やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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下衆コンビの朝

side比企谷八幡

 

刺すような寒さで目が覚めた。

わずかに残っている良いにおいと温もりの合間を縫うように寒さが襲ってくる。それを敏感に感じて目が覚めたのだろう。

 

八幡「さっむ」

 

一度寒さを感じてしまうとそればかりが気になってしまい、仕方なくもぞもぞと起き上がる。安心する嗅ぎ慣れた良いにおいのする毛布がもそっと落ちた。

 

八幡「まだ温もりが残ってるな……」

 

どうやら昨夜はそのまま眠ってしまったらしい。だが、風邪をひいたような感覚も無ければ体の節々が痛むような感覚がない。

 

八幡「いろは………」

 

添い寝でもしてくれたのだろうか。体が暖かい感覚に満ち満ちて、そしてあの匂いが体からも出ている。

満たされた感覚のまま起き上がる。

見れば朝食が用意されていた。一枚のメモと共に。

 

いろは『あのままだったら風邪を引きますから、エメラルド・ヒーリングをしておきました。言っておきますけどー、まだ許した訳じゃあありませんからね?プンプン!ご飯は用意しておきますけど、お仕置きとして起こさないで行っちゃいます!反省してくださいね?じゃあ、遅刻しないようにしてくださいね?ドーナツ、ごちそうさまでした♪』

 

八幡「………怒ってるって言うのに……ありがとう」

 

唇にも微かに残る感触。

無性にいろはの顔が見たくなる。

冷めても良いようなメニューを残してくれてあるあたり、彼女の気遣いが見て取れる。

迷うな。今から急げばまだいろはに追い付ける。急いで食べていろはに追い付くか、ゆっくり味わって彼女の気遣いを噛み締めるか。

結局、ゆっくり味わう事にし、食器を片付けて着替える。日に日に冷え込んでいく空気も、体に残っているいろはの残り香と気遣いにより、心がポカポカとしていて気にならない。

もしかしたらエメラルド・ヒーリングによる効果もあるかもしれないが。

本来ならば今頃は風邪を引いており、俺は薬のお世話になっていたことだろう。だが、いろはのエメラルド・ヒーリングによって使ったことがない。よって「んほおおおお!おくしゅりしゅごいのおおおお!」というネタに走る余地は全くない。

ザ・ワールドやスター・プラチナが最強とかチートとかスタンド使いの界隈で言われているようだが、真にチートなスタンドはナイチンゲール・エメラルドではないかとつくづく思う。

ドンパチでも私生活でも隙のないナイチンゲール・エメラルドの使い手、一色いろはは正に最強。比企谷八幡にとってはなくてはならないもの。無くなったら俺、生きてく自信がまるでない。故に八幡的にはいろは最強にして生命の源。異論、反論、苦情は認めない。

 

静「……………」

 

八幡「……………」

 

いつからいた?相棒。

 

八幡「いやん♪」

 

静「や、お互い着替えを見られても何も感じない間柄でしょ。いやんじゃあないよ。気色悪いっつーの。つうか、イーハはまだ怒ってんの?」

 

誤解を招くような言い方をするんじゃあない。確かに互いに男女の感覚なんて無いけどさ。

いろはが昨夜怒っていることを知っているなら、このジョジョは本物の相棒だろう。

 

八幡「ご覧の通り。小町もいません」

 

静「ま、ポーズなんだろうけどね?しっかりとおさんどんをしてくれてある辺り」

 

いろはのメモを摘まんでヒラヒラとするジョジョ。

 

八幡「で?お前は何しに来たの?」

 

静「まだ寝てるようならたたき起こしに来たんだよ。朝のトレーニングにも来なかったしね」

 

ああ。日課の朝トレーニングをサボってしまったな。

 

八幡「襲撃タイムにはまだ早くね?つうか、どの段階から見ていた?」

 

静「まだ寝ていたと考えていた場合、ギリギリ。いつからいたかと聞かれたら、おはようからいたかな?」

 

最初から見ていたのかよ!いろはの気遣いでほっこりとしていたところも見られていたのかよ!イヤァァァァ!穴があったら入りたいぃぃぃぃ!

 

静「ハッチの悶え姿を見て誰が得するんだっつーの。ほら、そろそろ行くよ?」

 

八幡「………はい」

 

相棒に連れ出され、朝トレーニングをサボったという事で剣山を仕込んだ靴を履き、いつものダッシュと変わらないスピードでダッシュ。

寒さなど感じる間もなく、体が良い感じで温まる。朝からハードな訓練だな!

結局いろはに追い付くことはなく、学校に到着。

昇降口に入ると由比ヶ浜とはちあわせた。

 

結衣「あ、おはよー!通達みたけど、昨日は二回も襲撃を受けたんだって?大丈夫だった?」

 

八幡「ウルフスじゃあ無かったからな。今までと攻めかたを変えてきたらしい」

 

結衣「ほへー……あれ?いろはちゃんは?」

 

八幡「ケンカ中?」

 

静「あのくらいだったらケンカの内に入ってないけどね?」

 

バカなっ!朝一番にいろはの顔を見れないだなんて俺にとっては地獄の攻め苦に等しいぞ!いろはに始まりいろはに終わるのが我が1日のライフスタイルと言っても過言じゃあない!

 

静「心配するだけ損でしょ?これだったら」

 

結衣「ヒッキーの脳内駄々漏れ発言を久々に見たよ。それもただののろけ……」

 

ジョジョと由比ヶ浜が疲れた顔を向けてくる。何とでも言えッ!しかし、久々に考えていることを口に出してしまったな。

長い挨拶を終わらせ、教室へと向かう。

 

結衣「あ、今日ってさ。部室、行く?」

 

八幡「ん?当たり前だろ?修行の方もあるし。何で?」

 

結衣「だって、昨日はいなかったじゃん」

 

八幡「昨日は会社の方に行ってたからな。後任への引き継ぎもあるし、次の部署の仕事を引き継がなくちゃいけないから。今学期は度々そんなことが多くなると思うぞ?俺もジョジョもいろはも小町も」

 

まあ、管理職を引き継ぐ側では無いのが救いだ。そっちだと役職に就いてから視察やら他支部や各県各市町村、取引先等への挨拶とかあるから大変なのだ。

その辺、辞任する時にはそれが多くなくて済む。

 

結衣「そうなんだ……ゆきのんの応援演説とか、選挙の方針とかをもう少し話をしようと思ってたんだけどさ。何か方針を固めようみたいな」

 

八幡「方針っつったって信任投票だろ?それに対抗馬がいたとしても雪ノ下なら大丈夫だろ。なんだったら俺が応援演説をしてやる」

 

結衣「いやいやいや!ヒッキー自覚ない!?文化祭とか体育祭でやらかしまくったじゃん!ヒッキーが応援演説とかやったら大変だって!当選するものも当選しなくなっちゃうから!」

 

あ……………。思い出した。

文化祭の大粛清に体育祭の運動部弾圧。確かにやらかしたわ。後悔も反省もしてないけどね。

 

結衣「その辺の事も含めて対策を考えようっていってるの!ヒッキーが知らないままってのもアレなんだし!」

 

八幡「や、別にいらなくね?俺が生徒会役員をやるわけじゃあないし」

 

結衣「副部長じゃん!」

 

あー。最近忘れがちになるが、確かそんな設定あったわ。仕方がない………。

 

八幡「いつも部室にいるわけでも無くなった訳だからな。ここで部長と副部長でサクッと決めよう」

 

ジョジョも丁度いるわけだしな。

 

八幡「まずは反対勢力になるであろう文実解雇組と運動部反対組に対しては圧力をかけるか」

 

結衣「ちょッ!最初からすこぶる最低な提案だし!」

 

えー?一番手っ取り早い手段だと思うんだけどなぁ。

そう考えていたのだが、意外なところから反対意見が出てくる。

 

静「それはあまりお薦めしないかな?」

 

何ぃッ!政治家とヤクザが手を組むなんてのは珍しくないじゃあないか!

どこが問題あるって言うんだよ!ジョジョ!

 

結衣「意外ッ!スタッチがまともだ!」

 

静「どういう意味だっつーの」

 

ジョジョが由比ヶ浜を睨む。

 

結衣「ご、ごめん……」

 

静「ったく…。文実解雇組はともかく、運動部はどうだろう。体育会系ってそういう外部の圧力による脅しとかに屈しないじゃん?」

 

結衣「ん?」

 

静「だから鞭だけじゃあダメだと思うんだよね。私としてはプランBかな?」

 

八幡「プランBかぁ……。そっちもあまりお薦めしないんだよなぁ」

 

静「そうかな?プランAよりは現実的だと思うけど?」

 

八幡「そこまでする必要があるのかと言えば無いだろ」

 

静「そうだよねぇ……議会選挙とかならともかく……」

 

俺達がうーん……と考え込む。

 

結衣「ねぇ、二人でわかりあってるところを悪いんだけどさ。そのプランBって言うの説明してくれる?」

 

ん?仕方がないなぁ。特別に教えてやるか。

 

八幡「選挙の基本!WAIRO!」

 

ドオオオオオン!

 

静「これに尽きる!公約、信頼に頼るなんて古い!それよりも確実な手段!有力有権者を抱き込み、あらゆる面から票を集める!」

 

拳を握り、力説するジョジョ。

 

結衣「ダメじゃん!一番やっちゃダメじゃん!返して!スタッチに感心したあたしの感動を返して!スタッチに睨まれたあたしの罪悪感を返して!」

 

八幡「そうだな。一番やってはだめだ」

 

結衣「…………どうして?」

 

むッ!肯定したのに何でそんな冷ややかな視線を送る?

 

八幡「当然だろ。何故なら誰に何をどのくらい贈れば良いのかわからん。泉辺りに聞くのが良いのかも知れないが、それでも時間はかかる。更に言えば生徒会選挙の信任投票程度でそんな金をかける価値があるのかもわからん。所詮生徒会は教師の傀儡と雑用でしかない。生徒会が自治権を持つ学校なんて夢現だ。総武高校もその例外じゃあない」

 

静「あー。確かにそうだよね。政治家のそれとはスケールが小さすぎたか……」

 

結衣「そこじゃない!そこじゃないから!やっぱりどこかずれてた!お金を渡すのはダメだから!」

 

由比ヶ浜がバンバンと階段の手すりを叩く。

あれ?そこ以外に何か問題ってあったか?互いに顔を見合わせる俺とジョジョ。

 

八幡「金じゃあ無ければ良いんだな?各運動部に雪ノ下の名義で器材とかを贈れば良いのか?」

 

結衣「それも立派なゾーワイだから!」

 

えー?実際の政治家でも形を変えて色々とやってるぞ?それでもダメなの?

 

八幡「安心しろ。俺達が利用しなければ全く問題はない。問題が露見したら切り捨てれば良い。雪ノ下だけはキチンと助けるから安心しろ」

 

結衣「そういう問題じゃあないし!」

 

静「私達の年代だと性欲……こほん、男女のあれこれとかに色々と興味津々のはずだよね?デートクラブとかで美人局を雇うのはどう?」

 

八幡「なるほど。総武高校はわりかし美男美女揃いと言うらしいから、意外と美人局の奴等も乗ってくるかも知れん」

 

結衣「うわー!あたしじゃあ止められない!誰かこの二人を止めてー!発想がドンドン暗い方向に行ってるよー!」

 

徐倫「任せろ!由比ヶ浜!ストーン・フリー!」

 

シュルルルルルッ!

ぬっ!しまった!話に夢中で徐倫の接近に気が付かなかった!

俺達二人はストーン・フリーの糸に絡み取られ、そのまま階段下まで引き寄せられる。

ゴインッ!ゴインッ!ゴインッ!ゴインッ!ゴロゴロゴロゴロ!

 

八幡「新撰組じゃあ無いんだからさ。流石に階段落としはやりすぎじゃね?」

 

静「波紋の戦士といったって池田屋はキツいんだけど」

 

ゴンッ!×2

俺達の抗議など聞く耳持たず。徐倫は足元まで池田屋された俺達に対し、ヒールで踏みつけて来た。

 

徐倫「やかましいッ!黙って聞いてれば何であんたらは生徒会選挙ごときでそう犯罪に走るのよ!そういうのはもっと大きな選挙でやることでしょ!」

 

結衣「空条先生もどこかツッコミがおかしいんだけど!法律的にダメじゃんって話ですよね!?」

 

由比ヶ浜よ。忘れてはいけない。徐倫も賄賂が飛び交うGDstにいたんだ。普通の感覚は既に麻痺している。

 

八幡「甘いな由比ヶ浜。法律なんてのはな……破る為にある!規則、条例、校則もしかり!」

 

静「堪忍袋が切れる為にあるように!」

 

結衣「うわぁ…………」

 

ゴン×2

 

徐倫「他のはともかく、校則は守りなさいよ。あたしが教師である内は」

 

結衣「確か校則は法律や条例の下にあるはずだよね!?」

 

その辺りの事はもはや日常的だから。諦めろ。

 

八幡「まぁ、冗談はともかくとして話だけは聞いておくわ」

 

静「基本的には雪ノ下達に任せるけど。個人の事だしね」

 

徐倫「………みのむし状態で言っても絞まらないわよ?」

 

なら芋虫状態を解いてくれね?

 

←To be continued




はい、今回はここまでです。

本来ならばここはしんみりしたシーンが流れるのですが、耐えられずにギャグになりました。誰とも微妙な状態になってませんしね。
それでは恒例の。


八幡に毛布をかけたのはおかん→いろは(添い寝付き)だけど怒っている体は継続。

朝食は残されている(おかん作)→いろは作

ドーナツは少し少なくなっているが、誰が食べたかは不明。恐らくは小町とおかん→いろはが食べた。余談だが、さりげなくおとんも食べている

八幡は風邪を引きかけ、薬を飲んだ→エメラルド・ヒーリングにより薬を飲んだ事はほとんどない

八幡はチャリで一人、寒さに耐えながら登校→静と二人でダッシュ登校

由比ヶ浜とは微妙な空気→普通に会話

部室に行くかどうかの問いかけに対しては「行かない」→「行く」。そこからの下衆会話


やはりギャグに静と徐倫は欠かせませんね♪
ピンでやる時は海老名\(^o^)/

それでは次回もよろしくお願いします。

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