ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅くなりました!

ちょっと説明不足かもしれません。申し訳ないです


降臨と絶望

 

 

全ては一瞬の出来事だった。ディンリード改め魔王アルブが襲い掛かってきたのもフリードやイシュタル、神の使徒が襲いかかてきたのを迎撃したのも、そしてユエが光の柱に閉じ込められそうになっていたのも一瞬だった。

 

 仲間たちがそれぞれ迎撃する中、ユエを助けようともがくハジメより風の様に先に動いたのはコウスケだった。ユエを突き飛ばしたのまではよかったのだが代わりに光に閉じ込まれてしまったコウスケは、先ほどまで苦悶に満ちた顔をあげ、どこか晴れ晴れとした顔をしていた。

 

「コウスケ!」

 

「……ククッ…クハハハ…アッハハハハハハッ!!!!」

 

 髪をかき上げ、何が面白いのか清々しいほどまでに笑うコウスケ。その愉快そうな姿は以前のコウスケとは打って変わって豹変したかのように見えた。少なくともハジメ以外の全員はそう見えたのだ。だがハジメの目にはその顔が醜悪で歪んだもののように映った。

 

「…お前は、誰だ」

 

「ククク、まさか見失ったものが見つかるとは…いやはや何とも因果はまわるというべきか。うん?私か?分からぬのか?…下賤なお前達に名乗ってもよいが …図が高いぞイレギュラー?」

 

「グッ!?」

 

 突如としてそれは起こった。手の平をかざした、それだけでハジメ達が全員吹っ飛ばされたのだ。辛うじて足のスパイクを発動させたハジメは何とか食いしばるが、敵と交戦中だった仲間たちは後方へ大きく吹き飛ばされる。ニヤニヤと笑いながらその様子を見届けると次は高慢に笑いながら言葉を告げる

 

「私の名は、創世神『エヒト』だ、その矮小な脳に刻んでおくが良い。…では、エヒトの名において命ずる――“動くな“」

 

「ッ!?」

 

 その言葉を告げられた瞬間、その命令に従うように体が標本のように固定されてしまったのだ。コウスケの姿をした、言葉通りなら“創世神エヒト”は歯を食いしばり何とか動こうと必死な形相をするハジメと虫の様に這いつくばるユエ達を見てさらに笑みを深くする。

 

「ふふふ、礼を言うぞイレギュラー。お前は我が探し求め諦めかけた勇者を自ら届けに来てくれたのだからな」

 

「…勇者?探し求めた?どう言う…事だ」

 

「お前たちの言うところの解放者と言ったか。奴らの希望であり、人類を救うために現れたこの男の事だよ。忌々しいが我を超える力とパワーを持った出鱈目と言う言葉を体現した男…簡単に死ぬとは思わずどこかに隠れ生き延びていると思ったが…まさか貴様が見つけ出すとはな、この男はとはどこで会った。うん?」

 

 笑みを深くし、教鞭を取るかのように話し始めるとハジメにゆっくりと近づいていく。距離を取ろうと体を動かそうとするが体は言う事を聞かない。

 

「まぁどうでも良いか。重要なのは我がこの勇者の体を手に入れた。それが事実でありそしてお前たちの敗北である。それだけだ」

 

「ガハッ…ぐぅうう!」

 

 気安げにハジメの肩に手を載せていたエヒトは突如ハジメの腹に貫手を行う。背中まで貫通した手は握りこぶしを作ると脂汗を浮かび上がらせ苦悶の表情を作るハジメを一切気にせず腕を引き戻す、途端ハジメの腹部からブシュッと盛大に血が噴き出し、エヒトの顔を真っ赤に染め上げる。

 

「ククク、哀れだな。何も知らず何もわからず、道化のように振舞いそして何もできずに死ぬ。まさに貴様は我を楽しませるためだけに生まれた存在だな」

 

「それ…は…お前…だ」

 

「そうかそうか、負け犬の遠吠えとは何とも無様よなぁ」

 

 血に濡れた髪をかき上げるとエヒトはいまだ動けず居るハジメの顔を片手でつかみ上げ地面に叩き落す。広間に響く轟音と共に床にハジメの顔が叩きつけられ大きな罅が床に広がった。普通の人間なら即死、だがハジメは額から血を流しながらも耐えたのだ。

 

「ガハッ!?……コウ…スケ…起きるんだ…君は、そんな奴に言いなりになる男じゃ」

 

 歯を食いしばりエヒトの足をつかむ。致命傷を負いながらも声を絞り出すその姿は執念と言う言葉がふさわしかった。だがエヒトにとってはその言葉はあまりにも意味のない事だったのだ。

 

「ほう、哀れにもこの男に頼るのか?無駄だこの男の意思は無い。この体は我が完全に掌握した。そんな事もわからんとは…な!」

 

 言い切ると同時に縋りついたハジメを踵落としの要領で今度こそ床に打ち付けた。その衝撃音は凄まじく攻撃が入ったハジメは完全に動きを止めてしまった。

 

「どうした?それで終わりか。もっと気骨のある奴かと思ったがどうやらただの腑抜けの様だな。たかが少し小突いた程度で呆気なく倒れるとは」

 

「ハジメ君!」

「ハジメさん!」

 

 目の前で起こる光景に香織とシアが叫ぶが、こちらもハジメと同様に地面に這いつくばったまま動けないでいた。エヒトの放つプレッシャーとコウスケの重力魔法の組み合わせによりシアたちもまた床に押しつぶされようとしているのだ。

 

 悲痛な声の居所を見たエヒトは、そこで倒れながら目の前の光景を呆然として見ているユエの姿を見つける。新しい獲物を見つけた悪童の様にニチャリとハジメの血によって濡れた顔を醜悪に歪めた。

 

「ククク、ああユエと言ったか、貴様には感謝しているぞ」

 

「…え?」

 

「ユエ!そやつの言葉を聞いてはならん!」

 

 呆然としていたユエに嫌な予感を感じ取ったティオが叫ぶが遅かった。エヒトの声は粘つく液体の様にユエの聴覚を侵食してきたのだ。

 

「貴様のお陰でこの男の身体を乗っ取ることができたのだ。叔父とやらの言葉に動揺し隙を見せたお前を、囮にすることでこの男はまんまと釣られてきたのだ」

 

「あ…」

 

「当初の予定ではお前を我が現界するための器とする予定だった。だが、この男が現れた今、お前は多少の魔法の才があった所で微塵の価値も無いただの小娘だ。この男の魔力に比べれば器とするにはあまりにも貧弱で無価値。だがそんな無価値の存在でも餌としては役に立った。我が降臨するための道具としてな」

 

「…私の…せい?…そんな」

 

 見下し、ユエを嘲笑うエヒト。その言葉を聞いてしまったユエはカクンと顔を俯かせてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「クハハ…ハハハハハ!!!それで終わりか!なんとも無様で矮小な者達だ。これでは存分に力を振るう事も出来ぬではないか」

 

 この場における唯一の戦力全員が現界したエヒトただ独りによって壊滅した。地に伏したハジメ達を見てエヒトはただ独り笑い声を上げる。

 

「お見事でございます。我が主、新しき体を経たという事は即ちこれから我が主の時代が始まるのでございますな」

 

 笑うエヒトの前に跪き恭しく声を掛けるのはエヒトの眷属神アルヴヘイトだ。イシュタル、フリードも合わせるように恭しく頭を垂れている。

 

「ククク…それだけでは足りぬぞアルヴヘイト。このアーティファクトを作ったこ奴らの世界、『日本』とやらを侵略し遊ぶのも面白そうではないか」

 

 これまで世界を玩具の様に遊びつくしてきたエヒトは今度は異世界『日本』を侵略しようと言うのだ。戦闘の範囲外で比較的無事だった、クラスメイト達が目を剥くがエヒトは微動だにはしなかった。それどころか指をパチンと慣らし、ハジメが作り出したアーティファクトの数々を空間転移させたのだ。

 

「ド……リュッ…ケン」

 

 ハジメが手掛けた宝物庫やドンナ―、武器の数々がエヒトの周囲に浮かびクルクルと周りだす。その中にはシアの相棒ドリュッケンもあった。

 

「駄目…その子は…私の…」

 

 満身創痍で体中に怪我を負ったシアが懸命に手を伸ばすが、その健闘も虚しくアーティファクトはエヒトが手を握りしめたと同時に光の残滓を纏うような砂状の残骸へと姿を変えてしまったのだ。その光景を見たシアはぱたりと手を力なく降ろしてしまった。

 

 

 

「では…手始めにこ奴らを消し去るか」

 

 エヒトが宣言し手を翳す。その動きに合わせるように空間が歪んでいく。それはコウスケが激情に駆られたときに起こす超常現象。それをエヒトは自分の力で行おうとしていくのだ。

 

「おお…この力、流石は我らの神!」

 

 放たれる魔力の奔流にイシュタルが感極まった声を出す。対してフリードは頭を下げたまま何も動かなかった。

 

 空間の歪みが大きくなり、ひび割れだし、圧縮された魔力の塊がハジメ達に放たれようとしエヒトの口角が上がった時それは起こった。

 

「…グッ!?」

 

「エヒト様!?」

 

 突如エヒトの鼻から血が噴き出したのだ。夥しい量の血を噴出したエヒトは咄嗟に腕で鼻血を拭く。が、今度は耳から血が垂れてきたのだ。

 

「一体どうなされたのですか!?」

 

「グフッ…忌々しい…我が力を持ってしてもこの男の体を我が物とする事は出来ぬというのか!?」

 

 吐血しながら吐き捨てるエヒト。自身の力を持ってしても高次元の勇者を自身のものにすることができない。その事実を認めない様に体の修繕を図るが今度は目から血があふれ出てきた。

 

「グゥ!?…アルヴヘイト我は一度、【神域】へ戻る。この体が馴染まぬ今、万全とはいかなかったようだ。認めたくはないが我をもってしてもこの男の力は強大だ。調整に五日ほど、時間が掛かる。使徒を残して置く、この場は貴様に任せたぞアルヴヘイト」

 

「はっ我が身命をもって」

 

「フリード、イシュタル。我に着いて来い。貴様らには護衛を頼もうではないか」

 

「はっ」

 

「仰せのままに我が神よ」

 

 アルブ達に指示を出すとエヒトは頭上に手を掲げ光の粒子を作り出す。すると光の粒子が謁見の間の天井の一部を円状に消し去って、直接外へと続く吹き抜けを作り出した。

 

 光の粒子はそのまま天へと登って行き、魔王城の上空で波紋を作りながら巨大な円形のゲートを作り出した。天地を繋ぐ光の粒子で出来た強大な門――まさに神話のような光景だ。おそらく、エヒトの言う【神域】という場所へ行くための門なのだろう。

 

 エヒトは、掲げた腕を下ろすとふわりと浮き上がり、天井付近からハジメ達を睥睨した。

 

「イレギュラー諸君。我は、ここで失礼させてもらおう。この肉体を完全に我が物にするのに時間がかかるのでね。それと、五日後にはこの世界に花を咲かせようと思う。人で作る真っ赤な花で世界を埋め尽くす。最後の遊戯だ。その後は、是非、異世界で遊んでみようと思っている。もっとも、この場で死ぬお前達には関係のないことだがね」

 

 どうやらエヒトは、本気でこの世界を終わらせて、新天地として地球を選ぶ気のようだ。そして、そのタイムリミットが五日。それが人類に残された時間だった。

 

 倒れ伏すハジメ達を一瞥し、鼻で嗤うとそのまま点に輝くゲートへと昇って行った。恍惚な表情を浮かべたイシュタル、ハジメ達を一瞥したフリードも後に続く。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エヒトに後を任されたアルヴヘイトはニンマリと口を上げた。後は残党の処理をするだけの簡単な仕事だった。エヒトの眷属として言い渡された使命は必ず遂行するつもりである。

 

 だが同時にディンリードの記憶にある美しい姪の存在をアルヴヘイトは自分の思いのままに汚したかったのである。アルヴヘイトが今まで見てきたエヒトを除く唯一の目を奪われる存在。それを意のままにする。無理だと思いつつもエヒトに願い出てみればエヒトは許可を出したのだ。

 

(流石は我が主。何と寛大でお心の広いお方か!)

 

 感極まった気持ちでエヒトに楯突く下賤な連中の顔を見る。するとそこで不思議な光景が目の前に広がっていた。

 

「ハ……ジメ…君」

 

 倒れ伏していた者の中で一人だけエヒトの神言を打ち破り動いている女が居たのだ。黒髪の髪の長い女はしかし、怪我を治すこともできずにいるのか 這いつくばりながらずるずると動いている。

 

「?なにをしている。さっさとあの女を…」

 

 周りの使徒に向かって命令するつもりだった。エヒトの使徒とはいえアルヴヘイト自身も神なのだ。言う事には従う筈が、誰も動こうとはしなかった。百体を超える神々の使徒が寧ろ手を出すことを恐れている。そんな雰囲気が使徒たちの顔に蔓延していたのだ。

 

 

 

 そうこうして居る内に女…香織はついにハジメの元へたどり着いたのだ。

 

「待ってて…今怪我を…」

 

 自身も動けぬはずの怪我をしているのに必死に死に体のハジメを治そうとするその光景は感動を呼ぶものだった。

 

「ふん、無様な…この期に及んでまだ生き恥をさらそうとするのかこの下賤な連中は」

 

 だがアルヴヘイトからしてみれば生き汚い虫みたいな物であり、不快を催す物だった。魔法を使うまでもないとつかつかと歩み寄る。

 

「哀れだなイレギュラー。女に助けてもらわなければ生きることもできないのか」

 

 反応は無い。それどころか、香織の方もアルヴヘイト一瞥することもなかった。それどころか香織の両の手の平が儚くも淡く輝いていた。

 

 見れば手の甲を傷つける様に魔法陣が刻まれていたのだ。不器用ながらもそれは治癒術の魔法陣であり、手の怪我の深さから床の破片で自分で傷つけて作ったものに違いなかった。

 

「ハジメ君…今度は私が貴方を助けるから…だから」

 

「うるさいこの愚図が!」

 

 自分を無視して勝手に動く香織に蹴りを放つアルヴヘイト。側頭部に当たり倒れ伏す香織。しかし起き上がるとハジメを抱き寄せ怪我の治療を始めようとする

 

「今まで、あぎっ!…頼り切りっ…だった、から」

 

「まだ動くのか!?コイツ!」

 

「あぐっ!…私が…貴方を…守らなきゃ」

 

 何度蹴りを放ち髪を掴み放り投げるも這いつくばって香織はハジメのもとへ近寄ろうとする。その執念を超えるナニカにアルヴヘイトに一筋の冷や汗が流れ落ちた。

 

「ふ、ふふそんなに一緒に死にたいのなら纏めて死ぬが良い」

 

「ハジメ君…死なせない。何があっても貴方だけは」

 

 二度と離さないという意思表示の様にハジメの頭部を抱きしめる香織。その美しく儚いその光景をアルヴヘイトは打ち砕くように魔法を放つのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキンと何かが砕ける音がして、ブチリと肉の裂ける音がした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




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