プロローグ
いつもの月曜日。いつもの学校の昼休みにハジメのいるクラスはまばゆい光に襲われた。
光から目を閉じていたハジメはざわざわと騒ぐ無数の気配を感じてゆっくりと目を開いた。そして、周囲を呆然と見渡した。どうやら自分達は巨大な広間にいるらしいということが分かった。天井を見るとドーム状になっており大聖堂という言葉が自然と湧き上がるような荘厳な雰囲気の広間であった。しかも周りには30人近い人々がまるで祈りを捧げるように跪き、両手を胸の前で組んだ格好でハジメたちの前にいるのだ。
(なんだこれ?えーっと確かさっきまでは日本にいたはずなのに…ただのドッキリとは思えないし…)
その圧倒的な雰囲気にのまれながらもさっきまでのことを思い返すハジメ。さっきまで自分たちは普通に学校生活を送っており、ちょうど昼休みの時間だった。そこまで思い出したとき隣にいるはずの少女、白崎香織の存在を思い出す。チラリと横を見ると、呆然とした様子で座り込んでいる香織の姿があった。
この香織という少女は学校で二大女神と言われ男女問わず絶大な人気を誇る途轍もない美少女だ。いつも微笑の絶えない彼女は、非常に面倒見がよく責任感も強いため学年を問わずよく頼られる。それを嫌な顔一つせず真摯に受け止めるのだから高校生とは思えない懐の深さだ。そんな彼女は何故かよくハジメにかまってくる。
そのせいでクラスメイト達にやっかみを受けているのでハジメとしては、放っておいて欲しいのだが…とはいえこの異常事態になると心配になったが、どうやら怪我はなかったようだ。その事にホッと息を吐くハジメ。
続けて香織の近くにいる3人の男女の様子をうかがう。
「何なの此処は…」
ポニーテールにした長い黒髪がトレードマークの美少女、八重樫雫はあたりを見渡し警戒している。
「なんだってんだこりゃあ…」
熊のような大きな体格を持つ脳筋思考の坂上龍太郎は口を開いてあんぐりとしている。
「……え?ええ?なにこれ?ここ何処?コスプレ?……というよりこの状況は…もしかして……マジで?…えぇー」
最後は天之河光輝という容姿端麗、成績優秀、スポーツ万能の完璧超人だ。サラサラの茶髪と優しげな瞳、百八十センチメートル近い高身長に細身ながら引き締まった身体。誰にでも優しく、正義感も強い(思い込みが激しい)。だがこの状況にはさすがの完璧超人もかなり困惑しているようでキョロキョロと辺りをしきりに見回している。心なしか顔が青くなっている。
(流石の天之河君でもびっくりするよね)
光輝のあまりの困惑ぶりに少し落ち着きが出てくるハジメ。自分よりも慌てている人を見ると冷静になるというのはどうやら本当らしい。そんな事を考えていると、周りにいる法衣集団の中からやたらと偉そうな老人が進み出てきた。
「ようこそ、トータスへ。勇者様、そしてご同胞の皆様。歓迎致しますぞ。私は、聖教教会にて教皇の地位に就いておりますイシュタル・ランゴバルドと申す者。以後、宜しくお願い致しますぞ」
そう言って、イシュタルと名乗った老人は、好々爺然とした微笑を見せた。
現在、ハジメ達は場所を移り、十メートル以上ありそうなテーブルが幾つも並んだ大広間に通されていた。
全員の前に飲み物が行き渡るのを確認するとイシュタルが話し始めた。
「さて、あなた方においてはさぞ混乱していることでしょう。一から説明させて頂きますのでな、まずは私の話を最後までお聞き下され」
そう言って始めたイシュタルの話は実にファンタジーでテンプレで、どうしようもないくらい勝手なものだった。
要約するとこうだ。
人間族と魔人族が何百年も戦争を続けている。戦力は拮抗し大規模な戦争はここ数十年起きていないらしいが、最近、異常事態が多発しているという。それが、魔人族による魔物の使役だ。そのせいで数で勝る人間族が滅びの危機を迎えているのだ。
「あなた方を召喚したのは“エヒト様”です。我々人間族が崇める守護神、聖教教会の唯一神にして、この世界を創られた至上の神。おそらく、エヒト様は悟られたのでしょう。このままでは人間族は滅ぶと。それを回避するためにあなた方を喚ばれた。あなた方の世界はこの世界より上位にあり、例外なく強力な力を持っています。召喚が実行される少し前に、エヒト様から神託があったのですよ。あなた方という“救い”を送ると。あなた方には是非その力を発揮し、“エヒト様”の御意志の下、魔人族を打倒し我ら人間族を救って頂きたい」
イシュタルはどこか恍惚とした表情を浮かべている。おそらく神託を聞いた時のことでも思い出しているのだろう。イシュタルによれば人間族の九割以上が創世神エヒトを崇める聖教教会の信徒らしく、度々降りる神託を聞いた者は例外なく聖教教会の高位の地位につくらしい。
ハジメが、“神の意思”を疑い無く、それどころか嬉々として従うであろうこの世界の歪さに言い知れぬ危機感を覚えていると、突然立ち上がり猛然と抗議する人が現れた。
愛子先生だ。
「ふざけないで下さい! 結局、この子達に戦争させようってことでしょ! そんなの許しません! ええ、先生は絶対に許しませんよ! 私達を早く帰して下さい! きっと、ご家族も心配しているはずです! あなた達のしていることは唯の誘拐ですよ!」
ぷりぷりと怒る愛子先生。しかし、次のイシュタルの言葉に愛子含む全員が凍り付いた。
「お気持ちはお察しします。しかし……あなた方の帰還は現状では不可能です」
場に静寂が満ちる。重く冷たい空気が全身に乗りかかっているようだ。誰もが何を言われたのか分からないという表情でイシュタルを見やる。
「ふ、不可能って……ど、どういうことですか!? 喚べたのなら帰せるでしょう!?」
愛子先生が叫ぶ。
「先ほど言ったように、あなた方を召喚したのはエヒト様です。我々人間に異世界に干渉するような魔法は使えませんのでな、あなた方が帰還できるかどうかもエヒト様の御意志次第ということですな」
「そ、そんな……」
愛子先生が脱力したようにストンと椅子に腰を落とす。周りの生徒達も口々に騒ぎ始めた。
「うそだろ? 帰れないってなんだよ!」
「いやよ! 何でもいいから帰してよ!」
「戦争なんて冗談じゃねぇ! ふざけんなよ!」
「なんで、なんで、なんで……」
パニックになる生徒達。ハジメも平気ではなかった。しかし、オタクであるが故にこういう展開の創作物は何度も読んでいる。それ故、予想していた幾つかのパターンの内、最悪のパターンではなかったので他の生徒達よりは平静を保てていた。ちなみに最悪なのは召喚者を奴隷扱いするパターンだったりする。
誰もが狼狽える中、イシュタルは特に口を挟むでもなく静かにその様子を眺めていた。だが、ハジメは、何となくその目の奥に侮蔑が込められているような気がした。今までの言動から考えると「エヒト様に選ばれておいて何故喜べないのか」とでも思っているのかもしれない。
未だパニックが収まらない中、ずっとイシュタルの話を真剣に聞いていた光輝が音を立てて立ち上がった。その事に驚き注目する生徒達。深呼吸を何度か繰り返しおもむろに話し始めた。
「イシュタルさん少しばかり聞きたいことがあるんですが良いでしょうか」
「ええ、もちろんかまいませんよ勇者様」
「…ありがとうございます。先ほど話してくれた強力な力…俺達には大きな力があるんですよね?ここに来てから妙に力が張っているような気がするんですが…」
「ええ、そうです。ざっと、この世界の者と比べると数倍から数十倍の力を持っていると考えていいでしょうな」
「そうですか…人間族を救って、この戦争を終わらせたら俺たちを地球に、日本に返してくれるんですよね?」
「もちろんですとも、エヒト様は慈悲深いお方。必ずやあなた方を返してくださることでしょう」
「……なら俺は戦います。この世界を救い人々を救って見せます。皆が家に帰れるように。俺が世界も皆も救ってみせる!!」
ギュッと握り拳を作りそう宣言する光輝。覚悟を決めたその顔に絶望の表情だった生徒達が活気と冷静さを取り戻し始めたのだ。光輝を見る目はキラキラと輝いており、まさに希望を見つけたという表情だ。女子生徒の半数以上は熱っぽい視線を送っている。
「へっ、お前ならそう言うと思ったぜ。お前一人じゃ心配だからな。……俺もやるぜ?」
「今のところ、それしかないわよね。……気に食わないけど……私もやるわ」
「え、えっと、雫ちゃんがやるなら私も頑張るよ!」
「3人とも…すまない」
いつもの3人組が光輝に賛同する。後は当然の流れというようにクラスメイト達が賛同していく。愛子先生はオロオロと「ダメですよ~」と涙目で訴えているが光輝の作った流れの前では無力だった。
結局、全員で戦争に参加することになってしまった。おそらく、クラスメイト達は本当の意味で戦争をするということがどういうことか理解してはいないだろう。崩れそうな精神を守るための一種の現実逃避とも言えるかもしれない。
「………?」
そんな事を考えていた時、ふと誰かから見られているような気がした。いったい誰だろうとそれとなくあたりを見回すと、光輝とバッチリと目があってしまった。
「----」
「え?」
こちらを見て何事かを呟いてた光輝だが遠くにいたので何を言っているのかはわからなかったが
ハジメには助けを求めているように聞こえたのだった。
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……何かの冗談だと思った。目を開けたら学生服の少年少女ばかり、そして神官服の男たち…それはまだいいかもしれない。決定的なのは自分の姿も違う、おまけにトータス…つまりここはこの世界は…「ありふれた職業で世界最強」の世界…
驚く暇も現実を受け止める暇もなかった。夢のようなふわふわした感覚というのか…とりあえず自分の姿の役割通りにしてみたが…これで合っていただろうか?ダダをこねて全員、国外追放なんて目も当てられないし…間違えたわけじゃないと思いたい…
今はひたすら夢であってほしいと願っている
誰か助けてくれ…
これでいいのでしょうか?