帰ってきたぞハーメルン。
期末考査も終わり、後は受験だけ。しかもその受験も二月だ。
よーやっと時間が出来たぜ!
久々の執筆だから文章力落ちてるけど、それでも良かったらどぞー。
ゆっくりですが再開していくつもりです。
「──寒い、寒すぎるぞ。なんだなんだこの寒さは、久し振りに外出したらこんなに寒いのか? ええ?」
あのタカミチの連れてきたであろう追手をタカミチが仕留め損ねてから一日がたった。
既にアスナ姫が眠りこけ、飯も冷えた時に「いやー強かった、また闘いたいなぁ」なんてぬかしながら帰ってきてから一日がたったのだ。もちろん、自分で言った時間をオーバーしといてそんな事をぬかす馬鹿は飯抜きになったのだが。
魔女は約束には人一倍うるさいのだ。それはもうそこらの企業の販売部門なんかよりは。
いや、まぁ。結局は腹を鳴らして、目を潤ませながらこちらを見るタカミチを憐れ──、…………可哀想になって温め直したのを食べさせたのだが。
「ははは、まぁあれだけ暖かい部屋にいればね。そりゃあ寒く感じるってものさ」
そんな翌日。まだ少し雪の降り注ぐ道の中、道路すら埋もれて見えない道をオレ達は歩いていた。
天気が落ち着いているとは言うものの、体の末端からじんわりと体温が奪われてく。無論、雪にだ。
冬になってから一度も外に出ることなく、暖かい暖炉の側でぐーたらと過ごした身には、少しばかり………………いや、かなりキツい。
「それにクレアも普段から体を鍛えればいいのさ、そうすればこんなことにはならないのに」
「…………ならないのに」
まるで手のかかる子供に接するかのように目の前の男が言った。
…………なんか腹が立つ上に、心外過ぎる。心外過ぎて、これは賠償を求めてもいいレベルだと思う。
「それこそ寒さや暑さなんて鍛えればある程度は無視出来るようになるのさ」
「…………なるのさー」
目の前の男、──タカミチが、やけに爽やかな笑顔でそんな妄言をのたまいやがった。
無理に決まってますやん。
つい関西弁になってしまった頭で、そんな極めて正論のようでありながらその実根性論でしかないそれを意識してシャットアウトする。そもそも中身が男だとは言え、女に向かって鍛えろは無いだろう。もっと甘やかせ。
なんてとりとめの無いことを考えながら馬鹿二人から目、ならぬ耳を反らす。
「心頭滅却すれば火もまた涼し、って日本では言うんだろ?なにも肉体が全てじゃあないんだよ」
「…………だよー」
おい、さっきお前はなんて言ってた。今一度思い返してみろ、方向が百八十度転換してるじゃないか。
そしてもう一人ことアスナ姫、お前絶対に意味をわかって無いでしょう。
なんなんだこの二人。いくら我慢に関しては一言をもつオレであっても、流石にそろそろ怒ってもいい気がするのだが。
「うるさい! そもそもお前が『街に行こうよ、暇で暇で仕方がない!』だなんて言うから。こうして、この、私が、わざわざ! ついてきてるんだろう…………!」
我慢の限界だ、そう隣にいるオレがそもそもこんな苦行をするハメになった元凶を詰る。
そりゃあ、辺り一面の人工物の一切無い銀世界だ。思うところが無い訳でもない。素直にそれを綺麗だとは思うし、出来ればずっと見ていたいとも思う。
それでも、だ。
それでもそれは室内から見るからの話だ。滝とかと似ている、近づくのは避けたいけど見る分には綺麗。つまりはそう言うことなのだ。
誰かが言ってた気がするが、
──危険なものほど美しい。
正にそれだ、うん。
別に雪崩が怖いなー、とか。雪男に出会ったらどうしようかなー、とか思ってる訳ではない。断じてない。
あえて言うなら、寒いのだ。
そりゃあもう、前世で剣道なんてのをしてたから言えるが冬の剣道よりも酷い(体が、ではなく。凍えた道場の床に触れる足が冷たさを越して痛いのだ)。
あの寒さが全身を襲うと言えばわかるだろうか。
ちらりと隣の二匹(今のオレの心境から言えば匹で妥当だと思う)を見る。
やはりと言うべきか全く寒そうには見えない。むしろ元気百倍! と何処ぞのあんぱん顔の正義の味方に見えるのは気のせいだろうか。
むしろ、見てて暑苦しい位なのは気のせいなのだろうか。なんでスキップなんてしているんだ、貴様らは。
ここで常人ならふざけてるなんて言うべきなのかもしれないが、そう言ったものを知る身としては脳筋共め、と思わざるをえない。
気。
肉体派の脳筋戦士共がこぞって使う、不思議ぱぅわーの事だ。
嘘だ。
真面目に講釈をたれると、鍛え上げられた肉体に宿る魔力とは違う体内エネルギー。一言で済ますならこうだ。
肉体の自然治癒に強化。それらの面でしか活用できず、それでありながら魔法を越える効果の高さから未だに残る技術だ。体外の精霊に指示を出して強化する魔法と自らエネルギーを操り強化する気、どちらが有用など比べるまでも無いだろう。まぁ、一部には体内活用で終わらせず、体外へと放つそれを技術体系に纏めた者もいるらしいがそれを話すのは蛇足だろう。
そして肉体の強化とあるように、耐寒性を上げる事など使い手にとってはお茶の子さいさいだそうで、こうしてぴんぴんとしている訳なのだ。
そしてオレはそれを使えない。現状の理由はそれだった。
勿論魔法や魔術にそう言った事をなんとかする術がないわけではない。むしろ腐るほどあるのだが、魔法に関しては専門ではないが為に知らない。
そして専門である魔術に関しても──
「まさか小一時間待ってくれなんて、ねぇ…………。流石の僕らもそんなには待てないよ」
そういうことだった。
古来より女の化粧は昔から時間がかかると相場が決まっている様に、この魔術という技術、酷く発動準備に時間がかかるのだ。それもこれも、魔術が魔術師にとっての化粧なのだからだろうか。そんな阿呆らしい考えが脳裏に浮かぶ。
まぁその時間を短縮するための、パソコンで言うところのショートカットキーにあたるのが霊装なのだが。
それでも火種とかならまだしも体温の限定的な温度上昇など、手持ちの杖と呪文で簡単に出来るほど魔術は簡単ではないのだ。特に制御する必要のない、火種ならまだしも、だ。
比較的簡単とまで言われるルーン魔術でさえ文字を彫る、特殊な塗料を塗る、神の加護を降ろす。と言った手順を踏まなくてはならない位には七面倒なのだ。それをさらに簡略化したと言われる派生系にあたるガルガト魔術に限っては、そこまでルーンに明るい訳でもない自分に扱える筈もなく(所詮はケルトの魔女のルーンだ、無手の達人が弓を教える様なものである。つまりは専門外だと言うことだ)、個人的には驚天動地な技術である。
他にもあるにはあるのだろうが、そのほとんどが最近開拓された魔術、あるいは構築された魔術だろう。ケルトの秘技と言う古典派魔術の代表を扱う身としては、危なっかしくて扱えない、そんなの。
つまり、これが意味するのは。
「耐えるしかないよ、街まで。どーしても我慢出来ないなんて言うから、────気合いの話になってくるんだよ」
「んな、訳が、あるかあぁー!!」
街に着くまで極寒プレイと言うことだ。
「そう言えばタオルを振ったら凍ってたから、…………下手したら氷づけになったりして!」
「…………してー」
「……は? 凍っ、え!? おいっ! まてタカミチ!」
なにそれ、こわい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「暇だ。外へ行こう」
そもそもの事の発端としてはこうだ。
馬鹿共が散々荒らしてくれた森を眺める朝六時、如何にして修復するかを考えてた折に件の馬鹿者こと、タカミチが跳ねた寝癖をそのままに話し掛けてきたのだ。
「起きてたのか」
「まぁね。久し振りにちゃんと眠れたから寝足りない気もするけど、二度寝する気もおきないし」
「そうか」
久し振り、ねぇ。余程張りつめていたのかと考えて思い直す。夜襲などを警戒したらそうなるのも当然か。
よく見ると隈もあるように見える。大方自分一人であの姫巫女を守ろうとでも考えたのだろう、まったく馬鹿らしい。それこそ、クルトやアルビレオなど頼れるツテはあったはずだ、あいつらも多少の胡散臭さに目を瞑れば役に立つ。
それでも頼らないと言うことは、
「………………馬鹿が」
真性の阿呆か頑固者しかあるまい。
もしかしたら忘れていたと言うことも考えられるが、もしそうだとしたらそれこそ馬鹿だ。
本物の馬鹿だ。
そんな事を頭の片隅で考えながら倒れた木々を見る。
そもそも考えこそすれど、それは本質的にはオレとは無関係の話だ。
頼ってきたら面倒を見るのもいいし、何だったら魔女の力を貸してやるのもやぶさかでは無い。古い友人だ、出し惜しみするつもりも無い。
それでも、ことこれに関してはこいつ自身の問題だ。
こいつに何があったかは知らないが、ここまで自分を追い詰める様な真似をしてまで昨日言ったことを為し遂げようとしているのだ。それにオレが口を挟む権利は無いし、そのつもりも無い。
為し遂げられる、為し遂げられないに関わらず、だ。
精々言えるとしたら体を大事にしろということ位だ。
「……タカミチ」
「なんだい?」
視線も向けずに声をかければ、寝むそうながらもはっきりと返事が返ってくる。
「外と言ってもなにも無いぞ。それこそ少し離れた所に街があるぐらいだ。それに私としても森を彷徨かれるよりは街へ行って欲しいのだが」
「いや、街に行くつもりだから問題は無いよ」
そうか、そう言葉を返して上を見上げる。前世の日本の空とは違い、異なる世界の異なる国の空は相も変わらず雲しか見えない。
「昼頃に行こうかと思うんだけど、君も行くだろ?」
まるで行くのが当たり前かの様にタカミチが尋ねてくる。
街、かぁ…………。
別に嫌と言うわけではない。自分でも最近のオレが出不精のニート魔女になりつつあるというのは自覚しているため、タカミチの誘いは丁度いい機会だとは思うのだが。
────協定に触れないだろうなぁ、おい。
協定。
そう、協定だ。過去に街にいる魔術結社とのいざこざを無理矢理に終結させた時に、魔女と言う肩書きもあって街所属の大手魔術結社『永遠の賢者 』、『オルクライス教団』、『グライベル魔術事務所』に『アルケハイム』と言った大手組織と不可侵協定を結んでいるのだ。
過去の過ちの産物であるが、無視は出来ない。恐らく問題は無いだろうが、出来ればあまり刺激したくないのが本音だ。
それに、狂人メルトハイヤーや混沌たるダグダリオス、そして自由の使徒イナイゼルなど考えたくも無い程に会いたくない連中がいる。
イナイゼルに関しては、そもそも自由すぎて会う事など不可能だろうが、まかり間違ってダグダリオスなんかに出会ってしまった暁には街ひとつ消し飛ぶ程の争乱の幕が切って落とされるのが目に見えてる。
だが、旧知の友の誘いだ。あまり無下にもしたくない。
さて、どうするか。
「…………ううむ」
「決まったかい?」
目を瞑り数秒考える。問題点を列挙し、それが無視できる範囲か考え、絞ってく。
そうして脳を整理し、オレは────
「──よしっ、行くか」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
『────シビリア駅前広場、シビリア駅前広場です』
ぷしゅー、とバスが音を立ててドアを開ける。
「よーし、降りるぞ脳筋ども」
「ははは、出来ればその呼び方はよして欲しいんだけどね」
「脳筋違う、わたし頭脳派だから」
「はっ、寝言は寝て言うべきだな」
カップルや学生、社会人や老人を含めた老若男女が敷き詰められたバスの中を、三人で喧しく話ながら人を避け降りる。
はぐれない様にアスナの両手を二人がそれぞれ握っているからか、微笑ましいものを見るような視線を感じる。
それを努めて無視しながら、バスを降りる。
「お、意外と都会なんだね」
「おぉー………………」
約一名が失礼な事を言い、もう一名が感嘆の声をあげた。余り、こういった人混みになれて無いのだろう。
「来たのはもうかなり前が最後だが、結構街並みも変わってるものだ」
がやがやと歩道を行き来する人混み、絶えず車道を走る車たち。新しく建てられたのであろうビルが目立つが、街の殆どは古びた、良く言えば歴史ある建物たちだ。
久方ぶりに見たとは言え、本当にこの落ち着く感じはまるで違和感を感じない。
パイプを加えて広場のベンチに座る老紳士、キャッチボールをして遊ぶ親子、サッカーをして遊ぶ子供たち。
本当に良いものだ。
¨これ¨さえ、無ければ。
「────」
魔術師が少しでもこの街を見れば言うだろう。
終わってる。
まるで牧場だ、と。
街全体を覆う様々な魔術に、街自体に刻まれた魔方陣の後。そのどれもが致命的だ。
きっとタカミチは気付いて無いだろう、こいつは純正の魔術師でもないから素でこれが見える筈が無いし、見ても理解出来ないだろう。
「あっ! クレープの屋台があるじゃないか!?」
「クレープっ!? 食べる!」
楽しそうな二人の顔。
今からでも帰りたいが、それも出来ない。
はぁ、と溜め息。帰るまでの辛抱だと覚悟を決める、適当に遊んで帰れば二人も満足するだろう。
「はいはい、買ってやるからはしゃぐな筋肉共」
「ハリー! ハリー!」
「わたしチョコのやつ! チョコの!」
てか、そんなにクレープ好きかお前ら。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ここはシビリア。
魔術師と錬金術師の欲望渦巻く魔都。三百年に渡る狂人共の戦いの血にまみれたここは地獄だ。
人と人の醜さを醜さで塗りつぶす、悪意の終着点。
それを知る人はみな、この街をこう呼ぶ。
────終われない街、と。