side虹村億泰(2000年11月)
ぶどうヶ丘総合病院
行動方針が決まり、俺と那由多はぶどうヶ丘総合病院に到着する。
仗助と康一を振り切ったのが14時から15時頃。
京の過去を聞き、方針が決まったのが日が完全に沈む頃。病院に到着したのは18時を少し回った頃だ。
つまり………
受付「面会?もうとっくに終わっているわよ?」
と言うことだ。来るのが遅かったのかよ……。
受付「大体誰の面会?」
那由多「吉良東」
受付「吉良東?………ああ」
受付の看護婦(当時は看護師という言葉は一般的ではなく、女性看護師は看護婦と言われるのが一般的だった)は何かを思い出したかのように言う。
受付「………吉良東って患者なら、確かに一週間前にひき逃げらしき交通事故でここに運ばれて来たわよ?でも、すぐにM県S市の警察病院に移送されたわね」
那由多「警察病院に?」
受付「ええ。だって元々あの患者は………ってあなた、誰?」
那由多「…………」
那由多はここで黙る。なんだよ……娘って言えば良いだろうがよ。
億泰「こいつは吉良……」
俺が代わりに言おうとすると、那由多が俺の口を塞ぐ。
那由多「さっき見直したと思ったら、またバカ丸出しの事を。これから殺そうとしている男なのよ?上手く事が運んでも、ここであの男を探しているのが吉良京と知られたらマズイ事になるじゃない。警察だけじゃあなく、SPW財団にまで追われる羽目になるわよ!?空条承太郎とか敵に回せるの!?」
もう色々と手遅れだと思うんだけどなぁ……。
多分、仗助や康一を通じて承太郎さんに連絡が行っていてもおかしくねぇだろうし……。
那由多「良いから私に任せなさいよ!」
那由多「私、噴上裕也さんに助けてもらったんです。あの晩、吉良東に襲われていたところを助けてもらって……。噴上さんにお礼をしに来たついでに、あの男に一言文句を言いたくて………」
おいおい。色々と苦しいし、噴上の友達って……。
確かに噴上の野郎は俺の知り合いではあるし、トニオさんの店の常連仲間ではあるけどよぉ……。
受付「ああ、あの子の………そう、あの子に助けてもらったのね?彼、イケメンねぇ……吉良東って人については関わらない方が良いわね。警察に逮捕されたのだって、噴上裕也君に刺さっていたナイフと彼が所持していたナイフとが一致していたからって事でナイフに付いていた指紋と彼の指紋を照合させたら一致した事が決めてだったし……」
那由多「噴上さんは無事なんですか?」
受付「一時期は命の危険もあったけど、なんとか一命をとりとめたわ。熱とか引いていないから、面会は断っているけどね。毎日現れるレディースとか、去年も彼に会いに来たあのいけすかないチビを追い返すのは大変だわよ。変な時代遅れのリーゼントも来るし……」
康一と仗助、それにアイツの女共の事だな?
あと、仗助の頭の事を面と向かって言うなよ?顔の形が変わっても知らねぇぞ?
受付「とにかく、噴上裕也君に対しての面会も禁止。大体さっきも言ったけど、今は面会時間を過ぎているの。子供はもうお家に帰ってママのミルクを飲む時間よ。わかったら帰りなさい?」
那由多「そうですか。わかりました」
やけにあっさり引き下がる那由多。どういうつもりだ?
あ、吉良東が警察病院に行った事がわかったから、もうここには用がないからか………。
那由多はすぐに病棟から病院のロビーに戻り、今度は病院の設備図を確認する。
億泰「今度はどうしたんだよ」
那由多「一応は噴上裕也に会いに行くのよ。東方仗助や広瀬康一の誤解を解いてもらうように頼む必要があるでしょ?」
あ………確かについでとはいえ、それも目的だって言ったのは俺だったなぁ。
那由多「億泰……あなたって人は……そんなことでホントに約束を守れるの?」
うぐっ!ぐぅの音も出ねぇってのはこういうことだなぁ。
那由多「噴上裕也は今、集中治療室から移されて個室にいるわ。さっき、受付の書類の中から噴上裕也の病室を確認できた。やる気のない看護婦で助かったわ。そういうのの管理が杜撰ね。彼女、いずれは路頭に迷うことになりそうね?私が心配する事じゃあないけど」
億泰「オメェも人の事が言える義理じゃあないけどな」
絶賛、家出中のホームレスだろうがよ。もう家に帰れねぇだろうしよ。
那由多「私はこれが終われば帰るところがあるわ。将来の目標も出来たしね」
そうなのか?やっぱスゲェなぁ。俺なんてまだ何をやりたいかなんて決まってねぇのによ。
那由多「問題はどうやって忍び込むかね」
億泰「俺のスタンドで壁を削るっていうのは……」
那由多「あなたのスタンド能力がどういうのか解らないけれど、それだけは止めて。本当に空条承太郎に目を付けられても知らないわよ?」
また那由多にダメ出しされちまったぜ………。
本当に俺、仗助とかいねぇと役に立たねぇよなぁ。アイツがいれば無敵のコンビなんだけどよぉ。
???「億泰さん。お困りのようですね?」
んん?どっかから声が聞こえるぜ?この声は……
???「ここです。億泰さん」
病院の入り口に置いてあった車椅子がいきなり変形して人間の姿になる。こいつは………
億泰「未起隆!こんなところで何やってんだよ!」
未起隆「サイレンの音を克服しようかと思いまして。地球で生活している上ではサイレンの音は日常的に鳴りますから、いつまでも苦手と言っていられません。病院にいればサイレンの音はいくらでもなりますから、良い特訓の場所なのです」
いや、そうだろうけどよ……。
蕁麻疹が出てくる車椅子ってホラーだなぁ。
京「………スタンド使い?」
未起隆「いいえ、私はスタンド使いではありません。宇宙人です。私は支倉未起隆。地球ではそう名乗っています。億泰さんとはお友達です」
スタンド使いじゃあ無いという割りにゃあスタンドが見えてるし、ほんとこいつはよくわからねぇぜ。まぁ学校じゃあ数すくねぇダチであることは確かだけどよ。
京「ふぅん……まぁ、変わり者のスタンド使いとしては納得の友達ね?私は吉良那由多。本名は吉良京。どっちの名前でも好きに呼んで良いわ」
未起隆「那由多さんですね?わかりました。ところで聞いてください億泰さん。最近、私の努力が実りつつあるようなのです」
億泰「あん?どうしたんだよ。サイレンの音を克服できたってのか?」
それだったら良かったんじゃあねぇの?
未起隆「いえ。そちらの方はまだまだ特訓の必要がありそうですが、特訓の過程で1つの副次的な成果が出てきているようなのです。ご覧下さい」
未起隆はそう言ってぐにゃぐにゃと変身を始めた。何かに化けるようだが………。
え?仗助?
未起隆の奴、仗助に変身しやがった!
未起隆「以前までは地球人の顔はどれも同じに見えて他人に変身することは出来なかったのですが、病院に通いつめるようになってからは毎日いろんな人を見ることが多くなった為でしょうか?地球人に化ける事が可能になったんですよ。今はまだ、親しい方に変身する事しか出来ませんが、サイレンの音を克服できる頃には直接見たことがある人に変身するくらいには出来そうなんです。これも1つの成長ですよね?」
変身ってことにかけちゃあ先々月の東京修学旅行で出会った忍の方が優れているが、これはこれですげぇ。いずれは精密機械とかにも変身出来るんじゃあねえの?
億泰「スゲェじゃあねぇか!未起隆!」
京「単に私達を猫か犬かの個体識別が出来るようになったってだけのような……」
それでも出来なかった事を出来るようになったってのはすげぇじゃあねぇかよ。俺なんて苦手なものはいつまでも苦手なままになっちまう方だからよぉ、普通に尊敬できると思うぜ?
未起隆「ありがとうございます。億泰さん。私にも出来るんだゾッてところをあなたにも見せることが出来て嬉しいです。ところで、何かお困りの様子でしたが?」
ああ、話に夢中になっちまってたぜ。
億泰「実はよぉ……」
俺は噴上にどうしても会いたいけど、面会時間やら噴上の容態で面会することが出来なくて困っていることを伝える。
未起隆「そうですか。では、私の力が役に立てそうですね」
億泰「お?力を貸してくれるのか?ありがてぇ!例の人に変身できる力か?」
俺が聞くと未起隆は首を縦に振る。
未起隆「いえ、それはまだ……役に立つのは従来の変身で充分です」
億泰「あれ?今オメェ、頷いたよな?」
京「文化圏でもゼスチャーの違いはあるものよ」
未起隆「ああ、頷く動作は日本ですと肯定でしたか。色々と渡り歩いて来たせいで混ざってしまったようですね」
そういや、こいつは時々ふらっといなくなるときがあるよな?数日から酷いときは何週間も学校に来なくなる時があったけどよぉ……世界旅行してたのかよ。
確かにこいつなら荷物に紛れ込んだりとかで旅費の心配とかは無さそうだけどよぉ……。
未起隆「屋上へ行きましょう」
そうして未起隆の提案で俺達はエレベーターを使って屋上へと出る。
未起隆「では、ワイヤーに変身しますので、私を使って噴上さんの病室のベランダまで降りてください」
そう言って未起隆はフックつきのワイヤーに変身し、屋上の手すりにフックを引っかけ、ワイヤーを下ろす。
億泰「よっと!俺から降りるぜ?」
俺はザ・ハンドも使って体を固定しながら降りる。でも、やっぱこえぇぇぇ!
億泰「那由多。大丈夫か?怖くねぇか?」
那由多「ちょっと。上を見ないでよ!スカートの中が丸見えじゃない!」
億泰「え?あ……わりぃ……うわわわ!」
焦って手を滑らしちまった!落ちるぅ!
すると未起隆のワイヤーが俺を巻き取り、目的の噴上の部屋のベランダに放り投げた。
未起隆「大丈夫ですか?億泰さん」
億泰「わ、わりぃ。助かったぜ……未起隆」
那由多「なにやってんのよ……億泰……」
シュルルルル……と、華麗に降りてきた那由多がこれまた華麗に俺の横に着地する。
億泰「す、済まねぇ……下着を見ちまった責任は取るからよぉ……」
那由多「責任って何よ。今どき小学生でも下着を見られた程度でお嫁に行けないとか言わないわ。何年前の少女漫画よ」
え?そうなのか?俺なんかからしたら生の女の子のスカートの中身を見るなんていったらそれだけで1つの事件なんだけどなぁ……。
億泰「今どきの女子は下着を見られても平気なのか…時代は変わるんだなぁ……」
那由多「あんた、ホントにバカ?平気なわけないでしょ?次に見たらわざとじゃなかったとしてもひっぱたくからね?今見たのは忘れなさい」
億泰「お、おう!す、済まねぇ!家とかじゃあこっちが襲うのを煽っているくせにおかしくねぇかぁ?」
那由多「何か言った?」
自分でも聞こえるか聞こえないかのレベルで言ったのに何で聞こえるんだよ!
那由多「はぁ………もういいわ。それで、ここからどうするの?」
未起隆「少しお待ち下さい」
未起隆は今度は指先をぐにぐにゃと形を変え、ピアノ線のような物を病室の換気孔から侵入させて窓の鍵を開ける。
色々と便利だなぁ……。
未起隆「私はここで待っています。行って下さい。億泰さん、那由多さん」
億泰「ありがてぇ!助かったぜ!未起隆!」
俺はお礼もそこそこに噴上の病室に侵入する。
病室に入ると色々な機器に繋がれた噴上が眠っていた。一時期は命が危なかったっつってたからな……。
噴上「う………誰だ?」
起きていたらしい噴上は弱々しい声で言ってきた。周りが静かで無ければ聞き逃してしまうほどの小さな声だった。
億泰「俺だ。虹村億泰だ。オメェが助けた女も一緒だぜ?」
噴上は俺と那由多を確認すると「ふぅ……」と息を漏らした。その表情は安堵の息……といった感じだ。
そしてスタンドを出す。ハイウェイ・スターを出して何をするつもりだ?
H・S「スタンド越しで悪い。本体だと満足に喋る事も出来ねぇからな」
なるほど。そう言うことか。焦ったぜ……攻撃してくるのかと思って身構えちまったじゃあねぇか。
那由多「あの時はありがとう。噴上裕也……あなたが助けてくれなければ、私は死んでいた……」
H・S「どうってことねぇよ。当然の事をしたまでだ。お前こそ、目がハッキリしている。ずっと気になっていたんだ。お前がどうなったのか……。億泰に会うことが出来たんだな。良かった…。億泰がお前を癒せるなんてのは意外だったけどな。ところで、仗助はどうした?一緒じゃあないのか?」
億泰「絶賛、ケンカ中だ。それもこれもオメェが『バイクの女』くれぇの情報しかアイツらに渡さねぇからよぉ。仗助達は京がオメェをやった犯人って思っちまったらしい」
H・S「ああ……多分、血が上った俺の女達が断片的に言ったんだろうな……スタンド使いじゃあないアイツら相手じゃあこうしてスタンドで話すことも出来ねぇからよ。熱も酷くてクラクラしやがる」
確かに話すのも辛そうだもんな……。
H・S「それで?俺に何の用だ?」
億泰「実はよぉ……」
俺はこれまでの事を説明する。
H・S「ヒデェな……京の精神はまだ壊れたままだっていうのかよ……でも、オメェを殴って那由多と一緒に復讐しようとするまで回復できたんなら、良かったんじゃあねえの?健全とは言えねぇけどよ。仗助と康一の事については任せろ。多分だが、オメェらの事を探す手掛かりとしてそのうちここに来るだろうからよ。っつーか、正直オメェらよりもアイツに来て貰いたかった所だな。アイツのスタンドならケガを治してくれるしよ。不便で仕方ねぇ。動けねぇからトイレにも行けねぇ、飯も食えねぇ、満足に喋れねぇ。携帯で連絡つかねぇのか?」
億泰「俺は携帯なんて持ってねぇからよう。金を節約しなくちゃならねぇからよぉ」
あればとっくに連絡付けてるぜ。康一なり何なりに連絡してよぉ……。
H・S「そうかよ……億泰。1つ情報だ。お前らが追っている吉良東って奴なんだがな……昨日あたり脱走をしたらしい。警察がここに来てここに来なかったか聞いてきた。アイツはまた京を狙ってくる……本来なら止めるべきお前らの行動だけどよ……こうなったら仕方ねぇよな?相手もお前らを狙って来るんじゃあよ」
吉良東はまた京を……そんな事は俺がさせねぇ……
H・S「出来れば俺も協力してやりてぇ所だが、生憎とこんな体だ。奴が来たら俺も自分の身を守らなくちゃならねぇ……億泰、オメェが京を守るんだ。東方仗助でも広瀬康一でも空条承太郎でもねぇ……わかってんよな?」
言われるまでもねぇ……京と那由多は俺が守る。
俺達は未起隆が待つベランダへと戻る。
H・S「億泰」
背後から噴上が声をかけてきた。
H・S「こういっちゃなんだけどよぉ。美女と野獣だな。お前ら」
ちっ………んなことを言うために呼び止めたのかよ。
わかってんだよ。俺なんかじゃ釣り合わねぇってよ。
H・S「……でも、お似合いかもな……」
けっ!バカ野郎。
←To be continued
はい、今回はここまでです。
噴上、決めてくれます。
それでは次回もよろしくお願いいたします。