ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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フラグ立ての回です。

ではではどうぞー


秘密の作戦と訓練そして絶不調

 

 

 

 深夜、人の気配のないリビングルームで一人ハジメは出来上がった世界を超える鍵『クリスタルキー』を手にぼんやりと虚空を眺めていた。

 

 “望んだ場所への扉を開く”

 

 その概念が付与された世界でたった一つの鍵。日本へ帰る為の鍵。ユエと共に魔力の殆どを注ぎ込み作り上げたそれはぼんやりと淡く光っている。

 

「……こんな夜更けにどうしたのかな」  

 

 ソファーに座るハジメは後ろに近づいてくる人物に声をかける。音のない歩みだったが気配までを隠そうとはしていなかった。仲間内でそんな事をする人物はハジメの知る中で一人だけだった。

「貴方に話があります。南雲様」

 

 暗闇から現れたのは以前殺し合いをした銀の少女。ノインだった。

 

 

 

「君が僕のもとへやってくるのは珍しいね」

 

 ハジメとノインは、仲間ではあるが親しい関係ではない。あくまでも隣に立って共に戦ってる、プライベートでは付き合いのない仕事仲間と言う関係。ハジメにとっては親友の傍にいる少女。ノインにとっては主の親友。それが2人が意識している付き合い方だった。

 

 そんな関係だからこそノインが自分のもとにやってくるのは珍しいとハジメは内心驚いていた。

 

「色々ありましてね。まずは、すべての解放者の迷宮の攻略の成功。お疲れさまでした。この世界で貴方だけが成し遂げた偉業。真におめでとう御座います」

 

「僕だけじゃなくてコウスケやユエもいるんだけど…なんだか強い皮肉に聞こえる」

 

「そして、故郷へ帰る為の鍵の創造の成功おめでとうございます。貴方の悲願であり、異世界から日本へ帰る作り上げたのは貴方の今までの努力の賜物です」

 

 ハジメの対面に座り淡々と話すノイン。一見聞いてみれば称賛しているように言っているがハジメには言外にまだ終わっていないと言っているように聞こえたのだ。

 

「…それで、君がここに来た理由は」

 

「質問に質問で返すのは恐縮ですが、南雲様。ついに日本へ帰るための手段を手に入れた貴方は今後どうするんですか。」

 

 今後どうするか。ふむとハジメは考えて、予定を話し出す。

 

「取りあえずは…そうだね。クラスの皆を日本に帰らせるかな」

 

「おや?てっきり貴方が最優先で日本に帰るのかと思いましたよ」

 

「そういう訳には行かないよ。…そりゃ、クラスの皆が大切だとは言わないけど…みんな一応被害者なんだからさ。先に帰らせてあげようって」

 

 クラスメイト達の事は思う事はあれどハジメは帰らせることを優先しようと思ったのだ。日本にいたときは嫉妬混じりの視線を浴びせられ、無視されて、異世界に来てからも無能と思われようとも、もうハジメにとっては過去の事なのだ。今更どうこう思う理由も意味もハジメにはなかった。

 

「成長されたんですね。もしくは余裕が出てきたのか」

 

「さてね、ま、そんな訳で皆を無事に帰らせることができたらその後はミレデイの所へ行こうと思ってる」

 

「現状全ての真相を知ってる彼女に会いにですか」

 

 ミレディ・ライセン。ハジメにとってはウザい女と言う印象が強い彼女だったが、現時点で考えれば考えるほど複雑な物へと変わっていく。そして何より

 

「そう、ミレディはコウスケが何故あの姿なのか何故この世界にいるのか知ってるはずなんだ。だからコウスケを連れて聞きに行く。全ての真相と真実を」

 

 コウスケの事情のすべて。それの解明と真相を知るまでハジメは日本へと帰る気は無かった。

 

「では、南雲様はそれが滞りなく行けると思っていますか。これからクラスの人たちを無事に返してマスターの真実を聞けると思いますか?」

 

「その口ぶり、やっぱり妨害があるみたいだね」

 

「ええ、その事で私は貴方に会いに来たのですよ」

 

 ハジメにそう告げるノインは無表情ながらもほんの少し口角が上がったような気がした。

 

 

 

「……なるほどねぇ」

 

 ノインから語られたこの後に起きる出来事。その詳細を聞き溜息とも呆れとも取れない複雑ともいえる声を出すハジメ 

 

「何となくは思っていたんだけど、簡単に帰らせてはくれないんだね」

 

「ご心中お察します」

 

「はいはい。それで、君が言いたいことはそれだけじゃないんだろ」

 

 対策はそれなりに思いつく、しかしそれだけを説明するためにノインが自分の所にやってきたとは考えにくかった。案の定ノインは肯定し、介入をするのだという。

 

「勿論です。流されるだけと言うのは面白くありません。…とは言え、展開に手を入れ過ぎると余計な犠牲が出てしまう。それはマスターが望みません。ですので南雲様達はあくまでも台本通りと行きましょう」

 

「ふぅん。つまり…見ているだけにしておけと?」

 

「端的に言えばそうして欲しいのです。…マスターと言う『原作』の流れを知ってるイレギュラーがいてなおかつマスターの性格を考えると…そうするのがベターかと。という訳なので作っていただきたいものがあります」

 

 ノインの要求した物。その説明を受け、しばし思考し溜息と共に承諾するハジメ。作るのは多少時間がかかるがさほど難しくはない。ほかにやり方があるのではと考えたが、それが一番と言う結論に至ったのだ。

 

「他にももっと良いやり方があるのかもしれないけど…まぁしょうがないよね」

 

「ご迷惑をお掛けします」

 

「いいさ、じゃんけんで負けるのは癪だけど、後出しで勝てばいい。要はそういう問題さ」

 

「チョキでグ―に勝つんですね。地上最強生物ががそうしたように、私たちもチョキでグーを刻み切ればいい」

 

「あそこまで理不尽にするつもりはないけどね」

 

 ノインの例えにぷっと吹き出し笑うハジメ。今からすることは要はそういう事だ。あっさりと負けてその後に勝てばいい。その為に色々用意しなければいけない。深夜、誰もが寝静まる夜にてハジメとノインの秘密の作戦会議は練られていくのだった。

 

 

 

 

 

 

「んん?そうなると…ほかの皆は大丈夫かな。フォローに回った方が」

 

「大丈夫ですよ。皆様は南雲様と共に歩んできた人たちです。…特に女は恐ろしい生き物なんですよ」

 

「うへぇ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でりゃ!そりゃああ!でっっっすぅ!」

 

 神殿の外、湖の中でひときわ大きな氷の足場の上でシアはドリュッケンを振り回していた。唸りをあげ轟音と共に放たれる鉄塊の一撃はまさしく必殺の威力。しかしその力を振るいながらどこかシアの顔は苦々しい。

 

「はぁっ…はぁっ」

 

 荒い息を吐き少しばかり息を整えるシア。数時間ドリュッケンを振り回し続けたが、まだまだシアは納得のいく訓練を終えていない。ぺたりと座り込み。手元のドリュッケンを見て、思案に耽る。

 

「シア」

 

「ユエさん?」

 

 そんなシアの傍にユエがふわりと歩み寄ってきた。手にはバスケットを持っている。何だろうと首をひねるとユエは微笑みバスケットの中を開く。そこにはパンやサンドイッチがぎっしりと詰め込まれていた。

 

「お昼。まだでしょ?」

 

 グゥゥゥウウウ~~~~!

 

 その言葉を聞くと同時にシアとお腹から大きな音が鳴り始める。ずっと早朝からドリュッケンを振り回していたのだ。お腹が空くのも無理は無かった。

 

「あ、ありがとうですぅ」

 

 顔お真っ赤に染めながら礼を言うシアとそんなシアを愛しそうに微笑むユエだった。

 

 

 

 

 

「最近悩んでいる?」

 

 昼食を摂り、他愛のない雑談をしていた時だった。ユエの気遣う言葉にウッと声を詰まらせる。ユエの言う通り悩みがあるからそれを振り払うように訓練をしていたのだ。すぐにばれてしまったことに目が泳ぐが観念して話すことにした

 

「実は、虚像に言われたことで…」

 

「ドリュッケンの事?」

 

「あはは、流石ユエさん。隠し事はできませんね」

 

「ん。親友の事はバッチリ把握している」

 

 むふーと胸を張るユエ。そんな親友を苦笑しながらシアは手元にあるドリュッケンに視線を下ろす。

 

「…着いてこれないんです」

 

「ん?」

 

「私に着いてこれない。只の重しだと虚像に言われました。そしてそれは…事実でした」

 

 戦友であり相棒のドリュッケンを愛おしそうに撫でながら、シアは虚像と戦った時を思い出す。虚像は対戦相手のコピーをしてくるのが本来の戦い方だった。シアの虚像は確かに同じドリュッケンを持っていたが早々に投擲武器として使ったのだ。

 

 そしてうんざりしたように一言

 

『なんで私に()()()()()()()()()を使い続けないといけないんですか?』

 

「そう言われて…私はカチンと来て激昂して…そこから先はあんまり覚えていません。分かるのは手元にドリュッケンが無かった事と何も持っていない手がとても身軽だと感じた心だけでした」

 

 そしてティオと出会った。そう語るシアは深く落ち込んでいてユエはその背中を慰めるかのように擦る。その優しさと温かさに甘えるように目元を細める。

 

「…本当はハジメさんに言わないといけないんですけどね。でも、私のために作ってくれたこの子をどうしても手放したくなくて…」

 

「ん。ちゃんと折り合いが取れたときに言えばいい。ハジメも解ってくれる」

 

「はい、いつか必ず。…それでユエさんの方の虚像は…っと何でもないですぅ」

 

 話題の転換にと切り出したが背中を摩る手が妙に力強くなったのを感じて口を噤むシア。誰にでも触れたくない部分がある。その意味を知った瞬間であった。

 

「ん。それじゃ、私はもう行く。魔法の練習をしないと」

 

「ごちそうさまでしたですぅ。ユエさんも頑張ってくださいね」

 

 ユエが頑張るなら自分も頑張らないとそう言ったつもりのシアだったが、ユエはあまり晴れた顔をしていなかった。

 

「どうかしたんですか?」

 

「…ん。後もう一歩で完成するのに、その一歩がなかなか難しい」

 

 ユエ曰く、原初に立ち返り自分のスタイルを思い出し、初心をもって魔法の集束を繰り返しているのだが、起爆剤となる決定的な何かが足りないのだと言うのだ。

 

「むむむ、すみません魔法は専門外ですぅ。体の動かし方ならいくらでも力になれるのに」

 

「ありがとうシア。でも大丈夫。自分で何とかして見せる」

 

 そう言われてしまえば信じるしかあるまい。親友のその姿に触発されたようにシアもまた訓練を繰り返すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(………だるい)

 

 深夜。自室となった部屋のベッドでコウスケは動かず只々ぼんやりとしていた。動こうにも気力と言う気力が全く出てこないのだ。体は妙に重く、頭の中は考えがまとまらない。心の方はもっとひどく無気力で只々疲労感だけが蓄積されていった。まるで月曜日の朝に地獄(会社)へと歩むような気分だった

 

「俺は……俺の身体は天之河じゃなくて…俺の身体で、でも顔も体格も別人で…」

 

 言葉にすればそれだけだったが、漂う頭の霧は晴れない。

 

 ずっと悩み考えていた事だった。どうして自分は天之河光輝となっていたのか。そんな疑問を持ちながらも安易に憑依という結論を出したのは自分だった。

 

(だってよ!実際、いきなり異世界にいて原作キャラの身体になっていればそう考えるのが普通だろ!?だから俺はそう納得して…理解できない天之河の演技をして…でもそれは違ってどうやら自分から天之河になっていて…そもそもなんで俺は解放者と一緒にいたんだ?はるか昔だぞ解放者が居たのは!?…何で俺は天之河に整形する様に頼んだんだ?何の意味があって…アレは俺なのか…俺だ。間違いなく。でも俺にそんな記憶はない。どうして)

 

 支離滅裂となった思考に湧き出てくる疑問。それに解する答えは分からないの一点張りだった。無駄な時間を過ごしながら気力とやる気が著しく減っていく。

 

(薬…薬はどこだったけ。…ああそうかここは日本じゃない)

 

 虚ろな表情で枕もとを漁るがふと正気に戻る。その事を何回か繰り返す。今までの疑問と謎を納得も理解もせず目を背け放置し、只々目の前の出来事に気を取られていたふりをする毎日だった。分からない問題を後回しにする。コウスケの悪癖が今になってコウスケ自身を苦しめていたのだ。

 

(……リリィと話がしたいな…ははっ結局女に逃げるなんてサイテーだな)

 

 誰でもいいから話がしたかった。だが、仲間には打ち明けたくはない。心配されたくない。その思いでリリアーナと更新しようとするコウスケ。

 その姿こそが心配される原因だと気付かないまま、白百合のペンダントに魔力を流す。が、そこでもたついてしまう

 

「…あれ?魔力って…どうやって流すんだっけ?」

 

 今まで当たり前のようにできていたことが上手くできない。魔力と言う不確定な物がイメージできなくなっている。

 

(そうだ、俺、天之河の身体だからできると思っていたから…)

 

 自分の身体ではなく他人の身体だからできると思っていた。ただの日本人で凡人で平均以下の人間ではできないことでも原作キャラの体ならできる。そんな思いを今まで無意識に考えていたことにいまさら気づいてしまったコウスケ。

 

 四苦八苦しどうにかして白百合のペンダントに魔力を流し込むが…

 

「リリィ?」

 

「ザッーーザッッーーザザザッッーーー」

 

 強いノイズの音が聞こえるだけで、リリアーナの声は全く持って聞こえなかった。しばしペンダントを見つめ涙が一滴目から零れ落ちる。

 

「は…ははっ」

 

 ペンダントを取りこぼしたその手で宝物庫を探り、取り出した麻酔薬を無理矢理飲み下す。徐々にくる睡魔に身を任せベットに沈み込むコウスケ。

 

(疲れた…もう疲れたんだ)

 

 最低最悪の気分のままあらゆることから逃げるように闇の中へ沈んでいくコウスケだった

 

 

 

 

 




これでフラグ立ては終了です。

次回から本編を進めます
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