side折本かおり
カフェ・ドゥ・マゴ
葉山「そうか……アースブルース69の能力を知っている今ならば、ジョースターさんやヒキタニに何が起きたのかがわかるけど……」
あの時の比企谷は居眠りをしかけていた。その眠気を…正確には『このまま少し居眠りをしよう』的なテンションを『それある!』が加速してしまった。
だから比企谷は普段なら嘘アドレスを私に教えていたはずの所を寝惚けて本当のアドレスを書いてしまったんだよね。
折本「その時は私にそんな能力があるなんてわからなかったから。昔からのクセだったしね。『それある!』が」
戸部「べー。凄い偶然だわー」
違うよ戸部くん。偶然じゃあ無いんだよ。
折本「生まれついてのスタンド使いって無意識に自分の能力を発動させる何かをやっちゃうんだって。私の発動キーもそれだったんだって矯正施設の監察官が言っていたよ」
私は思わず渋面を作る。あの人は本当に苦手。何であんな人がアーシスにいるんだろう。
広瀬ちゃんのお父さん、広瀬康一隊長も苦手だって言っていたし。
あの人の良さそうな広瀬隊長が苦手ってウケる……。
相模「矯正施設の監察官?あの露伴先生?」
戸部「べー、俺もあの人は苦手だわー。あの人の人嫌いは凄すぎっしょー」
折本「それある!(サムズアップ)」
ああ、広瀬隊長は岸辺露伴先生も苦手だって言ってたもんね。でも………
折本「でも岸辺露伴先生じゃあないよ?多分、広瀬隊長は岸辺露伴先生以上にその人が苦手かも……ウケる」
葉山「露伴先生以上に広瀬康一さんが苦手な人?そんな人がいるのか?」
どちらかと言えば広瀬隊長はあの人の事を珍しく嫌っているかもね。あの人の事を話すと少しひきつった顔をするから。その顔がまたウケるんだけど。
葉山「それで………どうなったんだい?」
折本「あ、ごめん。話が逸れたね」
私は続きをはなし始めた。
比企谷八幡『誰だ?』
どうせ嘘アドレスだろうと思っていた比企谷のアドレスからメールが返ってくる。
折本『同じクラスの折本かおりだけどさ、比企谷は本当のメアドを書いたんだ。ウケる』
そう返すと、すぐにまた返信があった。
比企谷『本当のメアド?』
折本『放課後の教室で会ったときに教えてくれたじゃん。覚えてないとか?ウケる』
比企谷『覚えてない。寝惚けていた時か?』
折本『そうそう。せっかくだし少し話そうよ』
比企谷『話すことなんてない。マヌケが』
相変わらず態度が悪いなぁ……。
折本『こっちにはあるんだって。ほら、幽霊の事とか。比企谷って幽霊にとりつかれてるの?ウケる……あんなの初めて見たんだけど』
私は確かに比企谷から水色のロボットのような幽霊が出ていたのがハッキリ見えた。
比企谷『幽霊だと?見えたのか?』
え?見えたってどういうこと?比企谷も幽霊が見えるとか?マジで?ウケる。
折本『見えた見えた。水色のロボットみたいなのが』
比企谷『能力は何だ?』
折本『能力?何それ。比企谷はオタクってヤツ?』
そういえば比企谷とジョースターさんって昔流行った『ピンクダークの少年』を持ってきては熱心に教室で読んでるっけ?
その姿がキモいとか言われてるけど。特に比企谷が。
比企谷『中二病扱いはやめろ。明日、話がある。放課後に教室に来てくれ』
なになに?マジで告白とか?
うわー、ちょっと止めてよ。確かに幽霊の事で興味が出来たけど、比企谷に告白されるとか無いって。
けど、まぁ幽霊の話しとかあるし、まぁ告白されるついでに聞いてみるかな?
折本『わかった。明日の放課後に教室ね』
私はそう返事を返す。そして……私は特に考えないで幽霊の話以外の事を友達に拡散する。
比企谷が書いたメアドが本当のメアドだったこと、放課後に呼び出された事とか。
それが何を引き起こすか知らずに………。
翌朝
私が登校すると、不穏な空気が教室に満ちていた。
そして、いつも以上に無表情の比企谷とジョースターが私を見る。
八幡「折本。これはどういうことだ?」
比企谷が私に冷たい目を向け、顎で黒板を指す。
比企谷に促されて黒板を見ると……。
折本「え………なにこれ………」
そこには………
『比企谷は折本かおりに気がある』
『比企谷は折本かおりに本当のメアドを教えた』
『気がある事がバレたから今日の放課後に告白しようとした』
こんな今どき小学生でもやらないような落書きが書かれていた。
「かおりー。もう大丈夫だからね?」
「かおり可哀想………こんなのに目を付けられて……」
「自分の顔を見て考えろよ……」
みんなが私を庇うように私を黒板の方へと連れたし、壁になる。
え?何でこんなことになってるの?
確かにジョースターや比企谷の事はみんながムカつくとか言っていたけど、こんなことをやるなんて……。
八幡「…………やれやれ。悪意を向けられるのは慣れているし、そもそもそれだって普段の俺達に原因があるからこんな事をされる理由はわからなくもない」
ゆらりと比企谷は立ち上がる。
その表情はいつも以上に何の感情も映してなかった。
ジョースター「だからこんな事をされることそのものに関しては本気で何の感情も抱いていない。強いて言うならば『ああ、ヤッパリ日本の学校って陰湿で嫌い』っていうことかな?アメリカは気に入らなければ結構ずけずけと物を言うし」
ジョースターさんもユラユラと……それこそカナブーンの歌詞のようにユラユラと立ち上がる。
雰囲気でわかる。
この二人は言葉とは裏腹に何かまとっている。
八幡「ああ、安心しろ。本気でこの程度の事はなんとも思っちゃあいない………普段の会社やアーシスの仕事に比べればほほえましいとまである。さすがに手を出されれば降りかかる火の粉くらいは払うけどな」
静「右の頬を叩かれたら左の頬を差し出すような大人しい性格をしていないってことは同じ小学校出身者ならわかるでしょ?むしろ右の頬を叩かれたら左右の頬を気が済むまで殴り返すのがうちらだってことが」
八幡「むしろ右の頬を叩かれる前に左の頬を打ち抜いているけどな。安心しろ。手さえ出して来なければ何もしない。ただし…………」
比企谷とジョースターさんから例の幽霊が姿を現し、そしてその幽霊が指を向ける。
比企谷の水色のロボットのような幽霊と、ジョースターさんから桃色が明滅する女神のような幽霊が。
静「ただし折本。あんただけは話が別だけどね」
八幡「やはりお前はスタンドが見えているな?スタンド使いだけは話が別なんだよ」
私はその時、初めてスタンドという単語を聞いた。
本来ならばそこでいつもの私らしく、馴れ馴れしくスタンドの事を聞いて知りたいことを知っていたぢろう。
だけど、この時の二人の雰囲気はいつもの二人じゃあ無かった。
無表情、こちらを見る目には何の感情もない。一見するといつもの二人と同じ。しかし、明らかにいつもとは違う冷たく、そして重苦しい雰囲気。
今ならわかる。これが殺気だ。
「女の子相手に何をする気なの!?」
折本「それある!」
あまりの恐怖にいつものクセを出してしまう。
助かりたくて。何が起きているのかワケがわからなくて。
普通の
八幡「違うな。スタンド使いは老若男女関係ない」
静「敵スタンド使いが相手ならば赤ん坊だろうと女だろうとお年寄りだろうと関係ない」
八幡「マニッシュやケンゾー、エンヤ……甘い顔をしていれば下手をしたら死ぬような事が起こる。それがスタンド使いだ」
静「そもそも老若男女でどうこう考えているのは平和ボケした国くらいだっつーの。発展途上国では小学校に上がるか上がらないかの歳で自爆テロをやらかす国なんてのはざらにあるっつーの」
八幡「怪しい動きをした幼児に遠慮なく鉛弾をぶちこむ。軍人なら誰もがそーする。俺もそーする」
「すかしてんじゃねぇぞ!くそがぁ!」
1人が椅子を掴んで比企谷に殴りかかる。
だけど……比企谷の幽霊がその降り下ろされる椅子を掴んで止める。
八幡「言ったぞ。手を出して来た以上はこちらも反撃すると………無駄ぁ!」
バリバリ!
電気のような物で男子を気絶させる比企谷。
「テメェ!やんのかコラッ!」
「ぶっ殺すぞ!おい!」
みんな明らかに普通じゃあない。何が起きてるの!?あの幽霊のせい!?
私はこの状態を引き起こしているのが自分の能力だということに気がついていなかった。
言い訳するならば自分にそんな能力が……その時のテンションや空気を加速してしまう能力があるなんて欠片も気が付いていなかった。
一方でジョースターさん達も何かに気が付き始めたようだ。
静「おかしいよ相棒。いくら日本人でもこの状態はおかしすぎる」
八幡「日本人だからだろ?日本人の群衆心理は世界的に見ても異常だからな」
静「それでも………だよ。普通ならばギャングでも逃げ出すレベルの殺気を送っているのにコイツらは逃げ出さないんだから」
八幡「なるほどな。いや、体は日本人だけど生活スタイルとかそういうのって欧米式だからわからんわ。日本人の心理なんて。まるで蜂とかそういう群生生物のような生き物だろ?主体性が無いし国そのものがカルト宗教じみているっていうだろ?WW2の旧日本軍のその狂信者的で無個性ぶりは連合軍を別の意味で震え上がらせたって言うものな?」
静「規律良いとか言われているけど、実質的に国全体がカルト集団って言うのは東アジア全体がそうだし、とりわけ日本人はその傾向が強いみたいだけどね」
八幡「まぁ、この手の暴動に近いものが日本人の群衆心理によるものなのか、それとも………」
ジロリとジョースターさん達は私を睨む。
静「折本のスタンド能力が引き起こした一種の洗脳能力なのかは後でじっくりと調べるとしようか」
アーシスはスタンド使いの敵が相手だと容赦はない。
もうその段階で私の事を獲物か何かだと思っている…そんな目で見ている。
ちなみに、ジョースターさん達が言っているこの日本人の群衆心理については未だに世界から見るとおかしいらしい。
そこから先は………二人の幽霊と暴徒と化したみんなが暴れだす。
「死ね!比企谷!」
バキィ!
八幡「殴ったな?正当防衛成立。無力化する。
比企谷の両腕から出ている蔦の幽霊?が相手の男子生徒に巻き付く。
「何だ!急に体が動かなく………」
八幡「スタンドはスタンド使いにしか見えないからな。お前は何が起きているのかわからずに原因不明で倒れる」
バリバリ!
「ギャアアアアアア!」
ドサッ!
八幡「もっとも、正当防衛が成立しようと無かろうと、俺には関係ないがな」
「テメェ!比企谷!」
八幡「俺が何をした?むしろ俺は殴られただけだが?俺が何をしたのか説明してみせろよ。なあ?」
「そ、それは…………」
比企谷から出ている蔦の幽霊は誰にも見えない。
私以外は………。だから比企谷が何をしたのか誰にもわからない。
折本「ひ、卑怯………」
八幡「卑怯で結構毛だらけ猫灰だらけだ。むしろ俺としては正々堂々としている方なまである」
シュルルルルル………バリバリバリバリ!
バタバタ!
次々と倒されていくみんな。
一方で…………
「ジョースター!」
ブオン!
静「刃物はヤバイだろ。大降りだから当たらないけど、殺人未遂だって。証拠隠滅が出来ない一般人がどうやって処理するんだっつーの。私が知ったことじゃあ無いけど」
A・C「ドラァ!」
「タコスッ!」
ドサッ!
静「人を殺すなら死体処理と法的な隠蔽手段を得てからやれっつーの。ヤクザの事務所に爆弾抱かせて死体処理をした上で敵もついでに葬るとか、焼身自殺を装ったようにしてするとか。金をばら蒔いて周囲の住人を装って人物像を捏造するとかは普通だろ?」
コイツらは………普通じゃあない。
世間の闇が当たり前過ぎて………。
「こ、こいつらどうにかしろ!」
折本「う、うん!それあ………」
A・C「待て。あんた、死にたい?」
いつの間にか小さくなって妖精のような姿になったジョースターさんの幽霊が私の口を塞ぐ。
折本「んー!んー!」
A・C「わかったような気がする。あんたのスタンド能力。ビジョンのないスタンド………稀にいるからね。そういうスタンド能力って」
グッ!
と、ジョースターさんの幽霊が元の大きさに戻り、私の頸動脈を一気に締め上げる。
裸締め。
腕をVの字にして二ヶ所の頸動脈を一気に締め上げる落とし技だ。今の私も護身術として使える。
首トンなんかよりも確実に、安全に人の意識を奪える技として………私の意識は落とされた。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
折本事件の相違点をここで。
八幡は折本を好きだと勘違いしていた→していない
八幡は折本に告白し、翌日にはそれが拡散されていた(折本に悪意があるかは不明だが、折本当人から誰かに話したのは確か)→出来事は違うが、折本から拡散されたのは同じ。本作の当人としては悪意はなく、ネタとして拡散したと見ている。
本当ならば静と八幡はスタンドの事については穏やかに説明するところから始める予定でした。
それが放課後の呼び出しの理由です。
しかしながら、この騒動により事態は思わぬ方向へと進んでいってしまったわけです。
普段からの碌な人間関係を築かなかった性悪コンビの自業自得ですね。
第3章でも言っている通り、本作の折本は運が悪かったとしか言いようがありません。
それでは次回もよろしくお願いいたします。