研究所の扉を、デストロイアがゆっくりと開けた。中には木の机、そして天井まである本棚に大量の本。1冊1冊が厚いが、情報量としてはジャパリ図書館を上回る、と言っていいだろう。
かばんは目を輝かせた。これだけの本があるのだ。読みたくなる気持ちを抑えるのに、彼女は必死だった。
とはいえ、まずは頼まれていた事をしなければならない。机の上に目をやると、ホチキスで留められた紙の束があった。
「フレンズの体組織を構成する物質についての報告書」と記されている。博士の説明によれば、けものプラズムはフレンズの体をつくる重要な物質、とのことだ。この紙の束こそ、自分たちが探していたものに違いない。
「あの、これ、もらって行っていいですか?」
「ああ……いいと思うけど? 別に『彼』、戻ってこないだろうし……」
かばんは何度も頭を下げ、背中のリュックサックに報告書をしまった。
「すっごーい! なにこれなにこれー?」
「この写真のツタ、どこかで見た……」
全員が思い思いに研究所の中を見て回っている。5人入るには少々狭い。
「あっ、これ読んでもいいですか?」
かばんが手にした本は、「怪獣~その脅威と歴史~」というタイトルだった。そういえばこの島も「怪獣ランド」という名前だったな、とかばんがこの島に来てすぐのことを思い出す。
デストロイアは何も言わなかったが、欲望に負けたかばんは本を開いてしまった。
たくさんの字が躍っている。振り仮名があるおかげで、かばんにも簡単に読むことが出来た。
「ゲゾラ」、「メガロ」、「ムートー」……知らない文字列が多く出ている目次。かばんが読み進めない理由はない。
パラパラとめくって行くうち、かばんの目に、ある6文字が見えた。急いでページを戻す。
そのページは、「デストロイア」であった。
「デスさん、見て下さい、デスさんのページがありますよ!」
デストロイアは、反応しなかった。
それに構わず読んでいくかばん。しかし、だんだんと怖くなってくる。
「『デストロイアによって日本は壊滅、数千万の人々が帰らぬ人となった』……デスさん……どういうこと、ですか?」
デストロイアは、予感が的中した、と残念な顔をした後、重い口を開いた。
「やっぱりね……かばん、これから話すことは、君にとって重くて、悲しいことだと思う。でも、知っておいてほしい。長くなると思うけど、いい?」
かばんはうなずいた。その目は覚悟に満ちている。
その本はね、怪獣についての本。あたしたちが怪獣だから、それには他の子についても載ってない? ゴジラとか、キングギドラとか、ヘドラとか……。
じゃあ、どうしてそんな本があって、「壊滅」とか、物騒な言葉が並んでると思う?
それはね、あたしたち怪獣が、ヒトにとって恐ろしい存在だったから。ヒトが怪獣を恐れ、殺そうとしていたから。
顔色が悪くなってきてるね。でもこれだけは知っておいて。あたしたちが、どれほどの人を殺してきたのか。どれほど人を戦慄させ、恐怖させてきたのか。
あたしの話をした方がいいけど……まずはあの子の話、するから。
ゴジラ。
あの子はね、ヒトの出した放射能のせいで、怪獣になったの。あの熱線にもそういうのがもともと入ってたらしいし、歩いたところは放射能で覆われて……とっても苦しかった、って。まあ、サンドスターのおかげで今はもう大丈夫なんだけどね。
ゴジラだけじゃない。アンギラスも、バラゴンも、ガイガンも……みんな何かの理由があって怪獣になった。もともと巨大だった子なんていない。
でもね、あたしたちが苦しかったとはいっても、絶対にしちゃいけないことをしてしまったの。
あたしたちが暴れたせいで、たくさんの人が亡くなった。あたしたちに対抗した人も、何の罪もない人も。
そう。あたしたちは、かばん、君の仲間をたくさん殺してしまった。
なのにね。あたしたち、君に近づいたりなんかして。
そういう、ヒトが厄介者としてた「怪獣」が、ここに集められて、今の怪獣ランドがある、ってわけ。
山登りの途中でさ、大きな輪っか。あったよね?
あれを使って、ヒトはあたしたちをここに送ったの。もう2度と、あたしたち怪獣がヒトを襲わないように。
あたしも戦った。その時に翼をちぎられて、今もその傷が残ってる。
あたしたちは苦しんでた。だからと言っていいわけじゃないけど、ヒトの町を襲ったの。
でも、あたしたちが作った事実は変わらない。現実が変わるわけないんだから。
怪獣によって、たくさん人が亡くなったの。ある人々は炎に焼かれ、ある人々は踏みつぶされ……。
かばん。君には知る義務があると思う。この島に来たんだもん。
「ヒト」として、自分の仲間を殺してきた仇を目の前にして、君はどうするの?
怒りに任せてあたしたちを殺してもいい。だって、そうされてもいいくらいのことを、あたしたちはしたんだから。
「……とまあ、こんな感じ。かばん、君はどうするの?」
デストロイアの目は澄んでいる。偽りなくすべてを話したのだ。
かばんは、はっきりと彼女に言った。
「僕は……あなたたちを殺すだなんて、そんなことしません」
かばんの目から失せ始めていた光が、戻ってきた。かばんの目が強く輝く。
「確かに、昔あなたたちはあんなことをしたかもしれません。でも今は違う。僕たちを温かく迎えてくれたから。今から何かを求めはしません。あなたたちを恨んだって、何も生まれないじゃないですか! 僕は、あなたたちを許します」
力強く語るかばん。デストロイアの目には、涙が浮かんでいた。
「ヒト……あたしたちの犯した罪があんなに大きいのに……ありがとう……!」
彼女はかばんを強く抱きしめ、涙を流している。窓から差し込んだ夕日が、涙のしずくを光らせた。
夕日が沈もうとしている。外はもうすっかり暗い。
「……うん。そろそろ行こうか」
その時、ビオラが小さい声でデストロイアに呼びかけた。
「あの……私は……?」
「えっとねぇ……君はまた、ちょっと違った事情があってね……」
夜行性の2人、サーバルとバラゴンは、はしゃいで下山を待っている。
《登場怪獣》
・デストロイア
日本を壊滅させた過去を持つフレンズ。翼は戦いでちぎられた。
・バラゴン
夜行性のフレンズ。サーバルと仲良くなった。
《予告》
次回はついに、人気怪獣登場! まだ出てないといったら……?
次回、「ききてき」