ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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フラグ回です。

どーでもいい話

説明していませんがコウスケの魂魄体の容姿は以前と変わらず天之河光輝のままです


自称神様対策

 

 オルクス迷宮の最奥。オスカーの邸宅にあるリビングルームにてハジメ、コウスケ、清水の三人が顔を見合わせていた。

 

「はぁー召喚された勇者でありながら解放者の一人で記憶喪失ってなんか盛りすぎだな」

 

「自分でもそう思っているんだ。でも本当の事なんだから否定できないんだよなぁ」

 

 ミレディとの会話で知り得たコウスケの真相を清水に話をしていたのだ。清水の方は順調だったようで帝国やほかの町や国に滞りなく連絡が行き渡ったとの事だった。

 

「ランデル陛下アレは大物だぞ。オレより七つも年下なのに皇帝相手に対等に話していたぞ。普通の奴だったら気後れすんのにな」

 

 ほとんど清水は脇役でランデルが取り仕切っていたようだった。お陰で清水の仕事はすぐになくなってしまったらしい。

 

「ユエと香織ちゃんはどったの?」

 

「あーそれなんだが、どうにもユエさんの機嫌が悪くてな。オルクス迷宮の方に行っちまった。今は白崎が見てるけど、刺激しない方が良いってさ」

 

 先にオルクス迷宮に来ていたユエはどうやらディンリードの残したアーティファクトを回収したが想うところが合ったらしい。オルクス迷宮の方に行ってしまい憂さ晴らしをしているという状況だった。香織が付いているから問題はないとの事だったが…

 

「…こればっかりは俺たちが安々と触れて良い事じゃないしな まぁユエの事だ自分の中でうまく消化するだろうよ」

 

 コウスケはディンリードが残した物の内容を知っているからこそあえてユエの好きなようにさせる事にした。家族関係に不用意に触れていいのは信頼している人間だけ、ユエがもし相談しに来るのなら話を聞いておこうとコウスケは考えていた。

 

「んで、南雲。オレとコウスケを呼び出したのは何でだ?」

 

「あーそれなんだけどさ。実は相談があって」

 

 ハジメはガシガシと頭を掻くと声を潜めるようにして囁いた。自身の悩みでありほかの仲間には言えず男衆三人でしか話せ無い事を

 

 

「皆の前でさんざんエヒトに勝てるって言ったけどあれ()()なんだ」

 

「はぁ!?」

 

「いやいや、マジで無理。一目相対したけどあれ本当無理。()()()()

 

 笑って手を横に振るハジメに清水が素っ頓狂な声を出してしまう。笑顔だが言ってることは無茶苦茶だ。クラスメイトや仲間たちの前であれほど

の啖呵をきったというのにハジメはエヒトを倒せないのだという

 

「お、お前…あれほどみんなの前で堂々と勝てるって」

 

「そうでも言わないと皆の士気が下がっちゃうからね。嘘でもそう言わないといけないことだってあるんだよ」

 

 嘘をつき皆を騙したことに罪悪感はあるのだが、だからと言って楽天的に見るほどの余裕はハジメにはなかった。それほどまでに戦力の差がありすぎるのだ。挑んでみたが勝てませんでした。という訳にはいかない。だからコウスケと清水に相談をしたのだ。

 

「そういう訳で僕が二人に相談したかったのはエヒトを確実に倒す方法を一緒に考えてほしかったからなんだ。君たち二人ならきっと何か見つかると思って」

 

「信頼してくれるのは嬉しんだがなぁ…倒す方法か」

 

「…そこまでエヒトとの戦力差は激しいのか?」

 

 清水は考え込むと同時にコウスケが疑問を口にする。ハジメなら上手く行くのではないか、そう言う意味合いを込めていったがハジメは首を横に振る。

 

「駄目だ。神の使徒達なら幾らでも対策は出来る、イシュタルやフリードも同じ。でもエヒトだけはどうすればいいのか思いつかない。コウスケの身体を奪ったアイツだけは」

 

「銃火器を使っての制圧は?お前の得意分野だろ?」

 

「無理。エヒトの糞がコウスケの守護を使って来たら打ち破れるとは思えない。そもそもの話、僕一度だってコウスケの守護を壊せたことないんだよ?」

 

「そうだったっけ?」

 

「そうだったよ?」

 

「お前ら…記憶がボロボロじゃねぇか」

 

 呆れた清水の声に肩をすくめる2人。壊れたか壊れていないかはさておき、ハジメにとってはエヒトを倒すというのが難しいというのは変わりなかった。身体能力が高く魔力は底なし、ついでに防御も備えているコウスケの体を持ったエヒトは実に厄介だった。

 

「コウスケお前はどうなんだ。その体でもなんとか出来ないのか?」

 

「あー何だろう。コンプレックスが無くなったからかな。どうにも力加減が難しいんだ。例えるなら…扇風機を使おうとして竜巻を出してしまうような?」

 

「災害レベルかよ…」

 

「そもそもの話、どうにかしてコウスケの身体を取り返さないといけないんだし…そこから考えないといけないんだよね」

 

「うーん コウスケ原作ってのはどうなっていた?」

 

「記憶にございません!」

 

「駄目だこりゃ」

 

 そこからは夜になっても話は続いた。コウスケと清水が案を出し、ハジメができるかどうかを模索し結果没になる。この繰り返しだった。

 

「うーん、ううむ…言いたくは無かったんだけど一応、俺の身体からエヒトを出すってのなら案はある事にはあるんだが」

 

「取りあえず言ってみてよ。出来るかどうかはちゃんと考えるからさ」

 

「でもこれ、南雲の負担が多すぎるんだよなぁ…失敗したら廃人どころか体が崩壊しかねないし、そもそも必要があるのかどうか」

 

「何その滅茶苦茶な奴!?」

 

「あんまり聞きたくはないんだけど…どんな案?」

 

 非常に言い辛そうに話すコウスケの案。それは浪漫であり面白そうだと清水は思いハジメはなるほどと納得はした。ハジメはしばし考え込む。そして顔を上げた。とても微妙な表情だった。

 

「うーん発想は悪くないと思うけど…」

 

「でも浪漫はあるな」

 

「だよねぇ。…その案を後々煮詰めて見ようか。上手く行けば僕の負担も減るかもだし?…しかしコウスケのその体じゃないとできなかった奴かぁ」

 

「何とかなるとは思うんだけど何せ人生初めての事だしなぁ、お手数をお掛けします。んで、その後どうするんだ?」

 

「後って言うと…体を取り戻した後か。どうなると思う南雲」

 

 清水に問われたハジメは眉間にしわが出てきてしまった。作戦が上手く行きエヒトからコウスケの身体を取り返した後、その後が非常に問題だった。

なにせコウスケの考えた作戦だと自身とコウスケ双方非常に弱っている状況になってしまうのだ。

 

「多分僕とコウスケ双方ボロボロになってるよね。そこで体を失ったエヒトが何をするのかが問題だけど」

 

「セオリーに言えば暴走ってのが頭に浮かぶよな。又は激怒して滅茶苦茶をしでかすか」

 

「体を亡くし魂だけになった阿保のエヒト君。まぁ世界を巻き込んで自爆やら世界滅亡やらするんじゃない?」

 

「うわぁはた迷惑な奴」

 

 体を取り戻した後、どうしても体力の消耗が激しいとなると考えると、その時点で詰まってしまう。神水や回復のアーティファクトを使っても果たして間に合うかどうか。そこからさらに話し合いが進む。

 

「駄目だ。思いつかん、もっと真面目に漫画やゲームをしておけばよかった」

 

「そこは普通勉強して置けばっていう話じゃないの清水?」

 

「あ~もうめんどくさっ!ゲームしてぇ、ラーメン喰いてぇ。…パソコンしてぇ」

 

「何だかんだで現代日本の文明は僕たちにとって必要不可欠なんだよねぇ」

 

 出る案を出しつくし、どんどん愚痴や雑談に花を咲かすようになってきた。時間を無駄に消費しているという自覚があるが段々面倒になってきたのだ。

 

「そもそも、なんで僕がエヒトを倒すことに前提何だろう。余計なこと言わなければよかった。こっちには武器を作るっていう仕事があるのにー」

 

「あ~確か騎士団や兵士たちの武器とだっけ?」

 

「もっと単純に言えば全世界の戦える人達の武器づくり。ほんっと出来るにはできるけどさー僕に頼りすぎなんだよーもー」

 

「主人公のチート無双はっじまるよ~…銃火器大量生産っていう世界観の崩壊だけどなぁ!」

 

「はいはい、無能な錬成師は武器を作ってそのまま人任せにしたいですー」

 

 お菓子をポリポリとかじりながらついにだらけ切ってしまったハジメ。と言っても清水もコウスケも似たようなものだが。そんな折にリビングルームに誰かが入ってきた。

 

「マスター、魔力補給の時間です」

 

「お、ノイン。もうそんな時間なのか」

 

 ソファーでだらけ切ったコウスケのもとにノインがやってきたのだ。流石に部屋がゴミで散らばってるところに女の子が来るのはどうかと考えたのかハジメと清水がいそいそと部屋を掃除する。

 

「ノイン今悪いけど掃除中で」

 

「構いませんよ。私の席はここにありますので」

 

 そう言うとソファーで座っていたコウスケにヒョイっと飛び込んで来たのだ。慌てて抱きとめるコウスケに気にした風でもなくコウスケの心臓に耳を当てる様にしてそのまま眠るように落ち着いてしまった。

 

(なんか子猫みたい…じゃなくて)

 

「ノインさんや、何をしておるのかね?」

 

「気にしないでください。私の事は空気だと思っていてくれればいいです」

 

 離れるつもりが微塵もないのか微動だにしない。そのまま呼吸をするようにコウスケの魔力を吸い上げていく。淡く光るコウスケの身体が少しづつノインに吸収されていくのが傍から見ていてもわかるほどだった。それでも問題なさそうな顔をするコウスケの魔力量はどんだけ果てしないのか。横目でチラリと伺うハジメと清水だった。

 

(…後で白崎さんに…やめとこう)

 

(…事案だ)

 

 それはそれとしてとハジメと清水の生暖かい視線を受けるコウスケ。一応仕方のない事だと目線で反撃するがあまりにも説得力ゼロだった。

 

「あーーーで、どうするのよ?」

 

 胸の中に幼い美少女を抱きながらエヒト対策の続きを話す魂魄体のコウスケ。場所が場所ならお化け屋敷か又は警察に御用となる場面だが取りあえずハジメも清水も気にしないで置くことにした。

 

「…何の話でしょうか?」

 

「ん?エヒトから俺の身体を奪え返した後、どう対処しようかなって。多分だけどその頃には俺も南雲も結構マズくなってると思うんだ」

 

「……そうですか」

 

 魔力を吸い上げたのか今にも眠りそうな声をだし目をうつらうつらと舟をこぎだすノイン。いよいよもって小動物染みてきたノインに何とも言えない溜息を吐くコウスケ。懐かれているのではないかと考えてはいたがまるで親に甘える子供の様だと感じてしまうのだ。

 

「…どうしようね。そもそもエヒトを倒すって言っても僕、アレとそんなに因縁が無いからさ、どうしてもぞんざいになるていうか…」

 

「…道端の石ころですか?」

 

「そうだね。日本に帰るのを邪魔する只の石。それだけの価値しかないと思うんだエヒトって」

 

「お前寄ってたかってラスボスを石ころ扱いかよ」

 

「そうは言ってもさ清水。主人公と因縁の薄いボスってしゃしゃり出てきても『何コイツ』で終わらない?」

 

「あーー確かに、FF9やドラクエ5を思い出す」

 

 ()()()()()。なるほど確かにハジメとエヒトではあまりにも関係性が無いのだ。異世界に呼び出した元凶ではある。だがしかしあくまで元凶ではあってもそれだけでしかないのだ。地球を侵略すると言われても平和な現代人にとってはピンと来ない。

 

 それほどまでにエヒトと南雲ハジメとの接点は薄すぎたのだ。たとえ倒さなければいけない敵だと分かってはいても敵愾心をあおるには希薄すぎたのだ。 

 

「むしろ帰ってからのテストとかが僕にとっては心配かな」

 

「…思い出させないでくれよ南雲。どうしようオレ、テストの成績滅茶苦茶悪いだってよ」

 

 ついに日本へ帰ってからのことまで心配しだす現役高校生達。なんだかなーと思いつつもコウスケとっても咎める事は難しい。コウスケ自身もまた解放者たちの仇であり、異世界に連れてこられた元凶であり、物語の敵と言っても過言では無いのだが、滅茶苦茶憎いかと言われればそうでもなく、むしろ()()()と言う感情が強かった。    

 

(どーしたもんかね?やる気っていうか…対抗するための感情が薄いな)

 

 敵ではあるが、宿敵ではない。それがエヒトに対するハジメ達の認識であり現状だった。だから対策が浮かんでこない。改めて現状のまずさを思い知るのだが妙案が浮かんでこない。そこへ胸元で穏やかな寝息を立てていたノインがのそりと起き上がった。

 

「ん…だったら別方面で考えればいいんですよ」

 

「ノイン?」

 

「あんまり口出しをするは好きではありませんが、仕方ありません。ふわぁ…南雲様、貴方はどうしてエヒトを倒そうとするのですか?」

 

「それは、僕が何とかしないと」

 

()()()()()()()? それとマスター、貴方の得意なことは何ですか?」

 

「俺の得意な事?…誰かを守る事!肉壁ですな!」

 

「それは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。そして清水様、確か貴方はマスターたちのこれまでの旅路を聞いてきたんですよね」

 

「ああ、白崎やティオさん。ユエさんにシアさんにも聞いてきた。後はこいつ等だけ」

 

「なら、この二人の話を聞いて下さい。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 そこまで言い切ると名残惜しそうにコウスケの体から離れるノイン。目をこするとふらふらと出口まで歩く。部屋を出る前に振り向き最後の言葉を言った。

 

「皆さん()()()()()()()()()()()()()。ゲームや漫画のやり過ぎです。もっと頭を柔らかくして考えてください。もっと別の方面から考えてください。マスター、貴方は物語の最後までやってきました。するべき事をし、やるべき事をしました。後はもう何をやっても咎められることは無いんですよ?」

 

 そう言い放つとコウスケに向かって先に寝るとだけ言いリビングルームから出てしまった。後に残されたのは男三人。眉根を寄せて考えるがノインが何を言いたいのかわからなかった。

 

「…柔らかくして?別の方面?ノインは一体何を言って」

 

「うーん。取りあえず、僕達の旅路を想い返しながら整理して行こう。そこにきっとノインが言いたいことがあるはず。清水、確か皆から話は聞いたんだよね」

 

「ああ勿論だ。後はお前らから話を聞こうとは思っていた。…何でばれたんだろうな?」

 

 そうして始まるハジメ達の旅路。奈落から始まったそれは一つ一つ苦労と苦難と驚きと喜びと楽しさが詰め合わさった、一つの物語だった。

 

 

 

 

 

 

 そうして…深夜の時間を超え明け方に近くなりそうなとき、三人はある一つの妙案を思いついた。ついてしまった。

 

「…言い出しっぺがこういうのもなんだけどさ、できんのコレ?」

 

 最初に思いついた清水が不安そうに眉根を寄せる。ハジメ達の旅路を客観的に聞いたので思いついてしまったのだ。だがその計画と作戦はあまりにもふわふわとしていた。不安で思わず呟けばハジメができると答えた。

 

「なるほど頭を柔らかくするってこういう事だったんだね。出来るよ。最もこの作戦の肝はコウスケに掛かってるけど」

 

 改めて自分たちが生み出した事の滅茶苦茶さにハジメは出来ると踏んだ。想い返せばつくづくハジメが薄っすらと思っていたことや今からしなければいけない作業と似たようなことを実行するだけだった。

 最も出来るかどうかはすべてコウスケに掛かってはいるのだが、ハジメは出来ると確信した、何故なら隣にいるコウスケは調子のいいときは何時だってやり遂げてしまう男だというのをハジメは知ってるからだ。

 

「…勇者って奴がこんな事をしても許されるんかねぇ?神罰が下りそうだ」

 

「その神に『心罰』を下すんだろ。異論は誰も出さないさ。寧ろ皆賛同するんじゃない?」

 

「フッ言えてる。そうだな俺が出来ると思わなきゃな。正義は我らにありだ」

 

「その言葉、その顔で言われると結構腹が立つ」

 

「全くだ!」

 

 明朗に笑うコウスケはこの作戦で自身が最も肝になる事を分かっていた。正直な話不安はありどうなるか予想はつかない。しかしながらこの作戦を面白いと考えてしまう事をやめる事は出来なかったのだ。

 

「そろそろ夜も明ける。ひと眠りしたら準備を始めるか!」

 

「僕達の旅のフィナーレを飾る大切な準備って奴だね」

 

「もう一度確認するぞ、南雲はこれから武器の製造と諸々のアーティファクトの準備、そしてオレとコウスケは…」

 

()()()()()()。全ての町、全ての迷宮。ありとあらゆる場所へ!」

 

 

 三人顔を見回し手を出す。上手く行くかどうかなんてやって見なくては分からない。しかし出来ると踏んでノリに乗れば案外何とかなるのだ。

 

 

 

「それじゃあの自称神様に自分が何をしてきたのか思い知らせてやろうじゃないか!」

 

 

 

 組み合わせた手をあげ三人はとっておきの秘密の作戦を開始するのだった。

 

 

 




最終決戦に向けてのフラグの回でしたっと。

準備編はもうちょっと続きます。おかげでアニメまでは間に合いませんね!

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