ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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出来ました!ではではお楽しみくだされ~


殲滅の果て

 

 

 

 

 

 ハジメが倒れた。腹部を貫通され、頭部を何度も何度も踏みつけられた。

 

 それが倒れ伏した香織の目に映る光景だった。使徒との戦いで体は怪我だらけ、それでも香織は這いつくばってでもハジメの傍に向かった。それこそが自分の役目だと無意識で思っていた。

 

(ハジ…メ…君)

 

 治癒術師である自分こそが何とかしなければ、その気持ちで向かった訳では無い。再生魔法に最も適性があるから向かったわけでもない。

 

 ただ助けたい。それだけしか頭になかった。

 

 邪魔をするアルヴヘイトを歯牙にもかけず倒れ伏したハジメを抱きしめ治癒魔法を使う。今まで自身の魔法をサポートしていた、錬成道具は無い。それでも手の甲に刻んだ魔法陣を使いハジメの傷を治そうとする。

 

(傷が深い…でも諦めない)

 

 自身の怪我を顧みず、少しづつハジメの怪我を治療していく。じれったくなる気持ちを無理矢理抑え、再生魔法が上手く使えない自身の現状に歯噛みし、もしものためと神水を隠し持っていなかった自分に憎悪が湧く。

 

 何よりも惚れた男の子を支えることが一つもできない、今までずっと守ってきたハジメを助けることのできない自身の力の無さが何よりも香織にとって腹立たしかった。

 

 その香織の怒りが限界点を突破し再生と治癒を複合した別の魔法へと変わっていくがそれすら香織にとっては些細なことでしかなかった。

 

(私が…私がやらなくちゃ!)

 

 周りの有象無象はほかの仲間たちがどうにかしてくれている。だから、自分のすべきことはハジメを治すことただそれだけだった。苛ただしい怒りを押さえつけ無心で傷を治していく。重傷だった腹部の穴はふさぐことができた、次は頭部の治療、頑丈だったおかげか見た目の割には怪我は少なかった。ほっと息を吐くと、次第に涙があふれ出してきた。  

 

(死なないで…ハジメ君)

 

 守られてばかりだった。橋の上でも迷宮の底でも、仲間になってからも何かと気遣われていた。好きだという無責任な言葉も嫌がる様子は無かった。

女の子として丁重に扱われていた。その境遇に甘えていた。他の女の子に嫉妬していても自分に嫌悪していてもハジメにだけは甘えていた。

 

 ハジメの顔は依然として眠ったかのように瞼が閉じられていた。

 

 鼓動の音を確かめるようにハジメの心臓を触るかのように破れた服を引き裂き胸板に直に手を置く。魔力を流し込む様にすれば先ほどまで少ししか動かなかった心臓がドクンとはねたような気がした。確かめるかのように胸板を触り心臓がまた刎ねたことを察して無心で魔力を注ぎ込む。

 

 そうして周りの雑音も轟音も過ぎ去り何もかも忘れハジメの治療に没頭していた時、ふいに肩を叩かれた

 

「もうそのへんにしておけ白崎」

 

「清水君…?どうして南雲君はまだ」

 

 まだ目を覚ましていない。そう告げようとしたが清水は苦笑していた。その顔は手遅れだとか無駄だとか悲観的なことを言ってる訳では無かった。

首をかしげる香織に清水はハジメの顔を指さした。

 

「そいつ、もう起きてるぞ」

 

「え?」

 

 清水に促されるままハジメの顔を見ると…そこには頬を赤くして瞼を閉じているハジメの顔があった。瞼がぴくぴくと動き唇は開かない様にキッと真一文字で占められていた。そして先ほどから直に胸板を触っている香織の手からは

 

 ドクンッドクンッドクン!!!

 

 物凄い鼓動が刻まれていた。怪訝な顔になり胸板をさわさわと撫でる。見た目は少年の風貌なのに体つきははしっかりしており 香織の想像より大きかった。ハジメの顔がピクンと動いた。指先でなぞるようにもっと触る。

 

 ドドドドドドドッッ!!

 

 心臓が面白い様に動き出した。このままでは破裂するのではないかと呆然と考えていた時にようやくハジメの瞼が上がった。

 

 

「…あー、おはよう、白崎さん」

 

 

 そのハジメの様子は怪我が回復したとかではなくどう見ても恥ずかしさに耐えきれなくなって起きたと言った方が正しかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 未だに呆然としている香織をあやす様に頭を撫でながらハジメは周囲を確認していた。その視界に映し出された光景は綺麗な青空だった。

 

(うわぁ…天井が綺麗に無くなっている)

 

 魔王城としての威厳と壮言さを兼ね備えた天井や壁は物の見事に消えてなくなっており、自分たちが寒空の中に放置されていることを知る。空のかなた先では黄金の渦が見えた。ところどころ戦闘跡らしきものが残っているあたりある程度は想定内だった

 

 自分自身の周りではユエが何やら眉間にしわを寄せ怒りを抑え込んでいた。その横にはシアが自然体で黄金の渦を見ていた。服装が何故か胸覆いと短パンという普段なら絶対しないであろう姿をしながら常時うさ耳がピコピコ動いているあたり警戒を解いていないのだろう。目が合うとほんの少し驚きユエに何事かを話しかける。

 

「どうやら無事じゃったようじゃの」

 

 多少服装が乱れたティオが歩み寄ってくる。ティオの後ろではクラスメイト達が呆然とした様子で空を見上げていた。比較的冷静なのは傍にいるランデルと愛子ぐらいか。リリアーナは先ほどから泣きそうな顔で黄金の渦を見つめている。

 

「白崎さんのお陰でね。それより…状況を説明してほしいかな」

 

 頭を軽く振り思考を整える。仲間たちが皆揃って先ほどとは打って変わって強くなってるのを肌で感じているのだ。何からするべきかと考えるハジメだったがハジメが起きたのを確認したのか仲間たちが群がってきた

 

「ハ、ハジメ君無事なの!?怪我はない!?頭は!?」

「ハジメ!あの神モドキを倒す!アレは生かしては置けない!」

「南雲さん!コウスケさんが…コウスケさんが!」

「ハジメよコウスケが攫われてエヒトが復活したのじゃ、これからどうするのじゃ?」

「無事か?つーかラスボス降臨したぞおい。やばくね?詰んでね?」

   

 わちゃわちゃと一斉に話しかける仲間たち。香織は我に返って(無意識にかハジメに顔を近づけて)ユエは怒りで額に青筋を立ててリリアーナは泣きながらコウスケが居なくなったと訴えて、ティオと清水は今後の動向を相談してくる。さてどう説明するべきかと苦笑すると冷ややかな声が聞こえた

 

「ハジメさん…コウスケさんが攫われたのにどうして心臓はそんなに落ち着いているんですか。…どうしてコウスケさんが居なくなったのに普段通りなんですか」

 

 冷ややかな声の主はシアだった。その目はいつもの天真爛漫さが抜けており強い怜悧な印象を受けた。コウスケが攫われたことにハジメが驚かない事に対して責めている訳でも非難している訳でもない、だが強い圧を放っていた。

 

 少しばかりピリリとした雰囲気に皆が押し黙る中ハジメは口を開く

 

「まぁ…色々とね。どうしてわかったの?」

 

「心音。香織さんに触られていた時とは違ってやけに静かじゃないですか」

 

「あはは、ついに人の鼓動の音も聞こえるようになったんだ」

 

「お陰様で。で、もしかして…どうなるか知ってたんですか」

 

 シアの詰問と遜色ない質問はハジメは苦笑することで答えた。その笑みにシアは一定の納得を経たのか半歩下がって息を吐いた。同時にその場に蔓延した圧が解かれていく。

 

 

「さて、とりあえずは皆集まって…話をしよう」

 

 そのハジメの号令で取りあえずその場にいた全員が集まるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「ふむふむ、エヒトはコウスケの身体を乗っ取って神域に戻り五日後には世界を滅ぼして地球侵略、か。随分舐めたことをする馬鹿だねっと」

 

 説明役である清水の話を聞いて頷くハジメ。場所は先ほどまでの玉座の間。青空教室となってしまったが簡易的な結界を作り寒さや外の気候に影響の内容に場を整えた。本来なら魔人族やら使徒が居る筈だが、魔人族はエヒトについて行ったり使徒はシアが殲滅したので概ね安全だった。

 またシア曰くこの城にはほぼ生命体の音が聞こえないのでここに居座っても問題ないというお墨付きももらえた。

 

 簡易的なテーブルセットを二つ片手間で作りだし、ハジメ達首相メンバーとたちとその他のクラスメイトで分け合う。ほぼクラスメイト達の扱いが雑ではあるが今は我慢してほしいと目で訴えれば大人しく従ってくれた。どうやらハジメ達の重症ぶりでも割と平然としている様子から意見を言うものが居なくなってしまったようだ。

 

「で、皆に最初に聞いてほしい事なんだけど。僕はこの場所で何が起こるかを知っていたんだ」

 

 ハジメはまず、自分が皆を欺いて腹芸をしていた事を正直に話すことにした。ハジメの予想通りと言うべきか仲間の何人かが不貞腐れたように顔を顰めた。

 

「知ってて…お前なんでオレ達に言わなかったんだ!?」

 

「ん。予想できるのなら対策もできたはず」

 

「確かに事前に言えば皆でエヒト達を倒せたかもしれない。でもそのせいで犠牲が出るかもしれなかったんだ」

 

 ため息混じりにクラスメイトを見る。無論彼らが悪い訳では無かった、無理やり連れられて来たのだ。反抗や抵抗もしたはずだがそれも虚しくと言った様子だったのだろう。

 

 無能扱いし未だに思うところはある物のハジメとて死人が出てほしいわけではない。ので、物事がちゃんと進む様に黙っていたのだ。

 

「む…でもハジメは死にかけた」

「そうです。ハジメさん貴方は自分がやられるのも作戦の内だったんですか」

 

 隣で座る香織が腕をきつく握りしめてくるのを感じながらシアとユエの質問にハジメは頷いた。ちなみに香織が近い距離で座っているのは離れることを香織が拒否したためだ。心配させた責任があるのでハジメは好きなようにさせている。

 

「そうだね。エヒトにやられるのを覚悟していた、だから余計な反撃をせずさっさと倒れたんだ」

 

「どうしてそんな事を…とは言えんの。お主こそが最も警戒すべき相手じゃからこそハジメを倒したエヒトは油断をしたわけじゃからな」

 

 自身が一番強いという事をエヒトはイシュタルやフリードから聞かされているだろう。なら早々に負けてしまえば、油断する。『エヒトルジェ』と言う自称神の性格を考えての判断であり賭けだった。その結果上手く行くことが出来た。

 

「…私は納得できないよ」

 

「白崎さん…」

 

「どうしてハジメ君が痛い目に遭わないといけないの?…死ぬかもしれ無かったんだよ。予想だとか作戦だとか、そんなに上手くいくなんて誰が保証するの?ハジメ君が怪我して皆や私が何も想わないとでも思ってるの?」

 

 香織の言葉にハジメは口を噤んだ。確かに香織の言う通りではあった。上手く行くとは思っていたが保証はどこにもなかった。もしコウスケの身体に早々エヒトが馴染んでしまったら?イシュタルやフリードが助言をしてしまったら?あやふやで破綻する可能性もあるにはあったのだ

 

「でもそうしなければいけなかった。僕が、怪我をしなきゃ皆を助けれない」

 

「そうやって…っ!」

 

 香織に引っ張られ正面から向き合う事になったハジメ。そこで香織の目からぽろぽろと涙がこぼれていることにやっとでハジメは気が付いたのだ。

 

「何で自分を大切にすることができないの!?私はずっと怖かったの!ハジメ君が死んじゃうって!怖くて怖くて死なせたくないっと思って!心配していたの!あの時みたいに手遅れになっちゃうんじゃないかって!…また置いて行かれると思ったの」

 

 自分の思いを叫び涙を流す香織がハジメの心に刺さる。胸ぐらを掴む手が力なく落ちていき香織は崩れ落ちてしまった。

 

「自分の命を粗末にしないで…貴方の命はかけがえのない物なの。たった一つだけの大切な物…失くさないで」

 

 そのまま顔を覆い泣いてしまった。どうにもバツが悪くなりハジメもまた顔を上に向ける。どれだけ危険でもそれが皆の安全を考えるうえで良かったとは思うし念のために神水を隠し持っていたのもある。しかしこうまで泣かせてしまうとハジメとしても苦い物を感じた。

 

「白崎さん、ごめん」

「……」

「本当なら君だけでも話すべきだったかも知れない。でも反対されると思ったんだ」

「…反対するよ。そんな危険な事」

「そうだね。だからこれからもうしない様に約束させてくれないかな」

「約束…?」

 

「約束。もう君を不安にさせるようなことをしない…ううん君を一人にしない」

 

「それって…」

 

 香織が顔を上げるとそこには照れたように顔を仄かに赤くしながらも真っ直ぐ見つめるハジメの姿があった。

 

「ずっと前の告白の返事。今、君に返す。()()()()()()()()()。僕の事を考えて怒って嫉妬して…好きでいてくれる君が僕は好きです」

 

「ハジメ君…」

 

「不甲斐ない僕だ。今後も君に迷惑を掛ける、でもそれでも良ければ…僕と付き合ってくれませんか」

 

 偽りなしの正真正銘の本気の告白だった。場所がどうだかとか雰囲気考えろよとか仲間たちが見てるだとか一瞬思考をよぎるがハジメは愚直なまでに人生で初めてで本気の告白をしたのだ。

 

 この女の子を泣かせたくない、大切にしたい。自分のものにしたい。かねてより考えていた気持ちが混ざり合ったその結果涙を流し自分を心配する香織の姿を見て爆発したのだ。

 

 人生で初めての緊張をハジメは味わっていた。打算的な考えがあるかもしれない、下心なんて無尽蔵だ。どんな強敵でも味わえなかった緊張をしたハジメの目には呆然とした香織の姿だった。

 

 香織も香織で驚いていたのだ。場所も周りの人も忘れてしまうほど。

 

「本当…なの、ハジメ君」

「うん。好きだよ白崎さん」

「私でいいの?」

「君が良いんだ、違う、君じゃなきゃダメなんだ」

「だって私、すぐ嫉妬するし我儘だし、怒りっぽいし」

「知ってる。そんな所も含めて、だよ」

「…独占欲なんてハジメ君が思う以上なんだよ?」

 

 香織の言葉にハジメは苦笑し、意を決して言った。自惚れ以上の大馬鹿野郎と思う言葉を。

 

「それについてなんだけど。僕は一回しか言いたくないし言わないからね。…()()()()()()()()()()()()()()()()()()。 僕だけが君を見たい、反対に君だけが僕を見ていてほしい。ずっとそんな事を考えていたんだ。…我ながら重い事を言うけどさ」

 

 恥ずかしさで穴が入りたいほどの自惚れた男の言葉だった。そして心からの言葉だった。ハジメの言葉を聞いた香織は脳が理解するのに時間がかかったのか最初は呆然として次に涙を目の端に溜めて、そして顔をくしゃくしゃにしてハジメの胸に飛び込んだ。

 

「私も”あなだの事が、好きです!ずっとずっと前からっ!」 

「うん」

「でも、可愛い女の子がいっぱいっ居て」

「うん」

「ハジメ君が取られちゃうかと怖くてっ恨んで憎んっでいないと耐えられなくって」

「うん」

「取られたくない、離れてほしくない、誰にも、誰にも渡したくなんてない!」

「何処にも行かない。ずっと、傍にいるよ」

 

 香織を抱きしめ胸元で泣きじゃくるのを頭を撫でてあやす。フルフルと震える香織の頭を撫でるたびに心がじんわりと温かくなるのをハジメは感じていた。嗚咽と涙で胸が暖かくなるのをハジメは気にせず、ずっと香織の撫でているのだった。

 

 

 

 

 

 

「あーすまぬ。邪魔をしたくはないのじゃが…話を進めてもよいかの」

 

 いきなり始まった青春をとても気まずそうに中断の声を掛けるのはティオだった。今にでも砂糖を吐きそうな顔は非常に居心地が悪そうだった。

 

「ごめんごめん、それじゃ話を続けるよ」

 

 特に悪びれもなく苦笑するハジメは胸にしっかりと香織を抱いたまま何事もなかったかのように向き直る。ちなみに香織は顔をハジメの胸板に沈めているので表情は見えなかったが耳がとても真っ赤だった。

 

「ねぇねぇユエさん。どうしてハジメさんはまだ香織さんを抱きしめているんですか。クラスメイトの人たちとても居づらそうですよ」

「フッあれは香織が自分のものだと証明するために見せびらかしている」

「あーなるほど、この子は自分のものだと。だから今後口を挟むなと…ケツが青いですねぇ」

「まだまだハジメは青二才の童貞ボーイ。致し方ない事」

 

 ユエとシアが何やら言っているがハジメはスルーすることにした。たとえその大半の事が合っていたとしてもスルーすることにしたのだ。

 

「さて、話を戻すけどとにかくここで起きることは知っていたんだ。魔王がユエの叔父さんの体を乗り移っていることやエヒトがユエの体を欲しがっていたことも」

 

「あ?ユエさんの体を欲しがっていた?だけど実際は」

 

「そうエヒトの本当の狙いはコウスケだった。これについては僕の予想外の事だったから意外だったんだけど、どっちにしろコウスケだったら例え自分が狙われていると知ってもユエを庇うんだ。コウスケはそういう奴だ」

 

 だからこれはあくまでも想定の範囲内と断言するハジメ。ここまでは想定内ならその後についてはそう声が上がったところでリリアーナが声をだした。

 

「でもコウスケさんは、連れ去られてしまいました。エヒトもこの男の意識は無いって」

 

 リリアーナは確かに聞いたのだ。コウスケの身体を乗っ取ったエヒトが高らかに体を奪い掌握したのだと。リり―ナからの目からしてみてもコウスケの意思が残っている様子は無かった

 

「確かにコウスケの意思はない。だからエヒトは誤解したんだ。完全に自分が取り込んだんだと油断をしたんだ」

 

 ニヤリと不敵に笑うハジメ。その顔でリリアーナはあることを思い出した。絶対的なアドバンテージを持っていたエヒトが何故撤退したのかを。

 

「もしかして…あの時コウスケさんが反抗してエヒトに攻撃を」

 

「それは違いますよリリアーナ様」

 

 その声は上空から聞こえてきた。何事かと全員が上を見上げるなかひらりと着地してきたのは…

 

「「「「「使徒!?」」」」」

 

「「「「「ノイン!?(ちゃん)」」」」」

 

 それは使途をもっと幼くした体のハジメ達の仲間でありコウスケの従者であるノインだった。事情を知らないクラスメイト達が警戒する中ノインはいたっていつもの自然体だった。

 

「お主、今までどこに…む?その左腕は」

 

 ティオが問いかけるのは無理もなかった。魔王アルヴが本性を現して戦闘に入った折最初に吹き飛ばされてその後行方が知れなかったのだ。仲間内は大丈夫だろうと思っていたためハジメの説明が先になってしまったが…

 

 だが今はそれよりノインの左腕が異様だった。禍々しさを感じる強大な籠手を装着していたのだ。大きさはノインの左腕をすっぽり覆う異形さで見ようによっては左腕が肥大化しているように見える。

 手の甲付近には大きな宝石のような水晶玉が蒼く輝いており心臓の鼓動の様に時折強く発光している。その水晶玉から何かしらの巨大な魔力を感じ取りゴクリと誰かがつばを飲み込んだ。

 

「エヒトが撤退したのはあくまでもマスターの身体が異質で強大な力を持っていた為。マスターが反抗したからではありません。そもそもあの身体にマスターはいません」

 

「居ない?なら、コウスケさんは一体どこに…っ!?」

 

 震えるリリアーナが直感で何かに気付いたのか水晶玉をじっと見つめる。そんなリリアーナにノインはほんの少しだけ口角を上げるとハジメに向き直る

 

「どう?上手く行った?」

 

「想像以上に完璧ですね。流石は南雲様。やはりあなたに頼んだのは正解だった」

 

 そう言いながら左腕の籠手を撫でているノイン。妙に機嫌が良さそうなノインだったので清水が恐る恐る聞き出した。

 

「なぁ、ノインそれ何なんだ」

 

「これですか?これは『鬼の篭手』私がハジメ様に依頼して作った特注品です。…少々機能を万全にするために大型化してしまいましたが」

 

「鬼の…おいおいそれじゃまさか!」

 

 名前を聞いた清水が喜色の声を上げた。事情を知らないほかのメンバーは何事かと思ったがだんだんその蒼の色が見慣れている物だと気付き始めた。

 

「僕とノインは計画を立てた。どうやったらうまく物事が進むのか。きっとコウスケは僕たちの想像通りの動きをするなら、その後のフォローをすればいい」

 

 ノインが発光した水晶玉を撫でるとひときわ大きな光が辺りを覆った。そして人の影がボフンと飛び出してきた

 

「うわっ!?いって~って、んん?ここ何処?え?なに?ナニガオコタ!?」

 

「体を乗っ取られるなら、奪われる瞬間に魂をこちらが取り返せばいい。あの身体には元々コウスケはいなかったんだ。エヒトは気付かなかったみたいだけどね」

 

 淡く光りながら周囲をきょろきょろと見渡すコウスケに苦笑しながらハジメはノインと立てた計画が上手く行ったことを実感するのだった。

 

 

 

 

 

 

 




さっさと次を投稿しなければ…

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