2219/3/20 アフリカ・ビクトリア湖
ボビー・ジャクソン 漁師(当時)
俺に話せる事なんてない。俺は裏切り者だ。
ドゴラめ。クソッ。あいつさえ現れなけりゃ。
……しょうがない、いずれ話す時が来る、そう思ってたさ。
あの日も、俺はいつものように漁をしていた。ナイルパーチ、ってヤツだな。あれは俺たち漁師の重要な収入源だった。
あいつは外来種らしいがな。もうほとんど関係なくなっていた。固有種は滅び、ナイルパーチが悠々と泳ぐビクトリア湖。格好の漁場だ。
むしろ、増え過ぎで困っていたくらいだった。そいつらをバンバン獲って、俺たち漁師はぼろ儲け、自然も元通り。いいことだと思っていたな。
しかし、そこ数日はどうもおかしかった。あれだけいるはずのナイルパーチが1匹も獲れないんだ。いくらバカなヤツでも気づくだろ。何かあるな、って。
ただ、向こうの方の仲間は特に何も言ってなかったからな。ただ運が悪いだけだと思ってた。前にも似たようなことはあったからな。程度はまだマシだったが。
そして、あの日。
いつものように漁に出ようと船のもとに向かった、その時。
ヤツが現れた。
ドゴラ。
半透明の化け物。多分、あれが魚を食い尽くしていたんだろうな。
湖から現れたヤツは、空中に浮かび、俺の船を天高く巻き上げていった。
どうすることもできなかったさ。逃げることさえも。やっと足が動いたのは、俺のもとに触手が伸びた時だったな。
俺は軍に向かい、起きたことをありのままに話した。近くに軍施設があっただけよかった。
ちょうど年の初め。世界各国の軍が統合され、怪獣対策のための巨大組織、「地球防衛軍」が出来たばかりだったらしい。
そこに俺は保護され、何度も調べられた。個室が用意され、モニターから外を見られた。
だがね、見ていられなかったよ。俺の漁場一帯にいただけだったはずのドゴラは、いつしか湖全体を覆っていた。何があったかはたやすく想像できたさ。ナイルパーチを食い尽くしたヤツだ。食欲に任せ、近隣の住民をも喰らい始めたんだろう。
……俺の背中から熱が消えていった。
自分だけがここにいていいんだろうか。漁をしていた同志と、同じ運命をたどった方がいいんじゃないか。
その日の夜。俺は南アフリカ支部に移された。
ドゴラの拡大スピードが早く、計算上は1カ月でアフリカを覆い尽くすという。
モニターは、被害状況を伝えるマップに変わっていた。
出現から1日。ドゴラは昨日の2倍くらいのサイズになっていた。
支部内の放送から、火器による攻撃がなされることが分かった。どんな怪獣だろうと、軍が本気を出せば倒せる。それが世間の常識だった。あの頃は気楽だったと思う。
いずれにせよ、俺にはモニターを見ていることにしかできない。外から甲高いエンジン音。
その1時間後くらいか。モニターを見た俺は愕然とした。
ドゴラがさらに活発に増殖している。
攻撃が効いていないのか。むしろ、攻撃を利用しているようだ。
こうして、軍の不敗神話は崩れ去った。
収容されて3日目。
ドゴラはどうなっていたか、知っているだろう。
火器を、人々を、動物たちをも喰らい、ヤツはさらに拡大していた。
ビクトリア湖周辺の3カ国はおろか、そこと隣接した国々までもが侵食されんとしている状況。まさに地獄絵図だ。
ここでのうのうと生きている自分が恥ずかしくなったさ。同志を、親を、仲間を捨て、俺はここにいる、ってわけだ。クソみたいな人間だと自分を恨んだ。
ドゴラのいた区域、そこは国立公園として、世界遺産にもなっていたはずだ。最近は密猟者も減り、自然が守られつつあったらしい。そこに現れたドゴラは、人間の努力を水泡に帰した。数多くの貴重な動植物がヤツに滅ぼされたに違いない。
4日目。
ドゴラへの攻撃は中止されたようだった。今軍が持ちうる兵器では、ヤツに太刀打ちすることは到底できない。何か策を考えているのだろう。
その間にも、ドゴラの拡大は続いていた。ルワンダとブルンジが完全にヤツに支配されたのが分かった。
5日目。まだ動きはなく、被害だけが拡大していった。
6日目。ドゴラのもとに向かった軍人が喰われたそうだ。餌が無くなり、ドゴラの拡大スピードは遅くなりつつあった。
7日目。再びヤツが活発に活動し始めた。地球防衛軍という名前に不信すら抱く。防衛する気はあるのか、と。
現実、ウガンダにケニア、コンゴ民主共和国の半分、南スーダンの一部が覆われていたのだ。その辺りではいまだに内戦が起こっている。ヘタに火器を使えば、またヤツが動き出す。
8日目。ついに動きがあった。
知っているだろう、「岩降る夜」。
軍はずっと、ドゴラに有効な化学物質を探していたのだ。細胞片を採取に向かい、喰われた軍人もいたという。
ハチの毒に含まれる物質。それがヤツの弱点だった。
すぐさま戦闘機が離陸、物質をばらまいた。効果てきめん、ヤツは岩となり、人もない大地に降り注いだ。
最大の脅威に、俺たちは勝った。
しかし、現実が重くのしかかった。固有種の喪失、周辺5カ国の壊滅。一怪獣にしては被害が大きすぎる。ここからだな、人類が変わりはじめたのは。終末論者が現れ、世界経済は崩壊し……見てられない。
……ところで、ドゴラ襲来による自然公園の壊滅、それによる動植物の絶滅。これが、後の「ジャパリパーク計画」につながった、ってのは本当なのか?
出現怪獣:ドゴラ
体長:不明
原種:ヒドラ
作者がスナネコ化したため、執筆を休止します