やはり俺の奇妙な転生はまちがっている。   作:本城淳

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つつがなく会議は躍り、されど進まず

side雪ノ下雪乃

 

結衣「たはは……かおりん、相変わらずグイグイと来ていたね………」

 

私が着席すると、由比ヶ浜さんが耳打ちをしてきたわ。

 

雪乃「あなたも負けず劣らずだと思うのだけれども…」

 

結衣「え?そーかなー?」

 

特にいつものように抱き付いてくるのは私もちょっと…。夏場なんて本当に暑苦しかったわ。特に一部が押し付けられるのは………その………私の一部のプライドが毎度毎度粉々に打ち砕かれるのよ。

悪気が無いのが逆に性質(たち)が悪いわね。

同性でもセクハラと言うものがあるのよ?訴えるつもりは無いのだけれども。

 

雪乃「ほら、始まるわよ」

 

結衣「あ、う、うん」

 

まぁ、庶務の由比ヶ浜さんはあまり発言はしないと思うけれども。

そして、意識を会議に集中するわ。

コの字型になっている席の配置。そこの右側の端に私達総武高校の生徒会が配置されたのだけれども、普通は均等に配置されないかしら?

この席次には玉縄君も眉をピクリと動かすけれども、他の人達は特に気にしているようには見えないわね。

こうして改めて見てみても向こうの方が数が多いわ。人数的には倍近い差があるのだけれども、実質的な人数よりもその差は大きく感じられたわ。その最たる理由は騒がしさにあるかしら。海浜総合高校の方は男女入り乱れて何とも賑やかなのだけれども、総武高校の方はどうにも静かだわ。

あちら側が言い出した事なのだから、気合いの入れ方は違うのは仕方がないわ。主催と協賛のようなものね。それは席次にも現れているわ。

海浜総合の方がメインでうちの方はサポートという形かしら?もっとも、この段階では時間的にそうでなければ困るのだけれど。

 

神木「えー、じゃあ会議を始めまーす。よろしくお願いしまーす」

 

神木君の合図でとうとう会議が始まったわ。一方で玉縄君は仲間の一人に声をかけ、ホワイトボードの前へと行かせるわ。キュッキュッとペンが走る音が響き、それを横目で見ながら神木君が口を開いたわ。

 

神木「それじゃあ、ブレインストーミングからやっていこうか」

 

ブレストね。細かい定義はあるけれども、要は集団で自由にアイデア出しをしていくというものよ。

 

神木「議題はイベントのコンセプトと内容面でのアイデア出しを……」

 

はぁ………冗談だと思っていたのだけれど、本当に何をやるのかすらも決まっていない上での合同イベントなのね?それも企業まで巻き込んで。

 

雪乃「本当にダメなのかも知れないわ………」

 

もしくは、ここにジョースターさん達を呼び寄せるだけの口実なのか……。

 

結衣「ゆきのん?どうして?」

 

雪乃「こんなギリギリで持ち掛けてくるイベントなのだから既にある程度の事は考えているのかと思っていたわ。それか、もっと前の段階から合同の打診とかを持ち掛けてくるかよ」

 

結衣「でも、文化祭とかはそれでも間に合うよね?」

 

雪乃「学校の行事とかじゃあないんだもの。企業が絡んで来るからには、それなりの計画とかも必要だわ。ジョースターさん達は、クリスマスイベントの事に関しては前々から計画していたでしょう?」

 

結衣「あ、確かに臨時のバイトを募集していたね?文化祭の時からだったっけ?」

 

雪乃「元々毎年恒例なのだから、私達と出会う前から計画していたのでは無いかしら?特に貞夫おじいさまやトリッシュ姉さんのような大物芸能人のスケジュール管理を含めて計画を立てていたのだし」

 

結衣「たははは………ゆきのん、もうすっかりジョースターの一員みたいだね………貞夫おじいさまって……」

 

雪乃「由比ヶ浜さん?論点はそこではないでしょう?今はエンポリオ君の事は関係ないわ」

 

結衣「あたしもリオっちの事とは一言も言ってないよ?」

 

あなた、そういう方面だと変に鼻が効くのね?

由比ヶ浜さんのこういうトラップに引っ掛かるだなんて屈辱だわ………。

これが恋人のいる人達のゆとりというものなのかしら?

いえ、今はそんな事を考えている場合では無いわね。

クリスマスイベントに関しては財団の方も東北支部との合同で考えているようなのだから、先日お世話に(ついでに姉さんが迷惑をかけた)なった川尻さんも関係することよ……。

川尻さんはエンポリオ君と友人なのだから、迷惑をかけるわけにはいかないもの。

私達がヒソヒソ話をしている間に海浜総合高校から次々と意見が出てくるわ。演劇、聖歌隊、バンド………。

バンドは良いかも知れないわね。文化祭での姉さんや隼人くん達とやった時間稼ぎのバンドは今でも忘れられないわ。

そうしている間に、向こうの誰かが言ったわ。

 

海浜総合生徒「俺たち高校生への需要を考えると、やっぱり若いマインド的な部分でのイノベーションを起こしていかないと……」

 

一理はあるわね。

またしても向こうの誰かが言ったわ。

 

海浜総合生徒「そうなると、当然、俺達と財団側とのWINーWINの関係を築くことを前提として考えなきゃだね」

 

え、ええ。まぁ、わかるわ。財団側とのパイプを作れる良い機会だもの……。もっとも、財団としては地域に根差した経営をしている事をアピールする為のパフォーマンスくらいにしか考えていないから、そこまでの大掛かりなものを期待しているとは思えないのだけれど…。

さらに向こうの誰かが言ったわ。

 

海浜総合生徒「そうなると戦略的思考でコストパフォーマンスを考える必要があるんじゃあないかな。それでコンセンサスをとって……」

 

え、ええ……。た、確かにコストパフォーマンスを考えることは重要ね?

全体的な予算を考えるのは財団の方だとは思うのだけれども、こちら側も考える必要があるわ。

でも………。何かしら?この会議。

結局、何をやりたいのか全然わからない上に、彼らが何について話しているのかもよくわからないのだけれど。理解が追い付かない私がわるいのかしら?

(これは決着が付くのかしらと)不安に思って反対側の玉縄君を見てみると、玉縄君は両肘を机に立て、手を口の前で組んで黙って様子を眺めていたわ。

まるでどこかの特務機関の司令のような様相だわ。

妙な存在感と貫禄が出ているのは気のせいかしら?

 

結衣「ねぇゆきのん……これ、何やってるのかな…」

 

由比ヶ浜さんに小声で話しかけられるのだけれど、私も首をこてりと傾けるしかなかったわ。

 

雪乃「…………さぁ?向こうが提案しているようなのだけれど、具体的な案はあまり出ていないようね……」

 

本当に何をやるのか聞きたいのだけれど、全然中身がある話し合いはしていないわ。

その点については議事進行を務める神木君も感じたようね。

 

神木「みんな、もっと大事な事があるんじゃあないかな……」

 

神木君が重々しい口調で言うと、玉縄君以外のみんなに緊張が走ったわ。流石に発起人というだけあって、その威厳も中々のものなのかしら。次に彼が何を言うのか、注目が集まるわ。

 

神木「ロジカルシンキングで論理的に考えるべきだよ」

 

ガクッ!

思わずずっこけそうになってしまった私は悪くないと思うの。

今の、同じ事を言っていないかしら?何回論理的に考えるのかしら。論理的に考えることを考えるの?それ自体がすごく無駄に感じるのだけれど……。

 

神木「お客様目線でカスタマーサイドに立つって言うかさ……」

 

だから、それは同じ事を言っていると思うのだけれど。何回お客様になっているのかしら………。

 

雪乃「ハァ………」

 

私はあからさまに溜め息を吐き、頭に手を置いたわ。

海浜総合の皆は玉縄君以外、なるほどーみたいな表情で、きらきらした眼差しを神木君に向けているわ。

駄目だわ……この人も他のメンバーと同じ人間っぽいわね。

というよりは、恐らくは似たような人間が集まったか、あるいは意図してあつめたかのでしょうね。

 

生徒1「ならアウトソーシングも視野に入れて……」

 

外部委託ね。

そもそもそれ自体は財団が募集しているのだし、合同イベントでやる意味があるのかしら?

 

生徒2「でも今のメソッドだとスキーム的に厳しいよね」

 

今の方法だと計画的に厳しい……と言いたいのかしら?

何でわざわざ英単語で言うのかしら?

由比ヶ浜さんも本牧君達も完全に話の流れに付いていけていないわ。

 

神木「なるほど。じゃあ、いったんリスケする必要があるね」

 

リスケってリスケジュールの事ね。つまり、決まっていた計画を立て直すという意味なのだけれども、何1つ決まっていないのに何を白紙に戻すのかしら?

コレが億泰さんなら「リスケ?おお、牛タンの美味しい店か?それならば杜王町にいっぱいあるぜ?テールスープが絶品の店がよぉ?」とか言いそうね?

 

結衣「リスケ?あっ!牛タンの美味しい店?でも牛タンと言えば杜王町が本場だよね?はるのんさんが川尻さんと行っていたお店は美味しかったって言ってたっけ?」

 

流石は女版億泰さんこと由比ヶ浜さんね……。こういう時には外さないからある意味では安定だわ。

俗語で「お約束」……だったかしら?

あと、舌が肥えている姉さんが絶賛するくらいなのだから、そのお店はかなり美味しいと思うわ。

姉さん、今度連れてってくれないかしら。

もっとも、姉さんが「ワサビの刑」を思い出すトラウマになっていなければ……の話なのだけれど。

 

雪乃「由比ヶ浜さん……リスケと言うのはリスケジュールの事よ。計画を見直すことを言うのよ」

 

結衣「ほえ?でも何も決まってなくない?」

 

総武高校生徒会役員「ぶふっ!」

 

由比ヶ浜さん……あなた、たまに鋭い切り口で容赦ない一言を入れるわね。

確かにその通りなのだけれども、悪意や自覚が無いだけに却って容赦のないツッコミになっているわ。

 

玉縄「………そうだね。リスケする、しない以前の問題だね。この後の会議がどうなるのか、大体想像が付くよ。革新的なイノベーション、対話と交渉のネゴシエーション、解決策はソリューションとか」

 

これまで黙って様子を見ていた玉縄君はまるでろくろを回すかのような手振りを交え、そしてヒップホップを歌うかのように神木君達の真似をするわ。

これが性悪コンビならば本当に歌い出しそうだわ。

由比ヶ浜さんと違って悪意をマシマシで。

神木君以下の人達の事を何て言ったかしら?

 

玉縄「意識が高いのは結構な事だけど、中身がスカスカ過ぎるんじゃあないかな?財団はいつまでも待ってくれる訳じゃあない。利益が絡んでいる以上、今日明日くらいには何をやるか程度までは決めなければならない。それなのにこの体たらくは何かな?神木くん」

 

そうそう。意識が高い……だわ。

私はそういう俗語には疎いから、思い出すのが時間がかかるわ。

 

神木「そうだね。それをこれからみんなで考えよう」

 

玉縄「なるほど………」

 

納得してしまうのね?玉縄くん。それでは……

 

玉縄「みんなでこれだけ長い時間考えて、この体たらくと考えるべきかな?」

 

ドォォォォォォン!

 

「!?」

 

海浜総合高校側全員に衝撃が走ったわ。

自分達のリーダーから歯に衣着せぬこの一言。

ほとんどもう直接的に無能と言われてしまったものだもの。

海浜総合高校の生徒会の人達からは裏切られたというような表情をしている人がいるわ。

 

玉縄「そもそも、何故SPW財団に打診したのかがわからない。何か意図があるのかな?例えば……」

 

玉縄君は神木くんに鋭い目を向けるわ。

 

玉縄「SPW財団はジョースター家と密接な関係がある。そのジョースター家に何か恨みがあるとか……?」

 

雪乃&結衣「!?」

 

玉縄君の一言に対して、神木君が顔を伏せるわ。そして、ぶるぶると肩を震わせる。

 

神木「…………ここまでか」

 

神木君は何かを取り出すわ。あれは……写真?

 

神木「こうなったら仕方が無いね。玉縄……まさかお前がバッドエフェクトプランになるなんて思わなかった!もう後の事なんて知ったことない!キルゼムオール!」

 

計画の弊害に皆殺しですって!?

神木君はペンを持って写真に線を入れるわ。

 

玉縄「ぐわぁぁぁぁ!」

 

玉縄君の腕が………切断されたわ。まさかこれって……比企谷君が昨日受けていた攻撃!?

ジョースターも幼なじみーズも転生者もいない戦いが……始まってしまったわ……。

 

←To be continued




はい。本編は久しぶりの更新となります。

味方は雪乃、結衣、折本、仲町!
攻撃を受けた玉縄も果たして味方か敵か、それとも第三勢力か!?

それでは次回もよろしくお願いいたします。

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