ロクでなし魔術講師と異能兄妹   作:宮枝嘉助

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しばらく原作とほぼ代わり映えのしない話になりそうですが、お付き合い下さいませm(_ _)m


第1章 やる気の無い兄と非常勤講師

 北セルフォード大陸の北西端に位置するアルザーノ帝国。

 その帝国の南部のヨクシャー地方にはフェジテと呼ばれる都市がある。そのフェジテには、国内外でも知らぬ者は居ないとまで言われる“学院”──アルザーノ帝国魔術学院──があり、帝国内に限らず北セルフォード大陸全体から見ても有数の学究都市だった。

 そこには古式建築様式で建てられた重厚で趣のある建物が建ち並び、その一方で有数の学究都市ならではの交易が非常に盛んで、人の出入りも非常に多い都市だ。

 

 そんな都市に敷かれている石畳の街路の一角で、未だ微かに朝もやが立ち込める時間帯に歩く2人の人影があった。

 

 1人は、赤黒いざんばらの髪の少年。日々鍛えている事が伺える引き締まった身体をしているが、細身と言って差し支えない。件の学院の学生服を着ており、年齢は学院の一般的な2年次生と同じ16歳だ。しかし、寝不足なのか元からそういう顔つきなのか、ほんの僅かに青みがかった黒い瞳に全く覇気が無い。その瞳に覇気さえあれば中々人気が出そうな顔立ちをしている……そんな少年の名前はヴァルド=リドル。件の学院の2年次生の2組に在籍している。

 

 もう1人は、上質な絹のように滑らかな桜色の髪を後頭部に纏め上げている少女。芸術的な域に達しているとさえ思える輝きのサファイアブルーの瞳に、精巧な人形と見紛うばかりに整った目鼻立ちと、開花の時を待ちわびているかのように瑞々しい薄桃色の唇。彼女も件の学院の学生服を着ており、年齢はヴァルドの2つ下の14歳。軽装な学生服から覗く肌はしっとりとした質感の乳白色で、ヴァルドと同じように鍛えているのか、程よく筋肉が付いたしなやかな体つきをしており、胸部を覆うベストは既に膨らみが分かる程度には押し上げられている。少年とは違い瞳の輝きは失われていないので、学院でもさぞや人気があるであろう少女の名前はソフィア=リドル。一般的に15歳で入学するとされる件の学院に13歳で入学しており、ヴァルドと同じく2年次生の2組に在籍している。

 

「ほら兄さん、もっとシャキッとして。目が死んでるよ?」

「え~だって行きたくないんだもん」

「そんな事言わないで、ね? ヒューイ先生が泣いちゃうよ?」

「ヒューイ先生、ね……何か慌ただしい辞め方だったよな」

 

 ヒューイ先生、というのは彼等が在籍している2年次生2組の担任を務めていた人物だ。とても親身になって生徒の質問にも誠心誠意答えてくれる事で生徒達からの人気もあった好人物だったのだが、数日前に突然辞職してしまった。

 

「凄く急だったよね。一身上の都合で、としか聞いてないけど、まるで急用でも入って予定をキャンセルしたみたいな感じ」

「急用、ね…………」

(少し、気になるな……何なら親父に連絡して調べてもらうか? いやしかし、()()()オレ達の何の証拠も無い話を聞いてくれるか……?)

「あれ──ッ!? 俺、空飛んでるよ──ッ!?」

「「!?」」

 

 ヴァルドは少しだけ真面目な顔つきになって思考を開始したのだが、それは突然の風の音と天高く打ち上げられた男の叫び声が耳に入って中断された。

 ヴァルドとソフィアはお互いに目配せし、叫び声がした方へと駆け出して行った。

 

 

 

 

「アンタ、何をやっとるかぁああああああああああ──ッ!?」

「ズギャァアアアアアアアアアア──ッ!?」

 

 現場に辿り着いたヴァルド達の目の前では、純銀のように輝く銀髪のロングヘアと、やや吊り気味な翠色の瞳が特徴的な、凛とした佇まいの少女──同じクラスのシスティーナ=フィーベル──の怒声と共に放たれた上段回し蹴りが男の延髄に直撃し、吹き飛ばす光景が繰り広げられていた。

 情けない悲鳴をあげて長身痩躯の男が地面を転がって行く。恐らく下ろし立てであったのであろう小洒落た服はずぶ濡れな上に地面に擦れてボロボロになっており、見る影もなくなっていた。

 

「な、何事!?」

「あ、おはようルミアさん」

 

 驚愕するヴァルドを他所に、ソフィアはもう1人の人物へと挨拶する。その人物はシスティーナとは対照的なミディアムの金髪と、清楚という言葉を絵に書いたような容姿と天使のような可憐さを持った顔立ちを併せ持つ少女──ルミア=ティンジェル。

 システィーナとルミアは2人のクラスメートだ。誰とでも仲良くなれる心優しいルミアと、何のかんのと面倒見のいいシスティーナは、問題児のヴァルドとその妹とは思えない程よく出来た妹であるソフィアとは何かとよく話す仲だ。

 

「あ、ソフィアちゃんにヴァルド君、おはよう」

「え、あ、ああ、おはようティンジェルとフィーベル」

「あ、2人共おはよう……って、何で被害者のルミアまでそんな他人事みたいになってるのよ!?」

「え? だって挨拶はちゃんと返さないと」

「いやいや、それどころじゃないでしょ……」

 

 と言いつつちゃんとシスティーナも2人に挨拶を返す辺り、彼女の生真面目な性格が如実に表れていた。

 

「……で、被害って?」

「そうよ、こいつ! 不注意でぶつかってくるのはまだいいとして、何よ今のは!? 女の子の身体に無遠慮に触るなんて信じられないッ! 最ッ低!」

「ちょっと待て、落ち着け!? 俺はただ、学者の端くれとして、純然たる好奇心と探究心でだな!? やましい考えは、多分ちょっとしかないッ!」

「なお悪いわッ!」

「ごぼほぉっ!?」

 

 脇腹に絶妙な角度で刺さったシスティーナの拳に悶絶する男。

 ただ、ヴァルドはほんの僅かに違和感を覚えた。男がシスティーナの拳に反応していたような気がしたのだ。だが、その情けなく悶絶する姿を見て気のせいかと思い直した。

 

(ところでなお悪いってどういう意味なのかね? やましい考えがちょっとしかない事か? それは……僅かでもあったから悪いのか、それとも少ししか無かったから悪いのか……?)

 

 と、ヴァルドが益体も無い事を考えている間に、大の男が明らかに年下の少女達の足下に土下座しているという恥も外聞もない姿が。

 そんな姿を見るに見かねたのか、ルミアがシスティーナに声を掛ける。

 

「あの……反省はしているみたいだし許してあげようよ」

「はぁ? 本気? 貴女って本当に甘いわね、ルミア……」

「ありがとうございます! このご恩は一生忘れません! ありがとうございます!」

 

 そして、すっくと男は立ち上がり居丈高に言った。

 

「さて、お前達。その制服は魔術学院の生徒だろう? こんな所で何やってる?」

「許してもらえるとなった途端に、これよ……何なの? この人」

「あ、あはは……」

 

 システィーナとルミアはもはや呆れるしかなかったが、ヴァルドとソフィアの反応はその2人とは異なっていた。

 

「あれ? もしかして、グレンさん?」

「グレンお兄ちゃん珍しいね、こんな朝早くに外に居るなんて」

「な!? お前等……そうか、そういやお前等も魔術学院の生徒だったな。ってお前等も走れ! 今何時だと思ってんだ! 遅刻するぞ?」

「……遅刻? ですか?」

「嘘よ、そんなの。まだ余裕で間に合う時間帯じゃない?」

「んなわけねーだろ! もう8時半過ぎてるじゃねーか!」

 

 グレンは懐から出した懐中時計をシスティーナの眼前に突き出す。

 

「その時計、ひょっとして針が進んでませんか? ほら」

 

 システィーナも負けじと懐中時計を取り出し、グレンの眼前に突き出す。彼女の懐中時計が指している時間は8時。ちなみに学院の授業開始時間は8時40分である。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 5人の間に不思議な沈黙の時間が流れる。そして。

 

「撤収!」

「逃げた──ッ!?」

「待ってグレンさん、ティンジェルの身体を無遠慮に触った件について感想を詳しく──ッ!」

「アンタも変態かぁあああああああああ──ッ!?」

「プギャァアアアアアアアア──ッ!?」

 

 グレンは猛然とした勢いで4人の前から走り去って行く。それをヴァルドが追いかけようとしたが、やましい目的を口にしてしまった所為かシスティーナの上段回し蹴りがヴァルドの側頭部に炸裂し、グレンに負けず劣らずの情けない悲鳴を上げながら地面を転げ回るのであった。

 

「ソフィア、さっきのグレンって人、知り合いなの?」

「はい、グレンお兄ちゃんは私達の家の近くに住んでる人で。見てて飽きない面白い人なんですけど……」

「そうだね、私も面白い人だと思ったよ」

「いやいや、面白いを通り越してダメ過ぎるでしょ、アレ」

 

 地面に倒れ伏しているヴァルドを他所に、3人は仲睦まじく歩いて行く。その3人の姿が見えなくなる前には何とか立ち上がり、ヴァルドは3人を追って歩き出す。

 

「…………さてと、今日も1日頑張りましょう? ルミア、ソフィア」

「うん」

「はい」

 

 やがて歩く3人の前に、その敷地を鉄柵で囲まれた魔術学院校舎の壮麗な威容がいつものように現れるのであった──

 

 

 

 

「……遅い! どういうことなのよ! もうとっくに授業開始時間過ぎてるじゃない!?」

「確かにちょっと変だよね……」

「何かあったのかな?」

「じゃ、オレは寝るから来たら起こしてくれ」

「アンタは寝るんじゃないわよ!?」

 

 授業開始時間から早1時間が経過し、大陸屈指の第七階梯(セプテンデ)の魔術師であるセリカ=アルフォネア教授の『まぁ、なかなか優秀な奴だよ』という言葉を信じられる者はどんどんと減っていた。

 

「あのアルフォネア教授が推す人だから少しは期待してみれば……これはダメそうね」

「そ、そんな、評価するのはまだ早いんじゃないかな? 何か理由があって遅れているだけなのかもしれないし……」

「私もルミアさんと同意見かな。初日で遅刻なんてきっと何かあったんだよ」

「甘いわね、ルミアとソフィア。いい? どんな理由があったって、遅刻するのは本人の意識が低い証拠よ。本当に優秀な人物なら遅刻なんて絶対にありえないんだから」

「そうなのかな……?」

「いや、どんな人だって事情があれば遅刻ぐらいすると思いますけど……」

「そうそう、つい2度寝したら始業時間過ぎてたとかな……ぐー」

「だからアンタは寝るなっつってんでしょうがッ!?」

 

 と、その時だ。

 

「あー、悪ぃ悪ぃ、遅れたわー」

 

 どうやらその噂の非常勤講師とやらがようやく到着したらしい。既に授業時間は半ばを過ぎており、恐らく学院始まって以来の大遅刻だ。

 

「やっと来たわね! ちょっと貴方、一体どういうことなの!? 貴方にはこの学院の講師としての自覚は──」

 

 早速、説教をくれてやろうとシスティーナが男を見遣って……硬直した。

 

「あ、あ、あああ──貴方は──ッ!?」

 

 そこに居たのは、登校途中に遭遇した変態──ヴァルド達にグレンと呼ばれていた男──だった。

 

「…………違います、人違いです」

 

 システィーナの姿を認め、流石に気まずかったのかスルーを試みる変態……もとい、グレン。

 

「グレンお兄ちゃん!? グレンお兄ちゃんって魔術師だったの!?」

「──何!? グレンさんだと!? グレンさん、朝の件について詳しく──」

「アンタは黙ってろぉおおおおおおお──ッ!?」

「ごふぁっ!?」

「げっ!? ヴァルドとソフィア、お前等このクラスだったのかよ」

「ていうか貴方、なんでこんなに派手に遅刻してるの!? あの状況からどうやったら遅刻出来るっていうの!?」

「そんなの……遅刻だと思って切羽詰まってた矢先、時間にはまだ余裕があることが分かってほっとして、ちょっと公園で休んでたら本格的な居眠りになったからに決まってるだろう?」

「何か想像以上に、ダメな理由だった!?」

 

 グレンの物言いは突っ込み所が多すぎて、遅刻を咎める気にもならない。周囲の反応も同様で、現れた講師の異様な姿に教室中の生徒達もざわめき立つ。

 

「えー、グレン=レーダスです。本日から約1ヶ月間、生徒諸君の勉学の手助けをさせて頂くつもりです。短い間ですが、これから一生懸命頑張って行きま……」

「挨拶は良いから、早く授業を始めてくれませんか?」

 

 システィーナは苛立ちを隠そうともせずに冷ややかに口を挟む。

 

「あー、まぁ、そりゃそうだな……かったるいけど始めるか……仕事だしな……よし、早速始めるぞ……1限目は魔術基礎理論Ⅱだったな……あふ」

 

 すると、たちまち素の口調になったグレンはあくびを噛み殺しながらチョークを手に取り、黒板の前に立つ。

 途端に約1名を除いたクラスの生徒が気を引き締める。約1名──ヴァルド──はあくびを噛み殺したりもせずに舟を漕いでおり、いつ寝てもおかしくない状態だ。

 しかしまだ寝ていないのは、グレンが近所に住む知り合いだったからに他ならない。普段会う時は飽きない面白さを提供してくれるグレンが、一体どんな授業をするのか。ヴァルドはセリカの前評判を聞いていなかったが、正直かなり期待していた。

 そして、そんな普段やる気の無いヴァルドすら注目している中、グレンが黒板に書いた文字は。

 

 

 自習。

 

 

 黒板に大きく書かれたその文字に、クラス中が沈黙した。

 

「えー、本日の1限目は自習にしまーす。……眠いから」

 

 その沈黙を肯定と受け取ったのか、グレンは最悪の理由を呟きながら教卓に突っ伏した。

 10秒も経たない内に、いびきが響いて来る。

 

「何だ、1限目は睡眠学習か、よし寝よう」

「………………」

 

 更に10秒もしない内に2人分のいびきが響いて来る。圧倒的な沈黙がクラスを支配する。そして。

 

「ちょおっと待てぇええええ──ッ!?」

「ヴァルドさん、起きて下さいな?」

 

 システィーナは分厚い教科書を振りかぶって、猛然とグレンへ突進して行った。同時に、ソフィアも分厚い教科書を振り上げ、隣で眠る兄の頭に振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 

「うわー、見ろよ、ロッド、あの講師を……」

「あぁ、スゲェな、目が死んでる……」

「あんなに生き生きとしてない人を見るのは……」

 

 ちら、と視線がヴァルドへと向けられる。その視線は明らかにヴァルドとグレンを同列に見ているモノだったが、妹のソフィアが側に居る手前で言い辛かったのか、言葉はそこで途切れていた。

 しかし、その後に続いた授業と呼べるかも怪しい時間は惨憺たる有り様であった。全く要領を得ない説明、判読すら難しい板書。その上、生徒の質問には答えない。グレンの記念すべき初授業は最悪の終わり方となったのであった。

 

 そんな初授業終了後の学院の女子更衣室にて。

 制服を脱ぎ捨て上下の下着姿となったシスティーナは木製ロッカーの中にそれら衣類を叩き込みながら、苛立ちのあまり吐き捨てた。

 

「まったくもう、なんなの!? あいつ!」

「あはは……まあまあ」

「きっとまだ眠かったんじゃないかな?」

 

 ルミアとソフィアが宥めるが、システィーナの怒りは収まらない。

 

「やる気無さ過ぎでしょ!? なんであんな奴が非常勤とはいえ、この学院の講師をやっているわけ!?」

「そうだね……グレン先生にはもうちょっと頑張って欲しいかも」

 

 次の授業は錬金術。様々な薬品や素材を扱うこの授業では、制服が汚れてしまう危険性がある為、実験用のフード付きローブに着替える必要がある。その為に2年次生2組の女子生徒一同は現在女子更衣室で着替えを行っているのであった。

 半裸になった少女達の、瑞々しく張りのある肌。身体を観察すると見えて来る、思春期の少女特有の艶かしさと清楚さを併せ持つ独特の曲線。年頃の男子生徒達には刺激が強過ぎる肌色のユートピアがそこにはあった。

 

「はぁ……その次の錬金術もアイツが担当なんでしょ?」

「うん、そうだよ。グレン先生はヒューイ先生の後任だから」

「どんな授業になるんだろうね?」

「うぅ……胃に穴が空きそう」

 

 その時、システィーナが突然何か閃いたようにほくそ笑んだ。システィーナと同様に下着姿になったルミアを流し見る。

 

「これは……癒しが必要だわ」

「システィ?」

「ん? システィさん、何を……?」

 

 システィーナは戸惑うルミアの背後に素早く近付き、抱き付いた。

 

「えい!」

「きゃ!?」

 

 システィーナはルミアのすべすべの背中に思いっきり肌を密着させ、下着に包まれたルミアの胸の2つの膨らみに手をあてた。

 

「あー、ルミアの身体はやっぱり気持ちいいなー、肌は白くて綺麗で、きめ細かくて……むむむ、ルミア、貴女……何か順調に育ってるわね……」

「きゃん! システィ、あっ、だめ!」

「あっ、本当だ。ルミアさん、前よりおっきくなってる」

「ちょっと、ソフィアちゃんまで!?」

 

 ここでソフィアも参戦。システィーナが背後からルミアを触っているので、ソフィアは正面からルミアの双丘に手をあてる。巨乳ではなく美乳と表現すべきルミアの双丘のしっとりとした弾力のある感触に、ソフィアは感動を禁じ得ない。

 

「はぁ……良いなぁ、これ。私は何故か胸には栄養行かないからなぁ……2つ下のハズのソフィアちゃんにも最近抜かれちゃったし……うぅ……癒しどころか私、何だか落ち込んで来たんだけど……」

「ちょっと……止めてってば、システィ。そんなに強く……あ、あんッ!」

「あー、もう、羨ましいなぁ! ほれほれ、良いのはここかー? ん? ん?」

「ひゃんっ! い、いやっ! 止めて……」

 

 システィーナ達に限らず、更衣室内のあちこちで似たような悩ましい光景が展開されていた。

 だがその時、突如更衣室の扉が勢い良く開け放たれた。

 

「あー、面倒臭ぇ! 別に着替える必要なんかねーだろ、セリカの奴め……ん?」

 

 そこに立っていたのはグレンであった。

 まるで魔術でも使ったかのように時間が止まる。つい先程までの姦しさが嘘のように静まり返る女子更衣室。

 最初に口を開いたのはグレンだった。

 

「……あー……昔と違って、男子更衣室と女子更衣室の場所が入れ替わってたんだな……全く、余計な事しやがる」

 

 我に返った女子達から殺気が渦を巻き始める。それを見て取ってか、グレンが続ける。

 

「あー、待て。お前等落ち着──」

「何貴様妹の裸見てくれとんじゃぁああああああ──ッ!?」

「グハァアアアアアアアアアア──ッ!?」

 

 グレンの言葉は最後まで綴られる事なく、ヴァルドの飛び蹴りによって強制的に終わりを告げられた。吹き飛んで行くグレンを後目に、ヴァルドは脇目も振らずにソフィアへと駆け寄る。

 

「大丈夫か、ソフィア!? グレンさんに何も変な事されなかったか!?」

「………………ヴァルド()()()?」

「……へ? ソフィア? 何を怒って…………あ」

 

 ソフィアの絶対零度の声色で、ヴァルドはようやく気付く。

 自分がグレンをぶっ飛ばした理由と全く同じ愚行を自分もやらかしている事に。冷静になって周りを見回してみれば、まだ全員が下着姿のままで。そこにあったのは間違い無くユートピアであった。

 

「──よし、オレは覚悟を決めたぞ」

 

 先程渦を巻き始めていた殺気の矛先は完全にグレンからヴァルドに変わっていたが、女子達はヴァルドの言葉の続きを促す。修羅と化した女子達と言えど、辞世の句を読ませてやるぐらいの優しさはあるのだ。

 

「どうせボコるのなら今日の授業が終わるまで目を覚まさなくなるぐらい思いっきりやってくれ!」

「「「「この──ヘンタイ──っ!」」」」

 

 この日、アルザーノ帝国魔術学院2年次生2組の女子生徒達による、1男子生徒への凄惨な校内暴力事件が発生した。

 この事件により男子生徒は放課後まで保健室で療養を余儀なくされ、事件の切っ掛けとなった講師はその後の錬金術の授業も適当にやり、生徒達にとっては全くもって不毛な1日となるのであった。




昼食のシーンが大好きな方は申し訳ありません。丸々カットさせて頂きました。

ちなみにヴァルドはグレンよりちょっと少ないぐらいの量で、ソフィアはルミアと同じぐらいの食事量です。だからあまり食べてない彼女はある特定の部位が育たな──おっと、こんな時間にお客さんか……誰だ、こんな時間に──
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