やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

588 / 731
簡単なイタリアン料理を作ろう

side比企谷八幡

 

八幡「たでーまー」

 

俺は遅くまでやっているスーパーの袋をぶら下げて家の玄関を開ける。

この時間でこんなに静かな家の中は珍しい。いろははへそを曲げて今日は自宅の方にいる。寂しくなんかないもん!ふんッ!

家に入るとペットショップだけでなく、珍しくカマクラが出迎えてくれた。

ペットショップはいつものように肩に停まり、カマクラは「んなー」とやる気のない声を出すと、俺の脚にぐりぐり頭と体をこすりつけてくる。制服に毛が付くからやめて欲しいんだけど……。

 

八幡「なんだよ、どうした?」

 

聞いてはみるが、にゃんこが喋れるわけでもなく、ふすッ!と不満げに息を吐くだけだ。なんだそのにゃんふすは。にゃんぱすー的な挨拶なのん?

 

八幡「ほれ、行くぞ」

 

カマクラに声をかけ、階段を上っていく。

二階には電気が付いていなかった。

両親が帰ってくる時間ではないし、小町はどうやら出掛けているらしい。恐らくはヘソを曲げてしまったいろはと共に一色家の方にいるのだろう。今頃は俺の悪口大会が開かれているに違いない。ケンカをしてしまった時なんかは大抵そんな感じだ。

制服に毛が付いてしまったこともあり、部屋着のジャージに着替える事にした。

脱いだ制服はその辺にほっぽり出して、リビングへと向かう。その際に、お土産で買っておいたドーナツを持っていく事も忘れない。これでいろはの機嫌が少しでも直ると良いんだけどな……。

すると、待ち構えていたように、またもやカマクラがなごなご強烈にアピールしてきた。一方のペットショップは頭の上に移動し、寛いでいる。

 

八幡「なに、まだなんかあんの?」

 

んなーと言いながらカマクラが向かっているのはキッチンの裏だ。

そこにはウッデンレターでKAMAKURAと貼り付けられたお皿がある。一見するとKADOKAWA製のお皿に見えるが、なんの事はなく億泰さんお手製のカマクラ用の餌皿だ。器用にも万作さんの絵が描かれているシールと兆、億泰さん自身、カマクラの前世の猫草の絵のシールも貼られている。

本当にあの人の仕事は何なんだ?

その億泰さん自慢のお皿の中身も今はカリカリの欠片と粉が入っているだけだった。

 

八幡「………餌がねーのか」

 

ま、そんなことだろうな?カマクラが俺を出迎えてくれるわけがない。

 

カマクラ「なー、なー!」

 

スマホでネコリンガルを起動させると予測通り。「餌が無いじゃあないかッ!」って文句を言ってただけである。ホント、カワイクない。

俺はキッチン裏のストッカーから、猫ましっぐらでお馴染みの銀の匙的なカリカリ餌を取り出すと、ざざーっと流し込んだ。これは虹村家で出されるカリカリ餌で、カマクラはカリカリ餌はこれしか食べない。

SPW財団製のカリカリ餌には見向きもしない。

カリカリを入れるそばからカマクラが頭を突っ込んで来るので、途中から皿に入れてるのか、カマクラの頭にぶっかけているのかわからなくなる。

 

八幡「ごはんはよく噛んだ方がいいぞ」

 

カマクラの頭を撫で、続いて俺はペットショップの餌箱にも餌(虫)を入れ、そのままキッチンに戻る。

………メザシご飯と粗悪品のトマトで空腹が満たされる訳がない。自分で夕飯を済ませる為にスーパーまで買い物に出掛けたのだ。

久々にトニオさん仕込みのイタリアンでも作るか。最近は自分で料理を作ることもめっきりと無くなったので、実に久しぶりの料理だ。腕が鈍って無ければ良いけどな。

トマト、ジャガイモ、ムール貝の代わりにアサリ。イタリアの代表的な混ぜご飯であるティエッラの材料。

同じ材料にベーコン、キャベツ、マカロニを使ってイタリアのスープであるミネストローネ…っと。

メインは……簡単に豚肉とチーズの重ね焼きにするか。

 

材料を適当に切り、米を研いでおく。

アサリを鍋に入れ、白ワインで煮る。え?その白ワインは飲まないのかって?料理用のワインって飲用に向いていないって知ってる?飲むための白ワインは別にあるに決まっているじゃあないか。グビグビ。

そしてその間に他の材料も仕込みをする。

本来ならば他の材料と煮汁をアルミホイルで包んでからオーブンで焼き、それにオリーブオイルをかけてご飯に混ぜる訳だが、今日は自分用にちょっとしか作らないため手抜きだ。

炊き込み用の水を抜き、煮汁と材料とコンソメとオリーブオイルをぶちこんでセット完了。後は炊飯器で炊くだけ。即席ピラフとか作る時もこんな感じだ。

次にミネストローネ。オリーブ油をひいてベーコンを炒め、野菜を炒める。そして水を入れ、ホールトマトを潰しながら投入。しばらくコトコトと煮込む。

その間に豚肉にホールトマトを重ね、チーズで包んでオーブンで焼く簡単に出来る豚肉とチーズの重ね焼き。

焼き上がった頃にミネストローネがいい感じに煮込まれ、茹でたペンネマカロニを入れ、スープカップに入れて薄切りにしたパセリを投入してスープ完成。

焼き上がった豚肉を皿に盛り付けている間に炊飯ジャーから音がなる。

 

ペットショップ「クエッ!」

 

カマクラ「ンナー」

 

………来ると思ったよ。

重ね焼きを2つ作っておいて正解だった。

1つを半分に切って一枚ずつ皿に置き、一匹と1羽に分け与える。

それぞれが満足そうに食べ始めた。

さて、俺も食べるか。

………………。

やはり少し腕が鈍ってるな……。味気ない気がする。それとも一人で食べているからか?いつもならいろはなり小町なり誰かしらと一緒に食べているからな。

腕が落ちているのもあるが、どちらかと言えばそっちの方が大きいのかも知れない。

大喧嘩をしている訳では無いので、この寂しさもちょっとの間だけなのだろうが、寂しいものは寂しいし、味気ないものは味気ない。

家族との団欒というのは最高の調味料なのだろう。愛情こそ最高の調味料と言うが、食べて貰いたい相手に美味しく食べて貰えるように注意を払うから美味しくなるものだし、楽しく談笑しながら食べる料理はたとえそれが店屋物やインスタントでも美味しく感じる物だ。

だとすればこの味気なく感じるこの料理も、いろはや小町達と食べれば美味しかったのではないだろうか?

 

ペットショップ「クエッ!」

 

カマクラ「ふんッ!」

 

八幡「そうだな。お前らがいたな」

 

そう思っただけで、心なしか美味しくなった気がするから不思議である。

料理は気心知れた誰かと一緒に食べるからこそ美味しい。美味しいものは一人で食べても美味しいが、それでも愛する誰かと一緒に食べることでより美味しくなる。

ビバ!家族!

………うん、明日になったらいろはの機嫌取りをしよう。やっぱりこの俺にいろはがいないのはまちがっている。

 

キング・クリムゾン!

 

小腹を満たし、洗い物を済ませた俺はソファーにダイブをする。

すると、深いため息が出てくる。

考える事はやはりフェニックスの事と偽物の事。

ただでさえ厄介なウルフス。それが今回は直接手を出さずに偽物で襲ってきた。

経験則からして、この手のタイプのスタンドは長丁場になることが多い。

フェニックスを倒すまではいつ偽物の脅威が襲ってくるかわからないので心休まる暇もない。

無論、フェニックスばかりが敵の訳じゃあない。倒したウルフスは2つだけ。他のウルフスも警戒しなければならないし、今日寒川が襲ってきたように普通のスタンド使いも生み出して襲ってくるだろう。

これまで以上に状況が悪くなっていることは間違いない。

気疲れと本日二回のドンパチ。修学旅行に比べたら回数も内容も薄かったが、先行き不安であることは間違いない。

気が重くなり、思考が負のスパイラルに陥ってくる。こういう時でもやはり周囲に誰かがいるのといないのとでは大きく違うものだ。

すると、足元をなごなご言いながらカマクラが寄ってきた。ソファーに座っている俺の脚に乗っかってくる。そして、ふすーと満足げに息を吐くと、ごろごろと珍しく喉を鳴らし始めた。

思考の負のスパイラルが少しだけ和らいだ気がした。

 

八幡「……なんだよ。案外空気読むじゃあねぇか、お前」

 

おそらくはただ寒いから湯たんぽ代わりに俺を使っているだけなのだろうが、こいつだって平行世界に来てまで助けてくれたことがある。

ペットショップやサブレの聡明さが目立つが、カマクラも頭が良い猫だ。本当に心配してくれているのかも知れないな。好意的に意訳するとしよう。

ブラシをかけるみたいにカマクラの背を撫でていると、だんだん瞼が重くなってくる。

仕事に訓練にドンパチ2回に思わぬ再会に新たなる脅威が2つにいろは達の機嫌取りに行きたくもないダブルデートの約束………。

長い1日だった。

今日は、本当に疲れた。

やれやれだぜ。

 

side一色いろは

 

八幡「スピー………ZZZZ………」

 

良い匂いがしたのでちょっとだけ様子を見に比企谷家の様子を見に行くと、ハチ君がソファーで眠っていました。

結構疲れていたようですね?

それに普段ならこんなところでうたた寝とかしないのですけど…。

わたし達を待ってくれていたのでしょうか?

 

小町「ほら、お兄ちゃん。風邪をひくよ?」

 

八幡「スー……スー……」

 

全く起きる気配がありませんね?わたし達だから安心しているのでしょうか?これが偽物だったらどうするんですかね?

もっとも、この家の玄関のセキュリティは厳重です。

カードキーも半月に一回はコードが更新されているので、古いカードキーのコードでは開かないどころか警備会社(財団経営)に即情報が飛ぶようになっています。

ですから偽物がカードキーを使ったとしても絶対に入れないようになっていますが。

とは言っても油断は禁物ですけどね。音石さんの偽物とか留美ちゃんの偽物とか現れたらこの程度のセキュリティなんて意味がないですから。

 

いろは「仕方ないですね。かーくんはマチちゃんと一緒に行っちゃって下さい♪」

 

わたしはかーくんをマチちゃんに渡します。

かーくんもハチ君よりマチちゃんになついて…と言いますか、普段はハチ君になついていないので、あっさりとわたしに抱かれ、マチちゃんの方へと移ります。

 

小町「お姉ちゃんはどうすんの?」

 

いろは「ふっふっふっ……わたしはこうです♪」

 

ハチ君の隣に座り、ハチ君を横にして頭をわたしの膝に

乗っけます。はぁ……幸せですねぇ。

あ、混ぜご飯とミネストローネが余ってますね。少し頂きますか。うーん、ちょっと手抜きをし過ぎてますね?いつもよりは味が落ちてます。

でも、不満で残すほどでは無いですけど……このくらいの味ならばいつもなら残さずに食べていますよね?

あッ!

 

いろは「なるほどなるほど♪わたし達がいなかったから寂しくて美味しく無かったんですね?きっと。ふっふっふー。わたし達のありがたみというのが少しはわかりましたかー?ハチ君♪」

 

ギュッと小鼻をつまんでイタズラをします。少し息苦しそうですね?でも、太秦映画村の時のようにどこか安心している顔です。

 

小町「うわぁ……お姉ちゃん、それ多分事実だとは思うけど端から見たら結構痛いよ?」

 

うるさいです!

 

いろは「でもどうしますかねー。このまま明日になったら普通に戻るのもアレじゃあないですかー。例のダブルデートまではちょっと怒ったふりして少し困らせて見るというのも面白そうじゃあないですかー?」

 

やり過ぎも注意ですけどね?

ハチ君はわたしの事が好きすぎますから絶望されても可哀想です♪

ちょっとだけあざとく、拗ねた振りくらいがちょうど良い感じですかねー?

 

小町「うわぁ……お姉ちゃん、黒い。黒いよ…自分が好かれている事を利用するなんて……」

 

ペットショップ「クエェェ……」

 

マチちゃんとペッちゃんが冷ややかな視線を送ってきます。かーくんはあくびをしていて興味が無さそうですけどね?

 

いろは「マチちゃん。毛布をお願いします。多分そのまま眠っちゃうと思いますから♪」

 

小町「ハイハイ。ごゆっくり」

 

わたしの至福の夜が始まりました。

結婚したらそれは夜のプロレスごっこに変わるのでしょうけどね♪

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

原作との相違点。

小町が不在なのは塾に行っているから→ご立腹のいろはに付き合って一色家にいる

カマクラが玄関で出迎える→プラスペットショップ

ドーナツは小町への手土産→いろはと小町への手土産

カマクラの餌皿のウッデンレターは小町作→億泰作

カマクラの言葉を察した→カマクラの言葉をネコリンガルで見た

八幡の料理の腕は小6レベル→イタリアンだけならそこそこ

八幡はトマト嫌い(多分だが生で)?→まずいトマトは嫌い。調理済みのトマトなら普通に食べられる(トマトが主流のサイゼリヤを千葉のオアシスと見ている点から推測)

八幡は特に食事をとることなくソファーに倒れ込む(ドーナツを食べたから?)→ドンパチ後なのでドーナツやメザシご飯じゃ足りないのでイタリアンを作って食べた。

小町とのケンカからいろはの依頼、ドーナツショップでのやり取りのここまでは1日の話→数日に分かれている(選挙の話がカットされている為)。

いろはのシーンはオリジナル

それでは次回もよろしくお願いします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。