ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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戦闘シーン非常に難しいです!でも書くしかないのさ~
原作のメインヒロイン登場!ですがキャラ崩壊注意です…
こっそりと自分の趣味を載せてみる


希望

「すみません、間違えました」

 

そう言ってそっと扉を閉めようとするハジメちなみにコウスケはまだ硬直している。それを金髪紅眼の女の子が慌てたように引き止める。もっとも、その声はもう何年も出していなかったように掠れて呟きのようだったが……

 

 ただ、必死さは伝わった。

 

「ま、待って! ……お願い! ……助けて……」

 

「お断りします…というかコウスケさっさと起きて。とっととこの部屋から出るよ」

 

そう言いながら扉を閉めようとするハジメは怪しいものには容赦がない。

 

「ど、どうして……何でもする……だから……」

 

女の子は必死だ。首から上しか動かないが、それでも必死に顔を上げ懇願する。

 

「な、何でもだと!」

 

「コウスケ…その言葉に反応しないでよ…」

 

やっとで硬直が解けるコウスケ、中々最低の反応である。コウスケに呆れながらハジメは鬱陶しそうに言いはなった

 

「あのな、こんな奈落の底の更に底で、明らかに封印されているような奴を解放するわけないだろう? 絶対ヤバイって。見たところ封印以外何もないみたいだし……脱出には役立ちそうもない。という訳で……」

 

全くもって正論だった。

 

すげなく断られた女の子だが、もう泣きそうな表情で必死に声を張り上げる。

 

「ちがう! ケホッ……私、悪くない! ……待って! 私……」

 

 知らんとばかりにコウスケを外へ蹴り飛ばして扉を閉めていき、もうわずかで完全に閉じるという時、ハジメは歯噛みした。もう少し早く閉めていれば聞かずに済んだのにと。

 

「裏切られただけ!」

 

 もう僅かしか開いていない扉。

 

 しかし、女の子の叫びに、閉じられていく扉は止まった。ほんの僅かな光だけが細く暗い部屋に差し込む。十秒、二十秒と過ぎ、やがて扉は再び開いた。そこには、苦虫を百匹くらい噛み潰した表情のハジメが扉を全開にして立っていた。ハジメとしては、何を言われようが助けるつもりなどなかった。こんな場所に封印されている以上相応の理由があるに決まっているのだ。それが危険な理由でない証拠がどこにあるというのか。邪悪な存在が騙そうとしているだけという可能性の方がむしろ高い。見捨てて然るべきだ。

 

(裏切られた、か…)

 

 “裏切られた”――その言葉に心揺さぶられてしまうとは。もう既に、クラスメイトの誰かが放ったあの魔弾のことはどうでもいいはずだった。

 それでも、こうまで心揺さぶられたのは、やはり何処かで割り切れていない部分があったのかもしれない。そして、もしかしたら同じ境遇の女の子に、同情してしまう程度には前のハジメの良心が残っていたのかもしれない。

 

「南雲どうした?閉めないのか?」

 

「…話を聞くだけだよ…怪しかったら即座に撃つ」

 

 コウスケはどこか嬉しそうに話す。まるで、ハジメの良心があることを心から喜んでいるようだ。その顔に、拗ねたように不機嫌になるハジメ。

 

「裏切られたと言ったな? だがそれは、お前が封印された理由になっていない。その話が本当だとして、裏切った奴はどうしてお前をここに封印したんだ?」

 

 ハジメが戻って来たことに半ば呆然としている女の子。コウスケは事の成り行きを静かに見守っている。

 

 ジッと、豊かだが薄汚れた金髪の間から除く紅眼でハジメを見つめる。何も答えない女の子にハジメがイラつき「おい。聞いてるのか? 話さないなら帰るぞ」と言って踵を返しそうになる。それに、ハッと我を取り戻し、女の子は慌てて封印された理由を語り始めた。

 

 

「私、先祖返りの吸血鬼……すごい力持ってる……だから国の皆のために頑張った。でも……ある日……家臣の皆……お前はもう必要ないって……おじ様……これからは自分が王だって……私……それでもよかった……でも、私、すごい力あるから危険だって……殺せないから……封印するって……それで、ここに……」

 

「ふーん」

 

 枯れた喉で必死にポツリポツリと語る女の子。話を聞きながらハジメは呻いた。なんとまぁ波乱万丈な境遇か。しかし、ところどころ気になるワードがあるので、湧き上がる何とも言えない複雑な気持ちを抑えながら、ハジメは尋ねた。

 

「お前、どっかの国の王族だったのか?」

「……(コクコク)」

「殺せないってなんだ?」

「……勝手に治る。怪我しても直ぐ治る。首落とされてもその内に治る」

「……そ、そいつは凄まじいな。……すごい力ってそれか?」

「これもだけど……魔力、直接操れる……陣もいらない」

 

「ふーん、中々すごいなぁ…ちょっと待ってくれる?南雲、カモン」

 

 コウスケは話を聞いてから少女に待つように言い、ハジメを呼び寄せる苦々しい顔をしてコウスケに近寄るハジメ。

 

「どうする南雲?助けるか?それとも放置か?」

 

「…正直迷っている。話の言う通りなら中々の力だけど…」

 

「そーだな。こういう時は、どうしたいか、その後どうなるか、で考えよう。南雲はどうしたい?」

 

「…助けようとそう考えている」

 

「ふむ、その後どうなる?」

 

「これからの戦力になる…最もこちらを襲ってこなければだけど…」

 

「見た限りそれはないな……あ、美人局ってこともあるか」

 

「それこそないよと思うけど…それより良いの?」

 

「まぁ大丈夫だ、なんかあったら俺がついてるし何とかなる、もしも何かあっても俺がいれば万事オッケーだ…あー助けた後になんか来るってフラグもあるからそこらへん抜かりなく」

 

 笑顔で胸を張るコウスケ、話を聞いた時点でハジメが助けると考えていたのか、やけにニヤついている気がする。なんだかなぁと思いつつ少女のいる立方体へ近づくハジメ。コウスケもその後に続くその顔はやたらと笑顔だ。

 

「あっ」

 

 女の子がその意味に気がついたのか大きく目を見開く。ハジメはそれを無視して錬成を始めた。

 

 ハジメの魔物を喰ってから変質した赤黒い、いや濃い紅色の魔力が放電するように迸る。コウスケも意味があるのかわからずとも取りあえず、自分の魔力を立方体に押し込むイメージをする。と同時に青空の様な蒼色の魔力が暴風の様に吹き荒れる

 

「ぐっ、抵抗が強い! ……だが、今の僕なら!」

 

「まだだ!南雲!パワーをメテオに!」

 

「いいですとも!って、なんでこんな時にふざけるの!」

 

「こんな時だからこそだ!」

 

 ハジメは初めて使う大規模な魔力に脂汗を流し始めた。少しでも制御を誤れば暴走してしまいそうだ。だが、これだけやっても未だ立方体は変形しない。ハジメはもうヤケクソ気味に魔力を全放出してやった。なぜ、この初対面の少女のためにここまでしているのかハジメ自身もよくわかっていない。だが、とにかく放っておけないのだから仕方ない。

 コウスケもネタを振りながら慣れない事をして脂汗をかいている。助けたいと思う気持ちを魔力を通して立方体注ぎ込む。

 今や、部屋全体が紅と蒼の輝きを放っていた。正真正銘、全力全開の魔力放出。持てる全ての魔力を注ぎ込み意地の錬成と魔法を成し遂げる!

 

「ファイト―――――!!」

 

「いっぱああああああああつ!!」

 

 直後、女の子の周りの立方体がドロッと融解したように流れ落ちていき、少しずつ彼女の枷を解いていく。

 

 それなりに膨らんだ胸部が露わになり、次いで腰、両腕、太ももと彼女を包んでいた立方体が流れ出す。一糸纏わぬ彼女の裸体はやせ衰えていたが、それでもどこか神秘性を感じさせるほど美しかった。そのまま、体の全てが解き放たれ、女の子は地面にペタリと女の子座りで座り込んだ。どうやら立ち上がる力がないらしい。

 

 ハジメも座り込んだ。コウスケはへばりながら魔物の毛皮で作ったポーチから震える手で錬成型試験官に入れた神水を飲んでいる。

 ハジメも同じように神水を飲もうとしてその手を女の子がギュッと握った。弱々しい、力のない手だ。小さくて、ふるふると震えている。ハジメが横目に様子を見ると女の子が真っ直ぐにハジメを見つめている。顔は無表情だが、その奥にある紅眼には彼女の気持ちが溢れんばかりに宿っていた。

 

 そして、震える声で小さく、しかしはっきりと女の子は告げる。

 

「……ありがとう」

 

 その言葉を贈られた時の心情をどう表現すればいいのか、ハジメには分からなかった。ただ、胸の奥から何か温かいものが宿ったような気がした

 「神水を飲めるのはもう少し後かな」と苦笑いしながら、気怠い腕に力を入れて握り返す。女の子はそれにピクンと反応すると、再びギュギュと握り返してきた。

 

「……名前、なに?」

 

「ハジメ、僕の名前は南雲ハジメ。でさっきから横にいる変なのが」

 

「南雲なんか俺の扱い悪くない?いじめ?泣くぞ?まぁいいか…コウスケだ。コンゴトモヨロシク」

 

 女の子は「ハジメ、コウスケ、ハジメ、コウスケ」と、さも大事なものを内に刻み込むように繰り返し呟いた。そして、問われた名前を答えようとして、思い直したように2人にお願いをした。

 

「……名前、付けて」

 

「え? 付けるってなに。まさか忘れたとか?」

 

 長い間幽閉されていたのならあり得ると聞いてみるハジメだったが、女の子はふるふると首を振る。

 

「もう、前の名前はいらない。……2人の付けた名前がいい」

 

「……はぁ、そうは言っても、センスがひどいのがいるし」

 

「俺のことかい…とりあえず南雲、女の子なんだし可愛い名前を考えてみようか」

 

 おそらく、裏切られた前の自分を捨てて新しい自分と価値観で生きる、この女の子は自分の意志で変わりたいらしい。その一歩が新しい名前なのだろう。女の子は期待するような目で2人を見ている。しかし、少女は知らなかった。こういう時には全力でふざけるコウスケ(馬鹿)のことを…

 

「閃いた!ボロンゴ、プックル、チロル、ゲレゲレこれだ!さぁどれがいい?ちなみに俺のおすすめはゲレゲレだ」

 

「……えぇ」

 

「ドラクエ5かよ!つか、さっきから何でネタばっかいうの!常識ないのかよ!ねぇなんで!」

 

「いや、名前つけろなんて言うしー良いセンスないしーなんかさっきから2人でいい雰囲気ばっかするから忘れられた気がして茶化したくなるんだもーん」

 

「…マジかよ、これじゃただの小学生じゃないか…」

 

くねくねしながら阿呆なことを言うコウスケ。その顔には反省の顔が全く見られない、溜息を吐きながらせめてまともな名前を付けようと考えるハジメ。

 

「“ユエ”なんてどう? ネーミングセンスはコウスケよりましだと思うけど……」

 

「ユエ? ……ユエ……ユエ……」

 

「うん、ユエって言うのはね、僕の故郷で“月”を表すんだよ。最初、この部屋に入ったとき、君のその金色の髪とか紅い眼が夜に浮かぶ月みたいに見えたから……どう?」

 

(良いセンスだ…流石は南雲。オタクの名は伊達ではないな)

 

 思いのほかきちんとした理由があることに驚いたのか、女の子がパチパチと瞬きする。そして、相変わらず無表情ではあるが、どことなく嬉しそうに瞳を輝かせた。

 

「……んっ。今日からユエ。ありがとう」

 

「うん、それより…これを着て」

 

「?」

 

 礼を言う女の子改めユエは握っていた手を解き、着ていた外套を脱ぎ出すハジメに不思議そうな顔をする。

 

「なにも着てないのはちょっとね」

 

「流石南雲紳士だ。女の子の好感度を上げていくそのスタイル…嫌いじゃないわ!」

 

そんな事を言いながらも一応配慮して見ないようにしてはいるのだが、ちょっぴり残念なコウスケ。

 

「……!?」

 

 そう言われて差し出された服を反射的に受け取りながら自分を見下ろすユエ。確かに、全裸だった。大事な所とか丸見えである。ユエは一瞬で真っ赤になるとハジメの外套をギュッと抱き寄せ上目遣いでポツリと呟いた。

 

「ハジメのエッチ」

 

「…エッチて言われた」

 

「気にするな南雲君!男はみなスケベなのさ!」

 

「…コウスケはヘンタイ」

 

「…美少女にヘンタイと言われた…これはこれで…っと南雲!茶番はここまでだ!上からくるぞ気を付けろ!」

 

 コウスケの警告と、ソレが天井より降ってきたのはほぼ同時だった。

 

 咄嗟に、ハジメはユエに飛びつき片腕で抱き上げると全力で“縮地”をする。一瞬で、移動したハジメが振り返ると、直前までいた場所にズドンッと地響きを立てながらソレが姿を現した。

 

 その魔物は体長五メートル程、四本の長い腕に巨大なハサミを持ち、八本の足をわしゃわしゃと動かしている。そして二本の尻尾の先端には鋭い針がついていた。一番分かりやすい喩えをするならサソリだろう。二本の尻尾は毒持ちと考えた方が賢明だ。明らかに今までの魔物とは一線を画した強者の気配を感じる。

 

すぐにコウスケは全力で地卿を振りかぶっていた

 

「だらしゃっあああああ!」

 

ガギンッ!

 

(っち!想像以上に固い!)

 

 頭に向かって地卿を打ち当てたはいいもののあまりの硬さに手がしびれそうだった。わかってはいたが、さっきのサイクロプスとはあまりにも強さが違う、そのことに顔をゆがめるコウスケ。サソリモドキはお返しとばかりに4本の腕をコウスケに突き出してくる。地卿を振り回し全力で打ち返す。が、どれもが硬く腕をへし折ることができない。

 

(やべぇ!ここまで俺の打撃が通用しないとは…)

 

 自分の力不足に歯噛みするコウスケに容赦なくサソリモドキの溶解液が降り注いでくる。

 

「うわわわっ」

 

 ゴロゴロと転がり何とか溶解液を回避するコウスケ。その隙に準備が終わったのかユエを担ぎながらドンナーで援護するハジメ。

 

 放たれた弾丸は命中した、しかし外殻にわずかな傷を負わせるだけだった。サソリモドキが「いい加減にしろ!」とでも言うように散弾針をハジメに向かって放った。ハジメは、即行でその場を飛び退き空中で身を捻ると、散弾針の付け根目掛けて発砲する。超速の弾丸が狙い違わず尻尾の先端側の付け根部分に当たり尻尾を大きく弾き飛ばすが……尻尾まで硬い外殻に覆われているようでダメージがない。完全に攻撃力不足だ。

 

どうすべきかと、ハジメが思考を一瞬サソリモドキから逸した直後、今までにないサソリモドキの絶叫が響き渡った。

 

「キィィィィィイイ!!」

 

 その叫びを聞いて、全身を悪寒が駆け巡り、咄嗟に“縮地”で距離をとろうとするハジメだったが……既に遅かった。絶叫が空間に響き渡ると同時に、突如、周囲の地面が波打ち、轟音を響かせながら円錐状の刺が無数に突き出してきたのだ

 

「マズイ!」

 

 ドンナーと“豪脚”で何とかいなすが、そんなハジメに、サソリモドキの散弾針と溶解液の尻尾がピタリと照準されているのが視界の端に見えた。顔が引き攣るハジメ。

 

 次の瞬間、両尻尾から散弾針と溶解液が標的を撃墜すべく発射された。回避が間に合わない、無理だと歯を食いしばった。

 

 しかしここでコウスケがハジメの前に躍り出た。顔の前に地卿を構え風魔法「風壁」を使い溶解液をそらせる。

 

 直後、強烈な衝撃とともに鋭い針が何十本もコウスケに突き刺さる。

 

「がぁぁああ!!!」

 

 悲鳴を上げ衝撃で吹き飛ばされた。後ろにいるハジメとユエも巻き添えになる。ハジメはすぐに立ち上がり“閃光手榴弾”を投げる。放物線を描いて飛ばされた“閃光手榴弾”はサソリモドキの眼前で強烈な閃光を放った。

 

 

「キィシャァァアア!!」

 

 突然の閃光に悲鳴を上げ思わず後ろに下がるサソリモドキ。どうも最初からハジメとコウスケの動きを視認しているようだったので、いけると踏んで投げたのだが、その推測は間違っていなかったらしい。すぐにハリネズミになったコウスケを回収し、神水を無理矢理口に突っ込む。ユエもすぐにやってきた。心配そうに2人を見る無表情が崩れ今にも泣き出しそうだ。

 

「ハジメ、コウスケ!」

 

「げほっがはっ…大丈夫だ!クッソ、強いなアイツ!?南雲!なんか強力なもんはないのか!?」

 

「そんなに火力のあるものは持ってないよ、目や口を狙うにも4本のハサミが邪魔するし…今すぐには攻略法が浮かばないかな」

 

「俺が囮になってる間にドンナーや手榴弾ってのは?」

 

「それは…駄目だよ、狙っている間にコウスケが持たないと思う。それに痛みにはまだ慣れてないんだろう?顔が青いよ」

 

「そりゃ慣れないけど、だからと言って誰がやるって言ったら俺しかいないし…火力も硬さもない前衛はキッツいな」

 

ユエの心配を余所にサソリモドキを攻略すべく思案するハジメとコウスケ。そんなハジメにユエがポツリと零す。

 

「……どうして?」

 

「ん?」

 

「え?」

 

「どうして逃げないの?」

 

 自分を置いて逃げれば助かるかもしれない、その可能性を理解しているはずだと言外に訴えるユエ。それに対して、ハジメとコウスケは呆れたような視線と苦笑いを向ける。

 

「何を今更。強い敵が出てきたからって見捨てるような真似はしないよ」

 

「そういうことだ、そんなことを考えているのなら何か案を出してほしいな」

 

 ハジメは助けると決めたあの時から、ユエを守ろうと思うのだ。あの時助けを求めてきた時自分の良心が傷んだ。きっとあれを忘れては自分は力を振りかざす外道になるそんな感じがした。何より助けたときの暖かいあの気持ち、あれを手放す気はさらさらしない。

 コウスケは論外だ、そもそも見捨てるという選択肢はあり得ない。生きて、喜んだり悲しそうにする彼女を助けたいとそう思うのだ……思っているのだが力が足りなさ過ぎて内心とても穏やかではないが…

 

 ユエはそんな2人に言葉以上の何かを見たのか納得したように頷きハジメに抱きついた

 

「ユ、ユエ? どうしたの?」

 

 状況が状況だけに、いきなり何してんの? と若干動揺するハジメ。そろそろサソリモドキが戻って来るころだ。コウスケの傷も治っている。

 早く戦闘態勢に入らなければならない。だが、そんなことは知らないとユエはハジメの首に手を回した。

 

「ハジメ……信じて」

 

 そう言ってユエは、ハジメの首筋にキスをした。

 

「ッ!?」

 

「うおっ大胆」

 

 否、キスではない。噛み付いたのだ。

 

 “信じて”――――その言葉は、きっと吸血鬼に血を吸われるという行為に恐怖、嫌悪しても逃げないで欲しいということだろう。そう考えて、ハジメは苦笑いしながら、しがみつくユエの体を抱き締めて支えてやった。一瞬、ピクンと震えるユエだが、更にギュッと抱きつき首筋に顔を埋める。どことなく安心しきったようなのは気のせいだろうか。

 

「キィシャァアアア!!」

 

 サソリモドキの咆哮が轟く。どうやら閃光手榴弾のショックから回復したらしい。こちらの位置は把握しているようで、再び地面が波打つ。サソリモドキの固有魔法なのだろう。周囲の地形を操ることが出来るようだ。

 

「だが、それなら僕の十八番だ!」

 

「俺の土魔法もついてるぞ!」

 

 ハジメは地面に右手を置き錬成を行った。周囲三メートル以内が波打つのを止め、代わりに石の壁がハジメとコウスケとユエを囲むように形成される。その上をさらにコウスケの土魔法「土壁」がさらに覆う。周囲から円錐の刺が飛び出しハジメ達を襲うが、その尽くを2人の防壁が防ぐ。一撃当たるごとに崩されるが直ぐさま新しい壁を構築し寄せ付けない。

 

 地形を操る規模や強度、攻撃性はサソリモドキが断然上だが、錬成速度はハジメの方が上だ。錬成範囲は三メートルからまだ上がらないが成長の余地はありそうだ、刺は作り出せても威力はなく飛ばしたりも出来ないが、守りにはハジメの錬成の方が向いているようだ。コウスケの魔法は鍛錬不足かボロボロ壊れていくが…

 

2人が防御に専念していると、ユエがようやく口を離した。

 

「…ん、とても美味しい…次はコウスケの番」

 

「って、南雲で満足じゃないのかよ!?」

 

「…つべこべ言わず吸わせて」

 

「諦めたら? ああコウスケ、壁の方は大丈夫だから、コウスケの魔法もそんなに役に立ってないし」

 

「お前本当に言うようになってきたな…仕方ない…初めてなので優しくお願いします」

 

「…ん、任せて」

 

 笑顔で毒を放つハジメと吸血させろと抱き着いてくるユエ。なんか選択ミスったかなと思いつつ裸コートの美少女が抱き着いてくるというシチュエーションに戦闘中にもかかわらず顔が赤くなる、そんなコウスケに悪戯っぽい表情で吸血を開始するユエ。

 瞬間コウスケに得も言わぬ恍惚感が襲ってきた自分の中のナニカが吸われていくという感覚、首筋に当たるぬめぬめした感触。おそらくユエの舌だろう…に膝ががくがくし頭がスパークする。童貞であるコウスケには刺激が余りにも強すぎた。

 

「ひゃ、ひゃにこれえ! な、なぐもぉぉおお、これ…これぇしゅごいのおおお!!」

 

「なんでみさくら語……ユエ?なんか長くない?」

 

「……おえぇ、まずい…でも…それがいい、もう一杯」

 

「ぁあああ!や、やめてぇえしゅごいのおおお!ばかに、ばかになっちゃぅぅうううう!もうあにも、かんがえられなぃいいい」

 

「…なんだろうこの状況…今戦闘中だよね?なんか…突っ込むの馬鹿らしくなってきた」

 

目の前に起こる親友の痴態に、夢中で血を吸う裸コートの美少女、溜息が深くなるハジメだった。

 

 そうこうしている間にやっとで口を離すユエ

どういう訳か、先程までのやつれた感じは微塵もなくツヤツヤと張りのある白磁のような白い肌が戻っていた。頬は夢見るようなバラ色だ。紅の瞳は暖かな光を薄らと放っていて、その細く小さな手は、そっと撫でるようにコウスケの頬を撫でた後ハジメの頬を優しく撫でている。ちなみにコウスケはビクンッビクンッとクリムゾンをしていて恍惚の表情のまま地面に倒れて気絶していた。蹴り飛ばそうかと一瞬悩むハジメ。

 

「……ごちそうさま」

 

 そう言うと、ユエは、サソリモドキに向けて片手を掲げた。

同時に、その華奢な身からは想像も出来ない莫大な魔力が噴き上がり、彼女の魔力光なのだろう――黄金色が暗闇を薙ぎ払った。

そして、神秘に彩られたユエは、魔力色と同じ黄金の髪をゆらりゆらゆらとなびかせながら、一言、呟いた。

 

「“蒼天”」

 

 その瞬間、サソリモドキの頭上に直径六、七メートルはありそうな青白い炎の球体が出来上がる。直撃したわけでもないのに余程熱いのか悲鳴を上げて離脱しようとするサソリモドキ。だが、奈落の底の吸血姫がそれを許さない。ピンっと伸ばされた綺麗な指がタクトのように優雅に振られる。青白い炎の球体は指揮者の指示を忠実に実行し、逃げるサソリモドキを追いかけ……直撃した。

 

「グゥギィヤァァァアアア!?」

 

 サソリモドキがかつてない絶叫を上げる。明らかに苦悶の悲鳴だ。着弾と同時に青白い閃光が辺りを満たし何も見えなくなる。ハジメは腕で目を庇いながら、その壮絶な魔法を唯々呆然と眺めた。

 やがて、魔法の効果時間が終わったのか青白い炎が消滅する。跡には、背中の外殻を赤熱化させ、表面をドロリと融解させて…完璧にこと切れたサソリモドキがそこにいた。

 

「強すぎだろこれ…オーバーキルにもほどがある…」

 

 一応ドンナーをサソリモドキの口内に撃つ…必要なさそうだが念のためである。反応がないことによしと納得するハジメ。トサリと音がして、ハジメが驚異的な光景から視線を引き剥がし、そちらを見ると、ユエが肩で息をしながらギラギラとした目でコウスケに、にじり寄っていた。

 

「ん…まずくて、えずきそう…でも、良薬は口に苦し…癖になる…」

 

 どうやら魔力が枯渇したようで吸血しようとコウスケに狙いを定めているようだ。完璧に獲物を狙う目である。在りし日を思い出し背中をブルリとしながら親友を狙うユエを止めるのであった。

 

 

 

 

 

 




原作を知っているコウスケならサソリを楽に倒す方法を知っているんじゃないかと思われますが一応理由があります…
最も想像以上のユエの容姿(ちなみに全裸)に思考が止まっていたというのもありますが…シカタナイヨネ♪童貞だもん♪
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