八幡のラブコメを観察したいのに、どうして私とラブコメするの!?   作:Faz

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第一話 こうして私の『俺ガイル』観察が始まる?

 ――総武高校に入ってからはやニ年と少しが経ちました。

 

 所謂(いわゆる)転生というものを体験して前世大好きだったライトノベル『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。』の世界に生まれ落ちた私は、持ち越した知識をフルに活用して天才と呼ばれながらもこの高校に入学しました。

 就職先も引く手あまたな私がやりたかったのは、原作の様子を間近で見る事。主人公である比企谷八幡とヒロインたちの甘くも切ないラブコメを傍からじっくりと見ようと思っていたのです。

 その為に総武高校に受験し、見事に主席として入学したのですが。

 

「……まさか皆が一個下とはねぇ」

 

 前世の記憶を持っても努力は怠らず原作では雪ノ下雪乃が所属していた国際教養科であるJ組に入学したのはいいものの、当人が居ない事に気が付きました。

 まさか学年が違うのか? そう思い上級生をくまなく探した所、三年生に雪ノ下先輩が居ました。

 

 ……いやまぁ、雪ノ下陽乃先輩だったけど。

 

 そうしてメインヒロインである雪ノ下雪乃の姉、陽乃先輩と仲良くなりながら(どうやら気に入られたらしく、外面ではない陽乃先輩と話す事が多かったけど)その翌年、遂に八幡たちが入学してきました。

 しかし先輩という立場もあり自然に近付く事は容易では無かったので、去年から平塚静先生と一緒に立ち上げた奉仕部の部長として雪ノ下雪乃さんが入って来るを待つ事になりました。

 

「何をぶつぶつ言っているんですか、円加(まどか)先輩。それに足をジタバタさせないで下さい、はしたないですよ。コーヒーが出来ましたから落ち着いて下さい」

「お、ありがとね雪乃ちゃん。ただ考え事をしてただけだから何でも無いよー」

 

 そしてこのように現在三年生の春、去年の夏から我が奉仕部に入った雪乃ちゃんと二人で活動をしています。

 まさに計画通りってやつですね!

 原作では長机の端に座っていた雪乃ちゃんですが、私の必死の働きかけによって二人仲良く並んで座っています。

 ……時々手が触れ合うくらいまで近いのは私の事を友人だと認めてくれているからかな?

 

「考え事ですか? 私でよければお聞きしますが」

「いやいや、本当に大した事無いから! ふぅ、雪乃ちゃんの作るコーヒーは美味しいねー」

「ありがとうございます。……何か困った事があれば、相談に乗りますからね?」

「うん、ありがとねー。優しい雪乃ちゃん大好きだよ!」

「だ、だいっ!?……ごほんっ、せ、先輩は直ぐにそうやって」

 

 あらら、今度は雪乃ちゃんがぶつぶつ言い始めました。

 何を言ってるのかは分かりませんが何か悩みがあるのでしょうか? 原作通りだと陽乃さんに対するコンプレックスとか、人付き合いとかかな。

 

「雪乃ちゃんも困った事があったら何でも相談に乗るからね! お姉ちゃんにまっかせなさい!」

「……はい、ありがとうございます。そろそろ足を止めて下さい、ジタバタすると埃が舞うので」

「あ、ごめんなさい」

 

 こうして一週間に一度来るか来ないかの依頼を待ちながら、毎日ゆったりと過ごしています。

 でも今日は特別な日だと言う事が先程職員室に部室の鍵を取りに行った時に分かりました。

 平塚静先生……静ちゃんとある男子生徒が話をしていたからね。

 なので長机の下で足をジタバタさせて、待ちに待ったこの瞬間を楽しみにしているのです。

 

「あっ、来たね。開いてるから入っていいよー!」

「……先輩。私たちが居る限り鍵を閉める事は無いと思いますし、扉の前に人が居るを察知して先に声を掛けるのは怖いので止めた方がいいと思いますよ」

 

 雪乃ちゃんの丁寧なツッコミと共に部室の扉が開き、いつも通り白衣を纏った静ちゃんが腐った目をした男子生徒を連れて入って来ました。

 長机の前までやってきた静ちゃんは片手を腰に当てて私を見ます。

 

「お前は相変わらずエスパーみたいだな進藤(しんどう)

「いやーそれほどでもー」

 

 私は後頭部に手を当てて分かりやすく照れているアピールをしました。

 なまじ身体能力が高い私は耳が良くて部室の前に誰かが来たくらいなら察知出来ます。

 なのでこうして声を掛けるのですが、雪乃ちゃんが初めて来た時とかはビックリして怯えてたなー。怯えてる雪乃ちゃんもギャップがあって可愛かったんだけど。

 

 思い出し笑いをしている私を見た静ちゃんは溜め息を吐き、雪乃ちゃんは読んでいた本を閉じて呆れた声を出しました。

 

「先輩。褒められているのでは無く、呆れられていますよ。それで、そのヌボーっとした人は?」

「え? 私呆れられてるの?」

「彼は入部希望者だ」

「あ、二年F組比企谷八幡です。えっと」

 

 私を華麗にスルーしていく中、(ようや)くこの物語は始まりを迎える事になりました。

 この世界に生まれてからずっと待ち望んでいた原作、主人公とヒロインとの初めての出会いから始まる様々な人間模様をこの目で見る事が出来る。

 原作ファンとしてはこれ以上に無い嬉しい体験でしょう!

 

 八幡の挨拶を聞いた雪乃ちゃんは顎に手を当てて少し考えた後、私の方をチラリと見ました。

 きっと部長である私に確認しているのでしょう、八幡の入部を認めるか否かを。

 勿論私は雪乃ちゃんのスラっとした目を見詰めてブンブンと音が鳴りそうな程に首を縦に振りました。

 八幡が奉仕部に入らないと何も始まらないからね!

 

 その様子を見た雪乃ちゃんは小さな微笑みを浮かべ、頷き返してくれます。

 これが一年を掛けて築いた雪乃ちゃんとの絆だよ!

 アイコンタクトとボディーランゲージで言葉を交わした私たちは静ちゃんの方へと向き直ります。

 そして雪乃ちゃんは歓迎の一言を。

 

「――お断りします。先輩と二人きりの部活にそんな死んだ魚の目をした男を入れるのは反対です」

 

 歓迎の一言? あれ、雪乃ちゃん?

 ……もしかしてこれ、原作始まらないんじゃ?

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