部屋にある時計の示す時刻は午前一時。トイレに行くついでに起きている者が居ないことを確認してから、俺は鍛錬を行うために、自室にてトパーズを起動する。
なのはちゃんと友達になり、美遊を義妹に迎えた日から二週間が経過した。なのはちゃんと知り合ってからというもの、ほぼ毎日イリヤ主導によるなのはちゃんに会いに行こうツアーが開催され、四人で遊ぶのがお決まりとなっていた。そのため、日が昇っている間は鍛錬の時間をとることができなくなってしまい、必然的に鍛錬は深夜に行うようになってしまった。そのせいで俺は最近、家族の中で一番起きるのが遅くなり、イリヤと美遊が俺を起こすのが日課となっている。それに伴い、目覚めるとイリヤか美遊が俺の腹の上によく乗るようになった。理由を聞いたら、イリヤは乗るのが好きだからで、美遊はなんとなくだそうだ。美遊はそんなキャラじゃなかった気がするが、無視されたり居ないように接せられるよりは百倍いいのでそこまで気にしていない。ちなみに、美遊がセラさんやリズさんと話しているところを見たことは無い。っと、思考がだいぶずれてしまった。今は鍛錬だ。
「トパーズ、反射路形成。境界回廊一部反転」
「境面界へのアクセスを開始します」
トパーズの返答ののち、一瞬にして文字通り世界が変わる。過ごし慣れた部屋から、見慣れた部屋への移動。境界面に移動したとはいえ、今だ自室だ。いくら破壊しても現実には影響が出ることはないものの、部屋には大切な家族との写真やらなんやらが飾られている。偽物とはいえ壊すのは忍びない。俺は窓を開け、暗い空へと飛び上がった。どこか作られた世界というのを感じさせられる升目の浮かぶ空を飛ぶのもすっかり慣れたものだ。しかし、考えて見れば不思議なものだ。本来であれば、この世界はクラスカードにより形創られる世界であるはずなのに、普通に存在している。
俺が気づいていないだけで、もうクラスカードは存在しているのか、それとも俺の都合のいいように改変されているのか謎だな。そんなことを考えつつ飛んでいると、時間にして五分も立たずに目的である空き地へと到着した。考えるのはいつでも出来る。俺は鏡面界への思考を止め、いつものように
検証したわけではないのではっきりと断言は出来ないが、カレイドトパーズと言うぐらいだ。カレイドルビー、カレイドサファイアと同じように、第二魔法を応用した並行世界のマスターのスキルをダウンロードさせることができるという機能を持つはず。しかし、俺の居る世界が、無限に連なる世界の中の一つというのは理解しているが、果たして無限に存在する世界の中に、俺という存在が、
「トパーズ。トパーズには平行世界のマスターからスキルをダウンロードする機能があるよな?それは俺でも有効なのか?」
「質問の意図がわかりかねますが、肯定します。おっしゃるとおり平行世界よりマスター圭の持つスキルをダウンロードすることは可能です」
戦う可能性があるのだトパーズを用いた戦闘方法に関し、疑問を疑問のままにするのはまずい。そう思いトパーズに問うと間髪いれずに返答があった。
俺でも有効ということは、衛宮圭という存在が傾向世界に複数存在しているか、俺の前身、衛宮圭という存在になる前の俺も有効ということなのだろう。今までは
「トパーズ。セイバー
トパーズの本体から見て、左隣の玉が光り、セイバーのシルエットが浮かび上がると、
本来であればセイバーの限定展開《インクルード》で呼び出すことができるのは、約束された勝利の剣《エクス・カリバー》だけなのだが、俺がセイバーの
「トパーズ。仮想敵を頼む」
「はい」
本家ルビーより数が多いトパーズに備わる二十八の
「開始します」
トパーズの声を合図に始まる模擬戦。一息で俺の直ぐ傍まで駆け寄る黒い影、交差するように切り上げられた剣を、両手持ちに切り替えた
「ぐっ、きつっ」
体重の乗った一撃をなんとか受け止めることには成功したものの、軽く腕が痺れてしまった。このままではこちらの分が悪い。いつまでも力比べをする訳にもいかないな。
「ふっ!」
狭いスペースに無理矢理左足を踏み込み力の限り切り上げる。かん高い音がして影で作られた剣が跳ね上げらることに成功する。体勢を崩された影は大きく跳ぶと、俺との距離を開け両手から伸ばした影を霧散させた。
「今度はこっちが攻める番だ!」
足にトパーズより供給されている魔力を多めに集め、爆発させる。過去最高のタイミングの入り。一気に縮まる影との距離。抜きにより影の後ろにでた俺は勢いそのままに
入りも抜きも俺としては完璧に入る部類の攻撃だが、影はいつの間にか生成していた一振りの剣により受け止めた。影の形からすると恐らく同じ剣、
模擬戦が簡単に終わらないのは嬉しいが、幾ら前の世界で覚えた技術を思い出し、必死に習得し使用しても簡単に対処されてしまうために、いまいち自分自身の強さがハッキリしないのが難点か。
袈裟斬り、逆袈裟、切り上げ、突き。ダメージを当たえようと
俺の攻撃が途切れた隙をついた影は、影剣により受け止めた
「くっ」
手が抜けたと錯覚してしまうほどの衝撃が両手に走る。なんとか
影は俺の手の感覚が戻るのを待つほど甘くはない。体を捻り飛び上がる影。伸ばされた足により何をするかは明白だ。しかし、振り切った状態の
「トパーズ物理保護全開!」
トパーズに指示を飛ばすと同時に、勢いのついた影の足が俺の腹部に突き刺さる。トパーズによりダメージは全く無いが、勢いを殺しきることが出来ずに、俺の体は空き地の塀に叩きつけられた。
自分の戦闘力を上げるための訓練。なのに開始早々にトパーズに物理保護を展開させてしまったことに悔しさを感じる。
確かにトパーズも俺の力であることに変わりない。だが、多用しないと決めていた物理保護を使用させられたのだ。悔しく感じないわけが無い。
「風よ・・・吼え上がれぇぇぇぇぇぇ!! 」
開放された暴風が影へと迫る。
「幾らなんでもそれはないっての!」
少なくとも吹き飛ばすことぐらいは出来るだろうと考えていたのだが、影の前に出した手より放たれた閃光により穿たれ霧散させられた。こちらに迫る閃光。急いで
「おらぁ!」
二つに断った閃光により、背後の壁が粉砕され、砂埃が巻き起こり視界が塞がる。
「
トパーズより告げられる模擬戦の終わり。砂埃が晴れた先には、目と鼻の先に迫った影が、影剣を振り下ろそうとしている姿で固まり、足元より消えていっていた。
「はあ。これで何敗目だ?」
憎たらしい影が霧散したのを見届けた後、俺はトパーズに溜息を吐きながら問い掛ける。
「百十敗です。マスター」
「二百敗までには一勝したいもんだな。トパーズ。次は近接限定で頼む」
「はい。ですが、少し休憩を挟み今の戦闘を振りかえってからにしましょう」
「そうだな」
トパーズの提案を素直に受け入れ、俺はその場に腰を落とす。数をこなすことも重要だが、振り返るのも大事なことだ。
このあと模擬戦四回、反省会四回を繰り返し、俺は鏡面界でシャワーを浴び、現実世界へと帰還した。
◇◇◇
なのはちゃんやイリヤ、美遊と日々を過ごし、模擬戦の対戦成績が零勝二百敗を達成した日の朝、俺はいつもとは違う起こされ方に困惑していた。優しく背中の方から俺の体を揺する小さな手。小さな手であるということから、セラさんとリズさんは除外。イリヤも基本的に俺の腹の上に乗ってくるため選択肢から外れる。残る小さな手の該当者は美遊だけ。しかし、美遊がこんな起こし方をしてきたことはないし、基本、起こしにくる時はイリヤと一緒なので、美遊も外れる。
いや、本当に誰だよ。心の中で疑問の声をあげる俺。魔術という非現実的なものを操ることのできる俺には体を揺する存在に一つだけ心当たりがあった。
家にいる者が誰もあてはらないなら、つまり普段俺の家に居ない者。この家に一緒に暮らす家族以外で俺を起こしに来る者は母さんぐらいしかいない。だが、母さんの手の大きさではない。つまり、俺の体を揺すっているのは……幽霊である。
「むー、まだ起きないの」
「なのはちゃんかよ!!」
「ふええ、圭くん起きてたの!?」
折角導き出した答えが、背後より聞こえた声により否定された。ちょっとビビってたのを誤魔化すために、強い口調でツッコんでしまい、なのはちゃんは突然俺が起き上った事に驚いたのだろう。その場に尻もちをついてしまった。
「少し前に起きたんだけど、知らない起こされ方だったから様子を探ってたんだ」
なのはちゃんにベッド上より手を出しつつ、質問に答える。幽霊だと思い、少しばかりビビッていたとは当然言わない。
「起きてるなら言って欲しかったの」
「ごめんな。なのはちゃん。ところで今日はどうしたんだ?朝からうちに来るなんて初めてだよな?」
むーっと頬をふくらませたなのはちゃんを立たせ、今の出来事を忘れさせるために話を逸らす。
「あれ?圭くん。イリヤちゃんから聞いてないの?」
「なにも聞いてないけど?」
ここ最近イリヤと話した内容を思い出してみるも、俺には何一つ心当たりがない。
「ふふふっ。お兄ちゃんを驚かせようと思って、わたしは何も言ってなかったの!」
勢いよくドアが開けられ、我が家の長女が部屋へと乱入してきた。なのはちゃんがいることに別方面で驚いたので、イリヤの企みはある意味成功したと言える。
とりあえず、腹いせに枕を投げておく。
「ちょっと!結構早かったよ!」
素早く身を屈め枕を躱したイリヤは、俺に抗議の声を上げる。
「遂に躱される日がきたか。腕を上げたなイリヤ」
イリヤの成長に嬉しくなり、思わず笑みを浮かべてしまう。今の心境を言い表すなら、主人公の成長を喜ぶライバルキャラといったところか。
「わたしは、今日、お兄ちゃんを超えたよ!」
「朝から元気すぎてついていけないの」
なのはちゃんの寂しげな呟き。それにより寝起きの変なテンションが急激に冷めていく。
「イリヤ。そろそろなのはちゃんがいる理由を教えてくれないか?」
「そんなの簡単だよ。今日からなのはちゃんがうちの子になったからだよ」
「そうだったの!?」
イリヤの発言に真顔で驚くなのはちゃん。さすがに純粋すぎる。あ、ちょっと涙目になってきた。
「イリヤ。たちの悪い冗談はやめとけ。なのはちゃん涙目だぞ」
「ああ、なのはちゃん。嘘だよ!嘘!」
「圭、おはよう。……まだ?」
イリヤに背中を擦られるなのはちゃん。主にイリヤを少しばかり呆れた様子で見つつ、俺に問いかける美遊。俺としては説明が欲しいところである。
起きてから結構な時間が経っているにも関わらず、俺はなのはちゃんが起こしに来てくれたこと以外、何一つとして把握できていないのに、イリヤがアホな冗談を言ったせいでなのはちゃん半泣きである。
「とりあえず、出かけられるようにしておいて。この子たちは連れていくから」
「ああ、了解」
有無を言う暇を与えずに、美遊はイリヤとなのはちゃんの手を引き、俺の部屋から出て行った。イリヤが美遊の手を逃れ戻ってくる前に、さっさと着替えるか。箪笥から適当な服を選び、テキパキと着替えた後、簡単に身支度を整えた俺は三人娘が待つであろうリビングに向かった。
「おはよう。圭くん」
「おはよ。圭」
「おはようございます。美由希さん、リズさん」
最初にリビングに着いた俺を迎えてくれたのは、三人娘ではなく、美由希さんとリズさんだった。ソファーに座りお茶を飲む二人と挨拶を交わし、俺は三人娘が座る食卓の自分の席に着くと、そこには翠屋の箱に入ったケーキがおかれていた。それを見て漸く事態を把握する。
「そういえば今日は七月二十日か。幾ら誕生日とはいえ、朝からケーキとか飛ばしてるな」
前世での誕生日は十一月三十日。二十五年間も冬に年を重ねていたため、今の誕生日をすっかり忘れていた。
「甘いよお兄ちゃん!わたし達三人は誕生日が同じ日なんだから、朝から三食ケーキを食べないと損なんだよ!」
初めて三人で迎える誕生日な上に、なのはちゃんという仲の良い友達もいるためか、イリヤのテンションは最高潮のようだ。
「んで、わざわざなのはちゃんを朝から呼んだ理由は?」
「遊園地に一緒に行く」
俺の疑問に答えてくれたのは、美遊だ。イリヤは、誕生日のケーキについての演説を始めてしまい、俺の話を聞いていない。なのはちゃん、美由希さん。イリヤが調子にノるんで賛同して拍手をしないで。
「そっか。楽しんで来いよ。いただきます」
ヒラヒラと手を振り、見送る姿勢を見せ朝食として用意されたショートケーキを口に運ぶ。朝からケーキはしんどいと思っていたのだが、甘さが控えられている。これはこれでありかもしれない。
「圭も行く」
「圭くんも行くってイリヤちゃんに聞いてるの」
「なんの用意もしてないんだけど」
セラの入れてくれたホットミルクを口に含む。あー。安らぐ。
「お兄ちゃん!飲んでる暇があったら支度してきて!」
「はいはい。何分くれる?」
「五秒!」
その後、元気いっぱいに返答したイリヤに軽くデコピンをかまし、十五分で支度した俺は、イリヤ、美遊、なのはちゃん、美由希さんと一緒に前世を含めた今までの人生の中で、最高に女子率の高い誕生日を過ごすことになった。
余談になるが、夕食で出てきたケーキの蝋燭の火をイリヤ、美遊、俺の三人で吹き消す際に、イリヤ、美遊、なのはちゃんの三人と、いつまでも平和に楽しく過ごせたらいいなと願掛けをした。
続けられるよう頑張ります。
うちのイリヤはっちゃけすぎかなーと密かに感じる。