#00 たのまれごと
「ちょっと待つのです。かばん、充電はすんでいるのですか」
今まさに、大海原に出ようとしていたかばんを、博士と助手が呼び止めた。いいえ、と答えるかばんに、2人は続ける。
「あれから、1度もカフェに行っていないと思うのです」
「そうです。海のど真ん中で電池が切れたら…念のため行っておくといいのです」
この島の長である2人に言われては、行きたい気持ちを抑えても、従わねばならない。かばんにはそう思えた。むしろ、博士たちに言われなければ、自分は気づけていなかったのだ。
「そう……ですね。じゃあ、行ってきます」
私も行くよ、と言いかけたサーバルを、2人は止めた。彼女らにも事情がある。だからこそ、ここでかばんを呼び止めたのだから。
「我々、かばんと話がしたいのです」
「そうです。サーバル、お前は待っているといいのです」
うみゃあ、と残念そうなサーバル。そんな彼女を安心させたい。すぐ帰るから、笑顔でかばんは言った。
笑顔が戻ったサーバルに視線を向けてから、博士はかばんに呼びかけた。さっきサーバルには言ったが、本人に言わなければ。
「かばん、お前に話があるのです。先に行っていてほしいのです」
「我々は仕事が終わったら行くとします。正直、スピードは我々の方が速いのです」
説明の足りなかった博士を、助手はすぐさまカバーする。互いに信頼し合っているからこそなせる業だ。
かばんは、言われた通りに、一足先にジャパリカフェへ急いだ。
荒い息遣い。だいたい半分は上っただろうか。
「サーバルちゃん、こんなに大変だったなんて……」
ロープウェイは足こぎ式。いくら持久力があるとはいえ、フレンズには負担が大きい。
かばんはふと、ついさっきのことを思い出す。サーバルが待っている。
そう考えるだけで、やる気が自然と湧いてくる。もう少し、もう少しだ。必死でかばんはペダルをこいだ。
しばらくして、かばんの視界に青い屋根が現れた。
やっとのことで、かばんは頂上にたどり着いた。誰かの声が聞こえる。
「おっ。タイミングがいいですね」
「仕事が長引いたのです。さて、始めるですよ」
3人で、ジャパリカフェのドアを開ける。アルパカがゆうえんちにいるからか、中は静まり返っていた。
電池をセットして下に降りると、並んで座る。用件を聞かれる前に、博士が切り出した。
「かばん、お前に頼みたいことがあるのです」
「けものプラズム、というのを知っているですか」
ついこの前生まれたばかりのかばんには分からなかった。いや、知っているフレンズはほぼいないかもしれない。素直にいいえ、と彼女は答えた。だが、そんなことはお構いなしに、2人は話し続ける。
「けものプラズムというのは、我々の体を形作る重要なものなのです」
「ところで、どこに行くかは決まっているのですか」
いきなり全く違う話だ。聞き逃さなくてよかった、とかばんは胸をなでおろし、いったん落ち着いてから答える。
「えっと……さっきのゆうえんちからまっすぐに見える……何でしたっけ? ラッキーさん」
「『ゴコクエリア』ダネ。僕モ管轄外ダカラヨク分カラナイケド」
「あっ、そう! それです!」
些細なことだが、何かを思い出すのはうれしいことだ。まあ、フレンズになったおかげで、感情がオーバーになっているのかもしれないのだが。
「なるほど……その前に、寄ってきてほしいところがあるのです」
「『ゴコクエリア』だとかとは方向が違うのですが」
そう言うと、1枚の地図をさっとかばんの前に広げた。小さな島に×印がつけられている。
不思議そうに覗きこむかばん。その島のまわりには、名前らしき字が見えない。
「印の付いている島に、けものプラズムに関する資料、とやらがあるらしいのです」
「お前には、それを取ってきてもらいたいのです」
答えられずにいるかばんを気にせず、次々と話は進んでいく。
「資料がある、ということは、研究していたヒトが居る、ということ。お前の目的も果たせるのです」
「一石二…いや、どちらも得をするのです」
助手はおそらく、「一石二鳥」と言いかけたのだろう。鳥のフレンズにとって、この言葉は口にしてはならないものに違いない。
かばんはしばらく考え込んだ。そして、
「分かりました。ラッキーさん、場所、わかりますよね?」
「待ッテネ。地図ヲスキャンシテ、データト照ラシ合ワセルヨ」
自分で行けばいいのに、と一瞬思った。でも、遠すぎる。おそらく途中で体力がなくなり、海に落ちてしまうだろう。残酷すぎる仕打ちだ。
その上、自分にとっても新しい出会いがあるかもしれない。見たことのないフレンズ、そして……。かばんにとっては、魅力以外の何物でもなかった。
「というわけで、頼みますよ」
「手に入れたら、いったん帰ってくるのですよ」
後の時間は、地図を眺めている間に過ぎて行った。そのうち、電池の充電も終わったらしく、室内が明るくなった。
「かばん、帰りはどうするのですか」
「えっと……ロープウェイは大変なので無理、ですかね……」
博士はわずかに考え、すぐに答える。
「しょうがないですね……我々に任せておくのです」
山のふもとに着いた。ずっとかばんの体を抱えていた助手の顔は、やはり少しきつそうだ。
「あの、ありがとうございました!」
「それほどでもないのです。我々、図書館に用があるので少し戻ります」
遠ざかる2つの背中に、かばんは笑顔で手を振り、ゆうえんちへ急いだ。
「さすが助手、言いくるめるのがうまいのです」
「ところで博士、サーバルはどうするのですか?」
「サーバルの心を支えるのはかばん。かばんを支えるのはサーバル。もちろん、ついて行かせるのです」
「明るいサーバルのあんな顔は見たくないですからね。賛成です」
かばんがゆうえんちに戻った。行き先が変わったことは、どうやら誰も知らないらしい。
今までかばんがかかわってきた多くのフレンズ達。全員から一言ずつもらい、かばんは船に乗り込んだ。
「おーい、平気かー?」
「だいじょぶそうかー?」
かばんは、はい、とだけ返事をし、船を進めた。おつかいさえ終われば、いったん帰ってこられるのだから。心配することないのに、そうかばんは思っていた。
だいぶ進んだだろうか。もうキョウシュウはほとんど見えない。
すると、船の後ろに何かがぶつかった。かばんが振り返ると、そこには見慣れた大きな耳があった。
「えっ!? サ、サーバルちゃん!」
「えへへ、やっぱり、もうちょっとついていこうかな、って」
もう、と困ったように答えるかばん。内心、とても嬉しかった。サーバルがいなければ、独りで見ず知らずの土地を旅することになっていた。心を支えてくれる誰かがいるだけで、かばんはとても心強く感じた。それは、サーバルも同じかもしれない。
「あっ、あの島じゃない? ねえボス、まだ? 早く早く!」
「サーバルちゃん、さすがに無理だよ……」
島が見えてきた。期待に胸をふくらませ、2人は一直線に島を目指す。果たして、どんな出会いが待っているのだろう。さあ、島はもうすぐそこだ。
《登場怪獣》
なし。
さて、次回の投稿は約1、2週間後ですかね……
《予告》
早速次回、あの怪獣が登場しますよ。
次回、「かいじゅうらんど」