シズちゃん単独転移 作:ねこ丸次郎
愛しき御方に付けていただいた、私の名前。
栄えあるナザリック地下大墳墓第九階層にて、侵入者撃退の使命を姉妹とともに受けた、戦闘メイドプレアデスの一員。
そんな私は、今。
「……ここ、どこだろう?」
どことも知れない広い広い平原のまんなかで、途方に暮れていた。
見渡す限り、たぶんナザリックではない。姉妹の気配も、至高の御方の気配も感じない。
遠くの方に黒い煙を吐く小さな村のようなものがあって、他にはなにもない。
幸い自動人形としての種族特性で、こんな状況でも冷静な思考は備えている。
少しだけ考えて、とりあえず村の方へ行こうかと思い立った。
私はお腹がへっていたのだ。
♣︎
村に近づくと、それははっきりと感じた。
悲鳴、剣が肉を切る音、火が生き物を焼く臭い。
村まであと300メートルほど。立ち止まって村の中を観察する。自動人形の瞳は可変倍率だ。デフォルトでも、最大128倍までの望遠ができる。
そして見えたのは、村の中を馬に乗って駆ける騎士たち。
それに蹴り殺される子ども、斬り殺される大人。
「……あーこれは、なんというか。はー」
私はため息をついて、村の中を覗くのをやめた。
残酷なことは好きじゃない。
でも、お腹は減っている。
あの騎士たちが、山賊のように村の物資を奪っていくかもしれない。村の穀物庫を焼いてしまうかもしれない。
「……それはこまる」
かといって、近づかないとスキルによる戦闘力の分析はできない。
万が一にでもあの騎士達の中に、至高の御方々に匹敵するような強さの持ち主がいたら、近づくのはまずい。
私は光の粒を散らせながら、手のひらからスナイパーライフルを生み出す。かの御方から賜った、大事な大事なレーザーライフルだ。
隊長っぽい見た目の騎士を目視で確認する。兜の形が他と違うのが二人。階級が高いのかもしれない。
平原に寝そべり、狙いを定める。スコープはいらない。ただ一言だけ、スキルを唱える。
「《ターゲティング》」
二人のうちどちらを狙おうかなと考えて、鎧の隙間から金髪が覗く方が小物臭がするので先に狙おうと思い立った。
狙いは脚。
私に注目が集まればそれでいい。そしたら距離にものを言わせて逃げて、後で村の中に入って物資をいただく。
引き金に指をかける。
音速を超えた爆音とともに、青白い光線が一直線に獲物の脚を射抜いた。
確かな手応えを感じて、よりズームして獲物を確認する。
「……えっ」
私は思わず声をもらす。
脚を射抜いたはずなのに、レーザーの衝撃で獲物の下半身が消滅してしまっていたのだ。
腰から下を喪失した騎士は、何が起きたのかわからないというような表情のまま絶命している。
どうしてこうなったのかと思考を巡らせ、私は気づいた。
あの騎士がすっごくよわいのだ。
私のレベルは41。
それと比較にならないほどに、騎士が弱かったに違いない。
となると、他の騎士を狙ったとしてもこのレーザーライフルでは急所を外しても即死させてしまう。
私は立ち上がると、未だ右往左往している騎士たちに向かって全速力で走り始めた。
私はシズ・デルタ、急襲突撃メイド。初めてその名を示す時が来たのだと、胸を踊らせて。
♢
私の姿を視認した騎士の一人が剣を掲げ、雄叫びをあげながら斬りかかってくる。
(……おそい)
心の中でそう思いつつ、青い輝きを放つアサルトライフルの銃床を、騎士の兜に横殴りに叩きつける。
兜がみしりと歪み、騎士は崩れ落ちた。たぶん、死んではいない。
馬に乗った別の騎士が、私を轢き殺そうと迫ってきた。
突撃を前転して避け、振り向きざまにライフル弾を二発撃ち込む。
弾は鎧をやすやすと貫通して、騎士の腹に二つの小さな穴を開けた。騎士は呻きながら馬から落ちたが、たぶん致命傷ではない。
次は左右から二人同時に斬りかかってきた。
素早く拳銃を抜いて二人の剣を撃つと、わかりやすい破砕音をあげて根元から折れる。
剣の軌跡を逸らすだけのつもりが、とんだもろさだ。
(……剣はガラス製。われものちゅうい。記録しておかないと)
切っ先のなくなった剣を見つめて唖然とする騎士二人の首を、優しくダブルラリアット。
倒れた二人は痙攣しているので生きている。これでよし。
そこまで撃破したところで、私を囲むように陣形が築かれていることに気づいた。
指示を出しているのは、先ほど殺さなかった方の隊長っぽいの。どうやらあちらが本物だったらしい。
分析するに十分な近さまで自ら来てくれたので、遠慮なく視させてもらう。
「《アナライズ》」
──ロンデス・ディ・クランプ。スレイン法国所属。
レベルは10。ソルジャーとコマンダーを修めた、人間の兵士。
「……よわい」
呟いた一言が聞こえたのか聞こえなかったのか、ロンデスが私に呼びかける。
「そこの女、何者だ!我らはバハルス帝国の騎士。我らを邪魔だてするというのならば、それは皇帝陛下に背くこととしれ!」
「……ばは……?」
スレイン法国も、バハルス帝国も、私のデータベースに該当情報はない。けれど、彼が何らかの理由で嘘をついていることはわかった。
ご飯も欲しいけど、ナザリックに繋がる情報はもっと欲しい。
私は彼に問うてみる。
「……あなたの名前は、ロンデス・ディ・クランプ。……スレイン法国のしょぞく。なぜ、うそをついたの?」
「なっ、貴様……私を知っているのか!?」
「……知らない。興味もない。──ナザリックというところを……知ってる?」
「知らん。……だが、お前を生かしておいては任務に支障が出ることは知った。悪いが排除させてもらう」
「そう……。ざんねん」
律儀に質問に答えてくれた彼から視線を外し、にじり寄る騎士たちを見回すように眺める。
解析しても、どれもレベルは一桁。脅威になりそうな相手はいない。
本来なら殺戮は得意じゃないし好きじゃないけど、ナザリックの名を聞いてしまったこの者達を生かして置くわけにはいかない。
盾を並べて押し込もうとしてくる騎士に対して、私はアサルトライフルを構えて円を描きながら掃射した。
盾を簡単に貫いた弾丸は、そのまま鎧をぶち抜いて騎士たちの体の中で暴れ回る。
次々と騎士たちが倒れていき、私は銃をホルダーに納めた。相手が鎧を着ていたので返り血がなく、メイド服を汚さずに済んだことは幸いだった。
♣︎
生き残った村人は村の中心に集められていた。
私はそこに近づく。
「……この村で、いちばん偉いひと。生きてる?」
「は、はい!私がこの村の長でございます」
呼びかけに応じたのは、周りよりも少し年上に見える男。ぺこぺこと私に頭を下げながら近づいてくる。
小柄でありながら騎士を倒した私に、おそれとも近い表情を浮かべて。
話が進まないと面倒かなぁと思い、私は単刀直入に言い放つ。
「私はご飯がほしい。やまもり。おかわりも。カロリー高ければなんでもよし」
♤
「びみょう……」
村の食事は、はっきり言って美味しくなかった。ナザリックと比べるのは可哀想に思えるほど。
襲われた直後だということで準備がよくできなかったのかもしれないと前向きに捉え、とりあえず量を流し込む。
美味しくない上、出されるものはどれもこれも栄養価が低い。カロリーも取れない。
残念に思いつつも稼動のためと割り切って、出されるものは全部平らげた。
村長から話も聞く。
大雑把な周辺の地理情報や、危険な魔物について。お金を持っていないことを知ると、銅貨も大袋で持たせてくれた。
話をしていると、慌てた様子の村人が入ってきて、村に戦士風の一団が近づいてきていることを知らせた。
一飯の恩義くらいはしてあげようかな、と思い村長の家を出る。
(……今度は、話し合いで解決できたらいいな)
⚫
実に面倒なことになった、と私は分析する。
リ・エスティーゼ王国の戦士長が到着し、生きて捕らえた騎士を引き渡したまではよかった。
戦士長から感謝されたのも悪い気分はしない。私が褒められるというのは、私をお創りになった至高の御方々が人々に感謝されることに繋がるのだ。
ナザリックについて聞いた返答は、申し訳ないが知らないとのことだった。期待はしていなかったので落ち込みはしなかったが、国王にも尋ねてみようと言ってくれたのは嬉しい誤算だった。口封じも必要ないほどに義理堅い性格らしいのも頼もしい。
しかし、村を
戦士長いわく、スレイン法国の特殊部隊、六色聖典のいずれかだと言う。
(……だいぶ、強いかな)
特殊部隊と言うからには、先ほどのちんけな騎士とは別物でそれなりの戦力なのだろう。平均レベルが50あれば、私には逃げることしかできない。
とりあえずは戦士長を前に立たせて、私は村の中から様子見をすることにした。彼もレベル30ほどなので使い物にならなそうだけれど、時間くらいは稼いでくれるに違いない。
♡
「シズ殿……。戦士長様たちは大丈夫でしょうか?」
「……大丈夫、だと思う」
王国戦士団が村から離れ、村に被害を出させまいと全速力で草原を駆けていく。
いい人なのかもしれない、と私は戦士長のことを記録した。ガゼフ……と言っていたか。
村長が心配そうな表情で戦士団を見送る隣に私は立ち、瞳を望遠レンズに変えて戦士団の背中を見守る。
もはや人間の目には米粒にしか映らないほど遠くで、戦士団が決死の突破作戦を始めた。
私の目には、戦士長が何体もの天使を斬り飛ばす光景が映る。天使のレベルは低そうだ。それを召喚する
しかし一人だけ服装の違う偉そうな金髪だけは、天使の様子が違った。背後に控えている天使が他の天使よりも一回り大きく、何となく強そうに見える。
戦士長もそれに気づいたのか、偉そうな金髪を目指して駆け出した。寄ってきた天使を六体一気に切り払い、金髪に肉薄する。
金髪は少し焦った表情を浮かべると、天使を盾に後退し始めた。戦士長は天使の盾に苦戦している。
金髪はそこで勝ち誇ったように高笑いを浮かべると、懐から宝石のような塊を取り出した。
途端、嫌な予感がした私は指向性マイクの感度を極限まで高め、金髪の声を聞き取る。
「貴様はこの宝を使うに値する敵だと判断した!従ってこれより、最高位天使を召喚する!恐れおののけガゼフ・ストロノーフ!至高なる天使の姿にひれ伏すがいい!」
私は無言で腹這いになり、突然の私の行動にぎょっとする村長の隣でレーザーライフルを構えた。
最高位天使がどんなものかはわからないけど、私ではなんとかならない可能性が1ミリでもあるなら脅威は排除しなくては。
……それと、『至高』を冠していいのはかの御方々だけ。使い魔の天使なんかに使われるべきじゃない。
「《ターゲティング》」
スキルのデメリット効果、ヘイト値の上昇。外に出ていた村人の多くから注目が集まる。
それを背中で感じつつ、私は金髪の偉そうな
死んでしまったら、仕方ないと割り切ろう。
引き金を引いた。
思いつきで書き始めたけど完結できないだろうしチラ裏に投稿。たぶん五話もたない。