ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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急遽できました。なので粗が酷いかと思われます

申し訳ないです。


少年の本音

 ハジメのドンナ―から撃ちだされた弾丸は同じように放たれた弾丸によって空中にぶつかりひしゃげて地面に落ちた。すかさず足を踏み込み間合いを詰め、蹴り放った回し蹴りは全く同じように相手の蹴りによって相殺される。

 

『はっ こんなもんか、南雲ハジメ。随分と弱いな』

 

「…チッ」

 

 ハジメが試練で相対するのは氷柱から現れたハジメの虚像だった。しかし鏡写しであるはずの虚像と言うにはあまりにも違いすぎた。

 

 その男は眼帯をしていた。その左腕は義手だった。その風貌は鋭く不敵に嗤う凶暴な顔つきだった。奇しくもそれはコウスケから聞いた『原作』世界での自分自身の姿だった

 

『最もいつまでもアイツの背中に隠れている腑抜けじゃ仕方ねぇかもしれねぇけどな』

 

 その言葉に少しばかり引っかかりハジメの攻撃にわずかな澱みが出てしまう。その隙を逃さず虚像はドンナ―とクロスビットを使った波状攻撃を仕掛ける。

 

『最初は助け合ってたかもしれない、だが次第にお前はアイツに甘えるようになっていった。敵はアイツが引き付けお前は安全な所から引き金を引く。連携?チームプレイ?笑わせる。怪我は全部アイツが引き受けお前は安全な所にいただけだろ』

 

 ぬるりと間合いを詰めてきた虚像からの肘鉄をガードするが直後、肘から炸裂スラッグ弾を放たれ盛大に吹き飛ばされる。

 

『そしてお前の無意識な縋りのせいで怪我はアイツが全部引き受けてしまった。魔物の毒や致死量に至る怪我も、本来ならお前が負う筈だった怪我だってな。お陰でお前は右目はつぶれず左手も健在だ』

 

「…よくもまぁペラペラとお喋りな」

 

『事実だろ?』

 

 体制を整えるハジメに見下すような視線を向ける虚像のハジメ。眼帯に死角はなく義手は仕込み義手となっている。

 

 似ているようで細部が違う。ほんの少しハジメにとってやりづらい敵だった。

 

『しっかし本当にヘボだな。俺の別物がどんなもんかと思ったらトンだ雑魚ってのは、呆れて笑いも浮かべれん。そもそもお前本当に日本に帰る気はあんのか?』

 

「…あるよ。僕は日本へ帰る。そう誓ったんだ」

 

『嘘つけよ、錬成で好きなことができるこの世界から離れたくねぇって思ってんだろ。何をしても自分の好きなようにどんな事をしてもいいこの世界から日本へ帰りたくない。そんな面してんぞお前』

 

「っ!」

 

 呆れた虚像からの言葉にハジメの顔が強張った。その事に虚像がニヤリと笑みを浮かべる。

 

『アイツ言われてもどこかで反発心があった。錬成は自分の力だ、自分自身の唯一誇れる力その物だ。それなのに何で日本に帰って何で抑えなきゃいけないんだ。自分の能力を何で封じないといけないんだってな』

 

 それは確かにハジメが心のどこかで考えていた事だった。錬成とは自分自身の力そのもの。又は才能だと言ってもいい。それを使えないとなるのは面白くなかった。

 

『だからお前は日本へ帰ると口にしながら本当は故郷へ帰る事への根幹を薄れさせていった。アイツの言葉には反発したくない、しかしだからと言ってこの能力を抑えるなんてできない、だから錬成を使えない日本よりも好きに使えるこの世界の方がいつの間にか居心地が良くなっていった。後この世界でひどい目に遭ったから好きにしてもいいなんてこともあるかもな』

 

 虚像が空間から取り出したオルカンを全弾ハジメに向け撃ち放つ。ハジメもそれを防ぐようにオルカンを宝物庫から取り出し相殺していく。だが数発相殺できずに掻い潜ってきた弾がハジメの近くで爆発する

 

『おいおい心に波ができているぞ。そんなに本心を暴かれるのが嫌なのか。ククッ ならそうだな香織についてだ』

 

「…白崎さん?」

 

 爆発をしのぎ切ったが負傷したハジメは壁に寄りかかり虚像を睨みつける。その姿を見てやはり虚像はふてぶてしく笑う

 

『お前の事が好きだって言いやがったあの女。返事を返していないが本当は嫌ってるんだろ。お前の順風満帆な高校生活を邪魔したかと思えば好きだって?面の皮が厚いにもほどがあるよなぁ』

   

「それは」

 

『あの女さえいなければ何事もない高校生活になるはずだった。だがあの女に付き纏われたおかげで檜山からいじめられクラスの奴らからは嫉妬のせいでハブられ邪魔者扱い。結果クラスでのお前の居場所は無くなった』

 

「……そう、だね。君の言う通り、確かにクラスでの僕の居場所は無いよ」 

 

 まさしくハジメの本心を突き付けられ、大きく溜息を吐く。そして顔を上げたその瞬間ハジメの全身から紅い燐光が解き放たれる。  限界突破をハジメは使ったのだ、その紅い魔力光は清々しいほどに澄んでおりハジメの意思の強さが魔力光となって輝き始める。

 

 突然のハジメの限界突破に虚像が一歩後ずさる。ハジメが自身の弱さを無理矢理認めたため虚像の力が徐々に抜けていくのに気付いたのだ

 

『…テメェ自分の弱さを認めて』

 

「その前に一ついいかな?」

 

『あ?』

 

「君、本当に僕の負の部分?何かほかの影響受けていない? …ま、別にいいんだけど」

 

 ほんの少し肩をすくめ、身構えた虚像に向けてハジメは宝物庫から魔力駆動四輪車を派出させる。四輪車はそのまま誰かが乗っているわけでもないのに虚像に向けて備え付けてあるマシンガンを撃ちながら動き回りひき殺そうとして来る。

 

 迷宮内と言う空間でしかもそれほど広さのない部屋でいきなり四輪車を取り出し道具として使うハジメの想定外の行動に虚像が呆気に取られてしまう

 

『はぁ!?さっきの限界突破は何だってんだ!?つーかてめぇ正気か!?』

 

「ん?よく考えたらさ、別に僕が真正面から戦う必要なんてないよね。この試練って僕が自分の嫌な所を認めればいいんだからさ」

 

 四輪駆動車を遠隔操作で動かしながら虚像を狙うようにして宝物庫からクロスビットの追加を取り出す。おまけとしてオルカンとシュラーゲンの予備もまた次々と取り出し空中に浮かべながら照準を合わせていく。

 

「所でさっきの話なんだけど、君の言う通りだ。僕が白崎さんに返事を出さないのは日本にいたときの彼女に対する当てつけってのがある。いくら天然だからって人の機微やクラスの空気が分からないってのは流石に僕も頭に来るものがある。だから僕はその恨みが晴れるまで彼女に返事を返さない。

彼女のせいでクラスでハブられたんだから。…最も僕のせいでもあるってちゃんとわかってるよ?授業はずっと寝てばっかだし自分さえ良ければそれでいいなんて意固地を張って生活態度を改めようなんて露ほど考えなかったし」

 

 堰を切ったかのように話し続けながらも取り出す兵器の数々の照準を合わせ発砲していくハジメ。衝撃音に合わせて火薬が炸裂する音と四輪車が動き回る音が部屋中に響き渡る、視界には魔力駆動二輪車が壁を走り回りついには空中を横回転しながら飛び回っていた。

 

「おまけに日本へ帰りたくないって?ああそうだよ!!その通りだよ!この世界なら僕は無能なんかじゃない!この世界なら僕は唯一無二の力を持っている男なんだ!そう言って僕を見下してきた奴に声を上げて言いたかったんだ!」

 

 錬成こそが南雲ハジメの才能だと言うのならこの世界にいる自分は正しく、誰よりも有能で希少な存在だった。

 

 この世界にいる間なら自分は無能でもなく、誰かに見下されることもない、誰かの顔色を窺う必要もない。それはハジメがずっと心の奥底でくすぶっていた澱みだった

 

「だけどコウスケの前で僕は誓ったんだ、故郷へ…日本に帰るって。だから僕は日本へ帰ることを目指す、君の言う通り当初ほどの気概は無いよ、本心からっての多分嘘。それでも約束は守らないと…」

 

 わずかに眉尻を下げてしまうハジメ。日本へ帰ったとしても居場所は出来るのか、自由な異世界を知ったからこそ不自由となる日本で生活できるのか、不安の種が尽きないのは事実だった。

 

 気持ちを切り替える為に自身の頬を軽く叩き、気合を入れなおす。ついでに先ほどから部屋中に入り乱れる銃撃から逃げ回る虚像に回転する二輪車を腹いせの様に当てる。二輪車に轢かれた虚像を今度は集中砲火で攻める。

 

『ガハッ!?』

 

「あ、それさっき白崎さんの悪口を言った分。言っておくけど彼女の事嫌いじゃないからね。僕の内面を知ってるのならどんな事を考えているか…まぁいいや、取りあえずそろそろ終わりにしよう。さっきから僕の事ならいざ知らず親友とあの娘の事を僕の顔で悪く言うのは流石に本気でキレそうだ」

 

『…いや、お前キレてんだろ』 

 

 満身創痍となった虚像が呟き壁に寄りかかりながら見た光景。それは空間を歪ませながら飛空艇フェルニルの砲門が向けられている光景だった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウスケに頼っている部分はある。いっそ依存しているかもしれない。そんな事ずっと分かってたんだ」

 

『だろうな、何せ初めての友達で、おまけに危機を救うなんて普通はできねえことをやってのけるんだからな』

 

「ずっと一緒だった。辛いときは当たり前のように傍にいてくれた。いつも僕を見てくれていた、クラスの連中は誰一人として気遣ってくれなかった僕をコウスケは見て、話して、接してくれたんだ」

 

『まさしくお前にとっての勇者だ』

 

「そうだね、だから僕はそれに甘えてしまっていた。…助けてくれるのが当たり前だなんてどこかで自惚れていたのかもね」

 

『…さっきから聞いてればまるでヒロインみたいなことを言うんだな。このホモ野郎』

 

「じゃあそっちはイキって人を見下す只のチンピラだ。ハーレム築き上げながら性格悪いなんてただの糞野郎って自覚ある?まぁ、ないよね。だって君ただの道化だもん」

 

『ブーメラン、だな』

 

 首だけとなった虚像を見下ろしながら悪態をつくハジメ。部屋中が硝煙と火薬のにおいに包まれており、いくらか防御壁を張ったハジメでさえもボロボロになっていた。 

 

「…やっぱり君、『原作も魔王』って訳じゃないみたいだね」

 

『…そうだ、お前の負の部分とアイツの知ってる知識の中にある『南雲ハジメ』を混ぜ合わせたもんだ、お陰で何とも中途半端な存在になっちまった』

 

「何でそんな事に」

 

『それこそもう分かってるんだろ』

 

 ニヤリと笑う首だけとなった虚像にハジメは大きな溜息を吐く。何となく可能性の一つとして考えていたことが当たってる様だった

 

(…コウスケの仲間だと認識されているから、だよね)

 

『さて、そろそろ俺はお暇するとしよう。精々気張ってくれよ主人公?』

 

 最後まで不敵な笑みを消さずにいた虚像はそう言うと陽炎の様にゆらゆらと揺らいで消えてしまった。

 

「はぁ…疲れたなぁ」

 

 荒れ果てた部屋の中で地面に倒れ込みながら大きく息を吸うハジメ。限界突破で無理やり宝物庫にある武器の殆どを操作したのだ、そのおかげで魔力の消費量が半端ではなかった。

 

「どうせこれで試練は最後だし…ちょっと寝ようかな」

 

 瞼が急激に重くなるのを感じながら大きく欠伸をするとそのままウトウト舟をこぎ出すハジメ。魔力を大量に消費した分と精神的な疲労がハジメを眠りへといざなう。

 

 その時ふと部屋の外から誰かが走ってくるのが分かった。

 

『……君ッ!…!……?』

 

 それはハジメの知ってる女の子の足音と声だった、意識が闇の中に入る前に一言だけハジメは頼みごとをするのだった

 

「後は…よろ…しく……しら…さ…さん」

 

 女の子特有の甘い匂いが鼻腔の奥に感じるのを最後にハジメに意識は闇の中へと落ちていくのだった

 

 

 

 




本当なら魔王様によく似た感じの敵を出すつもりだったんですが、無理でした。

次回ようやく、描写が楽な奴になります。長かった~

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