森のどの辺りにビオランテの本体があるかは、チタノザウルスから聞いている。怪獣ランドの地図を読み込んだボスのナビゲートにより、やみくもに歩き回るよりずっと早く目的地にたどり着くことが出来た。
目の前が岩壁になっている。思ったより山が近い。本当にこんなところに、巨大なはずの本体が収まるスペースがあるのだろうか。
そう思ったのだが、どうも周りが開けている。ざっと100mくらい。おそらく、ここに本体があったのだろう。
ということは、フレンズになったビオランテがあまり移動していなければ、まだ近くにいるはずだ。2人は手分けして、周りの森の中を探すことにした。
10分ほどたっただろうか。かばんが、茂みの中に何かを見つけた。草にまぎれているが、明らかに草ではない何か、髪の毛のようなものが見える。
寄って来たサーバルが茂みを慎重に切り裂くと、中でおびえているフレンズがいた。手を出すと、小さく声をあげて逃げる。
「ごめんなさい、いきなり。あなたがビオランテさん、ですか?」
小刻みに震えているそのフレンズは、かすかな声で答えた。網目模様のTシャツに、深い緑色の髪。たくさんの毛が寄り集まり、ヘビのような形を作っている。
「……ううん、わからない」
彼女は泣きだしてしまった。どうすることもできない2人。勇気を振り絞り、かばんが声をかける。自分が何の動物か分からずにいた自分に、サーバルがしたように。
「……よし。じゃあ、今日からあなたの名前は、『ビオラちゃん』でどうでしょう?」
突然のことに戸惑う「ビオラ」は、こう返すことしかできない。
「え……? ビオラ? 私……が?」
「あなたは多分、ビオランテのフレンズさんでしょう。でも、違うかもしれない。だから、種類としてじゃなくって、あなた1人だけの名前です。僕もヒトだけど、『かばん』っていう名前ですから」
しばらく黙りこんでいた彼女だったが、やっと声を発した。
「ビオラ……いい名前……ありがとう、かばん」
ビオラが立ち上がる。2人は今できる精いっぱいの笑顔で、彼女を迎えた。
「じゃあ、ちょっと一緒に来てくれませんか?」
「チタノザウルス~、お待たせ!」
「おっ! 待ってたよ、どうだった?」
かばんが、ほら、とビオラの背中を押す。彼女は少し恥ずかしそうに顔を隠した。
「本体がいた辺りにいたんです。チタノザウルスさんが正しければ、この子がビオランテ、ってことになりますけど。万が一を考えて、『ビオラちゃん』って呼ぶことにしました!」
「ふーん、なるほどね。ビオラ、よろしく」
ビオラは小さくお辞儀をする。腰にはまったスプレー缶が、日光を受けてきらりと光った。
「この後どうするの? ビオラの正体知りたけりゃ、デスのところに行くと早いよ。そっか、もともとそこ行こうとしてたっけ? いいじゃん、この機会にどっちの用件も達成しちゃえば」
「そうですね。そうしましょう! 行こう、サーバルちゃん、ビオラちゃん」
かばんが2人を招き寄せる。じゃーね、と手を振るサーバルに、ぺこりと一礼してから歩き出すビオラ。チタノザウルスが3人を見つめ、ふっと呟いた。
「……いいなぁ、友達って。よし、私もマンダのところに行こっかな」
ビオラも、だいぶ2人に口をきいてくれるようにはなった。彼女いわく、自分が誰で、何をしていたか、分かることは何もないそうだ。
かばんは、ビオラにかつての自分を重ねていた。
自分は何の動物なのか。何も分からなかった自分に手を差し伸べてくれたのは、今自分の隣で笑っているサーバルなのだ。自分がそうされたように、他人にそうできる存在になりたい。いや、ならねばならない。
自分は、ビオラにとって初めての、ぬくもりを感じさせる存在になる。それこそ今の自分がすべきことだ、と感じたのだ。自分にとっての、サーバルと同じように。
「ビオラちゃん、その缶は……?」
「えっと……『きょうさんせいじゅえき』っていって、うーん……わからない」
「うん。ありがとう」
かばんが笑ってみせると、ビオラも返してくれる。それがかばんにとってはうれしいと同時に、自分の心の奥底にある何かをくすぐられる気がしてきてたまらない。ビオラともっと親しくなれば、自分がさらに成長できる、そんな気がした。
《登場フレンズ》
・ビオラ
ビオランテの本体がいたであろう付近にいたフレンズ。
かばんが、彼女がビオランテであると仮定して名づけた。自分に近いものを感じ、かばんはうれしい。
《予告》
次回はあの怪獣。自分の中では、ゴジラシリーズ最強にも思えますけどね。多芸だし。
次回、「けっしょう」