ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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ずっと温めて腐ったんじゃないかと思ったものををようやく投稿することができます

要はフラグ回収の巻


武闘と魔法

 肉の裂ける音が聞こえる

 

 

シアにとってドリュッケンとはただの武器で無かった。戦友であり子供の様であり…大切な物であり、何よりハジメ達の旅について行く上での最も重要な物だった。

 

 自分と同じ異端の力を持った三人との出会い。まるで運命の様なその出会いでシアはハジメ達について行きたいと思った。家族への罪悪感、友人になりたいなどと色々な下心があったものの必死で食らいつき旅に同行を認められるようになった。

 

 そして町について…ハジメはシアの相棒となるドリュッケンを作ってくれたのだ。その時の受け取った感動をシアは決して忘れない。ハジメにとっては只の武器のつもりだったかもしれないがシアにとっては全く別の感動があったのだ。

 

 それは戦力として認められた。仲間として一緒に行こうと誘われた確かな証拠だったのだ。

 

 シアの剛腕に合わさるようにドリュッケンは手に馴染んでいった。戦い方をコウスケと合わせるように何度も訓練をして、その度に魔物の血で汚れてしまったドリュッケンの手入れをし…多くの戦いを乗り越えていった。

 

 ブチブチと肉の裂ける音は大きくなっていく。

 

 初めての大迷宮ではミレディ・ライセンのとどめを刺す大きな要因となった。ウルの町を覆い尽くす様な魔物の集団を蹴散らすために獅子奮迅の活躍をした。火山の大迷宮で炎を纏う魔物を難なく退けた。海底遺跡では場に合わせてハジメに改良をしてもらい亡霊の軍隊を薙ぎ払った。

 

 シアが振るうドリュッケンは確かにシアの力となった。だが王都の防衛線辺りから違和感が出て来た。握る質感が妙に頼りなく、重さが軽くなっていく感じがしたのだ。樹海の迷宮で虫型の魔物を叩き潰した。当たり所が悪い気がした。氷雪洞窟で氷の魔物を粉砕した。何度手から離れそうになったことか。

 

 そして、自身の虚像に相対した時、シアは無意識に自身がドリュッケンに対してどんな事を考えていたのかを知った

 

『自身の成長について行けない只の重り。善意で渡された私を束縛する鎖。もう必要のない物』

 

 虚像が言った言葉は、確かにその通りだった。どれだけハジメが改良をしてもドリュッケン…武器自体がシアの成長についてこれず肉体が受け付けなくなっていったのだ。

 

 だが、たとえシア自身どこかで自覚していてもその言葉を素直に受け止めるにはあまりにもドリュッケンとの思い出が多すぎた。大切な戦友で相棒で、ハジメ達との思い出の品を必要ないと言われるのはどうしても我慢できなかったのだ。しかし実際は虚像を倒した時は素手であり、ドリュッケンは手元にはなかった。それがシアの本能であり自身にあった戦い方だった。

 

 

 肉の裂ける音は、自身の身体から鳴っている。

 

 そして、今シアのドリュッケンはエヒトの手により光の粒子となってこの世から消え去ってしまった。もうどこにもシアの大切な思い出は存在しなかった。 

 

(……)

 

 体から音がする。肉の裂ける音、それと同時に痛みが走る。シアは本能でそれが何なのか理解した。

 

 それは肉体の()()の音。鎖が解け自身が全力で戦える筋肉の成長の音。収束と断裂を繰り返し高密度の肉体へと変わっていくシア自身の肉体の変化。

 

 全く持って不得意だった重力、再生、変成、それぞれの神代魔法が意識せずとも筋肉の成長をスムーズに行う。それはまるでシアの呪縛が解き放たれたことを祝福する様に、今この場にいる敵を殲滅しろと歌うように。

 

 

 香織がハジメを守ろうとしているのをうさ耳が捉えた。隣でパキンと魔力の音が鳴ったのをうさ耳は捉えた。

 

(…ユエさん。貴女もなんですね)

 

 親友の魔力の質が変わったことをシアの肉体は感じ取った。なら自分がすべきことは、やり遂げなければいけないことは。

 

(私が守る!今度こそ私の手で!)

 

 守るにはどうするのか、シアの出た答えは簡単な事だった。やることは単純に敵を潰す、それだけでありそれ以外は仲間に任せる事をシアは選択した。

 

 一瞬の間をおいてシアは跳躍した。向かう先は魔王…ではなく周りの使徒達。どうしようもない愚か者の粛清は最も因縁のある親友に任せることにした。

 

 

 新たな肉体へと変わったシアの拳の最初の一撃は使徒の上半身を盛大に吹き飛ばした。肉片が飛び散り壁へと向かっていくのシアは次の標的へと跳躍しながら視界の端に捉えていた。

 

(なんて…無様!)

 

 思う感想はあまりにも不甲斐ない自身の力の使い方だった。もっと鋭利に迅速に一撃を与える筈だった攻撃は力任せの腕力だけを頼りにした一撃だった。

 自身の身体の全てを出し切れていない。今もなお成長し続ける肉体の力を持て余す自身の戦い方に強い怒りを感じる。

 

 シアの感情の露出が闘気となってシア自身を包み込む。だがシアは気付かない。目も前の敵を一秒よりも屠ることに集中と戦意を向ける。その呼応に増々闘気が増大と収束を繰り返す。

 

 使徒が自分の動きについて行っていない。自覚したのは五体目の使徒の首を足で蹴り飛ばした時だった。

 

(私が速い?…駄目!もっと、もっともっともっと速く力強く正確に!まだまだ足りねぇんですぅ!!!)

 

 使徒より速くなっている。自覚したそのイラつきが増々シアの肉体の速度を上げる。跳躍するための太ももの筋肉が肥大化し瞬時に元の細さへと収束していく。だがまだシア自身が望む速さへとたどり着いてはいなかった

 

『使徒よりも早くなっているのならなぜまだ敵を殲滅することができないでいるのか』

 

 肉体をうまく使えずにいる事で疑問が大きくなる。まだまだ敵は多い。それなのになんという体たらく。不甲斐なさが大きなってもどかしさが出てくる。

 

(そっか…ドリュッケンに甘えてきていたから) 

 

 十体目を粉砕した時に何故ここまで体を動かすという事がぎこちなくて不甲斐ないのか理解した。シアは何時だってドリュッケンに頼り切っていたのだ。その思いに大切な相棒は答えていてくれた。シアが肉体の制御を疎かにしていてもドリュッケンが補っていてくれたのだ。

 

(ありがとうドリュッケン…今まで私を助けてくれて)

 

 ドリュッケンへの惜しみない感謝の気持ち。その感謝がシアの肉体を変える。動きはスムーズになり無駄な動作が省かれていく。十五体目を手刀で両断した時、使途が動き出す。両手に大剣を持ち構える者、シアに魔法を放とうと、口を開く者。顔の表情は変わらないが焦りを感じた。

 

(チッ!まだうじゃうじゃ居やがるですか!)

 

 口を開いて悪態をつかないのはその呼吸一つ分でも惜しいからだ。使徒を殲滅し窮地を脱するにはまだ何かが足りない。自身が完成する何かが。

 

 壁を床のように見立て跳躍の反発力を速度に変える。使徒のガードする大剣もろとも正拳突きの一撃で貫き吹き飛ばす。片足を床に叩きつけ軸にし、回し蹴りの要領で使途を引き裂く。自身の五体を使う戦闘流法。しかしあくまでも我流だった。シア自身が自分の肉体に頼った動きだった。

 

(素手で戦う人なんていなかったですからねっ!ほとんどが我流…え?…父様?)

 

 せめて誰か一人でも模範となる人間が居たら、そんな思いが突如としてある人物を想起させた。

 

 その者の名はカム・ハウリア。兎人族たちの長でありシアの大切な愛する父親だった。

 

 再会したカムはハジメが作った武器を持っていなかった。無手でありながらも力強さを感じていた。それはカム自身が体そのものを武器としていたから。

 

(あ、ああ…父様はこの事を知っていて…私に助言を)

 

 帝国で奴隷を解放した後、カムはシアに戦いをやめろと伝えてきた。その事に反発し喧嘩と言うの名の戦いに発展して…結果シアは負けた。今にして思えばカムはシアの状態を把握していたのだろう。父親だからこそ分かる娘の気持ち。戦闘部族となった長としての随一の身体能力を持つはずの希望の違和感に。

 

 カムは言っていた。うさ耳はどうしたのだと。兎人族が頼りにし、誇りを持つうさ耳をシアは使っているのかと。

 

 カムは言っていた。その目はどうしたのだと。未来を見通すシアだけの能力を本当に使いこなしているのかと。

 

 カムは言っていた。ドリュッケンではなく拳で向かって来いと。その言葉はシアがどういう戦い方をすればいいのか暗に教えていたのだ。

 

(父様…皆。私は貴方達の希望となる。だから不甲斐ない私に力を貸してください!)

 

 父親への感謝。家族への感謝。その思いがシアの身体にさらなる革命を施す。

 

 うさ耳が使徒の呼吸音をとらえた。その音は魔法を使うための前段階の動作。物理的なものが無い筈の空気を駆り最速の動きで魔法を唱えようとする使途の口に拳を放つ。その結末を見届ける事なく今度は返す拳で向かってきた使徒に手刀で切り裂く。

 

 シアの蒼穹の目が未来を見る。映し出された映像には使途が五人がかりの連携で襲い掛かってくるもの。即座に反応し後方から来た使徒を後ろ回し蹴りで撃墜し、前方から襲い掛かる使徒をサマーソルトで蹴り上げ上空から来た使徒にぶつけさせる。左右からの使徒は飛び上がりそれぞれ片方の手で顔面を掴むと一気に握りつぶした。

 

 拳打と蹴撃が研ぎ澄まされていき、うさ耳と未来視が先を読む。だが決してシアは誇らない。それは出来て当然の事だった。仲間内で最も身体能力が優れた自分ができて当たり前でするべき事だった。

 

(ハジメさん…コウスケさん。必ず私が道を切り開きます。だから待ってて)

 

 コウスケはいなくなった。ハジメの容体も分からない。それでもシアの動作は鈍らない。遅咲きであるこの完成された自身の肉体を使い最善の未来を切り開くのだ

 

 兎人族の少女は跳躍する。仲間のため、自身の守るべきもののため。その跳躍を阻止するものは誰にもできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 何かが砕ける音がする

 

 エヒトが嘲笑いながら言った自身の油断は腹が立つが確かにその通りだった。叔父が生きていたと驚き、話に耳を傾けていたのは紛れもない事実だった。その為に初動が遅れ結果光の柱に囲まれてしまった。自身の失態だった。

 

 だがそれで納得できるほどユエは殊勝ではなかった。寧ろお前らのせいだと強く思った。

 

 叔父が出てきた時は本当に驚いた。どこかで生きて居るのでは無いかと考えていたし、頭の片隅に置きとどめていた事だった。実際にあった時は想像以上にショックだったのは間違いはない。話す言葉が真実かどうかを探り考えていたのも本当だった。

 

 だが攻撃してきたのは敵の方で、策を弄する矮小さを棚に勝ち誇るのは随分と自称神にしては失笑物だった。

 

(でも…その神に負けた私が思う事ではない)

 

 コウスケに庇われその意味を理解する間もなく状況に流され、無様に這いつくばる自身はなんとみっともないのだろうか。誰よりも魔法に関しては一家言があると自負していたくせにどうして高々コウスケよりはるかに劣る障壁を壊せずにいたのか。仕組みを瞬時に解析し大切な恩人を解放することができなかったのか。

 

(私は…私が腹立たしい!)

 

 自分達より劣る敵。皆と力を合わせればなんて事のない強大でも勝機はあるという信頼。そのユエ絶対な信頼を壊したのはユエ自身だった。

 

 叔父が生きていたと思った。だがそれは過去の人間。今を生きるユエにとっては関係のない人物。

 

(私が目を向けないといけなかったのは皆!決して過去の私にかかわる人間じゃない!)

 

 

 パキンパキンと自身の透明な殻が破れる音がする

 

 

 香織の声が聞こえた。顔を上げればハジメを抱きかかえ魔王アルヴヘイトから攻撃されようとしていた。

 美しい光景だった。全力で何があっても好いた者を守ろうとするその姿勢に揺るぎない意思。綺麗だった。香織は仲間内でも戦闘に長けた方ではない。それでも必死に守ろうとするその姿は見惚れるものだった。

 

(香織…今、助ける!)

 

 パキンと大きな音が鳴った。それは自身の内から放たれた音だった。

 

 右手を上げ魔力弾を打ち出す。咄嗟に放った属性のない只の魔力の塊は吸い込まれる様にアルヴヘイトに当たる。

 

「グハッ!?」

 

 攻撃されるとは思いもよらなかったのか、無様に当たったアルヴヘイトは大きく吹っ飛ばされる。とりあえずは香織とハジメから距離を話すことに成功する。

 

(使徒は…シア?)

 

 アルブヘイトを離すことができたが、だからと言って戦局が有利になった訳では無い。周りの使徒を迎撃しなければ、そう思い見渡せばそこにいたのは親友に良いように翻弄されていく使徒の連中だった。

 

「シア…私と一緒」

 

 シアはただ独りで使徒たちを圧倒させている。その手にドリュッケンは無い。だがそれを問題ないと…寧ろ上回る動きで使徒の首を刎ね胴体を陥没させ蹴り殺していく。その様子はすべての迷いが取れたような動きだった。

 

(使徒はシアがどうにかしてくれる。ならハジメのクラスメイト達は…ティオ?)

 

 ハジメと一緒に召喚された人たち。ユエは交流が無い。他人と言えばそれまでだがハジメにとっては故郷の知り合いである。見捨てるわけにはいか無いと視線を向ければそこにはいつの間にかティオが守るように障壁を張っていた。コウスケに比べれば劣る。しかしティオは一流の魔法の使い手だ、簡単に壊れるまでの物ではなく、一時的に守るのであれば十分な代物だった。

 

 ティオの顔は真っ直ぐこちらを見ている。その目は雄弁に語っていた『任せろ』『行け』と。ティオの傍らで転がっていた清水は親指だけを上げていた。

 

 2人の声なき声に応え、踵を返しハジメ達のもとへ向かう。ハジメを抱きしめている香織は怪我だらけだ。魔法を補助するアーティファクトも無くなり魔力操作のない香織にはきつい状況だ。すぐに治癒魔法を唱えようとしたが香織に視線で止められた。

 

「……」

 

「香織…」

 

 その表情をユエは忘れない。惚れた男を絶対に助けるという女の決意。本気で敵わないと理解した。今この瞬間香織は自分自身を上回った。そう強く感じ、同時に晴れ晴れとした。もうこの子は大丈夫だと。そして虚像に揶揄られた自分の淡い心もそっとしまう事も忘れなかった

 

 ハジメの怪我は深刻で香織も満身創痍。だがその怪我は問題ないと伝えるように香織の掌が淡く白く仄かに輝いているのだ。それは香織もまた自分やシアと同じように扉を超えたものの光。新たなる力に目覚めた決意の証。ハジメを香織に任せたユエは前に進む。 

 

 

「グゥ…この狼藉者どもが!我を誰だと」

 

「知らない。さっさとくたばれ、寄生虫」

 

 アルヴヘイトから放たれる威圧を流す。正体が割れた今、叔父の顔をしている男はあまりにも醜悪の一言に尽きた。キレて血管が浮き出ている。言葉遣いがどんどん荒くなっていく。

 

「き、寄生虫だとっ!?ふ、ふふ哀れな小娘、しかとその脳髄に刻むが良い!アルヴヘイトの名において命ずる――“ひれ伏せ”」

 

「はっ」

 

 眷属神としての神の技能『神言』を使うアルブヘイト。だがユエにとっては只の戯言にふさわしかった。何せエヒトと比べて取るに足らない抑制力でしかなくそもそもユエからしてみればなぜ従い跪かなければいけないのか心底理解できないものだった

 

「効かぬだとっ!?貴様一体何をした!」

 

「知らない。お前の練達不足に過ぎない」

 

「おのれぇぇえええ!!!!」

 

 ユエの鼻で笑う嘲りに激昂するアルヴヘイト。怒り喚けば喚くほど神としての威厳も魔王としての存在感も無くなっていることにアルヴヘイトは気付かない。口から唾を飛ばし眉尻を上げるその顔は叔父としての顔とは似ても似つかないものになってくる。

 

 ユエは恥じた。この取る取らない小物に良いようにされてしまったことを。

 

 ユエは怒った。この現状を作り出したのは自分の過失であることを。

 

 ユエはイラついた。この汚い汚物がまだ存在しているという事実を。

 

「ふ、ふざけるなっ。神に楯突く愚か者が! 貴様等の命など塵芥に等しいのだ!!」

 

 激昂し神代魔法と遜色のない魔法を放つアルヴヘイトを左腕で放つ魔力の衝撃波で相殺しながらユエは右手で金色に輝く魔力の塊を練っていた。

 

(…こいつらは私のコウスケを奪った。私のハジメを傷つけた)

 

 ユエにとって大切な恩人である二人。だが一方は攫われ一方は瀕死にされた。その怒りと言う名の激情を金色の魔力弾へ捻じ込んでいく。

 

(私の親友を傷つけた。私の仲間を…身内を弄んだ)

 

 シア達もまた無傷ではない。心を許す大切な親友と一緒に冒険してきた仲間たちを思う気持ちを金色の魔力弾に入れ補強していく

 

(そしてディン叔父様を……ん?)

 

 叔父の仇を取ろうとしてふと思い込むユエ。そもそもこうなってしまったのは叔父の記憶を利用されてしまったからではないのか?

 

 アルヴヘイトが訳知り顔でのたまった言葉の数々。なるほど考えてみればアルヴヘイトは知らなくてもディンリードの記憶を探れば色々自分との記憶があるだろう。そしてディンリードが抱いていた思いも知ることができたのだろう。

 

 魂魄魔法と言う代物がある以上おおよその事の説明はつく。そして嘘をつくときは本物にそっと紛れ込ませるというのをユエはよく知っている。だから先ほどの言葉の何割かは叔父の記憶にあった考えなのだろう。

 

(………イラッ)

 

 叔父の考えていたことが何となく察したユエは、非常に不本意で認めたくは無かったが額の血管が浮き上がるほどイラついた。仲間を傷つけられた時と同じように癪に触ったと言ってもよい。

 

(さっきの言葉がある程度本当なら…ディン叔父様は私を侮っていた?)

 

 エヒトが敵だと知っていたのならどうして教えてくれなかったのか?エヒトが敵わない強いと知っているのならどうして相談してくれなかったのか?

 子ども扱いするのなら女王として報告するのが宰相としての義務なのでは?戦力として誰よりも強いはずなのに今更子ども扱いは何なのだ?十二歳で戦場を渡り歩いたのに今更自分を失うのが怖かった?

 

 抑えられていた叔父への怒りが膨れ上がっていた。三百年。言葉にすると僅かな単語だが、一切の光のない暗闇の中で死ぬことも生きることもできず自分と言う存在があやふやなままでいたユエにとっては永い永い時の牢獄だった。

 

 ギリッ!!

 

 怒りの余り歯が擦り減っている感触を感じた。ユエの怒りは止まらなかった。

 

 仲が良かったのにいきなり手のひらを返されて自分がどれだけ寂しかったのを知ってるのか?何か自分が粗相をしてしまったのだろうと思い込み改善しようとあれこれしたのを知ってるのか?自分の幸せを切り捨て国へ尽くし友達一人もできなかった自分にいまさら人間扱いとは善人ぶりが過ぎるのでは?

 

 バキンッ!!

 

 食いしばっていた歯が欠けた。同時に魔力の渦が溢れだし魔力弾が増大し誇大化した。その大きさはついに天井に届きそうなまでに達していた

 

「な…貴様…そこま」

 

 ()()が何やらうわごとを言ってるのがさらにユエを殺意を膨れ上げさせた。善人を装い惑わせ仲間を傷つけた愚かなる自分の過去の汚点。

 

 叔父が本当は自分の事を想って行動したのかもしれない。ユエの残る微かな記憶では何かに苦悩をしている父親の様な顔で、頬をそっと優し気に触る家族の手の感触だった。クーデターも裏切りも、自分を傷付け封印したことも。何もかもが姪の事を考えてのものかもしれない。

 

 だが、もし本当にそうだとするのなら家族に対して何も言わず相談せず()()()()()()()()()()()()()だったという事になる。

 

(私は…何一つ叔父に信頼されていなかった!!!)

 

 パラパラと自身の魔力の枷が砕け消滅したのを感じた。

 

「や、やめろ!神の命令だぞ! 言うことを聞けぇっ。いや、待て、わかった! ならば、お前の、いや、貴方様の下僕になります! ですからっ。止めっ、止めてくれぇ!」

 

 気が付けば光り輝く金色の鎖によってアルブヘイトは全身を拘束されていた。左腕からは金色の光がとめどなく溢れ防御壁の様に膜を作っている。

 そして右腕で魔力を激情で練り込んでいた魔力弾は小さなピンポン玉のように圧縮されていた。忌々しい自身の過去の汚点を消し去りたいという概念が混ざった黄金に輝くそれをユエはアルブヘイトに向けて渾身の力で放つ。

 

「その面を二度と私の前に出すな」

 

「やめ、とめっ」 

 

 金色の魔力はユエの手から離れた瞬間大きく誇大化し…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 魔王城の上層部全てが吹き飛んだ

 

 

 

 




前半に比べ後半の描写が足りないとのは力不足です。もっといろいろ詰め込みたかった…

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