八幡のラブコメを観察したいのに、どうして私とラブコメするの!?   作:Faz

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第六話 そうしてまた私はラブコメの神様の邪魔をしてしまう。

 太陽が真上から日本を照らすお昼頃、グラウンドにはポーンポーンとボールを打つ音が聞こえています。

 私はここ数日イベント事を起こさず自分のクラスからグラウンドを見詰めていました。

 

「まーちゃん、大丈夫? 体調悪い?」

「あのー……めぐりちゃん? 私が平穏に過ごしてたら体調不良になるの? ねぇめぐりちゃん」

 

 心外です。私はただ次の物語が始まるのを楽しみに待っているだけなのに。

 グラウンドの端にあるテニスコート、そこで華奢な身体を動かしている美少女……いや美少年と比企谷くんが接触する機会を待っているのです。

 とは言っても窓から頭を出さないと比企谷くんがお昼ご飯を食べているベストプレイスは見えないんですけどね。

 

「あの、まーちゃん? 飛び降りちゃ駄目だよ? まーちゃんなら大丈夫かもだけど」

「いや、流石の私でも飛び降りたら怪我するからね? 二階とは言え足グキッてなっちゃうからね?」

 

 またしても心外です。

 

「何見てるの?」

「んー? おっ、始まった!」

 

 窓から頭を出して比企谷くんを眺めていると、彼の元に結衣ちゃんが近付いて行きました。

 そして何やら話をしていると先程のテニス少年が二人の元へと歩いて行きます。

 

「な、何が始まったの!? やめてね? 何か変な事を始めるとかじゃないよねっ!? 答えてまーちゃん!」

「よーし、今日は頑張るぞー!」

「まーちゃん! お願いだから変な事しないでねっ!?」

 

 何やらめぐりちゃんが騒がしいですが、そんな事より原作ですよ原作!

 よーし、秘密裏に練習してきたテニスの腕前を見せる時が来たぞ。

 頑張るぞ、オー!

 

「何か言ってよまーちゃんっ!?」

 

 

 

「やっはろー! 依頼者連れて来たよー」

「失礼します、あ! 比企谷くん!」

「……戸塚」

 

 不安そうな表情を浮かべていたテニス少年、戸塚くんは比企谷くんを見て笑顔を見せました。

 傍から見た感じだと少女漫画の一シーンのように感じるのですが、だが男だ!

 

「……それで由比ヶ浜さん。どうして部員でも無い貴女が依頼人を引っ張って来るのかしら?」

「ええっ!? 私部員じゃないのっ!?」

 

 書くよー! 何枚でも書くよー! と結衣ちゃんは泣き叫びながら、鞄から取り出した白紙の紙に平仮名で『にゅうぶとどけ』と書き始めました。

 ごめんね。折角書いてる所悪いけどそれじゃ正式な書類にならないから、こっちの紙に書いてくれるかな?

 

「え、えっと……」

「戸塚。とりあえず座っていいぞ」

「あ、ありがとう比企谷くん。えっと雪ノ下さんと進藤先輩ですよね? 初めまして、二年生の戸塚彩加です」

「知ってるみたいだけど私は進藤円加だよー。三年生でこの奉仕部の部長ねー」

「雪ノ下雪乃です。それで戸塚さん、依頼の内容は何かしら?」

 

 私が渡した入部届を持って職員室へと向かった結衣ちゃんは放っておいて、テニス少年の戸塚くんに話を聞く事に。

 まぁ私はどんな相談か知ってるんだけどね!

 

「僕がテニスを上手くなったら、きっと部員の皆もやる気が出ると思うんだ」

「つまり戸塚くんを最強にすればいいんだねー!」

「最強って、どこの主人公無双を目指してんだよ……」

「分かりました、引き受けましょう」

「引き受けるっつってもどうすんだ?」

 

 比企谷くんがそう聞くと、雪乃ちゃんは立ち上がって得意気な顔をしました。

 その様子に比企谷くんは頬を引き攣らせています。

 

「さっき言ったじゃない? 覚えてないの?」

「おい……まさかあれ本気で」

 

 実は戸塚くんが来る前に比企谷くんから相談を受けていました。

 戸塚からテニス部に誘われた、という言葉に雪乃ちゃんは是非入りなさいと目を輝かせて言いましたが何とか私が引き留めました。

 本当に仲良くなってるんだよね!? お姉ちゃん不安になってきたよ!?

 

 でも普段は貶し合いながらも楽しそうに会話をしているので、若い子の考える事はよく分からんとです。

 そんな二人が先程、テニスを教える方法を話し合っていた時に雪乃ちゃんがこう言いました。

 

『死ぬまで走らせて、死ぬまで素振り、死ぬまで練習かしら』と。

 

 

 

「はぁはぁ……はぁ、はぁ」

「ぜぇぜぇ、も、もう駄目~」

「ほらほら後一周だよー! 頑張って!」

「……部長って学年主席なんだよな? なんで運動まで完璧なんだ?」

「体力お化けね……」

 

 練習する戸塚くんは勿論の事、ダイエットと称して結衣ちゃんも練習に参加しています。

 そして私は二人に追い駆けられております。

 え? 普通のランニングじゃないのかって?

 それじゃあ面白くないからね! 私を捕まえたらランニング終わりっていうルールにしたよ!

 

「……死ぬまで練習って言っておいてなんだけれど、このままだとあの二人本当に死んじゃうわね」

「おい雪ノ下、部長を止めろよ。付き合い長いんだろ?」

「無理よ。暴走状態の先輩を止められるのは姉さんか、生徒会長の城廻先輩くらいね」

「……南無」

 

 それから直ぐ結衣ちゃんがグラウンドに倒れ伏し、雪乃ちゃんに肩を貸してもらいながら木陰へと連れて行かれ、それから数分で戸塚くんもコケてしまいました。

 それに気付いた私は慌てて駆け寄り、失敗してしまった事を悟ります。

 

「ご、ごめんね二人とも! つい調子に乗っちゃったよ!」

「だ……大丈、夫です」

 

 膝を擦りむいてしまった戸塚くんを見て、雪乃ちゃんは何も言わずに立ち去って行きました。

 心優しいけど不器用な雪乃ちゃんは救急箱を取りに行ってくれている筈ですが、戸塚くんには呆れられたように映ったでしょう。

 

「進藤先輩……ごめんなさい、折角練習に付き合ってもらっているのに」

「いやいや! こっちこそごめんね。完全にオーバーペースだったよね」

「雪ノ下さんも呆れちゃったかな?」

「そ、そんな事ないよ! ねぇ比企谷くん!」

「え? あぁ、雪ノ下は努力している奴を見捨てるようなタイプじゃない……と思うぞ」

 

 おお、流石比企谷くんですね。

 短いながらも雪乃ちゃんの性格を確り把握しています。

 そしてそろそろ、あやつらが登場するシーンがやって来ます。

 結衣ちゃんが仲良くしているグループの姫、三浦(みうら)優美子(ゆみこ)さん率いる通称葉山グループの皆さんが!

 

「あれー? テニスやってんじゃーん」

「本当だな」

 

 キタキタキター!

 金髪縦ロールの如何にも傲慢そうな三浦さんと、雪ノ下姉妹と関係のあるイケメン(笑)な葉山(はやま)隼人(はやと)くん!

 その他、海老名(えびな)ちゃんを含めた取り巻きたち!

 

 彼女たちを見た比企谷くんはウゲッと苦虫を噛み潰したような表情を浮かべました。

 戸塚くんと結衣ちゃんは……あ、未だに体力が回復していないみたいですね。

 あ、材木座くん居たんですか? 彼は腕を組んでゴラムゴラムしてます。

 

「戸塚、あーしらも混ぜてよー!」

「はぁはぁ……はぁ」

「な、何だか異常に疲れてないか? 戸塚、大丈夫なのか?」

「えっと。戸塚は遊んでるんじゃなくてテニスの練習をしてる……いやまだテニスにすら行き付いてないけど、まぁ兎に角遊びじゃないんだ」

 

 比企谷くんがどうにか穏便に帰そうと頑張りますが、きっと彼女たちは諦めないでしょう。

 なんたってトップカーストの意地と、思い通りに物事を動かせるという自信がありますからね。

 

「では私がお相手しますよー! テニス勝負でどうですかー?」

「……誰?」

「……優美子、帰ろう。あれはヤバい」

「は、隼人? どうしたのそんなに震えて?」

「と、兎に角あの人はヤバいんだ。ほら、進藤円加先輩って聞いた事あるだろ? あれがあの人なんだ」

「人をあれとは失礼ですねー」

「すっ、すみません!」

 

 陽乃ちゃんとつるんでいるせいもあってか、既に葉山くんとのエンカウントは済んでいます。

 その時は挨拶程度だったんだけど彼は私の伝説の殆どを知っている、というか無理やり陽乃さんに聞かされているそうです。

 この前の私に来てたメールみたいなものですね。あれよりもっと酷い、十分以内に返事が無ければ何をされるか分からない舎弟の扱いですが。

 

「そんなに怖がらなくてもいいじゃないですかー。ほらほら? 一緒に遊びましょ?」

「……え、えっと。あーしらちょっと用事を思い出したので、ほ、ほら皆! 行こ!」

「え? どうして行っちゃうんですか!? テニスやりましょうよ! ねー!!」

 

 ……また原作が変わってしまいました。

 本当ならここで比企谷くんと結衣ちゃんがダブルスを組んで、というかそもそも今の状況じゃあ結衣ちゃんがダブルス出来ないか。

 また暴走しちゃったなー。よし、次の依頼は完全見守り体制で行こう!

 私が関わらなければ原作通りに進む筈だもんね! 目指せ比企谷くんの青春ラブコメ!

 

 そうして戸塚くんの依頼は多大なる筋肉痛を持って終了し、救急箱を持って帰って来た雪乃ちゃんは私から少し距離を開けた比企谷くんを訝し気に見ていました。

 比企谷くん、私は別に怖くないですよー?


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