side静・ジョースター
楽しい楽しい(私的には)食事会は終わり♪
食事中は叫び声と、「ぉ、ぉいひぃぃぃぃぃ!」とか「ぅんまぁぁぁぁぁぁい!」が交互に響いていた。
もっとも、治療中の者は食べるのに夢中だったり、能力にはまっている自覚が無いのか自分がどうなっているのかわかっていない。
ドン引きしていたのは該当していない症状を普通に食べていた者達である。
三浦「……アイツに取りついたヒキオが使った能力はトニオさんの能力だったんだ……。あれの能力をまた味わうとか………」
三浦も肩凝りに悩まされていた一人だった。
いろは「エメラルド・ヒーリングをしてからトラサルディに来るべきでしたね?」
えー………それじゃあ面白くないじゃん?
三浦「まぁ、味は雲泥の差だったけどね」
そりゃそうでしょ。
そもそも腕前そのものが違うし、トニオさんとハッチとではその心意気からして違う。
確かにイタリアンだけで言うならばハッチはプロ並の腕前はある。でもね?プロだってピンからキリまであるんだよ?
確かに億泰さんはハッチのイタリアンに合格点は出したけれど、「ぅんまぁぁぁぁぁぁい!」までには当然ながら至っていない。
「まぁ、うまいんじゃあねぇの?」くらいのレベルだ。私だって億泰さんには「おおっ!うめえじゃあねぇか!」程度。
更にトニオさんはお客さんの事をよく考えている。
静「三浦。私のこの娼婦風スパゲティを食べてみなよ」
三浦「あ?同じじゃあないの?それにあーし、歯が生え変わるのはもう勘弁なんですけどぉ?」
静「虫歯が治ったんだからもう大丈夫だって。ほら、食べてみ食べてみ?」
三浦「わかったから………」
三浦は丁寧にパスタを巻き取り、娼婦風スパゲティを口に運ぶ。
三浦「っ!辛さがキツくない!違う!あーしのパスタとは明らかに違う!けどうまい!ぅんまぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」
流石はトニオさん。個人の好みから外れていても旨いパスタを作るとは……。
そう。私もジョルノ兄さんのお仕置きはよく食らう方だ。刺身や寿司にはワサビを使わないし、餃子にラー油は使わない。ピザにタバスコ?冗談でしょ?
辛いのは苦手だ。トニオさんはそれをよく知っており、私の娼婦風スパゲティは辛さが抑えてある。
下手をしたら子供用のけーちゃんや留美のスパゲティよりも甘めかも知れない。
対して三浦の娼婦風スパゲティを一口食べてみる。
静「かっっっっっっらぁぁぁぁぁぁ!」
思わず涙が出てくるほど辛い!いくらトニオさんの料理でもこれは無理!旨いけど無理!
そうだった!三浦の前世のアヴドゥルは中東出身だったんだ!
辛い物がふんだんに使われる地域!
だから三浦のパスタは(私にとっては)めちゃくちゃ辛い!
陽乃「わたしの娼婦風スパゲティも今日は辛さが抑えられているヤツだよ?普段は辛めなんだけどね?」
小町「これがトニオさんの料理だよ。同じ料理でも一人一人に合わせた味をお客さんに出すんだ」
いろは「だからはるさんのパスタも口内炎であることを考慮してトニオさんは作ったんですよ」
汗が止まらなくなり、ヒーヒー言っている私に代わってイーハとマーチが答える。
この実力がトニオさん………本名、アントニーオ・ヴォルペさんが天才だと言われる所以なんだよね。
そう。トニオ・トラサルディーはトニオさんの本名じゃあない。
アントニーオ・ヴォルペ……
それはパッショーネにも関わりがある悲しいトニオさんの過去であり、本名。トラサルディーは母方の姓。
トニオさんは元々イタリアの貴族の跡取り息子だった。もっとも、既に没落した家だったようだけど。そしてトニオさんが料理人を目指した事で家を勘当され、家督は弟に譲られた。
家を出奔したトニオさんは料理人になるべく修行の旅に出る。
トニオさんは生まれつきのスタンド使いだったようで、修行中にパール・ジャムの能力に気付く。
それを活かすべくトニオさんは東洋医学を学び、同時に天才的な料理の腕を磨いて祖国に帰郷。
しかし、イタリア料理界はトニオさんを受け入れる事はなかった。若造扱いをされ、認められなかった。
そこでトニオさんは日本に目を向ける。競争は激しいが、他国の文化に対しては寛容な日本ならば自分の料理を受け入れてくれるのではないか……と。
そしてこの杜王町にやって来た。
適度に都会、適度に田舎である杜王町は、海の幸も山の幸も豊富で流通も悪くない。
以来、この霊園が目の前という一風変わった小さな『トラサルディー』を構え、杜王町屈指の人気の店となる。
しっかりと根の張ったトニオさんは、クロアワビが切っ掛けでかつて救った女性、ヴェルジーナさんを妻に迎えて現在に至る。
ヴェルジーナさんは料理等を手伝うことはないが、会計や皿洗い、店の経理などの裏方に従事している。
料理人、トニオ・トラサルディーとしては順風満帆な人生。
そう、トニオ・トラサルディーとしては……。それで終わるのならばまだ救いはあった。
しかし、その家庭環境は……アントニーオ・ヴォルペとしては……どうだろうか。
それは私達ジョースター家も関わっている。
悲劇はジョルノ兄さんがパッショーネを掌握した後に起きた。
フーゴさんの事件の時にヴォルペ家を継いだトニオさんの弟の麻薬チームとフーゴさんの麻薬撲滅チームが衝突。
激闘の末にフーゴさんの強化されたパープル・ヘイズ…パープル・ヘイズ・ディストーションの強化殺人ウイルスにより死亡した。
後で財団がマッシモ・ヴォルペの事を調べ、アントニーオ・ヴォルペの事が判明。それがトニオ・トラサルディーであることに行き着いたパパ達は仰天した。
まだハッチ達と出会う前の事だった。
仮にマッシモ・ヴォルペがフーゴさん達に始末されて無かったとしても、SPW財団とマッシモ・ヴォルペはぶつかり合う運命だっただろう。
何故ならマッシモ・ヴォルペは……石仮面の事を調べていた。柱の一族の眷属たる吸血鬼を生み出すあの石仮面の事を……。
見る人が見れば人を超越した力を得る事が出来る吸血鬼。でも私達ジョースター家は吸血鬼が人を超越した存在だとは認めていない。むしろ人を棄てた力だと考えている。
それは………いや、それについては今は考えまい。
答えは平行世界の忍さんが関わるあの力を調べてからだ。
全てを知ったパパと承太郎おじさんはトニオさんにその事を伝えたらしい。するとトニオさんは少し考えた後に涙を流したそうだ。そしてパパ達に「弟を……マッシモを止めてくれてありがとうございます。……私が絶縁状態になった後、実家がそんな事になっていただなんて…知らせて頂いてありがとうございました……」と言っていたらしい。
その話をすると、トニオさんは笑ってこう言う。
トニオ『私はパッショーネを……ジョルノさんやフーゴさんを恨んではいませんよ。むしろ感謝をしています。人の人生を狂わす麻薬……そして石仮面に手を出し、人類の敵に堕ちようとしていた弟を止めてくれたのですから』
と言う。
しかし、本心はどうなのだろうか?
トニオさんはいい人だ。いい人過ぎると言えるくらいにいい人だ。
何故なら勝手に厨房に入ったかつてのお兄ちゃんを…包丁を投げつけるくらいに頭に来た相手であるお兄ちゃんが出入り禁止にしなかったくらいにいい人だ。
その友人である億泰さんを追い出さず、そのまま食事を丁寧に出すくらいいい人だ。
私は舌鼓を打つめぐり先輩を見る。
吉良吉影の事件の時、迷惑な客だったお兄ちゃんに協力してくれたらしい。そして、個人的には無関係だった杉本鈴美さんの成仏の時も見送ってくれたらしい。
トニオ「おおっ!あなたが鈴美さんの!文化祭のご招待、あーりがとうございました!とてもー、楽しかったでーす!」
めぐり「いいえ!私も成仏するときに見送って頂きましたし、いつもトニオさんは私のお墓にお供えして下さってるんですよね?嬉しいですよー。また千葉に来て下さい!案内しますから!千葉のピーナッツもあげちゃいますよー?」
トニオ「おー!千葉のピーナッツは有名でーす!それを使った料理を考えてみまーす!もちろん、出来上がったらあなたにも食べて頂きたいでーす!」
めぐり「ホントですか!やったー♪嬉しいね?アーノルド?」
ハンゲツ「ワン!」
カマクラ「ニャー」
サブレ「ZZZ……」
ペットショップ「クエ♪」
何故かいる動物組と共にハンゲツが鳴く。
店内に入らなければ動物組もオーケーだとか。
いい人過ぎるトニオさん。
そのトニオさんが私達ジョースター家やパッショーネと関わっている時、その内心はどうなのだろうか。
トニオさんが料理の続きをするために店内に戻る。
私はトニオを追って店内に入る。
静『トニオさん………』
トニオ『おや?どうしましたか?静さん』
私は意を決してトニオさんに尋ねる。
静『トニオさんは本当に……ジョースター家を恨んではいないのですか?本当は………トニオさんはジョースター家を………』
トニオ『ストップですよ。静さん……暫くお待ち下さい。まだ料理の途中ですが、先に貴女に必要な料理を出す必要があるようですね?』
静『私に?』
トニオ『ええ。時間は取りませんので』
そう言ってトニオさんは厨房に戻り、暫くしてからティーカップを持って戻って来た。
トニオ『ハーブティーです。どうぞ』
私はトニオさんの出したハーブティーに口を付ける。
ハーブ独特の匂いと、雪ノ下が淹れてくれるような紅茶の味が口を満たす。
すると、胃と頭が熱くなり………(暫くグロい描写が続きますので自粛)。
静『ハァ………ハァ………』
酷い目にあったけれど、終われば私の胃と頭はスッキリしていた。
トニオさんはそんな私を優しく見つめる。
トニオ『大きく……そして綺麗になりましたね?静さん。初めて貴女を見たときは……まだとても小さな赤ん坊でしたのに………時の流れというのを感じます』
トニオさんはより微笑みを深くする。
トニオ『杜王町に来てから十数年……。赤ん坊だった貴女が今では立派な年頃の乙女となりました。貴女の成長ほど、時の流れを感じることはありません』
一回トニオさんは言葉を切り、そしてハーブティーを差す。
トニオ『一般的にもハーブティーは人の精神に安らぎを与える成分が含まれています。私のハーブティーを飲んだ貴女にスタンド効果が現れたと言うことは、貴女は私に対して何かを負い目に感じ、ストレスを抱えていたと言うことです。私は中国で言う医食同源を目指す料理人です。心と体をリフレッシュさせ、お客様を心身共に満足して頂いてお帰り頂く事が私の役目であり、幸福なのです』
知っている。それがトニオ・トラサルディーさんだ。
トニオ『私を見て、ストレスを感じている貴女を…私に罪悪感を感じているジョースター家を見て、私が幸福を感じると思いますか?』
何を言っているのか私は理解出来なかった。今はトニオさんの話をしているのであって、私の話をしているのではなかったのだから。
トニオ『貴女と八幡にもっとも教えるべきだった物はこのハーブティーだったかも知れません。静さん。確かに私は弟の死について、思うことが無かったと言えば嘘になります。しかし、思うのはジョースターさん達への恨み言ではありませんでした。私自身に思うことがあったのです』
トニオさんはそこで自分用のハーブティーを口にする。
しかし、私に起こったスタンド能力が発動することは無かった。
トニオ『今は料理中ですからね。パール・ジャムはこれには入ってないですよ。もっとも、入っていたとしても発動なんてしなかったと思いますけどね。私の中では既に割りきっている話ですから』
トニオさんはもう一口、口にする。
トニオ『私は後悔しました。いくら絶縁したとはいえ、実家を顧みなかった事に……もし帰っていたならば、父の麻薬中毒を治せていたかも知れない。弟と向き合って踏み外していた道を戻せていたかも知れない……ジョースターさんの報告を聞いて暫くは……そんなことばかりを考えていました。眠れぬ夜もありました。私も人間ですから………ストレスを感じてしまうこともあります』
そして今度は私のティーカップを指差す。
トニオ『そんなとき、私はこのハーブティーを飲みます。一時はこのハーブティーに依存しかけた事もありました。眠れぬ夜を明かした朝は、睡眠不足を解消するために水を飲みました。今を思えば体に良くないことをしていましたね。ですが……』
トニオ『一年が経ち、二年が経ち………気が付けば時間が解決していました。今でも時々思い出しては後悔する日もありますが………ですが、もう終わった事なのですよ。静さん』
トニオさんはまた、ハーブティーに口を付ける。
トニオ『静さん。このハーブティーを是非とも貴女と八幡さんに伝授したいです。何の変哲もない特別な事など何もないハーブティー。ですが、このハーブティーこそ私は二人に教えたい』
特別な事など何もない……と言っているトニオさん。でも、このハーブティーにはどれだけの思いが込められているのだろうか。少なくとも、トニオさんにとっては大きな意味がある……私はそう感じずにはいられなかった。
トニオ『さぁ、お友達が待っていますよ?私も料理の続きをしなければなりません』
トニオさんはカップを持って立ち上がる。
トニオ『今日、杜王町を発たれるのでしたね?また、いつでも来て下さい。心より『いらっしゃいませ』と迎え、心より『またのご来店をお待ちしております』…と心身共にリフレッシュした貴女方を見送りましょう。これが貴女への答えですよ。静さん』
言いたいことはあまり理解できなかったけれど……それでもトニオさんの心遣いだけは理解できた。
やっぱりこの人は凄い人だ。
スタンドとはその人の本質を如実に現す。トニオ・トラサルディーさんの本質は……どこまでも真心でできていた。
スタンド能力か、それともトニオさんの心に触れた故か、席に戻った私の心は軽い。
女子会は女子会らしく、そのままコイバナに突入。
そしていつしか会食は終わりを告げる……。
そして、ハッチ達男子も加わり、私達は心身共に満たされてトラサルディーを去る。
トニオ「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」
女子達「はい!また来ます!」
sideなし
杜王町にある霊園。そのすぐ近くにあるイタリアンレストラン『トラサルディー』
そこは店が小さく席が二つ、メニューも存在せずに看板に書かれている言葉はお客様次第という一風変わった名物なレストラン。
しかし、そこを訪れた客は真心に満たされた絶品料理に舌鼓を打ち、心身共に満たされて帰って行くこと間違いない。
杜王町ナンバーワンのレストラン、トラサルディー。
あなたのご来店を心よりお待ちしております。
杜王町観光協会パンフレットより……。
※予約必須
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