世紀末になった現実世界でオリ主が邪ンヌを召喚したようです。   作:鹿頭

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三話

あれから何日か経った。

 

 

今この部屋では、だいたい規則的な拍子で頁を捲る音が真後ろから響いている。

 

音の主であるジャンヌ・ダルク・オルタはソファーの上に仰向けに寝そべりつつ、恐らく永劫に新刊が発行される事は無い雑誌を読んでいる……と思われる。

 

と言うのも。

 

ジャンヌはソファーを堂々と占領しているため、お陰で俺はソファーの脚を背もたれの代わりにしている。

 

ちょっと前ではそれすらも「近寄らないで下さい」の一言で許されず、硬い壁を背にする日が続いていた。

 

それが最近になって「……そこの側面の部分でしたら、背もたれにしてもいいでしょう」とお許しを得たので、ありがたく肘掛けの外側にもたれ掛かっている。

 

シートの部分は体が触れるかもしれないから絶対に嫌です、との事でこうなった上、

 

「私を眺めるなんて不快です。胃がムカムカするので私に常に背を向けるように。そうすればホラ、いつでも貴方を串刺しに出来ますし?」

 

との理由だが、ちょっとジャンヌが顔を上げると俺の背中がある現状は良いのか?と疑問に思う。

 

 

外は基本的に未だ政府機能は自衛隊が代行してる上、この東京都区をまるで壁で取り囲むように封鎖しているため、外に出る事は基本的に出来ない。

 

空はトカゲに陸は動く死体……我々人にはどうする事も……と言うわけでは無く……

何かしらかの方法で頭部を吹き飛ばせばある程度の奴らは基本的になんとかっている。

 

故に幻想種モドキ。

 

なんで吹き飛ばされてんだよ……科学で何とかなるとか雑魚じゃねえか……と不謹慎にも思ってしまった。

ジャンヌによると、「バケモノみたいに強いのが文字通り無双しているっぽい」らしいけど……

 

 

しかし、なんとかなっているのが俺にとっては一番の問題である。

 

「ねぇ」

 

背中を指で軽くつつかれる。

か細い指の先端の感触はかなりくすぐったい。思わずヘンな声が出そうになる。

 

「暇」

「暇とな」

「ええ、退屈ですとも」

「でも外、何もないじゃん……」

「だからです!!」

 

突然、大きな声を出されたからか、耳鳴りが起きる。

そうだ。外は何もない。全部片付けられているからだ。

 

「港区、と言う所にフランスの大使館が有ると地図に書いてありました。そこに行きましょう、マスター」

 

ジャンヌ・ダルク・オルタの性質上、仕方がないとは言え、物騒な提案がなされる。

きっと愉悦に満ちた笑顔で言っているのだろう。

 

「よしんばまだ日本に居たとしても警備ガチガチで近寄れないでしょ……」

「そんなもの全て焼き払って仕舞えば良いのです」

 

どうしようもない程に彼女は憎悪を燃やしている。それは俺と契約した今でも変わらない。

復讐者(アヴェンジャー)の宿命だ、と言うのならば、最後まで付き合ってやりたいとは思う。が。

 

「直ぐに干上がって俺が死ぬんですがそれは」

「あー!……ホント、使えないマスターちゃんね」

 

付き合う前に俺が死ぬ。

ジャンヌの火力を完全に持て余しているのだ。

他のマスターが居たら其方に鞍替えされそうな位に。

 

「もっと魔力、量、上げなさい、よ!」

 

頭を数度に渡って指で小突かれる。

最後は普通に痛かった。

その前に魔力量ってどうやって上げんだよ、知らないぞ俺。

 

「あー……敵が居ないってこんなにも退屈なのね……この身に煮え滾る憎悪を向けようにも向けられないじゃない!」

 

とうとう、ソファーから跳ね起き、その上髪が抜けるんじゃないか、と思う程頭を激しく掻きむしる。

その姿は見ているだけで痛々しい。

このまま放っておくと、そのまま壊れてしまいそうな程に。

 

 

 

「……ねぇ、マスター」

 

 

髪を両手で掴み、延びている腕は顔を覆っている彼女が、俺を呼ぶ。

両腕が重なる僅かな隙間から、爛々と金色に煌く瞳がこちらを見つめているのが視える。

 

「貴方のこと、縊り殺しても良い?」

「………」

 

縋り付く様に、絞り出す様に放たれたその言葉で、どうやら物騒を超えてデッドエンドルートを爆走し始めた事を悟る。

 

その証拠か、格好が見慣れた私服から鎧姿になっている。

 

俺はそれを見て軽く溜息を吐くと、立ち上がってジャンヌと向き合う。

 

 

「もうね、我慢の限界なのよ。この身に燃え上がる怨嗟の炎はどうやっても消えない!!抱えてるだけで頭が可笑しくなるわ。……だから、これはそう、八つ当たり。ねえ、良いでしょ?」

 

言い終わる前から、ジャンヌは一歩、また一歩と俺の首を掴もうとにじり寄ってくる。

 

「……俺を殺せば、ジャンヌも消えるよ?」

「それがどうした!どうせ、私の憎悪は何をやっても消えないっ、のよ!!」

 

遂に首が締められ、そのまま勢い身体が宙に浮く。

気道、血流共に圧迫されて、息が出来ない。思考が回らない。

視界の隅の方から闇に染まっていく。

 

「っな、らっ……」

 

殆ど回らない口が、なけなしの酸素を使って言葉を紡ぎだす。

 

「ころ、すなら……せめて、、焼き殺して、く、れ…」

「ハァ?」

 

思いもよらぬ言に呆気にとられたのか、手が首から離れる。

当然、宙に浮いていた状態が解放されて尻から床に落ちる。

 

圧迫されていた気道が確保された事で、半ば強制的に咳き込む。

 

「ジャンヌの、ほの…おで焼か、れるて死ねるのなら、同じ死ぬでもっ、そっちの方がぜんぜん、良いにきまっ、て「………ハァ!?何よそれ!アンタ真性の阿保だったの!?私を呼ぶ程の渇望を無視してでも一人で死にたくないってどんだけ馬鹿なんですか!」

 

盛大に罵倒される。

ジャンヌと一緒に死ぬんだったら良いかな、と今際の際に思っただけなんだども。

 

「第一、私の炎で死にたい、とは。貴方理解しているんですか?地獄に堕ちたい、って言ってるのと同じですよ?」

 

蔑むような、憐れむような。はたまた諭すのか。どちらともつかない笑みを浮かべるジャンヌ。

 

 

「そもそも、俺はクリスチャンじゃない。その上、仏教と言い、日本の宗教は厳しいから、俺は多分地獄に堕ちる。だったら、同じ地獄でもジャンヌの居る地獄に堕ちた方が幸福だよ」「キモっ」

 

「ンなことわかってるよ!」

 

予想通り、と言うと悲しくなるが、汚物を見るかの様な冷ややかな目を向けられる。

 

「あー、興が削げましたぁ。興醒めでーすぅ」

 

いつの間にか鎧姿では無く、私服姿に戻っていたジャンヌ。

あー呆れた、と言わんばかりに肩を竦める。

事実、呆れているのは確かだろう。

 

「何よ、何なのよアンタ。私とだったら、地獄に堕ちても良い。とかなんとか言っちゃってー!吐き気がします、胃がもぞもぞするんですけれどー!」

 

ソファーに勢い良く座って、脚を組む。

それから、目を瞑って罵倒を始めるジャンヌ。

 

「ホント、その時になって後悔しても知りませんよ?」

 

そう言う彼女の顔は、普段と似合わず勝気な笑顔を見せて。

 

「精々、後悔しないように生きるさ」

「あっ、そう」

 

きちんとした笑顔を見るのは、これが初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……所でさ、前々から気になってたんだけど」

「……何よ」

「その下って……履いてるの?…履いてないの?」

「………うわぁ

 

塵屑か芥を見る様な目で睨みつけられる。

心なしか殺意も籠っている様に眼光は鋭い。

 

勢いに乗じて口を滑らすとロクな事が無いね!俺覚えた!

 

「前々から気になっていた事がよりによってそれですか!ハァ〜……これだから男と言うのはどいつもこいつも穢らわしいのです」

「ごめんなさい」

 

「あー!ホント、殺さなくてよかった。こんなのと心中なんて虫酸が走るわ」

 

手を上に伸ばしつつ、欠伸をするジャンヌ。

 

「ま、アンタの事ですし?どうせ私が履いてないとでも思ってたんでしょうけど」

「………………」

「残念でしたー!履いてますーぅ」

 

と言って、上着の裾をまく、って見、せる。

 

………今コイツは自分が何してんのかわかってんのか……?

 

「何よその顔。ホント、気持ち悪い。ヘンな事でも期待してたんでしょうけど……絶望しなさい?……貴方の望みは叶いませーん!」

 

してやったり、と言った笑みを浮かべるジャンヌ。

思わず顔が引き攣り、その場に座り込む。

 

「アハハッ!あーいい気味。無様ね」

 

一体この子はどうしちゃったのかしら。

ここで高笑いしているアホの子()を彼女のお姉ちゃん(聖女のジャンヌ)が見たらどんな感想を抱くのだろう。

 

「なぁに?その目。まさか貴方、私に劣情を催してたりしませんよね?ま、良いですよ?貴方に私を腕尽くで組み伏せる事が出来るんでしたらね」

 

ソファーから立ち上がったかと思うと、挑発する様に俺の顎に手を添え、軽く持ち上げられる。

女性に逆に顎を持ち上げられる。

人生でまさかこんな経験をするとは思ってもいなかった。

 

「ま、魔力量も満足に足りない、筋力も私に及ばない貴方では、その前に私に燃やされてお終いでしょうけどね。アハハハハ!!!」

 

筋力Aの圧倒的オーラの前にはどうする事も出来ない。

いや、俺の魔力量で今も筋力Aなのかは知らないけれど。

 

自分が絶対的に優位性を保っている、と言う前提に行われている挑発だ。

 

しかし、それにしても顔が近い。

吐息が僅かに感じられる距離だ。その上整った容貌。

今でも不思議に思うが、本当に、あのジャンヌ・ダルク・オルタが、俺の目の前にいるんだ。

 

そう思うと、胸に一筋の痛みが走る。

焦がれても、焦がれても、決して手の届く事の無かった彼女。

こうして側に、俺のサーヴァントとしてここに居る。

 

それだけで、それだけで十分な心の充足感と多幸感を得られる。

文字通り、見ているだけで幸せなんだ。

 

 

……しかし、ともすると他のサーヴァントも居るのだろうか?

居たとしたら、積極的に事態解決に動いているかもしれない。ジャンヌ・ダルク、とか。

だとすると、探しに行くべきだろうか?

天草?アイツは知らん。お前は座に帰れ。ロクな事がない。

 

 

そんな事を金色の瞳を見つめながら考えていると、「………何ですか、ジロジロ人の顔を見て。あんまり見ないで下さい。吐き気がします」

「そりゃどうも……」

 

手を離される。

本音を言うと、もうちょっと眺めていたかった。

 

それにしても。

 

白……か

「何か言いましたか?」

「いいや、なんでもない。これからどうするかな、って」

「ではフラン「ダメです」何故ですか!?」

 

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