「どうやら、完璧にセルリアン化したみたいだな……」
ガイガンが呟く。
「じゃあ、始めますよ。ビオラちゃん、マンダさん、チタノザウルスさん」
かばんの呼びかけに、3人が応じる。バスから桶を取り外すと、海に向けて運んでいった。
一方、怪獣たちも動き出そうとしていた。その時、ゴジラに声が聞こえる。自分の中から、別の誰かの声。
『頼む。頑張ってほしい』
「……今、何か聞こえなかった……?」
全員がうなずく。一体何があったのか。すると、ゴジラの背びれが発光し始めた。普段の青ではない。橙色、スペースゴジラの色だ。
「感じる――スペースがいる。私の中に」
ついさっき聞こえた声。その声の主こそ、スペースゴジラであった。サンドスターとなって空気中に拡散した彼女がフレンズ達に取り込まれ、内面から働きかけている。
「やれる。これなら――」彼女は身構える。
背びれと同じ色の、稲妻が混ざったような熱線が、ゴジラの口から放たれた。
橙色の「バーンスパイラル熱線」は、メカゴジラの右肩を貫通。右腕が地上に落下し、消え失せた。
マンダとチタノザウルスが素早く動いてくれているおかげで、桶はすぐいっぱいになる。その2人は大変だろうが、表情から疲れは感じられない。
「行きますよ……せーの!」
まず、太い尻尾に海水がかけられた。溶岩となった尻尾をメカゴジラは自切し、まだ動いていた尻尾の先は消滅した。
「次は?」
「足ですね。動きを封じれば、こっちのものですから」
4人がひっそりと、だが確実に動いている。
「すごいじゃんゴジラ! 腕を切り取っちゃうなんて!」
歓喜するデストロイアをガイガンが止める。そう、まだ勝敗が決したわけではない。
「セルリアン化が完了した、ってことは、どっかに石がある、ってことだ。どこか分かればいいんだが……」
黙ってモスラが飛び立つ。疲れはとれたようだ。加えて、セルリアン化したメカゴジラに、フレンズを攻撃する手段はない。
しばらくして、メカゴジラの後ろから声がした。
「ありました! ただそこまでが硬そうですよ」
ゴジラの背びれが再び発光し始める。待っていたとばかりに、デストロイアが指示を出した。
「熱に強い……ラドン! ゴジラをあれの後ろに!」
ラドンがゴジラを抱えて飛び立った。それと時を同じくして、メカゴジラの右足が固まる。
咆哮するメカゴジラ。しかしその姿は、純黒のセルリアンと化していた。
「やった!」
かばんたちが手をたたいて喜んでいる。その一方で、背後に回ったラドンたちが準備する。
ゴジラの目から、背びれから、オレンジの「キラキラ」。直後、バーンスパイラル熱線がメカゴジラを直撃した。
あまりの熱量に、メカゴジラの表面は融解。石が露出した。
フルパワーを2回出して、疲れ切ったゴジラは、ラドンに降ろされた途端に砂浜に倒れこむ。
「あと1発は厳しいか……」
その時。メカゴジラ、今はもうセルリアンとすべきだ。それの右腕が再生した。既に原形をとどめておらず、アメーバ状に広がっている。
その場の全員が状況を理解したその刹那、右腕が激しく揺れ、フレンズ達を襲った。かばんの反応速度を大きく超えている。こちらに伸びてこなかったのは幸いなのか、不幸なのか。
とっさに彼女たちは散り、攻撃をかわす。腕と呼べないほど変貌した腕が地面に突き刺さっている。キングギドラが倒れるゴジラを抱えていなければ、今頃彼女は犠牲になっていただろう。
「まずい……! 回避に集中して! 隙が見えたら攻撃!」
デストロイアが叫ぶ。返事はないが、きっと理解されているだろう。
セルリアンは、左腕までも変形させ、てんでんばらばらに散ったフレンズ達を襲わんとしている。かばんたちも、危険さゆえに出ていけない状況だ。
キングギドラが、残る力すべてを込めて放った引力光線も、硬い表皮にはじかれた。攻撃するだけの体力も、サンドスターも、彼女たちには残されていなかった……ある2人を除いて。
「スペース……! 私やるよ。ガイガン、それ、貸してっ!」
「あ? あぁ! おい、無茶すんな!」
そう駆け出していったのは、バランだ。ガイガンのくないを口にくわえ、空を舞う。
セルリアンが、両腕をブロック状に変形、バランに向かって発射した。しかしそれはむしろ、バランにとって幸運と言えることだった。木々の間を滑空して移動するのが得意なバラン。ブロックに足をかけ、1つ、また1つと蹴って行く。
トップスピードに達したバランは、急旋回する。そして、露出した石に、2つの刃を突き立てた。
スピードとパワー、その2つが結び付き、くないにはとてつもない力がかかった。石の硬さはそれを下回っていたようだ。
石がピシッ、と音を立て、ひび割れた。
セルリアンは大きく吼え、粉々に散った。ブロックとなった体が、サンドスターに還っていく。
その向こうからは、神々しい朝日が顔を出している。フレンズ達が上げた歓喜の声とともに、光が水面に反射してきらりと光った。
「――こっからはあくまで俺の推測だが、あいつは空気中のサンドスターを吸収していたんだろう、多分。供給が追い付かなくなったから、俺たちを襲おうとした、ってとこだろうな」
翌朝。昨夜の戦いの反省会が開かれた。ガイガンが力説する。しかし、意味を理解しているフレンズは半分くらいだろうか。ゴジラはあくびをし、ビオラに至っては、かばんに寄りかかって寝息を立てている。
ふと、かばんが疑問に思ったことを問うた。
「あの……スペースさんは……?」
全員の顔が暗くなった気がした。デストロイアが口を開く。
「かばん、正直に言うよ。あの子は……消滅した。君たちがいない間にね」
立っていたかばんは崩れ落ちた。支えをなくしたビオラが目を覚ます。
「どうして……どうしてそんな……」
涙を流すかばんの肩を、バランがぽんと叩いた。
「いいの。スペースは涙なんか望んでないから。怪獣ランドが、みんなの心が、平和になってることが、ほんとに望んでることだと思う。だから泣いてちゃダメ」
かばんをなぐさめたのち、バランはふっと向き直り、怪獣ランドの住人に伝えた。散っていったスペースゴジラの思いを。
「とどめを刺すときね、スペースの声がした。応援してくれてたのか、力を貸してくれたのか……わかんないけどさ、みんなが安心できるようであってほしい、って言ってた。だからみんな、この島、守り抜かなくちゃ」
一同がうなずき、そこかしこから掛け声が聞こえてきた。
その後数日間、2人は怪獣ランドにとどまることにした。
サーバルはバラゴンと連れ立って、姿を消してしまった。島じゅうをめぐっているらしい。かばんはその様子を見つめる。
「――ビオラちゃん、行こう」
かばんは、改めて島を回ることにした。決戦の日に、初めてビオラを目にしたフレンズも少なくない。彼女の存在を島のフレンズに伝え、受け入れてもらわねばならなかった。
最後に寄った池にいたヘドラと、ビオラは仲良くなったらしい。かばんは微笑みながらその様を見つめていた。その瞳には、「母性」とでも呼ぶべき何かがあふれている。
ビオラを見送った彼女はデストロイアから鍵を借り、研究所に向かった。
本が大量にある。背をじっと見て、読む本を決め、壁にもたれかかって読み始めた。
かばんには、自分が「ヒト」である、という実感はないに等しかった。だが、知っておかなければならなかったのだ。怪獣と人の戦いの歴史。ジャパリパークの沿革。知る義務があるように、彼女には思えた。
かばんとサーバルが、怪獣ランドを発つ日がやって来た。島のフレンズ全員が、見送りに出向いてきてくれている。
「本当に、ありがとうございました!」
「またね~!」
2人ほど、目に涙を浮かべている。ビオラがかばんに抱きついてきた。
船が視界から消えるまで、怪獣のフレンズ達は手を振り続けていた。
「ヒトねぇ……久々だったなぁ」
「あの子といると楽しかったけど。また来てくれないかなー、サーバル」
それぞれが2人との別れを惜しむ中、バランが立ち去ろうとするガイガンを呼び止める。
「あのさガイガン……それ、貸してくれない? いや、ちょうだい」
「ん、これか? 別にいいが、何だ、急に?」
ガイガンがくないを手渡した。まだ彼女のポケットには予備がたくさん残っている。
「この前も言ったけどさ、スペースの言ってたこと、守らなきゃな、って」
ガイガンはふっ、と笑い、バランの背中をたたいた。
「あいつの遺志を継げ。絶対」
「ただいま帰りました!」
「ただいま! あれ、博士たちは?」
2人が図書館に帰って来た。頼みを果たすべく。
後ろからかすかな羽音が聞こえる。博士と助手だ。
「お帰りなさい、なのです」
「よく帰って来たですね。さて、約束のものは持ってきたですか」
かばんはリュックの中から紙束を取り出そうとする。助手があわてて制止した。
「待つのです。としょかんに入ってからじっくり見るのです」
「なるほど、『フレンズの……を……する……についての……』なんですかこれは! 本当に合っているのですか!?」
「開いてみましたが、わけのわからない記号ばかりですよ、博士。我々には分からない、と正直に言った方が……」
「何を言っているですか、助手! ……読めない、です」
博士たちですら読めないものを持ってきてしまったらしい。資料を持ってくる意味はあったのだろうか。
だが、怪獣ランドで2人が得たものは大きい。かばんは明日に向かい、大きな一歩を踏み出した。
《登場怪獣》
・ゴジラ
怪獣ランドのサーバルポジション。
スペースゴジラが遺したサンドスターを吸収して放った「バーンスパイラル熱線」が強い。
・アンギラス
怪獣ランドの変わったフレンズ。
今回あまり出番なし。
・キングギドラ
怪獣ランドの目立つフレンズ。
引力光線すら、セルリアンを貫けなかった。
・ラドン
怪獣ランドのハシビロコウポジション。
勝利のきっかけづくりに貢献。
・ヘドラ
怪獣ランドの恥ずかしがり屋。
ビオラと仲良くなった。
・ガイガン
怪獣ランドの警察役。
彼なくしてセルリアンは倒せなかった。
・チタノザウルス
怪獣ランドの情報通。
セルリアンを固める作業に携わった。
・ビオランテ(ビオラ)
怪獣ランドの新たな仲間。
ヘドラと仲良くなった。
・バラン
怪獣ランドの話したがり。
セルリアンにとどめを刺した。
・デストロイア
怪獣ランドの転入生。
真実ばかり伝えて疲れ気味。
・バラゴン
怪獣ランドの穴掘り名人。
サーバルと仲良くなった。
・モスラ
怪獣ランドの訪問者その1。
戦いの後レッチ島に帰った。
・バトラ
怪獣ランドの訪問者その2。
モスラとともに帰って行った。
・マンダ
怪獣ランドの海神。
セルリアンを固めるため大活躍した。
《予告》
完。
次回から、番外編3作。怪獣ランドの過去が明かされる。