ロクでなし魔術講師と異能兄妹   作:宮枝嘉助

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さて、まずは分かりやすい異能の兄から、という事でどうぞヽ(・∀・)ノ


第4章 日常の崩落、兄の秘密

 翌日。

 その日はグレンのクラスだけが学院で授業を行う日。

 というのも、グレンのクラスの前任者であるヒューイが突然失踪し、それを補う形でグレンが来た訳だが、ヒューイが失踪してからグレンが来るまでの間には数日の空白期間があり、その空白を埋める事が出来ていない為だ。

 だからこうしてクラス一同、教室に集まっている訳なのだが……

 

「……遅い!」

 

 システィーナは懐中時計を握り締める手をぷるぷる震わせながら唸っていた。

 現在の時刻は10時50分。本日の授業開始予定時間は10時30分。既に20分が経過している。

 だというのに、グレンは未だ教室に姿を見せない。つまりは、遅刻だ。

 

「あいつったら……最近は凄く良い授業をしてくれるから、少しは見直してやったのに、これなんだから、もう!」

 

 システィーナは苛立ち混じりにぼやいているのを横目に、ヴァルドとソフィアは真剣な表情でひそひそ話をする。普段なら2人はシスティーナとルミアの近くに座るのだが、今日は何故か教室の隅にひっそりと潜むようにしている。

 

「様子はどうだ?」

「校門の前に2人組が居る。……ッ!? まずいよ、兄さん」

 

 遠見の魔術を使う事が出来ないヴァルドに代わってソフィアが使い、逐一状況を報告する。何やら状況が逼迫しているような様子が伝わってくるが、周りの者達は気付かない。

 

「昨夜『例の組織』の動きに不審な点が見付かったから気をつけろ、なんて親父からわざわざ速達で届いた手紙を読んだ時はぶっちゃけ信じてなかったが……そんなにか、ソフィア?」

「うん……守衛さんはもう……やっぱり、バレちゃったのかな?」

「人の口に戸は建てられない、とは言うが……学院長とセリカ教授にしかオレ達の事は話してないのにバレるか……この情報収集能力の高さは向こうを褒めるしかないか?」

「兄さん……私、この人達を巻き込みたくないよ……」

「勿論だ。……なら、する事は1つか」

 

 ヴァルドは不意に立ち上がり、大声で周りの人間全員に聞こえるように話す。

 

「グレン先生の事だ、どうせ今日は休校日だと勘違いでもしてるんだろう。オレがグレン先生の家に行ってみるよ。幸い、オレ達の家とグレン先生の家は近い。行き違いになる事も無いと思う」

「な……ちょっと、待ちなさいよ! アンタ、サボる気じゃないでしょうね!?」

「──と、オレだけじゃ信用無いだろう? だからソフィアも一緒に連れて行く。それにオレ、グレン先生の授業は大好きなんだぜ? 絶対に連れて来るさ」

「しょうがないなぁ、兄さんは。そんな訳で、システィさん。ちょっと行ってきますね?」

「いや、待って! まだ話は終わっては──」

 

 システィーナの制止の声を最後まで聞く前に、2人は教室を飛び出した。まずは、身を潜める事にする。

 学生の時分に過ぎない自分達では、いくら()()があるとはいえ『例の組織』──天の智慧研究会──の凄腕魔術師達に勝てる可能性は非常に低い。自分達の能力を知られていないならともかく、向こうの狙いが自分達なのであれば当然対策は取られてるハズだからだ。

 

「オレ達が居ない事に気付いたあいつ等が教室の皆に何をするか分からない。一応教室の様子を覗ける所に潜むぞ」

「うん。すると……西館かな?」

「だな。お前、最悪の場合は狙撃出来るか?」

「っ! …………うん。皆を奪われるぐらいなら、撃つよ」

 

 愛しい妹にそんな決死の表情をさせてしまう事に言い知れぬ罪悪感を覚えながら、ヴァルドはソフィアと共に西館へと駆けるのだった。

 

 

 

 

「な、何なんだよ、これ……」

「ごめん兄さん、撃てなかった……」

「いや、いい。【ライトニング・ピアス】をバカみてーに連射出来る奴といい、まさか狙撃態勢に入った瞬間にこっちを振り向く程の化け物といい、一応誰も殺さなかった訳だしな。しかしなんだってティンジェルさんを連れ出した? まさか、狙いはオレ達じゃない……?」

「どうしよう、兄さん? 拘束されちゃった皆を助けに行く? それとも、システィさんとルミアさんを助けに行く?」

 

 西館からソフィアの遠見の魔術で教室の様子を見ていたヴァルド達だったが、そこで繰り広げられた光景は全くの想定外だった。

 自分達を探してる様子は全く見せず、ヴァルドが化け物と称した男はルミアを連れ出し、もう1人の連射男は教室の生徒達を全員拘束した後、何故かシスティーナを連れ出したのだった。

 そんな一部始終を見ていたソフィアから発せられた問いに、ヴァルドは即答する事が出来ない。

 最も難易度が低いのは拘束されたクラスメートの救出だが、正直に言って緊急性は低い。テロリスト達に対抗する戦力になるとも思えず、わざわざ殺さなかったのだから、生かすつもりなのが明らかだからだ。もっとも、その目的はあまり想像したくは無いのだが。

 するとやはり、直近で命の危険があるシスティーナとルミアを助けなければならないが、2人の腕前は正直ヴァルド達の想像以上だった。それでもこちらの事が知られていなければ、という条件付きでなら連射男の方は何とかなるかもしれない。

 だが、化け物と称した男の方は、正直に言って勝てるビジョンが何も浮かばなかった。負けないように立ち回る事はもしかしたら出来るかもしれないが、勝つとなると正直難し過ぎる。

 

「クソッ……オレ達には荷が重すぎるぞ……ッ!?」

 

 そう、ヴァルドが悪態を吐いた時だった。

 

「まさか余計な人物は誰も居ないハズのこの状況で狙撃しようとするとは、一体何者かと思っていたが……そうか、そういえばお前達もあのクラスだったな。宮廷魔導士団“公務分室”室長ジョージ=リ()()()ドルの息子で、ごく一部の魔術しか使えない『落ちこぼれ』のヴァルド=リオフェドルとその妹にして弱冠14歳で既に第()階梯に到った『天才』ソフィア=リオフェドル。我々の動きを察知してここに逃げたのであれば、一応褒めておこうか」

「ッ!? ……皆には伏せてる姓といい、学院に頼んで第2階梯って事にしてもらってるソフィアの位階といい、よくご存知で……『天の智慧研究会』さん?」

 

 距離はまだあったが、背後に化け物と称した方の男が来ていた。ヴァルドは内心の動揺を必死に抑え込みながら平静を装って返事を返す。思わず疑問形になってしまったのは、ほぼ確実とはいえ確信が無かったからだ。

 しかし、男のおかげで自分達が目的でない事は解った。そういえば、と明らかに眼中に無かった言い方だからだ。となると、もしかしたら()()の事はバレていないのかもしれない。

 

「ほう……貴様の親の所は特務分室程の情報収集能力は無いと見ていたが、甘く見ていたか。まあいい。お前達は他の学生と同様に実験体にしてやる。捕らえさせてもらうぞ」

(という事は、オレ達の()()の事は知らないのか。ならまだチャンスはある……!)

 

 しかも僥倖な事に、相手の男は自分達を『捕らえる』と言っている。2対1という事で数で勝る上に向こうはこちらを殺す気が無く、しかもこちらの()()を知らない可能性がある。

 これは、もしかしたらこの化け物染みた男を倒す千載一遇のチャンスかもしれない。

 この状況を好機と見るや、ヴァルドは一瞬ソフィアを見遣った後動き出した。

 

「はいそうですかって捕まる訳に行くかよ! 《白銀の氷狼よ・吹雪纏いて・疾駆()け──》」

 

 ヴァルドは以前ソフィアがグレンに撃とうとしていたのとはまた別の軍用攻性呪文(アサルトスペル)の【アイス・ブリザード】の詠唱を行った。

 ヴァルドは確かに使える魔術が非常に少ないが、使える魔術の中には軍用攻性呪文(アサルトスペル)も存在する。しかし──

 

「《霧散せよ》」

 

 男の一節詠唱の【トライ・バニッシュ】であっさりと消されてしまう。だがそれはヴァルドにとって予定通り。ヴァルドはその場から横っ飛びで退くと、その後ろからソフィアが魔術を発動した。

 

「《《雷精よ》》! ──《《紫電よ》》、《《撃ち倒せ》》!」

「ッ!? 何だとッ!? 《光の障壁よ》!」

 

 男の表情が驚愕に彩られる。【ショック・ボルト】は初等呪文とはいえ、それを二反響唱(ダブルキャスト)連続起動(ラピッドファイア)するなど、学生の範疇を大きく超えている。

 1発でも命中してしまえば、動きが悪くなりヴァルドの軍用攻性呪文(アサルトスペル)に撃ち抜かれる可能性が出て来る。よって確実を期す為に【フォース・シールド】で防いだのだ。

 それを見てヴァルドが猛然と駆けた。直感的に、こちらを見くびっている今しか勝機が無い事を感じ取っての決断だった。

 

「《猛き雷帝よ・──」

「捕らえるとは言ったが、五体満足だと思わない事だな──《炎獅子よ》!」

「──極光の閃槍以て・──」

 

 今度は【ライトニング・ピアス】の詠唱を行ったヴァルドだったが、2節目まで詠唱した所で男の一節詠唱が割り込んだ。ヴァルドは成す術も無く【ブレイズ・バースト】の爆炎に飲み込まれ、煙の中へと姿を消す。

 しかしそこで、男の中でこれまでの長年の殺し合いの中で培われた直感が警鐘を鳴らした。何かがマズイ。何故兄が爆炎に飲まれたというのに、妹はほとんど狼狽えている様子が無いのか。まさか、あの爆炎を受けてなお、詠唱が続いて──

 

「《──》」

「──刺し穿て》!」

 

 嫌な予感がした男が何かの呪文を唱えるのと、煙の中から呪文を完成させたヴァルドが【ライトニング・ピアス】を放ったのはほぼ同時だった。パッと見【ショック・ボルト】と変わらない紫電の閃光が男を撃ち貫かんとする。

 

「チッ、ダメか……それは、【トライ・レジスト】を付呪(エンチャント)済みの剣か?」

「貴様こそ、何故()()なのだ? 私の【ブレイズ・バースト】は死なんように加減したとはいえ【トライ・レジスト】程度で無傷で済むモノではないハズだが……。──ッ!?」

「《雷帝の閃槍よ》! ……兄さんの予想は正解みたいね」

「兄が使える時点で当然とは思ったが……やはり貴様も使えるのか」

 

 思わず舌打ちしたヴァルドの目の前には、【ライトニング・ピアス】を受け止めても傷1つ付いていない剣を2本掲げた男が立っていた。その剣でソフィアから放たれた雷槍も受け止め、弾く。並の剣士では到底不可能な芸当に、ヴァルドは目を見開いた。

 一方のヴァルドは、男の言う通り【ブレイズ・バースト】をまともに喰らったハズだが、全くの無傷だった。だが、男の表情は然程疑問には思っていなさそうな様子。すぐさま、男は答えを出した。

 

「──ヴァルド、貴様さては『異能者』だな? それも、魔術を無効化する類いの。『落ちこぼれ』なのは、その異能の所為か?」

「勘良過ぎだろアンタ……まぁな、体内のマナの感触では一節詠唱も問題無く出来そうなんだが、最高の魔力効率の三節詠唱でないとオレ自身の異能でかき消されて発動しないんでな。そんなこんなで【ショック・ボルト】すら一節詠唱出来ない『落ちこぼれ』の出来上がりって訳だ」

 

 まさかたった1度の無効化──しかも、爆炎ではっきりと見えない状況──で自らの異能を見破られるとは思っていなかったヴァルドは、苦虫を噛み潰したような表情を見せた。

 ──『魔術無効化能力』……それが、ヴァルド=リオフェドルが持って生まれてしまった異能だった。

 発覚したのはまだ物心が付くよりも前の幼い頃。幼いヴァルドが転んで擦りむいた怪我を親が【ライフ・アップ】で治療しようとした時の出来事であった。全く魔術が効力を発揮しない事に困惑した親が秘密裏に調べ、判明した事だった。

 その為、自らが放出する魔術は略さずに詠唱すれば辛うじて発動出来るが、自らに掛けるような魔術や、自らの身体が触れてしまう錬金術等の魔術は全て無効化され、全く使えないという『落ちこぼれ』になってしまったのだった。

 この事を知るのは両親とソフィア、魔力容量や適性を調べようとして全く調べられなかった事に驚愕したセリカ、そして実験等の授業が0点でも進級出来るように取り計らった学院長の5人だけだったのだが……

 

「隠そうとしても無駄だ。だから貴様、身体能力の向上も身体構造の強化も出来んだろう?」

「……………………」

 

 辛うじて表情には出さなかったが、完全にバレていた。先程見せた剣技から、近接戦闘の技量でも勝ち目は無さそうな上に、こちらが身体を強化出来ない以上膂力や速度でも太刀打ちは不可能。

 ソフィアは既にC級軍用攻性呪文(アサルトスペル)の一節詠唱が出来るとはいえ、その程度ではこの男にとって大した障害には成り得ない。まだ学生用の魔術でしか二反響唱(ダブルキャスト)連続起動(ラピッドファイア)といった高等技法は出来ないのだ。

 兄妹はまだ五体満足ではあったが、状況は既に詰んでいた。しかしその時──

 

「何だとッ!? バカな……ッ!?」

「ッ! 今だソフィアッ!」

「《吠えよ炎獅子》!」

「ッ!? 《光の障壁よ》!」

 

 突然男が何事かに狼狽え出し、その瞬間しか無いとばかりにヴァルドはソフィアに指示を出しながら駆け出した。ソフィアはすぐさま【ブレイズ・バースト】を一節詠唱で放ち、男に【フォース・シールド】で防がせ、ヴァルドと共に駆け出した。

 

「ち──逃がしたか。まあいい。奴等の実力は見切った。いつでも処理出来る。それよりもあの男だ。ジンをいとも簡単に倒した男──グレン=レーダス。見た所、ジンの魔術を封じていたようだが──」

 

 ヴァルド達が逃げた方向に一瞬目を遣ると、男は興味を失ったようにグレンが居る部屋の方向を向いて呪文を唱え始めた……。




基本的に主人公(または妹)が居ないシーンは書かない予定で居ますので、オリジナルの場面になるとどえらい短くなりましたwww

なので、次の章は原作だとまるまるグレン対レイクなのでめっちゃ短くなりそうです(汗)

だが原作と同じ章数で行くぜ!(殴)
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