準備編は思ったよりも長くなりそうです。
いろいろ詰め込みたいというのもあるからですが…
それを壊さなかったのは偏にその場所が思い出の場所だからだった。
コウスケに言われて自身が封印されていた場所にたどり着いたユエは、ディンリードが残した映像記録用のアーティファクトを見つけたのだ。
シュネーのペンダントが無ければ手に入らない様に隠されていたピンボールのような形をした鉱石。手に取ってコウスケが言っていたことが本当だと理解したユエは見る訳でもなく只々ぼんやりと立ち尽くしていた
「ユエ?見つかったの?」
どれぐらいの時間そうしていたのか、後ろから声を掛けたのはハジメが作るアーティファクトの材料を探しに行った香織だった。難なく鉱石を確保した香織は帰りにユエと合流しに来たのだ。
「…ん」
「それがユエの叔父さんが残した物なんだね。見ないの?」
「………ん」
香織に言われ、少し迷ったが、結局見る事にしたユエ。何だかんだで叔父がどう思っていたのか知りたかったのは事実なのだ。
そして、映像が流れ…ユエは思わずその形見を壊しそうになった。
「香織、これを持っていて」
隣で叔父の遺言を聞いていた香織にアーティファクトを無理矢理押し付ける。戸惑ったような香織にも構わずユエは部屋を飛び出した。背後で何やら香織が言ってるが構わず駆け出し…迷宮にいる魔物たちに八つ当たりを開始した。
壊さなかったのはそこで大切な恩人たちに出会ったからだ。外の世界に連れ出し色んな所へ巡りユエの世界を広げてくれ、何より大切な親友と出会わせてくれた恩人たちとの出会いの場所だっただからだ。…少なくともユエはそう思い込むことにした
散々暴れ回ったせいで魔力が切れてしまい、着いてきた香織に運ばれ自室に寝かされたユエは深い眠りに落ちた。
『アレーティア…すまない』
誰かの声が聞こえる。とても懐かしく温かい声だった。だがユエは目を覚まさそうとしない。
『すまなかった。私は…お前の事を守りたかったのだ』
だったらどうして?ユエの中で疑問が膨れ上がる。そして同時に途方もない怒りもまた起き上がる。イライラが収まらない。
『……愛しているよ』
その声に一切の欺瞞のないのがまたユエの怒りを増幅させた。
「…ユエさん。起きてください」
肩をゆすられてユエは目が覚めた。もやがかかったような頭で起き上がり方をゆすっていた人物に目向ける。そこにいたのはシアだった。未だ眠気の残る顔をシアの蒼の目に優し気に見つめられていてほんの少しユエは気恥ずかしくなった。
「…朝?」
「です。さぁ顔を洗ってください。朝食はもうできていますよ」
ニコニコとした笑顔で促されユエは寝床からもぞもぞと這い出てくるのであった。
身支度を整え朝食を食べ終え、とりあえず一息つけるユエ。その間もシアはずっとユエの傍にいて微笑んでいた。しかし他の皆の姿はなく首をかしげるユエ。いつもなら眠たげなコウスケとかが居る筈なのに誰も居ないのが妙に寂しかった。
「ハジメ達は?」
「ハジメさんは香織さんと一緒にアーティファクト作り、コウスケさんと清水さんは一緒にどこかへ行きました。ノインさんはほかの場所に用があるのか同じく出かけました。ティオさんはしばらくしたら帰るだろうとの事です」
「ん」
他の仲間たちはエヒト対策の為に色々作業をしているようだ。そんな中自分だけが何もしていないのが申し訳なってくる。だが、今は何かをする気分でもなく出来る気分でもなかった。
「…シア」
「はい」
「相談したいことがある」
「私でよければ喜んで」
だから今ユエは目の前の親友に今の自分の素直な心情を話すことにした。どうしても叔父に対して怒りが収まらないのだと。イラつきが止まらないのだと。
話を聞いたシアはほんの少し眉尻を下げた。香織からディンリードの宝玉を手渡された時にある程度の事のいきさつは聞いてはいたのだ。だからユエが悩み怒っているのが少し悲しかった。自分では慰めの言葉しか掛けられないことをシアはよく理解している。故に一つの提案をすることにした
「…なるほど、大体話は分かりました」
「私には叔父様が何を考えていたのかわからない…どうして私を…」
「確かに私にもわかりません。なら…そうですね。父親の気持ちと言う物を聞いてみませんか?」
「?」
「私の父であり一族の長。カム・ハウリアにですぅ」
シアが提案したことは、自分の父親であるカムにディンリードがどう考えていたのかを確認することだった。
「ほぅ…ユエ殿の叔父上の気持ちですか」
ゲートキーを使いすぐにハウリア族の居場所についたユエとシア。ハウリア族はフェアベルゲン中の最高戦力となっているため他の部族たちに檄を入れるや戦争の準備など様々な事をしている最中だった。
カムはユエとシアの訪問を快く受け入れ、人払いをした後、改めて三人で顔を見合わせているのだった。
ディンリードの残した遺言や状況。そしてユエの渦巻く心中を聞きふむと一言。そしておもむろに口を開けた。
「ユエ殿にとっては不服かもしれませんが私はディンリード殿の行動は分からなくもありませんな」
「…どうして?」
「実の娘の様に思っている姪の事を考えれば、よからぬ輩に奪われたくない、傷つけられたくないと思うからですよ」
「それは、ユエさんの気持ちを踏みにじってでも行う事なんでしょうか?」
氷雪洞窟を突破し尚且つオルクス迷宮五十層に行くまでの力を持つ者なければユエを助けることが出来ず、さらにどんな人物が来るのかさえ分からないある種の掛け。そして何よりユエの叔父の信じる心を滅茶苦茶にしてでも行う事なのだろうか。シアの疑問はもっともでもありユエも気になっていたところだ。
「…恨まれ憎まれるのをすべて覚悟の上で苦渋の判断したのでしょうなディンリード殿は。もし私も同じような立場になったとしても同じ事をします」
「…父様。本気で言ってるんですか?」
「本気だとも。私の全てである可愛い愛娘をふざけた輩に断じて渡すものか」
父親の巌とした発言に言われて愛されて嬉しい思うべきか侮るなと怒るべきか困ってしまうシア。そんなシアに少しだけ微笑むと改めてカムはユエに顔を向けた。
「エヒトは恐ろしい敵です、どんなにユエ殿やディンリード殿が強くても絶対に敵わない。それを知ったからこそ苦悩したのでしょう。真実をユエ殿に告げ敵わなくても対策をとるか、それとも自身が罪を背負い苦肉の策で娘を守るか」
「私は…それでも話してほしかった」
「ええ、勿論そうしたかったのでしょう。しかし時間が無く誰が敵かもわからない状況で追い詰められ直ぐにでも判断を下さなければいけない状況だった時に彼が考えたことはまずユエ殿の命を守り通す。父親としての愛情が何よりも優先されたのです。…貴方の意思に反してでも」
カムはそう告げると目を閉じた。ディンリードという人物がどんな人間かは想像でしかない。しかし本当にユエを愛していたのだろうと推測する。
目の前で悩み遠い記憶の底にある叔父との思い出を探ろうとするユエの姿を見るとそう思うのだ。
もしこれが本当に憎んであるのなら過去の人間としてさっさと忘れて、忘却の彼方にしてしまったはずだ。死んだ人間を想い何を考え行動したのか探ろうとするユエは本当は…
「さて、私はこれで失礼いたします。アルフレッドの奴と共に人間族との共闘は嫌だと駄々をこねる畜生共に教育をしなければいけませんのでな」
ニヒルな笑みを向け爽やかに去っていくカム。発音が若干不穏だがしなければいけないことは多数あるのだろう。
残されたユエとシア。周りは人払いがしてあるので静かなだった。そんな中ユエが決心した様に顔を上げる。
「シア」
「はい」
「一緒に、叔父様の遺言を聞いてくれる?」
「ええ、勿論ですぅ」
人が来ない再生された大樹の根元にて少女たちは身を寄せ合い、アーティファクトに残された一人の父親の顔をした男の映像を見ていた。
それは、深い深い愛と、慈しみ、そして途轍もない覚悟と懺悔に満ちたもの。そして、聞く者の魂をどうしようもなく震えさせるほど、温かく優しい、切なる願いだった。
『アレーティア。君に真実を話すべきか否か、あの日の直前まで迷っていた』
「話してほしかった、たとえそれがどんなに無謀な事でも伝えてほしかった」
『だが、奴等を確実に欺く為にも話すべきではないと判断した。私を憎めば、それが生きる活力にもなるのではとも思ったのだ』
「…恨みはすぐに消えた、私には疑問しか残らなかった。どうして、と」
叔父の残した言葉に合わせるように一つ一つ言葉を紡ぐユエ。左手はぎゅっとシアの右手を握っていた。シアもまた握り返す隣の親友が最後まで言葉を告げれる様に。
『それでも、君を傷つけたことに変わりはない。今更、許してくれなどとは言わない。ただ、どうかこれだけは信じて欲しい。知っておいて欲しい』
「私を想ってそこまで考えてくれていた貴方と同じように私は…」
『愛している。アレーティア。君を心から愛している。ただの一度とて、煩わしく思ったことなどない。――娘のように思っていたんだ』
「――――父親の様に思っていました。貴方の事を…お父様と想っていたのです」
ユエの双眸から雫が頬を伝い流れ落ちていく。それを拭う事もなく目の前の親愛の家族に手を伸ばす。
『守ってやれなくて済まなかった。未来の誰かに託すことしか出来なくて済まなかった。情けない父親役で済まなかった』
「気付けなくてごめんなさい。頼りになれなくてごめんなさい。察しの悪い娘で…ごめんなさい」
涙で叔父の顔がぼやける。それでも必死でユエは最愛の家族の顔をみる。同じように映像のはずのディンリードの目尻にも光るものが溢れる。だが、彼は決して、それを流そうとはしなかった。グッと堪えながら、愛娘へ一心に言葉を紡ぐ。
『そろそろ、時間だ。もっと色々、話したいことも、伝えたいこともあるのだが……私の生成魔法では、これくらいのアーティファクトしか作れない』
「もっともっと貴方と話をしたかった。我儘を言いたかった。お父様と呼びたかった、でももう、それもできない」
記録できる限界が迫っているようで苦笑いするディンリードに、ユエが泣きながら苦笑いをした。その表情はとてもそっくりで本当の親子の様だった
『もう、私は君の傍にいられないが、たとえこの命が尽きようとも祈り続けよう。アレーティア。最愛の娘よ。君の頭上に、無限の幸福が降り注がんことを。陽の光よりも温かく、月の光よりも優しい、そんな道を歩めますように』
「もう、伝えることができないけど、祈り続けます。ディンリード叔父様。最愛の叔父様。貴方が安らかな眠りに付けるように、静謐と安寧の休息が訪れますように」
伝えるべきことを伝えたと満足そうに微笑んだディンリードの姿が虚空に溶けていく。それはまるで、彼の魂が召されていくかのようで……
『……さようなら、アレーティア。君を取り巻く世界の全てが、幸せでありますように』
「――さようなら叔父様。未来は私が守ります。だからどうか安らかに眠っていてください」
深い森の中に一つの嗚咽が木霊する。背中をさすりながら涙を流す親友をシアは慈愛の眼差しで見つめていた。
「シアっ…私…ずっと叔父様の事気づいて上げれなかったっ!ずっと誤解していた!」
「はい」
「でもどうして伝えてくれなかったの!叔父様となら一緒に戦う気だったっ!たとえそれがどんなに絶望的だったとしても!…私は一緒に居たかった」
「ええ、だって家族ですもんね」
「だから…怒った。私の力を信じてくれていなかったんだって。子供だと思われていたって。でも、それは」
「ユエさんの身を案じてくれていたんですね。この世界で誰よりも」
「…うん」
嗚咽をこぼし涙を流し続けたユエはそっと顔を上げた。その顔は決意に満ちていた。
「シア、私は叔父様の願いを守りたい」
「それは、仇を取りたいという事ですか」
「それもある。けど叔父様が私の未来を願ったのなら私は私の世界を守る」
「そうですね。エヒトが居たのならユエさんの未来は危ぶまれていますからね。守りましょう世界を」
世界を守ると宣言した少女達の笑みは満開の花が咲いたかのように綺麗に咲きほこっていたのだった。
取りあえずこれで1人目終了。色々ツッコミを入れたかったのは内緒。
後残るは…3,4人ぐらいですか。
多っ!?書きたい事と書ける事が隔離しているって辛いですね…