幡。

 

八幡(何故キム・ドンファンが鳳凰脚を……そんな情報なんて無かったのに………)

 

キム道場が公式に発表している情報。

それは父の技を忠実に再現している弟のジェイフンは鳳凰脚を使いこなすという物だ。

ドンファンが八幡の情報を誤認していたように、八幡もまた、ドンファンは鳳凰脚を使えないという誤認をしていた。

 

ジェイフン「兄さんは兄さんなりに努力して来たんだ。そして天才の兄さんに出来ない筈は無いんだ…鳳凰脚が!」

 

真面目な弟に反し、稽古はサボるわチャランポランな部分が目立つキム・ドンファン。

しかし、ジェイフンだけは知っている。

父、カッファンのその生真面目さに対して苦手意識を持ち、逃げ回りながらも深く父を尊敬し、隠れて修行していたことを。

そうで無ければドンファンの様々なアレンジは技として形を成すはずがない。

だからこそ、ジェイフンはドンファンに大将を任せることが出来たのである。

 

八幡(ここまでか……)

 

もうガードをする体力もない。

あと一削りでKOとなるだろう。

 

ドンファン「お前はよくやったぜ?天才だよ。けど、今はまだ俺の方が強かったな!」

 

先程の紫電脚で止めを刺そうとするドンファン。

 

アンディ「諦めるな!八幡!斬影拳!」

 

リング外から乱入してきたアンディが元祖斬影拳を放つ。

 

ドンファン「やべぇ!ヤン!」

 

ヤン「もうストライカーが乱入できる回数は5回を越えた。援護に入ったら反則だ」

 

1回の試合でストライカーが乱入できる回数は限られている。

先鋒が3回までで、中堅、大将に移るほど1回ずつストライカーを呼べる回数は増える。

しかし、それは先鋒から通算されてカウントされる為、ジェイフンが静との対戦の時にヤンを呼んだ回数も1回としてカウントされてしまっている為、このラウンドで4回ヤンを呼んだドンファンにはもうストライカーを呼ぶことが出来ない。

対して八幡がアンディを呼んだ回数はドンファンと同じく4回。しかし、DIOと静は1度もアンディを呼び出さなかった為、アンディが乱入できる回数が残っていた。

 

ドンファン「ぐはっ!」

 

アンディの斬影拳がドンファンの鳩尾を捉え、ドンファンは浮き上がる。

 

八幡(………最後の最後までアイツらのお膳立てかよ。感謝なんて欠片もしないけどなぁ!)

 

その隙に立ち上がった八幡。

 

八幡(テリー兄ちゃん……使うぜ……)

 

八幡「力の(パワー)………!」

 

八幡は最後の気力を振り絞り、大きく右手に気を集中させる。

その気が溜まった右の拳を地面に叩きつける。

 

八幡「間欠泉(ゲイザー)!」

 

唯一、現段階で使える八幡の超必殺技、テリー・ボガード直伝のパワーゲイザー。

溜めた気を右手に集中させ、地面を殴り付ける事により発生する気の柱を噴出させる奥義だ。

それはまさしく気の間欠泉。

八幡の切り札が見事に決まり、ドンファンが吹き飛ぶ。

 

ドンファン「こんなんありかよぉぉぉぉぉ!」

 

KO!

Winner is 八幡!

 

八幡「ハァ……ハァ……」

 

DIO「ほらよ。八幡。決めてやれ」

 

リング外からDIOが赤い帽子を投げて寄越す。

 

八幡「ああ」

 

八幡は帽子を一旦被ると、すぐに鍔を掴んで脱ぎ……

 

八幡「OK!」

 

という言葉と共に帽子を投げる。

兄貴分、テリー・ボガードの伝説の勝ちポーズが決まった。

 

キム・ドンファン(テコンドー)…再起不能(リタイア)

 

「Winner!アンディ・ボガードチーム!」

 

ワアアアアアアアア!

 

 

 

DIO「危ない所だったな」

 

アンディ「君達がもっと本気を出していれば、こんなにヒヤヒヤすることは無かったけどね?」

 

静「だから買いかぶり過ぎだっつーの。私達は私達なりに本気だったよ」

 

八幡「そういう事にしておくよ………」

 

フラフラとしながらリングを去ろうとするチーム。

 

ドンファン「待てよ」

 

ドンファンが声をかけてくる。

 

ドンファン「負けたぜ……」

 

八幡「綱渡りだったけどな」

 

アンディの援護が無ければ、八幡は負けていた。

 

ドンファン「恥を承知で頼む……俺達の弟弟子と、その兄貴と会うことがあったら……助けてくれ」

 

ドンファンは八幡達に深く頭を下げて頼み込む。

秦兄弟。秦の始皇帝の懐刀であった秦王龍の子孫。

サウスタウンで起きた秦の秘伝書を巡る事件にて、秦祟秀とその兄、秦祟雷(チョンレイ)は、先祖の秦王龍の弟である秦空龍と秦海龍の亡霊に体を乗っ取られた。

テリー達の活躍により、秦兄弟の体は先祖の亡霊から解放され、兄の祟雷はタン・フー・ルーの、弟の祟秀はキム・カッファンの弟子となり、修行を積んでいた。※5

しかし、KOSFが開催される直前、秦兄弟はシャドルーの手により拐われてしまう。

秦の秘伝書の力をベガが狙っての事だった。

今回の大会で、秦兄弟は大会オフィシャルチームの1つにエントリーしているが……

 

ドンファン「多分、あの兄弟は前のように……」

 

先祖の亡霊にまた体を乗っ取られている。

死者を蘇らせている地獄門が出てきているのだ。そうである可能性は大いにあるとアンディは判断する。

 

アンディ「わかった。秦兄弟の事は僕の身内達にも伝えておくよ」

 

ヤン「頼んだぞ。双子の兄弟の不幸は見捨てられない」

 

元々、このチームは秦兄弟を救うために結成されたチームだ。初戦で敗退したのは残念だったが、その目的をアンディ達に託す。

 

DIO「…………」

 

目的を他人に託すという態度に納得のいかない顔をしているDIO。

しかし、それはそういう人生を送ってきた彼だからこそだ。誰も彼も、DIOやジョースター家のように直接攻め入る真似が出来る訳ではない。

 

アンディ「行こう。次の試合までに傷を治さないとな」

 

ジェイフン「八幡。もし、次に試合の機会があったら、負けませんから。そして、DIOと静……次こそは悪は許さない!」

 

ドンファン「俺もだ!じゃあな!」

 

ユン「またな。スタンド使い達」

 

ヤン「次は俺も戦う。今回は機会が無かったがな」

 

2つのチームは笑顔で別れる。

まだ大会は始まったばかりだ。

 

 

sideキム・ドンファン

 

ドンファン「かぁぁぁぁ!負けた負けた!」

 

控え室に戻り、悔しそうにするドンファン。

 

カッファン「見ていたぞ?ドンファン」

 

ドンファン「お、親父!」

 

カッファン「良く戦った。いい試合だったな」

 

ドンファン「てっきり説教されるかと思ったぜ……修行不足とかよ」

 

カッファンは俺の肩に手を置く。

 

カッファン「隠れて努力していた事は、私も知っていた。鳳凰脚をものにしていた事もな」

 

は?てっきりジェイフンだけが知っているものとばかり思っていたのに……|

 

カッファン「親を甘く見るな。ジェイフンが気が付いていたのに、私が気付かない訳が無いだろう?勝負とは時の運だ。今度は負けないように、努力を重ねていけば良い。まだまだお前達は若いのだからな」

 

お、親父………

涙を流しそうになる俺。しかし………

 

カッファン「だが!勝手に大会に出場したことは許さん!帰ったら今までの2倍!いや、3倍!いや……10倍は特訓だ!わかったらソウルに帰り、サボっていた稽古の分を取り戻しておけ!怠けたらチャン達と同じような更正だからな!」

 

い……い………

 

ドンファン「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

←To be continued……




※1
未来への遺産の仕様
本体モードの際は、スタンドの通常攻撃をガードしても削りダメージを受けるスタンド使いスタイルのキャラ。
KOSFの世界では格闘家の攻撃はスタンドの攻撃を受けているものと判定し、DIO八幡の体力がガリガリと削られていた。
一方でアクトン・クリスタルはジェイフンの必殺技を受けても削りダメージを受けていない。
これはスタンドモードであるのならば、必殺技をガードしても削りダメージを受ける事はないというシステムを表現したものである。

※2スタンドではなくてもスタンドがダメージを食らう!?
未来への遺産での隠しキャラクター、誇り高き血統ジョセフ(2部ジョセフ)は何故かスタンドが使えないにも関わらず、スタンドにダメージを与えていた事から持ってきた設定。
更にEOHでも波紋編のキャラクターがスタンドに対してパンチやキックでダメージを与えていたことから。
そうでなくては波紋編のキャラクターが不利だったこともあるからだろうが……
この格ゲー世界では非スタンド使いでもスタンドが見え、スタンドにダメージを与える事が可能であるという設定である。
ますますスタンド使いのアイデンティティーが損なわれつつあるような………。

※3スタンドクラッシュ
前述通り、スタンドモードであるならば必殺技を受けたとしても削りダメージを受ける事はないが、全くのノーリスクという訳ではない。
未来への遺産でもスタンドの持続力を表現したものが、このスタンドクラッシュである。
スタンド使い達にはスタンドゲージと呼ばれるゲージが存在するが、このスタンドゲージはダメージを受けたり、削りダメージをガードした場合、徐々に減っていき、それが無くなるとスタンドクラッシュと呼ばれる現象が発生。
スタンドクラッシュになると波紋編に登場した石仮面が割れる表現が背景に発生し、スタンドは強制的に引っ込んでしまう上に一定時間、本体が無防備になる。
スタンドゲージはスタンドを出している間は回復せず、ゲージを回復させるには本体モードにしなければならず、スタンドクラッシュ中はスタンドゲージが全回復するまで再びスタンドを出すことが出来ない制約がある。
KOSF編ではスタンドクラッシュを受けると気絶(俗に言うピヨリ状態)になる。
KOSF編でのスタンド使いは実に不利なのだ!スタンドモード時の削りダメージ無しなど、少しばかりの有利などあっても良いだろう!
KOFの龍虎乱舞や鳳凰脚等の乱舞系をガードした日には確実にスタンドクラッシュを受けることだろう。

※4脱衣KO
龍虎の拳の女性キャラは、何故か必殺技以上の攻撃でKOされると半裸状態で服がボロボロになる。
佐世保ライダーさんの餓狼川崎沙希も脱衣KOを餓狼八幡によって食らった経験がある。
なお、これまで何度も語ったようにDIO八幡と静は双子の姉弟のような感覚の為、互いの下着姿に対しては何の感慨も持っていないので、男としては無反応。

※5秦兄弟と秦の秘伝書事件
餓狼伝説3のエピソード。
集めると永遠の命と世界を支配できる力を得るという伝説が伝わっており、その持ち主は力が有る者が所有していた。
1つは秦兄弟が、残り2つは中国のタン、ドイツのクラウザーが所持していたが、ギースが奪っていた(餓狼3のギースのラスボスデモで祟秀が語っている)。
最終的には秘伝書はギースの元に集められてしまい、リアルバウト餓狼伝説へと繋がる。
また、体を取り戻した秦兄弟がタンやキムの弟子になるのはリアルバウト餓狼伝説2のそれぞれのエンディングで判明している。

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