ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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一応注意です。白崎香織がとても暴れています。ドロドロとしています。
香織はこんな女の子じゃないという人はプラウザバックを推奨します



いざ、香織ちゃん劇場



女の衝動

 

 

 

『ユエが嫌い、シアが嫌い、ティオをが嫌い。ふふ、心をどんなに押さえつけても貴女の感情は手に取るように分かるよ』

 

 光の鎖で縛りあげられている香織を嘲笑いながら虚像の香織は薄く笑っていた。時間はユエ達が香織の部屋に来る前までさかのぼる。

 

『皆、綺麗で最初見たとき驚いたよね。なんて綺麗な人たちなんだろうって、そしてその女たちが当然の様にハジメ君の傍にいたときあなたどう思ったか知ってる?』 

 

 虚像の香織の嘲るような声に香織は俯いたままピクリとも反応しない。その事に虚像は笑みを深める。 

 

『ハジメ君の傍に近寄らないで! 笑っちゃうよね、好きな男の子が生きていたことに喜びながらも目ざとくほかの女に牽制するなんて何もできなかったくせにあなた一体何様のつもりだったの』

 

 縛り上げた光の鎖をさらに締め付ける虚像の香織、ミチミチと香織の身体から肉の軋む音が聞こえるが、香織は動かない

 

『勝手に嫉妬して勝手に恨んで、醜いにもほどがあるよね私は。それにコウスケ、あの男』

 

 コウスケ。その言葉にようやく香織がピクリと反応した

 

『いつもいつもハジメ君の傍にいる気持ち悪い男。応援しているとか何とか口に出しているくせべたべたと気持ち悪い顔でハジメ君にくっついて』

 

 コウスケの話題になってから少しづつ香織の手に力が集まってくる。その事に気付かない虚像の香織は縛られた香織を模造した杖で殴り飛ばす。

 

『…これだけ攻撃しているのに反論の一つも言えないの?本当に呆れた女。学校では好きな男の子に不用意に近づいていじめを誘発させ、召喚されてからは舞い上がって好きな男の子が奈落に落ちる原因を無意識に作りだす。生きてるだけで貴女ハジメ君の害になってるじゃない』

 

 虚像の香織は呆れながら殴り飛ばされ地面にうつ伏せになっている香織のもとへ近づきその頭を足で踏みつける。そして徐々にその力を込めていく

 

『治癒術師として加わったもののハジメ君たちが大怪我するなんてこともなく、只々足手まといとしてついて行って、これ以上ハジメ君の重荷になるのならさっさと諦めて私にその体を譲り』

 

 その言葉は突如体に感じた浮遊間によって最後まで言えなかった。香織を踏んでいない片方の足をすくい取られてしまったのだ。咄嗟に受け身を取ろうとするが、いつの間にか立ち上がった香織の足が虚像を蹴り飛ばす

 

『グッ!?』

 

 うめき声をあげながらなんとか受け身を取り体勢を立て直す虚像はそこで初めて香織の目を見た。見てしまった。

 

「なんだ、試練っていうから私の隅々まで調べているのかなと思ったけど、理解しているのはほんのちょっとだけなんだね」

 

 その目はハジメに対する愛に溢れていた。仲間への嫉妬に満ちていた。ハジメに対する独占欲が溢れていた。自分自身への憎悪で濁っていた。香織の内包する感情がドロドロに渦巻き黒々と仄暗く輝く混沌とした目だった。

 

『っ!?』

 

「そうだよその通りだよ。私は皆の事が嫌い。でもそれはちょっと違うな」

 

『…違う?そんな事は無い、貴女が皆に抱いているその感情はっ!?』

 

 虚像が話終わるのを待たず香織は懐から出した黒い球状の物体をパスをするように軽く放り投げる。余りにも急な行動に思わずと言った様子で虚像が受け取った瞬間、光と衝撃が爆ぜた。

 

『なっ!?』

 

「ッ!」

 

 ほぼ至近距離からの衝撃、香織が投げたのはハジメが作った手榴弾だった。あくまで自衛の物として受け取ったその爆弾を近距離で爆発された虚像はいざ知らず、香織自身も炎と衝撃と浴びることになる。

 

 ボロボロになりながら虚像が見た先にあったのは炎でやけどを負った香織の姿だった。長くサラサラとした髪は焦げ付き衣服は燃えて焼け焦げており玉のように白い肌は赤い火傷の跡が痛々しく残っている

 

『いったい何を考えているの!?そんな自分も巻き込んで』

 

「再生魔法は治癒魔法と違って怪我を治すためにある物じゃなかった。何度も治癒魔法と再生魔法を使い続けて分かったの。これは時に干渉する魔法。だからこれは私にとって傷や怪我にすら入らない」

 

 その言葉が終わると同じように先ほどの衝撃で焼けた肌の部位が見る見るうちに以前の様に治って…再現されていき衣服もまた言葉通り元通りになった   

  

『だからと言って自分もろともなんて狂ってる!』

 

「そう?さっき貴女も言ってたけど私は傷を治すことしか取り柄が無いんだよ、だったらこういう戦い方になるなんて当たり前じゃない」

 

 今度は両手に持った爆発物をボールを投げるように香織放り投げる、炸裂したのは焼夷手榴弾と破片手榴弾。炎と金属片が飛び散り試練の部屋を惨劇と化す。

 

『あぐっ!?』

 

「…それで話を戻すけど、さっき違うって言ったよね。皆…もっと分かり易く言えばユエとシア、ティオに対してはずっと嫉妬していて物凄く憎んでいたんだ」

 

 先ほどよりも重度の火傷と金属片が突き刺さった肌を先ほどと同じように戻しながら、倒れ伏し驚くような目でこちらを見る自分と同じ顔をした女を無機質に見下す香織。その顔は仲間たちにいつも見せていた顔ではなかった。 

 

「だってあんなに綺麗なんだよ?ユエはちっちゃいお人形さんの様に愛らしくてサラサラとした髪にぷにぷにした頬っぺたで笑った所なんてすごく可愛くて偶に甘えるようなあの性格は本当に愛らしくて…何度当然の様にハジメ君の傍にいることにイラついたことか」

 

 ユエ。香織が今まで出会った女性でも特に美しく愛らしい女。ビスクドールが如きその女が吸血鬼でありハジメの血を吸っていたと知った時握りしめた拳から血が出てしまった。今なお仲良くできているのは自分に遠慮して彼女がハジメの血を吸わなくなったからに過ぎない

 

「シアは可愛いよね。人好きする性格で明るくていつも笑顔で。綺麗なあの青い目はいつも世界は楽しいってそんな感情を載せていて。オマケにスタイルもよくって…馴れ馴れしくハジメ君に笑いかけていくあの笑顔にムカついていた」

 

 シア。天真爛漫を具体化したような明るい女。誰よりも人懐こい性格の彼女は香織が埋めたかったハジメとの距離をたやすく縮め笑いあう。その無邪気で無遠慮さがとても香織に気に障った

 

「ティオは本当に大人。何があっても冷静で皆の事をよく見ていて、佇まいも一つ一つの行動も気品さがあって流石竜人族のお姫様だよね、胸も大きいし。でも、そんな私は大人なんですって態度が私には凄く鼻についた」

 

 ティオ。年齢を重ねているせいか落ち着きがあり気品さを感じる女。その佇まいは酷く女性としての香織の劣等感を煽りとてもウザかった。正直な話何故お姫様なのにこんな所にいるのか理解しがたいところがある。

 

「コウスケさんはおおむね貴女の言った通り。応援していると言いながら実際ハジメ君は私よりコウスケさんの方に気を許しているよね。同性だから?うん知ってる。ハジメ君からしてみれば誰よりも気を許せる友達だからね…でもやっぱり私からしてみれば何一つ面白くない」

 

 コウスケ。ハジメの親友であり異世界に召喚されてからずっとハジメの傍にいた誰よりもハジメの事を気遣う男。そのハジメにとって大切な存在に自分がなりたかったと香織は内心思い続けていた

 

 香織からの仲間たちに聞かせることはできない負の内面を聞いた虚像はよろよろと立ち上がる。

 

『そこまで憎んでいるのになんで貴女は皆と一緒にいるの… なんでそんな醜い自分の事を理解して居るのに平気な顔をしているの?人間は、己の醜く、汚い部分を直視できない生き物。容赦なく晒されれば、それだけで目を閉じ、耳を塞ぎ、蹲って動けなくなるような、それでも無理に直面させれば壊れてしまうような、そんな生き物なのに、どうして?』

 

 唖然とした顔で香織を見る虚像には戦う力はもう残されていなかった。この試練は己を乗り越える試練、自らが抱える負の感情を乗り越えるたびに負の虚像である自分が弱くなっていく。だから戦う力が無い分疑問を投げかける事しかできない。

 

 今この目の前にいる女は仲間を憎んでいるとはっきりと明言したのだ。そして言葉通りその負の寛恕を認めているから自分は弱くなっている。だから尚更理解できないかった。嫌っている相手なのにそれでも一緒にいる理由が虚像には理解できなかったのである。

 

「うん?そんなの決まってるよ。だって皆の事が好きだから」

 

『好きって…憎んでいるって言ってたじゃない!』

 

()()()()()()()()()()。それだけの単純な話なんだけど…もしかして迷宮の試練である貴女には人間がどういうものか理解できなかった?」

 

 首を傾げ溜息を吐く香織。どうやら目の前の虚像はある程度の挑戦者の内面は知ることはできても全てを知ることはできずまた理解できないところもあるらしい。大迷宮の試練を名乗りながら随分と杜撰だと落胆しながら虚像に歩み寄る香織。どうしても解せない部分があったのだ 

 

「所で貴女さっきから私の姿をして私の真似をしているけど、ハジメ君の事は好き?」

 

『何を言って』

 

「即答できないんだね。貴女、本当に私?」

 

 ふらふらとしている虚像の首を片手で握り上に持ち上げる。虚像の顔が苦悶の表情を浮かべるが香織は微動だにしない。寧ろハジメの事を口にしているのに反抗することも反論することもできない虚像に対してイラつくように力を籠め始める

 

「私はハジメ君の事が好き。あのお祭りの日、見知らぬおばあさんと男の子を助ける為に精一杯頑張ったハジメ君、あの時から私は彼に惹かれていた。

学校で出会ってから運命だと思ってとにかく気を引きたくて…そしてこの世界に来てハジメ君が奈落に落ちてから自分の気持ちに気が付いて、再会できて本当に嬉しくて、ねぇ私、ちゃんと私の気持ちを理解しているの?私はハジメ君が好き…大好き、すごく好き!殺したくなるぐらい好きなの!…言葉には言い表せないくらい…好き」

 

 熱く蕩けるような声を出しハジメへの好意を口に出す香織。それはずっと香織の内面を燻っていた物だった。今言ってる最中でさえも好意と言う名の欲情は、燃え上がりビリビリと電流の様に香織の脳内を刺激してくる

 

「それなのに…貴女は私のはずなのに、何も言えないなんて可笑しいよ。それにずっとずっと思ってたんだけど何で貴女都合のいいハーレムの女に成り下がっているの?」

 

 頭をよぎるはコウスケから聞いた原作という並行世界の話。ノインから聞いた『白崎香織』と言う女の行動。そのどれもが香織にとっては不快だった

 

「私と同一人物ならハジメ君の事は好きだったんだよね?どうして一番になろうとしなかったの?どうして諦めたの?どうして血反吐を吐く様な努力をしなかったの?どうして妥協してしまったの?…どうして雫ちゃんの事さえも受け入れてしまったの?そんなの普通に考えたらあり得ないよ。ねぇ答えてよ。貴女は私なんでしょ?」

 

 首を握る力を籠めるが、虚像は何も答えない。自分と同じ顔の女は何も答えない。その事に増々香織のイラつきが増える

 

「貴女は一体何をしているの?特別なんて言うあやふやなものにどうして諦めたの?『私』が死にかけたときにハジメ君から心配されなかったの?心配されたのならどうしてそのチャンスをみすみす見逃すの?何でそのチャンスが雫ちゃんのフラグになってるの?踏み台?アプローチはちゃんとしたの?

私だけの魅力は使ったの?ティオと同じ扱いで満足していたの?ねぇ本当にハジメ君の事が好きだったの?豹変したっていう誰かに無理矢理好かれるように貴女は自分を見失ったの?私が好きなのはハジメ君であって檜山君の様に人を虐げる人は嫌いなんだよ。そんな事すら都合よく忘れて只のハーレム要因に成り下がったの?」

 

 香織の怒涛の言葉に虚像はもう答えられなかった。しかし香織はそれすらも気にしなかった。

 

「私は貴女が嫌い、ただ妥協しているだけの貴女が」

 

 只のハーレム要因にされ誰よりもハジメの事が好きだという感情は報われる事無く都合のいい女になってしまったのはあまりに哀れだった。

 

 自分と同じ名前で顔を持ち同じ感情を持っているはずなのに、凄まじいまでの不甲斐なさは強い怒りを覚えることになった

 

 

「私は絶対にあなたの様にはならない!都合のいい女になんて絶っ対に!」

 

 叫ぶと同時に首をへし折り、折れ曲がりあり得ない方向に傾いた自分と同じの顔を全力で殴りつける。グチャりと肉の潰れるような音を立てて虚像は恐怖に歪んだ顔を残しながら淡く光のように溶けていったのだった

 

 

 

 

 

「はぁ……頭が痛いなぁ」

 

 虚像を倒し、一息つけながら片手で頭を抑える香織。その目には先ほどの濁った澱みは無くなっていた。左手で宝物庫の中にある予備の神水を探りながら右手で魂魄魔法を使い無理矢理茹だった頭を冷却させる。自分と相対した時から頭痛が酷く今もなお激痛が走っているのだ

 

「…ちょっと張り切りすぎたかな」 

 

 神水をちびりちびりと味わうように飲み込みながら先ほどの自分が自分へ語った内容を思い出し、苦い表情を浮かべる。

 

 

 香織が思い出すのはハルツィナ迷宮が終わりティオと相談し終わった後ノインのもとへと向かった時の事だった。

 

 原作世界での自分自身の行動を聞き終わった香織に対してノインが言ったのだ

 

『と、原作でのあなたの行動はこんな所ですが、正直な話、白崎様は原作の白崎香織より恵まれていますね』

 

『……やっぱりそうなんだ』

 

『そうなんですよ。何せユエ様やシア様、ティオ様は誰一人として南雲様に恋愛感情を抱いて無く、畑山様や八重樫様は例外。

リリアーナ様は何をとち狂ったのかマスターに好意を抱いています。ライバルは一人もなく、南雲様はどうにも白崎様に対して言わないだけで惚れておられるご様子。そしてマスターは何よりもあなたの事を祝福しています。…どこからどう見ても恵まれています』

 

「それでもやっぱり不安なんだよノインちゃん」

 

 自分のハジメに対する異様な独占欲にほかの女性陣やコウスケに対する強い嫉妬心。どう考えても自身の悪感情に振り回されているとしか考えられず

それでもまだ湧き上がるハジメに対する強い愛欲。

 

 この異様な感情を持つ自身がもし拒絶されたら、もし嫌われてしまったら。そんな悪い事ばかりが頭をよぎり、頭痛が酷くなる。

 

「…駄目だ、これ以上考えると頭がパンクする」

 

 神水でも一向に治らない頭痛を無理矢理我慢すると、香織は氷壁へと声をかけた。正確に言えば姿を隠そうと努力している三人に

 

「もう終わったから入ってもいいよ。ユエ、シア、ティオ」

 

 呼びかければ、案の定、物凄く気まずそうなユエに涙目でプルプルしているシア。どう声をを掛ければいいか迷っているティオが入ってきた。

 

「あーそのなんじゃ、香織。妾達は」

 

「良いよ無理して言わなくて。一応聞くけど全部を聞いたわけじゃないんだよね」

 

「そ、そうじゃな。『私は貴女が嫌い』のとこら辺からは聞いてしまったのじゃが…すまぬ」

 

「ご、ごめんなさいですぅ」

 

「……ごめん」

 

「あはは、怖らせちゃってこっちこそごめんね」

 

 神妙に謝るティオに合わせるようにこくこくと小動物の様に頷くユエとシアに香織はふっと笑ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 




なーんかまだ足りない気がします

ちなみに補足ですが香織は一番嫌いな自分が目の前にいるのでかなりイラついています。
仲間に対しては優しい普通の女の子です。どうかお間違い無い様。
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