ガイガンが語る、「彼」との出会い。
外伝その1 じょうりく
「『ヒト』ってヤツは信用ならない」。
それが、島のフレンズ達の間での共通認識だった。
……あの日までは。
俺は海岸を見張っていた。十分なスペースがないこの島には、船で向かうしかない。なら、俺がここで止めてしまえば、この島のヤツらは守られる。
そんなことしか、俺は考えていなかった。
海辺をふらふらと歩く。腹が減った。こんなことしていても、きりがない。そう思うまでになっていたが、俺の中の「正義」とかいうものが、それを必死で阻んでいた。
ふと俺が水平線を見た、その時。俺のサングラス――ゴーグル、そういった方が通じやすいものだが――が、何かをとらえた。
ゆっくりとこちらにやってくる船。間違いない、ヒトだ。
俺は今すぐにでも飛んで行って追っ払ってやりたいと思った。だが、かすかに残った希望がそれを許さなかった。
結局、俺は船が着くまで海岸にとどまっていた。
眠気が俺を襲う。いくら特訓していても、勝ち目はなかった。
俺が目を覚ました時、視界にはヒトの顔。男だ。
信用するほどではない。そう言って普段なら追い払うところだったが、俺の直感が何かを感じ取った。
彼は本気で俺を心配している。表情から容易に分かった。見せかけではない。
だが、これだけでは完全に信じられない。
「……おい、てめえ。この島、勝手に入ってくんじゃねぇ」
寝起きの俺に出来る精いっぱいの威嚇、そして最後通告。だが彼には関係なかったらしい。
「ん? あぁ、悪い。俺は今日からここに来た、芹沢だ。よろしく頼む」
よくもこう、ヒトって野郎は……。俺は起き上がると、くないを突き出そうとした。ただ、その位置にはすでに彼の右手がある。
「話は聞いてる。ガイガン、だったか?」
握手なんてしてやるもんか。俺の意志は固かった。右手を払いのける。
「さてと……研究所、ってどこだ? ガイガン、案内してほしいんだが」
気安く名前で呼ぶな。俺のことなんてこれっぽっちも知らないくせに。今来たばっかりの「ヒト」なんぞに俺がそんなことする義理はない。
俺は舌打ちをして立ち去ろうとしたが、足が動こうとしない。動きたがっていない。
「……俺はガイガンで合ってる。言っとくが、俺はお前を完全に信用したわけじゃない。……行くぞ」
歩きながら、彼は話しかけてきた。それも、何回も。俺がそんな簡単に心を開くか、っての。なめられたものだ。
「この島って、どんなヤツがいるんだ? 紹介してくれよ」
俺の脳裏を忌まわしい記憶がよぎる。
そう、あいつらも。語るのも、思い出すのも嫌になる。
「おい、お前もここに派遣されたんだろ? どうせ、ローランドやら何やらと同じなんじゃねえのか?」
今までここに来てた野郎どもなら、軽い口調で否定するだろう。そこで、こいつ、芹沢が、どんなヤツか探ることが出来るはずだ。
彼の答えは、今までの誰とも違った。
「……あいつらが何をしたかはだいたい知ってる。もう取り返しがつかないだろう。でも俺は違う」
真っすぐな瞳で、彼は俺を見つめた。そして、膝を湿った地面につく。
「この通りだ。あいつらのしたことは、俺が責任を取る」
……チッ。これだから人ってヤツは……!
俺が今からこいつを連れていく場所。そこにいるヤツこそ、ヒトのせいで希望を失ったフレンズだ。
ヘドラ。
ヤツは押しが弱い。抵抗もできない。それをいいことに、あの野郎どもは……ダメだ、思い出すだけで吐き気がする。
芹沢がフレンズの信用を勝ち取るには、まずヘドラに会わせるべきだと思った。心の壊れたアイツを元通りに出来ればいい、ってとこだ。
ヘドラの池に着いた。
「おーい、ヘドラ、いるか? ガイガンだ。お前に会わせたいヤツがいる」
しばらくして、ヘドラが目だけを水面から出す。だが芹沢を見るや否や、すっと引っ込んでしまった。
彼は残念そうにしている。当然だ。
「しょうがないか。また明日だな」
その後も、2人で島を回り、フレンズ達に芹沢を紹介していった。数人を除いて、取り合ってくれるヤツはいなかったが。
彼の話を聞いているうちに、どうもこいつは信用できそうだ、と思うようになった。コイツは俺たちフレンズをモノではなく、一個人として見てくれているようだ。まだ不信の方が上回っていたが、最後の方になると、俺もそろって頭を下げていた。
最後の目的地である研究所。といっても、「研究所」とは名ばかりだ。研究しているような気配は今まで1度も感じたことはない。
扉の前で、芹沢はもう1度右手を出した。
「今日はありがとな。おかげで助かった。これからよろしく」
何なんだ、コイツ。握手したがりなのか? 俺は応じる気がなかった。
だが、俺の体は動いていた。意思に反し、俺の右手は芹沢のそれと触れ合う。
温もり。今までのヤツから感じなかったもの。俺の心の中に、不信とは違う何かが生まれ、大きく育っていくのが分かった。
その日から、俺は毎日研究所に通った。彼のことが気になるのか? そんなわけはない。
この島に来てから数日がたち、島の住人も次第に彼を受け入れていった。接触すればするほど、心が温められる、といった感じだろう。
芹沢が来てから5日たち、俺は偶然スペースに会った。いつもより表情が柔らかく感じる。
「久しぶりだな。で、どうだ? 芹沢、ってヤツ」
スペースの尾が左右に揺れている。彼女は答えた。
「……いい。彼であれば信用できるかもしれない」
他人のことなのに、なぜか嬉しかった。別れた後、森の中で1人喜んでいた。見られてなくてよかった。
ある日、俺はアイツの「研究」に付き合わされた。怪獣のフレンズが持つ能力について知りたいという。
俺の場合は万能なサングラスだが、別にゴジラやキングギドラで、むしろソイツらの方が良かったんじゃねぇのか? 光線吐けるし。
「ちょっとそれ取ってくれるか? じっくり見てみたいからな」
言われるがままに、俺はサングラスを差し出した。もうだいぶ、彼に心を開いていたかもしれない。
その時俺は、ヤツが俺の顔をまじまじと見ているのに気がついた。
やべっ。俺の素顔、見られてやがる。どうしてこんなヤツに……! 顔の温度が上がっていくのがはっきり分かった。
「? ……!ごめん、女の子だもんな。ガイガン、怖いばっかだと思ってたけど、かわいいとこあるじゃん」
……かわいい?
嘘だろ? そんなわけない。……本当に? こんな俺を? まさか。
俺の心が痛むのが分かった。悲しみや苦しみじゃない。喜びと、感動と……わからない。
その日、俺の心は何かで満たされた。ヒトに対する特別な感情、だろうか。
俺はその場を離れられず、動けずに立ち尽くしていた。
・芹沢
島にやってきた人物。詳細不明。
・ローランド
以前島にいた人物。口にするのもはばかられる。
・ガイガン
この気持ち……何だ? 彼女には分からなかった。