やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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旧クリスタル・クルセイダーズの第2章から第3章までのエピローグです。
まずは第2章で承太郎と億泰の話にあったように、音石との話し合いをする話です。

ではどうぞ。


第2.5章 それぞれの幕間 億泰編

side虹村億泰

 

杜王駅

 

あのアメリカの戦いからしばらく経った。

ある休日に俺は親父と東方兄妹、比企谷兄妹といろはを連れて杜王町の定番スポット、カフェ・ドゥ・マゴに向かっていた。

親父は今、比企谷家で飼われている猫のカマクラとじゃれている。

仗助の話ではあの猫草の転生がカマクラでは無いか?と言われ、一度親父と引き合わせてみたら、親父は泣いてカマクラを抱きしめ、カマクラも喉を鳴らしながら親父になついたんだよ。

プッチとの決戦の時に、それぞれの死んだ仲間や関係者の幻影が現れ、その中にカマクラと猫草が重なった幻影が見えたと言っていたから、もしかして…と仗助の奴が言ってきたから試してみたんだがよぉ、どうやら間違いねえみてぇだ。

前々から仗助の奴には何かを訴えて来るようにニャアニャア鳴いていたみたいだけど、それは可愛がっていた俺や親父に会いたがっていたサインだったかも知れねぇな。

八幡の奴には中々なつかないようで、八幡は悔しがっていたけどな。

でも、良かった。

猫草が枯れて以来、親父は見るからに元気が無くなっていたからなぁ。

比企谷兄妹にはたまにカマクラを連れて遊びに来てもらっている。

八幡や小町も杜王町には露伴とかによく会いに来るらしく、そのついでだという事で快く引き受けてくれる。

大体月に一回くれぇだな。わざわざ新幹線に乗って来てくれるんだから、ありがてぇ話だぜ。

 

億泰「本当にいつもわりぃな、八幡」

 

八幡「何言ってるんっスか億泰さん。俺達は元クリスタル・クルセイダーズの掛け換えのない大切な仲間で、友達じゃあないっすか。それに……前世の事とはいえ、虹村さんには申し訳ないことをしちゃったッスからね。そう言う点では、俺は音石さんと変わらないッス」

 

そう言うと、八幡は親父とカマクラ、そして小町に悲しそうな目を向ける。

 

いろは「ハチ君…それは…」

 

八幡の前世、DIOの罪は重い。

こうして平和な一時を過ごす時でも八幡は時々こういう風にふと、悲しい瞳をすることがあると仗助や康一から聞いたことがある。

それでも、八幡は逃げずにこうして俺達と向き合い、罪を認めて今はこうして仲間の為に奔走しているんだ。

そして、俺達もそれを受け止めて迎え入れている。

 

小町「かーくんは本当に億泰さんのお父さんが大好きだねぇ。なんか妬けちゃうな」

 

虹村「♪♪♪♪」

カマクラ「ゴロゴロ…」

 

八幡「すいません。しんみりさせちゃいましたね」

 

八幡はハッとした後に俺達に謝罪した。

 

仗助「気にすんな。過去は過去。もう今があるんだから良いじゃあないか。なぁ、億泰」

 

仗助は俺の肩を抱いて話しかけて来た。

そして真剣な表情になる。

 

仗助「一人で大丈夫なのか?億泰」

 

億泰「大丈夫だ。もう俺の腹のなかぁ決まってる」

 

歩きながら目的の場所に到着した。

そこには俺が今日会う人物が既に待っていた。

 

仗助「そっか。頑張れよ、億泰。じゃあ俺は実家で待ってっから、後でどうなったか教えろよ」

 

そう言って仗助や他のみんなはバス停の方へと歩いて行った。

さて、覚悟は決めてある。もう行くしかねぇよな。

そして俺はカフェ・ドゥ・マゴに入る。

 

億泰「待たせたな。音石」

 

そう、今日会う約束をしていたのは音石明だ。

あの決戦の祝勝会以来、こいつとは会っちゃぁいなかった。

こいつは俺への罪悪感から、俺は心の整理をつけるために時間が欲しかったから。

それが今日、やっと会う決心が付いた。

 

音石「虹村億泰さん…」

 

億泰「止してくれねぇか?おめえにさん付けで呼ばれると蕁麻疹が出そうだぜ。いつも通りにフルネームで呼べよ」

 

音石「済まない…」

 

音石の表情は緊張からか硬いぜ。

まあ、罪悪感を持つ相手を前にしたら、誰だってこうなっちまうか。

いま、玉美を呼んで「錠前」をやって貰ったら、面白いことになりそうだなぁ。

まあ、そんな事をしちまえば、こいつの覚悟に対して泥を塗っちまう。

 

音石「虹村億泰…俺は…」

 

億泰「音石よぉ、俺はオメェの事は、一生許さねぇ…」

 

俺は頬杖を突いて外を見ながら口にする。

 

音石「…………そうか。わかった…なら俺は二度と…」

 

音石は残念そうに頭を下げて立ち上がろうとする。

 

億泰「…と、アメリカへ行く前までは思っていたんだがよぉ…」

 

え?と音石は動作を止めて俺を見る。

 

億泰「今日、ここに来るまでに俺と一緒にいた奴、オメェがサバンナで助けたガキがいるだろ?」

 

音石「比企谷八幡…だな?」

 

億泰「ああ、あいつの前世って誰だか、オメェ知ってっか?」

 

音石「いや…」

 

億泰「あいつの前世はDIO。いや、正確にはDIOとジョースターさんの祖父、ジョナサンが融合した魂って話らしいんだけどよぉ、DIOは俺の親父をあんなにしちまった原因らしいんだよ。そして八幡は転生した今でもその事に罪悪感を感じているらしいんだ」

 

俺は目だけを音石に向けながら話した。

音石は俺の話を聞いて、俺を見る。

 

億泰「俺に対してだけでもそうなんだ。あいつは仗助を始めとして、ジョースター家の人達と顔を会わせるとき、一体どんな気持ちなんだろうな?それに、オメェはいろはの事も知ってるよな?」

 

音石「あ、ああ…比企谷八幡のガールフレンドだな?」

 

億泰「いろはも前世を持っていてよぉ、いろはの前世はエリナ・ジョースターと言ってよ、DIOに殺されたジョナサン・ジョースターの妻だったらしいんだよ。つまり、ジョースターさんのおばあさん、そして空条貞夫さんの奥さんの実の曾祖母だ」

 

音石「ホリィさんの曾祖母が一色いろはの前世…それじゃあ、比企谷八幡は…ホリィさんの曾祖母の旦那さんの前世であり、仇…」

 

音石は今や空条家とは懇意の関係だ。

かつては承太郎さんを殺そうとした前歴があるから複雑だろうが、八幡の人間関係はもっと複雑だ。

なんせ前世の自分を殺したのはその承太郎さんなんだからなぁ。

 

億泰「それだけじゃあねぇ。いろはは花京院さんって言う、ジョースターさんや承太郎さんがエジプトでDIOを倒す為に一緒に行った仲間の親戚なんだけどよ、その花京院さんを直接殺したのもDIOだ」

 

音石「そ、それは……」

 

億泰「いろはやジョースター家、俺だけじゃあない。アメリカで共に旅をしてきた中で、直接DIOと因縁が無かったのは、パッショーネのミスタくれぇなもんだ。因縁がある中では俺の因縁が一番軽いかも知れねぇ」

 

俺は再び外に視線を向ける。

あいつ…八幡の心の中を考えながら…

 

億泰「俺とオメェとにある因縁だってそうだ……あの弓と矢だって、DIOが間接的に関係している。この杜王町で起きた事件だって、全てがあいつの前世が引き起こした事件と言ったって過言じゃあないんだよ。どんな気持ちなんだろうな?あいつと、あいつを取り巻く周りの人間は…どんな罪悪感を持って、どんな気持ちで許していたんだろうな?」

 

そこで俺は付いていた頬杖を止めて、体ごと音石の方に向き直った。

 

億泰「八幡やあいつの周りの人間関係を見ていたらよぉ、思っちまうんだ。俺がオメェに対していつまでも腹ぁ立ててんのは、余りにも人間の器が小さすぎるんじゃあないかってな」

 

音石「億泰…だがそれでも俺はお前の兄に対してやったことは消えないし、許される事ではない」

 

億泰「そうだな。だけどよぉ、オメェはその事を10年以上も経った今でも後悔してるじゃあねぇか?そしてあのアメリカの事件では、オメェは十分力を貸してくれた。俺達を何度も助けてくれたじゃあねぇか」

 

音石は二度も俺達を助けてくれただけじゃあねぇ。

刑務所の中の探索や、DIOの骨の処理、承太郎さんの救出…色々な思いがあった中の一つに、俺への罪滅ぼしもあったらしい。

 

億泰「だからよぉ、もう二度とあんな事を…兄貴に対してやったことを誰にもしねぇって約束するなら、俺はオメェを許しても良いんじゃあねぇかと思ったんだよ。俺は頭がわりぃから、心の整理が着くまで時間がかかっちまって待たせちまったがよぉ、これが俺の答えだぜ、音石」

 

そう言うと、音石は俺の手を握って涙を流しながら頭を下げた。

 

音石「ありがとう…ありがとう!虹村億泰…!誓う!俺は誓うぜ!二度とあんな事は誰にもしねぇ!そして、アメリカの時のように、俺の力が必要なら、いつでもどこでも仲間の為に駆けつけて力になる!」

 

音石は肩を震わせて号泣していた。

本当に改心したんだなぁ、こいつは。

 

億泰「だからよ、音石。オメェは胸を張っていつでもこの杜王町に帰ってこいよ!オメェは杜王町が生んだ世界的ウルトラスーパーギタリストなんだろ?故郷に錦を飾らなくてどうするんだよ!」

 

音石「ああ…ああ!心に整理を付けたら、いつかこの杜王町に帰ってくる!それまで待っていてくれ!」

 

億泰「あと、今まで送ってくれた金は返すぜ。俺にとっちゃあ、あんな金よりもアメリカの一件での方が何十倍も価値があったんだ。俺はくれるっつうんじゃあ病気と悪評以外は何だって貰う主義だが、あれ以上の物は受け取れねぇ。あの金に込められた気持ちだけを俺は受けとる事にしたぜ」

 

音石「だが、あの金は…」

 

億泰「ならよぉ、返した金の分だけ、オメェの新曲のディスクと、近くで公演がある時にはチケットを送れ、それでライブの後の酒でも奢ってくれりゃあそれで良い。それならどうだ?正直よぉ、あの祝勝会でのオメェのライブを聞いていたらよぉ、気に入っちまったんだよ。だからまた生で聞きてえんだ。な?それなら良いだろ?」

 

音石「それなら勿論だ!必ず送ろう!そうだ、東方仗助や比企谷八幡達も誘おう!その中で最高のステージでギターを弾きたい!」

 

億泰「そうだな!だったらパッショーネのジョルノ達が来たときとかもよぉ………」

 

俺達はこれまでのわだかまりが嘘のように話が弾み、気が付いたら何時間も話をしていた…

 

 

side東方仗助

 

仗助「だってよ、良かったぜ、億泰!さすがは俺の自慢の親友だぜ」

 

俺と八幡はジョジョ達女性陣と億泰の親父だけを帰し、カフェ・ドゥ・マゴの奥の席で億泰達の話を聞いていた。

 

仗助「それによ、八幡。億泰の言うとおりだ。前世がどうあれ、今はもうオメェが気にすることなんて何もないんだぜ?俺達はもう、家族じゃあないか。なあ?」

 

八幡はそれに答えず、目を瞑って黙っていた。

承太郎さんの言葉を借りれば、やれやれだぜ…だな。

こいつが抱えている前世の罪悪感はそうそう消えることはないだろう。

 

八幡「それでも…それでも俺は…俺の前世は間違っていた。いくらお前達が許してくれてもな。だから、俺は今度こそ間違えない。そして立ち向かってやる。真実のその先にな…それが俺の贖罪だ」

 

そう言って八幡は店を出ていく。

やれやれだぜ。あのひねくれものめ…。

その隣には俺達が立っていて、その背中を俺達が守ってやるってのに。

俺も伝票を持って立ち上がる。

小さな弟分の背中を追うために…

 

仗助「良かったな、億泰。グレートだぜ、オメェはよ」

 

一回振り替えって自慢のオールバックを撫でながら、俺は今度こそ会計を済ませて店を出た。

 

←To be continued




今回はここまでです。

次回もまた、よろしくお願いいたします。

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