まいのわ嵐   作:神原傘

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鹿児島では桜が散る頃に発動した第十一号作戦。
本来来るはずのない野分が、横須賀鎮守府内之浦分所に来た。

運命のねじれが物語の始まりを告げる。

艦隊これくしょん×ユリ熊嵐が生んだガンスリンガー・コミュニケーション。


※督戦の龍驤と同じ世界における、違う時間の話です


プロローグ

 鹿児島は大隅半島の東側にある、横須賀鎮守府内之浦分所。

 海沿いの小学校を改装した小さな分所には、司令官である俺と、小規模な水雷戦隊とが所属している。

 俺は傭兵稼業の元締めで、水雷戦隊を正規軍に貸し出してはアガリをハネる商売をやっている。いわば零細派遣会社の社長ってところだ。

 そんな商売が成り立つ理由?

 簡単だ。高速で海上を疾駆し、主力艦を護衛することを役割とする水雷戦隊は、消耗が激しい。駆逐艦はその装甲の薄さと排水量の小ささのため、とりわけ撃沈されやすい。

 今日は生き延びた。けれど、明日、海中に没するかもしれない。そういう運命にある水雷戦隊は、育成に対する費用効果が悪い。

 

 ああ、そうだ。面白い冗談がある。

 

 優秀な駆逐艦は終戦まで沈まない。

 有能な駆逐艦は進水してすぐ沈む。

 

 どうだ。笑えるだろ?

 

 閑話休題。

 深海棲艦との戦線が拡大するにつれ、有能な駆逐艦は次々と沈んだ。一方で深海棲艦は徐々に火力と防御力を増し、それに対抗するために赤煉瓦(せいきぐん)は強大な火力を発揮しうる戦艦をはじめとした水上打撃部隊、あるいはアウトレンジで敵を攻撃できる空母をはじめとした空母機動艦隊の育成に熱心になった。

 インフレーションし続ける敵の火力にこちらの防御力は追いつかず、敵の攻撃を逸らすためには、有能な水雷戦隊を育成する必要があった。それも、なるべく赤煉瓦(あかれんが)の名誉と懐に傷が付かないような方法で。

 かかる経緯のもと、艦娘派遣業法が成立し、水雷戦隊の育成と派遣を専門に行う商売ができたというわけだ。俺のような、クズとゴミを足して小便をひっかけたような奴でも食っていける商売が。

 閑戦期、つまり小規模な小競り合いが続いている間、うちの水雷戦隊は演習を繰り返して軽巡洋艦と駆逐艦の練度を高め、潜水艦を狩って戦果を稼ぐ。

 そして大規模な作戦が発令されると、赤煉瓦の連中は練度の高い水雷戦隊を求め、俺は育てた水雷戦隊を奴らに貸し出す。無論、有能な捨て駒としてだが。

 

 

 

 鹿児島では桜が散る頃に発動された、第十一号作戦。その第一陣、偵察任務を行うよう、赤煉瓦の提督から要請があった。

 提示された報酬は随分と割の良いもので、情報収集に慎重を期す真面目なタイプの提督のようだった。

 かくして、うちの第一水雷戦隊が出撃することになった。

 旗艦は川内。他に舞風、響、時雨、夕立、そして不知火。

 時は払暁。太平洋の水平線には、未だ日が昇っていなかった。

 砂浜から鈍色の海面に進み出た彼女たちは、背部の缶に火を入れて黒煙を吹き、踵の主機(もとき)を駆動させた。

 十二条の航跡を残して、艦娘たちが去っていった。

 俺はその背を無感情に見送りながら、ピースをふかした。

 灰色の空に、灰色の煙が溶けていく。煙草の先から立ちのぼる煙は紫色を帯びているが、吐く煙は、なぜだか灰色をしている。

 

 

 

 このときはまだ、うちに野分が来ることになるなど、思いも寄らなかった。

 うちの舞風は、野分に会える運命になかったはずだからだ。

 なにせ、去る昨秋に発令された渾作戦において、舞風は野分を奪還すべく、己の運命のすべてを懸けて戦い通しながらも、その願いを果たすことができなかったのだから。

 砲弾が尽き、鉄が尽き、燃料が尽き、帰還したときの舞風の言葉を、なぜだか俺はよく覚えている。

 

「あたしの戦いが、本物じゃなかったから……」

 

 

 嵐の日々がやってくる。

 

 




pixivとかに掲載しているお試し読み版の転載です。
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