やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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社家社のアグリ・フォレスト

side葉山隼人

 

ドォォォォォォン!

 

ビルが爆発し、中から巨大なロボットが出現する。

あのビルはSPW財団の本社ビルとヒキタニは言っていた。だとしたらヒキタニはあの爆発に!?

 

隼人(ヒキタニ!)

 

ラブ・ユー・クローズの能力によりまだ声を出すことは不可能だが、俺は精一杯の声でヒキタニに呼び掛ける。

呼び掛けたところでどうなるかわからないが、俺はいてもたってもいられなかった。

 

米軍兵『何だあれは!』

 

米軍兵『とにかくあれを撃てぇー!』

 

米軍兵役の人達は口々にあの巨大ロボットに対して攻撃をするような(と言ってもフィーリング的にそう感じるだけなのだが)口振りなのだが、攻撃対象は依然俺達に向かっているように感じる。

シナリオ的にはともかく、能力は敵の能力で動いているからか?

 

社家「フハハハハハ!DIOというのはそこの女二人を侍らせているイケメン!お前か?」

 

それは俺の事か?俺のことだろう。

ヒキタニが目以外はイケメンだと思うのだが、彼は今、広瀬さんしか連れていない。

となると、折本さんと仲町さんの二人を連れている俺が彼の言っている人間だろう。

そうなると、こいつはウルフスではない。

ウルフスならばヒキタニ=DIOと言うのが当たり前の図式になっているからだ。

フェニックスの虚像も同時に現れている事から、俺達は今、通常のスタンド使いとウルフスの両方から攻撃を受けている事になる。

これはかなりヤバイ状況だ。

おまけに今、ヒキタニは生死不明の状況だ。最悪は俺一人で何とかするしかない。

 

社家「俺の名前は社家(しゃけ)(やしろ)!雪ノ下陽乃はどこだぁぁぁぁ!」

 

陽乃さんに恨みを持っている?何者だ?こいつは……。

 

 

sideなし

 

覚えているだろうか?

由比ヶ浜結衣の誕生会の前日のことである。

比企谷兄妹、一色いろは、雪ノ下雪乃、静・ジョースターの五人が由比ヶ浜結衣の誕生日プレゼントを買いにららぽーとTOKYO-BAYに行ったときのエピソードである。

そこに雪ノ下陽乃が合流し、楽しいお買い物の最中に起こった事だ。

たまたま同じくららぽーとTOKYO-BAYに遊びに行っていた社家社含めた千葉大学の陽乃の同級生達。

たまたま見つけた陽乃を遊びに誘おうとした彼等は、不運にも陽乃と同行していた比企谷八幡を見下した態度を取っていた。

それが彼らの転落人生の始まりである。

就職先と見ていたSPW財団からは千葉支部の支部長の小町直々に不採用を告げられ、更に安い挑発に乗って暴行行為に及ぼうとしたのが運の尽き。

彼等はアーシス支援部隊の護衛によって捕縛され、警察に引き渡されて現行犯逮捕(現行犯に限り、一般市民でも逮捕権はある)。

大学は退学となり、実家からも見限られてしまった。以降は転落人生そのものであり、苦しい生活を余儀なくされる始末。

社家は陽乃に対して憎悪の炎を燃やしていた。

実際のところ、社家も八幡達もどっちもどっちなのであるが。

日雇いの仕事で何とか食い繋いでいた社家。そんなときだ。スタンドの矢で貫かれた時は。

 

フェニックス『生きていたね?おめでとう。君は選ばれた人類なんだ』

 

フェニックスと呼ばれる男により、社家はスタンド能力に目覚めた。

能力は元々通訳を目指していたきっかけとなった映画。上映中の映画に入り込み、任意の相手を取り込む事が出来る能力。そして、そのストーリーのキャラクターや主人公、または登場キャラクターの能力を入り込んだ映画の中でなりきったり自由に操る事が出来る能力。

 

社家(そうだ……俺は本当は翻訳家を目指していたんだ。なのに何でこんな事になったんだ?それもこれも雪ノ下陽乃……あいつのせいだ!)

 

スタンド使いというのは基本的にどこかネジが飛んでいる存在だ。

ここで何か前向きに能力を生かそうとする人間である例はほとんど存在しない。

アーシスの人間達とてその例に違わず…である。

そして社家はウルフスの誘いに乗った。

雪ノ下陽乃。そして彼女が所属するSPW財団。その骨幹にあるジョースター家の人間。それら全てに復讐すると…。

 

社家「ぶっ殺す!ジョースター家も、SPW財団も、雪ノ下陽乃も、あの時のガキどもも!全てぶっ殺す!ぶっ壊す!素晴らしきはそれで罪に問われないことだ!映画の中で殺したところで誰が罪に問われる?アハハハハハハハハハハ!そして機会を得ることが出来た。いずれは映画だけでなく、全ての映像コンテンツに引き込む能力にしてやる!今、この時代、映像を見ない奴はいない!そうなれば俺の時代だ!俺が王となる世界だ!」

 

 

side葉山隼人

 

葉山「陽乃さんはここにいない!」

 

近くにはいるのかもしれないが、少なくともこの固定された空間にはいない。

いたとしたらとっくに何かのアクションがあるはずだ。

アーシスの人間でこの空間に囚われているのは俺たちだけだろう。

 

社家『何だつまらねぇなぁ。だったらお前らを殺すか?いや、男はともかく女は俺の慰みものにでもなってもらうかなぁ!』

 

くっ!下衆が……。オロチといい、どうしてそういう考えを持つことしかできない!

しかしどうする?こんなロボットまで現れたとしたら、どんな能力を持っていたにしても圧倒的な質量で押し潰されてしまう……。

 

仲町「葉山くん!何かが飛んでくる!」

 

主人公『ヒーーーヤッハーーー!』

 

巨大ロボットに気を取られ過ぎたのが間違いだった。

背中にブースターを付けた主人公が水平滑空して俺を殴り飛ばす。

 

葉山「がはぁ!」

 

防御も何も出来ていなかった俺はスピードの乗ったパンチをまともに受けて吹き飛ばされる。

 

葉山「くそっ!コォォォォ……」

 

波紋を修得していてよかった。

これだけで終わっていた可能性がある。

 

社家『この世界に登場する全ての物は全部が俺の味方なんだよ!兵器も!キャラクターも!全部!それが俺の能力だ!』

 

仲町「ラブ・ユー・クローズ!第3の能力!『ホッ!』」

 

仲町さんが叫ぶと、ホッ!と書かれた文字がロボットに向けて飛んでいく。そして命中。

しかし、それだけだ。

例えるならばヘビー級ボクサー程度の文字の塊を飛ばしただけ。

 

仲町「え?う、うん………「ホッ!」「ホッ!」「ホッ!」」

 

今度は仲町さんが連続で声を飛ばす。

それで何を……?

 

社家『何だか知らないが!打ち落とせ!主人公ぉ!』

 

主人公『ヒーーーヤッハーーー!』

 

すると………ハーミット・アメジストが地中から伸びてきた。

 

八幡『その声の塊に掴まって脱出する予定だったんだけどなぁ!もっと良いものが手に入ったぜ!』

 

主人公『な、何ぃ!』

 

ヒキタニの指示だったのか……。

 

side仲町千佳

 

私の攻撃はやっぱり通用しなかった……。

攻撃手段を持ちながらも私が雛型部署である実働部隊に配置されない理由は……このパワーのなさだった。

パワーはB寄りのC。良くてボクサーのパンチ、悪くて一般アスリートのパンチレベル。

それならば先程のように音を集めたり、消したりする能力の方が役に立つ。だから支援部隊に配置された。スタンド使いでありながら、支援部隊……。

なんて屈辱だろう。

私が比企谷八幡に対していい印象を持たないのは当然だろう。

こんな目の腐った変な総武高校の男が、私のなれなかった実働部隊に所属している……。

しかもかおりにすらバカにされるような男の……。

信用できる訳がなかった……さっきまでは。

 

仲町(だけど、悔しい事にその実力を知ってしまった)

 

所詮はただスタンド能力にあぐらをかいているだけのガキだと思っていた比企谷八幡。

だけど、その実力は身体能力も含めて相当な実力。

そして………時を止める能力。

 

仲町(空条前線司令のスター・プラチナと同じ能力!それは……DIOのザ・ワールド!)

 

お父さんやチーフからも聞いていたスタンド…。アーシスの中でも特に戦闘経験が豊富な前身組織『クリスタル・クルセイダーズ』のメンバー…。

 

八幡『アーシス!スクランブル!』

 

アーシス・スクランブル……。

この号令を発動できる存在は限られている。ジョースターの一族のスタンド使い、そしてクリスタル・クルセイダーズのメンバー。

逆らって良い存在では無かった。

アーシスが最も信頼し、指示に従うべきクルセイダーズのメンバーだと散々教え込まれていたから…。

クルセイダーズのメンバー程戦闘経験豊富な人間はいない。これは処分も念頭に入れるべきかも知れない。

 

八幡「仲町。聞こえるか?」

 

私の能力が比企谷八幡の声を拾った。

 

仲町「は、はい!無事だったんですか?」

 

八幡「何で急に敬語?同学年でしょ?止めてくれね?」

 

仲町「い、いえ……クルセイダーズのメンバーにそれは……」

 

八幡「アーシスでの役職はただの一般隊員だから。臨時で指揮官がいないときにその立場になれるってだけだから、気にすんな。そんな事よりもその能力、連発してくれね?俺も康穂も無事だけど、ちょっと厄介な場所に埋まっちゃっているから助けて欲しいんだわ」

 

比企谷八幡曰く、一人だけなら脱出は可能らしいのだが、広瀬サブチーフも一緒だと厄介な場所に閉じ込められているらしい。

 

仲町「う、うん……了解」

 

クルセイダーズのメンバーなら、私の能力をも上手く使えるだろう。そう思って私は固めた文字を比企谷八幡のいる方向へと飛ばした。

 

side比企谷八幡

 

爆発が近いことを悟った俺。しかし、どう足掻いても普通の手段では逃れられそうにない。

 

八幡「一か八かだ!ザ・ワールド!」

 

俺は時を止め、床下に穴を開けて康穂共々飛び込んだ。

爆発そのものは何とかなるだろう。

だが建物の崩落はなんともならない。

 

八幡「せめて康穂だけでも!」

 

俺は康穂を抱き寄せ、崩落に備える。

 

八幡(直撃する瓦礫だけはジェムストーンで弾き、落下は波紋の力で着地する!)

 

ドォォォォォォン!

 

康穂「キャアアアアアアア!」

 

八幡「暴れるな!お前だけでも!」

 

崩落の落下と上から迫る瓦礫。

 

G・S「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」

 

直撃する瓦礫を弾き飛ばし、適度な瓦礫は蹴飛ばしながら足場にする。

ロードローラーに踏み潰されかけた承太郎はこんな気分だったかも知れないな。

落下する岩盤に乗った若い頃のジジイも……。

普通ならば諦めている場面だろう。だが、こんなところで諦めるような素直な性格ならば、こんなところまで来てはいない。

この12年間、こんなことは何度でもあった。千葉村の時なんては本当に諦めていた程だ。

あのときに比べたらこんなものは……。

 

ゴン!

 

瓦礫の一部が頭に当たった。

やっぱ諦めた方が良い?無理ゲー?

イヤイヤイヤイヤ、最後まで足掻くべきでしょ。それがジョースターの気質だろ。

 

康穂「ハッチ!」

 

G・S「喋るな!舌を噛むぞ!」

 

本体である俺も必死に歯を食い縛り、頭を巡らせる。

 

八幡「がぁ!」

 

落下、着地。

しかし、普段よりも遥かに長い落下により足にダメージが入る。

 

康穂「ハッチ!大丈夫!?」

 

八幡「大丈夫じゃあない。ドンパチ中でなければリタイアしたいくらい痛い」

 

小町ならケロッとしていたかも知れないが、これは本当にキツイ。

そして、何が爆発の原因だったかと思えば……。

 

八幡「あのデカブツがブースターを噴出した爆発だったのかよ!」

 

あんなん、どうやってビルに収納してたの?そもそも、そんなもの、一回出撃したらこのビルは終わりだろ!

演出の為とはいえ、少しはリアリティーってものを出せよ!たまにそう言うのがあるよな?ハリウッドって!

 

八幡「しかし、どうするか……俺一人なら脱出可能だが、康穂までとなるとなぁ……」

 

ものの見事に瓦礫に囲まれている上に、下を見るとまだ7階分の高さだ。俺一人だけならば足のダメージを覚悟で飛び降りる事は可能だが、二人分ともなるとさすがに自信がないし、康穂の命も保障しかねる。

 

八幡「ん?」

 

すると、「ホッ」と書かれた文字がデカブツに直撃している。あれは仲町の能力か?

 

康穂「うん。あれは千佳ちゃんの能力だよ。威力は無いけど、声を固めて飛ばすことが出来るの。あれで物を運んだりとかも出来るんだよ?」

 

八幡「それだ!」

 

あれにハーミット・アメジストを絡ませて隣のビルまで掴まっていけば脱出できる!

俺は仲町とコンタクトを取る。

仲町の能力って無線機要らずだな。200メートル以内ならば……。

 

キングクリムゾン!

 

仲町に連続して声を出して貰う。すると、この映画の主人公がブースターで飛びながらやってきた。

この際、物理法則とかはどうでも良い。映画の設定なんだろう。あれを利用しない手はない!

 

八幡「ハーミット・アメジスト!しっかり掴まれ!康穂!」

 

ハーミット・アメジストを主人公に絡ませる。

 

康穂「え?キャアアアアアアア!」

 

そして、ハーミット・アメジストを縮ませて主人公の所まで到着。

 

八幡『よお?大スター。助かったぞ?流石は主人公だなぁ?』

 

主人公『何だ!お前は!』

 

八幡『主役交代だ。主人公。この映画の主人公は、たった今から葉山隼人だ』

 

俺?ヒーローって柄じゃあない。

あの社家とかいう奴よりも、そろそろフェニックスをなんとかしないとな……。

葉山なら……社家とかいうスタンド使いも倒せるだろう。

 

八幡『そのブースター。貰うぞ……』

 

俺はもう一本のハーミット・アメジストをブースターに絡ませる。これで何とかなる。

 

八幡『good-bye。大スター。次の銀幕でまた会おう』

 

G・S『無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!』

 

主人公『NOoooooooo!』

 

この高さならまず助からないだろう。助かったとしたならば……奴の力が発動したときだ。

ところで………

 

八幡「これってどうやって操作するんだろ?」

 

康穂「…………え?」

 

奪ったまでは良いんだけど、使い方なんて考えてもみなかった。

 

八幡「うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

康穂「ハッチのバカァァァァァァァ!」

 

めちゃくちゃにブースターが飛び回り、振り回される俺と康穂。

ハーミット・アメジストで辛うじて操作出来るとわかってからは地表すれすれまで降りて着地する。

そこに葉山達が合流してきた。

 

葉山「相変わらず、容赦無いな……仮にも映画の主人公だぞ?」

 

八幡「なら殺人で捕まえるか?警察官の葉山のトッツァン」

 

葉山「まさか。目的の為ならば裏も表もない。本当に罰せるべき為になら、悪とも手を組む。それが…」

 

八幡「お前の出した結論か?不良警官だな」

 

葉山「大物の前の小物は上手く利用するって言って欲しいな」

 

互いに悪い笑いを交わし、ハイタッチする。

 

社家『テメェはあの時のガキ!』

 

デカブツから声を出す社家とかという奴。あれがこの映画のラスボスであり、成り代わったこのスタンド…アグリ・フォレストの本体だろう。

何か恨まれているようではあるが、生憎と覚えちゃいない。

 

八幡「誰だか知らんが、俺がお望みのDIOだ。もっとも、お前のような小物の事なんかどうでも良いし、俺には別の相手がいる。葉山……頼めるか?」

 

葉山「ああ。任せてくれ」

 

八幡「風はこちらに吹いている。折本!」

 

折本「『それある!』」

 

よし、イケイケモードが加速される!

 

八幡「葉山、これを使え。操作は……」

 

俺は奪ったブースターを葉山に渡す。

 

葉山「何となくだがわかる。助かるよ、ヒキタニ」

 

リュック型のブースターを取り付け、葉山が臨戦体勢に入る。葉山がいて助かった。この空間では葉山無双だ。

 

八幡「さて……そろそろ遊びは終わりにしようか…。フェニックス!」

 

そろそろ偽物騒動はうんざりだ。決着を付けよう。

俺は空間に現れた矢を掴み、気配のする方を睨む。

こいつの力を当てにするのは癪だが……な。

 

←To be continued




今回はここまでです。

社家社の名前の由来は神奈川県海老名市の社家という地名から取りました。

スタンドのアグリ・フォレストは元ネタはゴーストスイーパー極楽大作戦に登場した映画の妖怪で、登場キャラをことごとく食べる妖怪をモチーフにしました。
スタンド名はゴーストスイーパーの主題歌の歌手、有森聡美さんから頂きました。
ハブ・フォレストか迷いましたが…。

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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