ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ちょいとできたので投稿します。




最終章 ありふれた勇者の物語
交流しよう。訓練はまた後日


 

 

 

 

「南雲…俺、実は天之河の身体に憑依したんじゃなくて整形だったんだ」

 

「うん知ってた」

 

「はぁ!?」

 

 場所は氷の城の移住ベースにある一角。そこでコウスケは自分が見た物、聞いた会話をハジメと清水に話していたのだ。他の女子組は家宅を捜索して自分たちの拠点に使えるように物色…お掃除中である。

 

 オタクであるハジメと清水なら色々分かってくれるかもしれない。そう考えてのコウスケの告白と説明はは冒頭のハジメの一言で絶賛混乱状態となってしまった

 

「お前…知ってた!?え、何でどうして」

 

「まぁまぁ落ち着けコウスケ。話をいったん整理しないとオレだってわからねえ。それから南雲も、何で知ってたのか言ってくれ」

 

「知ってたというより想像して気付いた、と言うのが正しいんだけど」

 

 未だに驚きで口をパクパクしているコウスケをなだめさせながらと苦笑しているハジメに確認をとる。

 

 場を整え清水が進行する形で男子会議を再開するのだった。

 

 

「まず、コウスケあの場で何が起こったのかをもう一度言ってくれ。オレ達からしてみれば南雲とユエさんが頭を抱えている時お前はぶっ倒れていたんだ」

 

「お、おう、そうだったのか。えっと、男が二人会話をしていたんだ。一人は魔人族の男だった。その男が俺に容体を尋ねてきて、そこで俺の身体が一人でに喋ってたんだ。で、会話の内容が何やら顔の整形とかの話で…手鏡を渡されてみた顔が天之河光輝だった。…んで、次に天之河になった男がまさか整形したなんて気付かないだろうって…ああなんだろう話していて頭が混乱してきた。俺の説明合ってるか?自分で話していて分かんなくなってきた」

 

「落ち着け、それでその話していた男…天之河になった男はコウスケお前なのか」

 

「…多分俺だ。あんな場面記憶にないけど間違いなくあの言い方話し方は俺だ。…親しい人にしか出せない言い方だった」

 

 はぁと大きな溜息をついて力なくソファーに体を沈み込ませるコウスケ。その様子はどこか憔悴しているようで迷宮に入ってくるまでの覇気が無くなってしまっている。無理もないだろうと清水は考える。自分の身体が天之河に憑依したと考えていたのが整形だったと言われてしまったのだ。これまでいろいろ考えていたのが急に分かっての疲労によるものだろうか、随分としぼんだ気配がする。

 

「じゃあ…次、南雲は全く持って動揺していないが、気付いていたのか?」

 

「なんとなくだけどね」

 

 そう前置きを付けたハジメは宝物庫から拳大の鉱石を取り出す。その鉱石をお手玉の様に手で遊びながら気付いたその理由を話し始めた

 

「コウスケが実は天之河の身体じゃないと思い始めたのは…大体ウルのとかホルアドか町について錬成をしていた時だったかな、ふと思ったんだ。魔法で体を変えれるのかなって」

 

「魔法で?」

 

 鉱石を錬成の力でナイフへと変質させる。その鋭い刃を指でなぞりながらハジメは淡々と話す

 

「この僕だけが持ってた錬成、そして生成魔法。これを使い続けているうちに考えが出てきたんだ。鉱石の様な無機物を変えることができるのなら有機物…つまり人の身体や動物、もっと範囲を拡大させて生きている物なら同じようなことができるんじゃないかなって思ったんだ」

 

 錬成と生成魔法を頻繁に使うハジメだからこそ思いついた考え。ハジメは錬成と生成魔法を合わせて無機物を変える力だという結論に至った。ならば、その反対のことだって出来るのではないか、その考えに至った時、もしかしてとコウスケの身体を疑う様になっていった

 

「治癒魔法とかが体を治す魔法なら、体を変質させる魔法だってあるはずだ。おまけに僕は無機物を変質させることができる。ならその逆だってきっとある。そう考えていた」

 

 ナイフを今度は拳銃に作り替える。そして次はのっぺらぼうのマネキンの首へ。自由自在に作る錬成がハジメの考察の自信のあり方を物語っていた

 

「ふむ。確かに魔法と言う何でもありのものがあるこの世界ならその考えに至ってもおかしくはないな。ならコウスケを天之河へと整形させた魔人族の男は」

 

「恐らく…いや、その男こそが解放者ヴァンドゥル・シュネーその人だと思う。…変成魔法の使い手じゃないとここまでそっくりに天之河へ整形させることなんて無理だと思うよ」

 

 疲れて頭がパンクしたのかソファーで目をつぶり話を黙って聞いているコウスケに複雑な視線を送るハジメ。

 

「なら、何でそのシュネーはコウスケを天之河に?何でシュネーが天之河の顔を知ってる?そもそも解放者ってのははるか昔の奴らだろ。どうしてそこにコウスケが居たんだ?何故この時代にいるんだ」

 

「うーんそこまでは…なんとなく考えがあるけど、聞く?」

 

「いいや、やめとく。多分だけどそれは南雲が話すことじゃない。俺が自分からミレディに聞かないと…」

 

 完全に疲れたのかとうとうソファーから立ち上がるコウスケ。そのままふらふらと扉に向かう。どこへ行くのかとハジメが聞けば寝室で寝るとの返答が返ってきた。

 

 ばたりと扉が閉まり、後に残されたのはハジメと清水のみ。

 

「…だいぶ参ってんな」

 

「そりゃそうだよ。続けざまに真実が頭の中に入ってくるんだから。しかも絶対だと思っていた憑依ものとは違ってまさかの整形ってオチ。オマケに解放者たちとのやり取り。なぜ、どうして、どうやって、誰が、どのように。考えることが一杯だらけで頭がパンクしちゃったんだよ」

 

「解放者ねぇ…どういう関係だったのか」

 

「昔の知り合い。もしくは仲間。…多分僕達との関係と酷似している」

 

「だったら何故コウスケは解放者たちの事を忘れた」

 

 清水の問いにハジメはこれまでのコウスケとの会話を思い出しながら答える。何となくな答えかもしれないが真実の一欠けらではあるだろう。

 

「多分、何もできずに仲間を失ったから。その思い出したくない記憶を自分で封じた。だからきっと…流石に虫のいい話かな?」

 

「どーかな。真実は意外と簡単かもしれないし、複雑かも。まぁ俺たちが手助けをすればそれでいい」

 

 清水の労わるような言葉にハジメも深く頷くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 異世界三点セット

 

「憑依か。オレもそうだと思ってたんだがまんまと違ったな」

 

「まぁ清水もコウスケもそう思ってたよね。ラノベ好きこそ引っかかるって奴。特にコウスケは二次創作が大好きだったみたいだからさ」

 

「はー。転移されて憑依ではなく、只の転移主人公だったとは」

 

「一応憑依主人公でもある。勘違いだったけどね。後転生があれば異世界でのありふれたラノベ主人公が勢ぞろいだね」

 

「じゃあオレはその最後の転生主人公って奴だな」

 

「?」

 

「詳細は後で話す」

 

 

 

 

 

 

 

 無理

 

「コウスケの身体に疑問を持ったのは実はもう一つあるんだ」

 

「疑問?」

 

「そもそも清水もっとよく考えて、コウスケの身体は天之河だった。もしそれが本当だったならコウスケの誰かを守る力は天之河の身体によってできたの?」

 

「それは…ねぇな天之河がもし異世界に召喚されて勇者としても力を経たとしても誰かを守る力ができるってのは無理だ」

 

「そういう事。天之河が誰かを守る?救う?はっ無理に決まってる。 …あの力はコウスケ自身の力。誰かを助けたいって思いで出来た力なんだよ」

 

(…それ、本人に言ってやれよ)

 

「恥ずかしいからヤダ!」

 

「はぁー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔法のあれこれ

 

 

「で、結局南雲とユエさんが倒れた理由は?」

 

 一同が全員で夕食を食べた後のリビングルームでの事だった。清水が言った言葉はハジメとユエが倒れた理由について。あの後数時間眠ったら目を覚ましたので、後で説明すると言われそのままになっていたのだ。

 

「んー概念魔法の詳細と前提準備。それの負荷が強かった」

 

「前提準備?なんですかそれ?」

 

「要約すると神代魔法の完全な理解。それが無ければ概念魔法は取得できない」

 

 ハジメとユエの話を纏め上げると、すべての神代魔法を手に入れるレベルでないと概念魔法を使うには心身が負荷に耐えられないという話だった

 

「…めんどくさ!」

 

「仕方ないよ、概念魔法って要は何でもありなんだから。それよりも神代魔法のそれぞれの本質を教えるね。まずは僕が最もお世話になった生成魔法」

 

 

 

 生成魔法。これは“魔法を鉱物に付与する魔法”ではなく、より正確に表現するなら“無機的な物質に干渉する魔法”という変成魔法と対になるような魔法だったのだ。なので、理屈上は、鉱物だけでなく水や食塩といったものにも干渉できるはずなのである。

 

「さっき南雲が話していたやつだな」

 

「その通り。多分何でもできる。…そう思ってしまいそうな魔法だ。オスカーはよく制御できたものだ」

 

 

 

 重力魔法。“星のエネルギーに干渉する魔法”と表現すべきもので、重力だけでなく、理屈上は地脈や地熱、岩盤やマグマなどにも干渉でき、意図して地震を発生させることも、噴火させることも不可能ではない。

 

「イマイチ分かりづらいですぅ」

 

「ん、要はこの星に働きを与える魔法。星との調和。自然との融合。世界と同化する」

 

「…ユエ。お主適当に言ってはおらぬか?」

 

 

 

 空間魔法。“境界に干渉する魔法”といったところ。種族的・生物的な隔たりの排除や、新たな境界の策定により異界を創造したりということも可能であると考えられる。

 

「八雲紫ですね」

 

「おっとノイン。多分あってるけどそこまでだ」

 

「???何の話ですかコウスケさん」

 

「あー何でもありその2って事」

 

 

 

 再生魔法。“時に干渉する魔法”だ。再生魔法の行使が、治癒というより復元というべきものだったのは、この片鱗である。本来なら、時間そのものに干渉できるだろうし、過去を垣間見たり、いくつにも分岐した時の進んだ世界を垣間見ることもできる。シアの固有魔法“未来視”は、おそらくこの魔法に由来するものだろうと思われた。

 

「やっぱり時を巻き戻しているんだ」

 

「白崎さん知ってたの?」

 

「ハジメ君と同じように何度も使ってるとね。大体こんな感じかなって理解して馴染んでくるの」

 

「そっか。一緒だね」

 

「う、うん!」

 

((((…甘ーい))))

 

 

 

 魂魄魔法。“生物の持つ非物質に干渉する魔法”と定義するのが最も本質を表している。これは、具体的に言うなら、体内の魔力や熱、電気といったエネルギーや、意識、思考、記憶、思念といったものにも干渉できる魔法だ。“魂魄”と銘打っているものの、コウスケ達が行使できたのは、正確には意識体への干渉である。そして、この魔法を十全に扱えたなら、術者自ら意識等を作り出し、あるいは設定することができる。言い換えれば、魔法による人工知能の創作が可能ということだ。

 

「この魔法はコウスケが一番得意みたいだけど…」

 

「…ラウスさん。貴方の残した力を俺は…どう使えって言うんだ」

 

「コウスケ?」

 

「…あ、すまん。大体理解しているつもりだ。多分何だってできる筈だ。そう何でも…」

 

(…大丈夫かなぁ)

 

 

 

 昇華魔法。“存在するものの情報に干渉する魔法”というのが、より正確な定義だった。能力が一段進化するというのは、例えばレベル1という身体情報に干渉して、レベル2に引き上げるというもの。根本に至れば、あらゆる既存の物体に対し、その情報の閲覧と干渉が可能になる。

 

「???訳分からん。翻訳頼む南雲」

 

「清水…折角迷宮を頑張って手に入れた魔法なんだからもっとこう…まぁいいや。要はデータ化だね」

 

「ん?でーた?ハジメそれで合ってるの?」

 

「え?ユエは違ったの?」

 

「んー物体把握能力だと…でーたと同じ?」

 

「誰でもいいから解りやすくお願いします。by清水」

 

 

 

「とまぁこんな感じ」

 

 ハジメとユエの考察と理解を聞いた仲間たち(コウスケ、ノインを除く)は、それぞれ魔法について色々考え思案顔になった。

 

「それで、南雲。オレ達の日本に帰る為の概念魔法はできそうなのか?」

 

「それだけど…出来る。と言いたい」

 

「随分、ふわっとしてんな」

 

「色々と時間がかかるんだよ。それに僕自身の思いを整理しないと」

 

 ハジメの説明ではユエの魔法に対する制御能力とハジメの錬成……息を合わせて世界を越える為の概念を付与したアーティファクトを作ると言うのだ。

 その為には色々準備と落ち着ける空間を作りたいのだという。

 

「では南雲様が帰還の概念を作り安定するまで、その間は休憩と行きましょう。多少はこの居住区で時間を使ってもいいでしょう。魔法を手に入れた今だからこそ慌てる必要はないのですから」

 

 ノインがそう言ってその場を締めくくるのだった。

 

 

 

 

 

 

 居住区から離れた一室。そこでハジメはユエと向かい合っていた。今から始めるのは世界を渡るためのアーティファクト作りであり概念魔法を使うための準備だった。

 

 向かい合うハジメは胡坐をかき、ユエはぺたんと体育座りをしている。その光景はオルクス迷宮でシュラーゲンを作った時と同じ光景だった。だがその場にはオルクスの時とは違ってコウスケが居なかった。

 

「やっぱり無理だってさ。仕方ないよね」

 

「ん。今のコウスケに無茶をさせるのは良くない」

 

 本来ならコウスケも交えて作る予定だったが、コウスケ自身の体調と精神が不安定なこともありこの場には居なかったのだ。

 もしいたら格段に安定するのにとは思いつつ、コウスケに無理をさせないために二人で作り出すことにしたのだ。少しばかり思案顔で鉱石などを取り出していくハジメ。

 

「…本当はさ」

 

「ん」

 

「僕自身の気持ちは帰ろうって思ってるのか心配なんだ」

 

 ハジメの懸念事項。それは日本へ帰るという原初の気持ちが薄らいでいる為だったのだ。その少しばかりの不安げな様子のハジメをユエは近づき微笑みながら頭を撫でる

 

「…話して。貴方が思う不安と思いのすべて」

 

「…この世界は怖くて理不尽な世界だ。あの日そう思ってどんな事をしてでも帰ってやるってそう決意したんだ。でも、色々な所を旅してきて、いろんな人たちと出会って…少し考え方が変わったんだ」

 

「…どんな?」

 

「この世界は理不尽だけど良い人たちもいる。皆と出会えて笑いあって…まだまだ旅をしていきたいなって思うようになってきたんだ」

 

 仲間たちとの交流に迷宮の冒険。それはハジメがもし異世界行けたのなら味わってみたかった理想で、望みだった。

 

「ん。最初であったときと比べて随分とハジメは丸くなった…ううん。香織の言葉を借りて言えば本来の貴方に戻っていった」

 

「そうだね。皆と出会えて僕は少しずつささくれだった心が癒されて行って…我ながら調子の良い事だ」

 

 苦笑するハジメの顔は年頃の少年の顔そのもの。異世界に夢を見て平和な日常を謳歌していた高校二年生の少年の物だった。

 

「だから、皆と離れたくなくて。その思いがあるからちゃんと概念魔法で作れるのかが心配になったんだ」

 

「んふふ大丈夫。出会いがあれば別れもある。それが身近に迫ってきて不安に思うのは普通な事。何も心配いらない」

 

 先ほどから優しく微笑みかけるユエの顔は年下の少年の悩みを解きほぐす年上のお姉さんの様でハジメはふっと笑い出してしまった。

 

「なにハジメ?」

 

「なんだかそうしているとユエってお姉さんの様だ」

 

「む。こう見えても私はハジメより年上。ちゃんと敬いなさい」

 

「あはは、ごめんごめん」

 

 ほんの少しむっとした顔のユエはどう見ても見た目相応の少女の様でそこがまた可笑しく笑い出すハジメ。つられてユエもくすくす笑い出す。

 

「ん。緊張はほぐれた?」

 

「うん。お陰様で」

 

 お互い膝立ちになり手を取り合う。ハジメの紅い魔力とユエの金色の魔力が重なり合うように混ざり合っていく。

 

 

 

 

「ユエ」

 

「ん」 

 

「一緒に来てくれて有難う。感謝してる」

 

「まだ気が早い。それを言うのはもうちょっと先」

 

「だね」

 

 

 静かにしかし溢れんばかりの魔力の光が部屋を覆い尽くしていくのだった。

 

 

 

 

 

 




何だか何度も同じ説明をしている部分があるような気が…

まだまだ交流編は続きます

感想あったら嬉しいですが…難しいですね

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