ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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決戦準備

 

 

 

「おーい南雲~お客さんだってよー」

 

「んー?」

 

 それはハジメが工場で作業をしていた時だった。香織の再生魔法によって時間の流れがゆっくりになる空間を作ってもらいアーティファクトの大量生産のめどがある程度つき始めたときに清水がハジメに客が来ていることを伝えに来たのだ。

 

「誰ー?」

 

「聞いて驚け!何と来たのはな!」

 

 妙にテンションが高いのは清水とコウスケの担当している仕事が順調だからか、そんな事を考えたのもつかの間清水の後ろから現れた人物にハジメは久方ぶりに驚くのだった

 

「貴方は…」

 

「久しぶりだな。坊主」

 

 ハジメに会いにわざわざやってきたのはハイリヒ王国騎士団団長メルド・ロギンスだったのだ。

 

 

 

 

 

 

 取りあえず作業を人型ゴーレムに完全委託し客間にメルドを招き入れる事にしたハジメ。周囲を見回していたメルドだったが大人しく差し出された椅子に座る。

 

 

「すまんな、忙しい所に急に押しかけてしまって」

 

「大丈夫ですよ。こっちもある程度のメドはついたので」

 

 元々ゴーレムに全ての作業を任せる気だったのだ。後ハジメのするべき事は時たま作業のチェックをするぐらいだった。ティーポットに入れたお茶をメルドに渡し自分の分もまた用意する。何となくだがメルドの思いつめた気配と覚悟を感じ取るハジメ

 

「凄いなここは…ダンジョンの最深奥にある住居とは。しかも利便性が良い。解放者と言う者たちはどえらい奴らだったんだな」

 

「おかげで僕達の拠点となっています。それで、要件とは?」

 

「それなんだが…」 

 

 ハジメの言葉を聞いた瞬間すぐさまメルドは地面に頭を打ち付けながら土下座をしたのだ。そしてはっきりとこの場所に来た目的とハジメにしかできない要件を告げた

 

「恥を忍んで頼みがある!俺達騎士団に専用のアーティファクトを作ってくれないだろうか!」

 

 騎士団にアーティファクトを作ってほしい、それが団長自らがハジメに会いに来た理由だったのだ。眉を顰めるハジメだったが取りあえずメルドに椅子に座ってもらうように話すがメルドはその姿勢から動かなかった。

 

「う~ん。ちゃんと戦う人たちのアーティファクトは作りますし、別にこれ以上の物はいらないんじゃ無いですか?」

 

 ハジメとしては手を抜く気など微塵も考えておらず、大量に作った量産品でどうにかしてもらうつもりだった。だがメルドは首を横に振る。

 

「確かに、他の奴らはそれでいいかもしれん。だが俺たちは…ハイリヒ騎士団だけはそういう訳にはいかんのだ。だから頼む!他の奴らとは違う専用の物を作ってはくれないだろうか!?」

 

「…どうしてそこまで拘るんですか?理由を話さなければ僕としても作れませんよ」

 

 頑なまでに理由を離そうとしないメルドに呆れが混ざった詰問の声が出てくる。そこまでしてようやくメルドは顔を上げた。その顔は強い苦渋と後悔の色が出ていた。

 

 

 

 

 

 

 

「……何も出来ていないんだ」

 

 椅子に座り直し、握り込んだ自身の手を見ながらメルドは強い疲労と後悔の声を出す。それはまるで腹に溜まった澱みを吐き出すかのようだった。

 

「お前たちが召喚されてから騎士団は全く持って戦果を挙げていない。…何も出来ていないんだ」

 

 メルドのその少ない言葉でハジメは大まかに理解してしまった。

 

(あー 最初は実地訓練失敗して戦死者二名?出すし、次はオルクスで魔人族と魔物に良い様にやられるて、王都防衛線では清水が居なければ全滅。ついでに僕達が助けに行かなかったら王都は壊滅していただろうし…そして)

 

「ランデル殿下とリリアーナ王女が誘拐された時俺は近くにいた。それなのにあの使徒に一太刀すら浴びせることもできず…まるで虫のような扱いだった」 

 

 守るべき人が攫われるのに力及ばず怪我負ったメルド。復興に向けて順調に進んできた時に出てきてしまった規格外の敵と自身の無力感。

 

「散々お前たちに助けてもらったのだ。これ以上は頼らず自分たちの力で成し遂げる。そう思ったのに…何もできなかったんだ」

 

「だから、力が欲しい…ですか」

 

「ああそうだ。これは俺達騎士団の総意だ。今までお前らに頼ってしまった、そして今もまた頼ろうとしている。…それでも力が必要なんだ。誰かを守るにはどうしてもお前の協力が必要不可欠なんだ!頼む!何でもいい!何だっていい!俺たちがあの使徒と真っ向から戦えるような物を作ってほしいんだ!」

 

(……無力感に苛まされ力を求める、か)

 

 メルドの慟哭のような叫びは昔ハジメが味わったものを思い起こさせるには十分なものだった。眉間の皺を解きほぐしながら深く息を吐く。

 

 改めてメルドと目線を合わせ、そしてニヤリと不敵に笑う。

 

「コウスケがアレをやってる以上、僕の担当は()()()()()だからね。分かりましたメルドさん。貴方のご希望の物、僕の全能力を使って作ることを約束します」

 

「本当か!?言った俺が言うのもなんだが、他の作業は」

 

「そっちの方は大丈夫です。ゴーレムに作らせるようにしますので。…しかしご要望とかあります?」

 

「それについてはお前に一任する。作る量は…」

 

「ふんふん成程です。ならメルドさんは特注品で、他の人達は量産品として…ふふ」

 

 作る量や誰が使うかなどをハジメと相談していくメルド。しかしメルドは何やら嫌な予感がした。ハジメの目が爛々と輝いていくのだ。

 それは子供が一番好きな玩具をもらった時と同じようで、又何か踏んではいけない地雷を踏みぬいたような、致命的に言葉の選び方を間違えたような

予感がしたのだ。

 

「ふふふふ…何でもかぁ、そっかそっか何でもねぇ。それじゃ騎士団は僕好みの改造をしようっと。ヒャアッ!インスピレーションが湧いてきたぞう!今なら何でもできそう!」

 

(ホセ…皆、すまん。俺はどうやら間違えたみたいだ…)

 

 誰かを守るには力が必要だ。その言葉に偽りは無かった。しかしこの日、メルドは自分の言葉の選び方を全力で後悔することになったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なー清水」

 

「あ?」

 

「なんか南雲が目がイってたんだけど知ってる?」

 

 黄昏模様の人の気配のない王宮の敷地内にある墓所の隅でコウスケは、清水にそんな事を聞いていた。休息のため一度オスカーの邸宅に帰ったのだが

その時ハイリヒ王国団長メルド・ロギンスが居たのだ。

 懐かしさと驚きで声を掛けようとしたのだが、其処でコウスケは見てしまったのだ。頭を抱え明らかに困惑しているメルドの傍で何やらニタニタと笑うハジメを見てしまったのだ。

 

「ありゃ絶対何かよからぬことを考えてますわー。怖くてメルドさんを置いてきちゃいましたわー」

 

「知らねぇけど、浪漫だって言ってたぞ?人型がどうたら、自分色に染め上げるとか」

 

「浪漫?アイツ何かしら自分の琴線触れると見境が無くなるからなー。後で俺も一枚かませてもらおうかな」

 

 呑気な会話をしながら、今後の方針と順番を話し合う。何だかんだで計画の三分の二までは終わっているのだ。

 

「今度は帝国方面か、その後は樹海へ…うーむ、結局俺達の旅路をぐるっと一回りしているようなもんか」

 

「それが一番わかりやすいからな。ともかく今日はここまでにしよう。結構精神的に疲れるからな」

 

「そうか?特に何とも思わなくなってきたんだけど」

 

「…そりゃヤベェって」

 

 コウスケの本当に気にした風でもない様子に少々げんなりする清水。肉体的にはともかく精神的にすり減りそうな作業だというのに問題なさそうなコウスケ。溜息と共にゲートキーを使って戻ろうとしたところで…手を止めた。

 

「コウスケ、お前に話したいことがあるんだ」

 

「???」

 

 コウスケが怪訝そうな顔をしたのに苦笑しながら清水は今ここで自分の秘密を話すことにしたのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペルソナ?シャドウ?…いやいやそれよりも俺が作ったてそれマジか?」

 

「マジだ。もっと正確に言うとオレはお前によって望まれた清水幸利ってのが正しいけどな」

 

 清水の話によるとウルの町で死にかけた時、あの時コウスケの魔力が入り込み人格が形成されたのだというのだ。確かにコウスケは清水の本心が知りたくて魔法を使った覚えがある。 

 

(あの時は洗脳だとか考えていたけど、元々持っていた魂魄魔法ならあり得るのか)

 

 自身が使う魂魄魔法ならあり得る事だった。今現在魂魄体と言う状況であり色々魂魄魔法でやらかしていることも納得できるものではある。

 

 

「出来た過程はどうだっていい。重要なのはオレもまた『清水幸利』だって事。オリジナルである『清水幸利』の可能性の一つでもあるんだ」

 

「…つまり俺が望んで作ったけどそれもまた清水ってことか。ならオリジナルは?一体どうしてるんだ?」

 

 コウスケの問いに清水は胸をトントンと叩きほんの少し悲しそうに笑いながら教えてくれた。

 

「今もまだオレの中で燻って眠っている。リアルな夢を見ているとでも言うのかもな。…まぁアイツはオレだ。その内嫌でも出てこざるをえないことになるさ」

 

 肩をすくめやれやれと笑う清水。相談するのでもなく知ってほしかったのだという彼は、先に戻っていると言ってゲートキーを使い帰ってしまった。

 

「望んだ…か。 そうだな、確かに俺は望んだよ清水。自身の罪を受け入れ贖罪の為に抗う清水幸利って奴を」

 

 清水幸利の人生はコウスケの過去ととてもよく似ていた。だから、コウスケは自身の過去が上手く行くように願ってしまったのだ。一皮むけ、人として大きく成長したという自分ではできなかったことを成し遂げてほしいと考えてしまったのだ。

 

「…俺の様になって(辛い人生を送って)ほしくないって考えてしまったのは失敗だったのかな?」

 

 ひとり呟き、コウスケはそのままゲートキーを使わず王城の方に歩いていく。あたりはすっかり暗くなり空に照らされた月が静かに輝いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 王城のテラスにてリリアーナは侍女を付けず一人月を眺めていた。雲一つない綺麗な夜空はいつかの祭りの日の夜を想い返す物だった。視線を下せば城下の町がみえ、今は少なくなった明かりがまだ人がいる事を知らせてくれる。

 

(あと少しでこの光景は壊れていくのですね。私たちが信仰していた神エヒトによって)

 

 攫われ、魔王城で見たコウスケの身体を乗っ取り現れた邪神エヒト。そこには神としての神々しさは微塵もなく只々玩具を壊そうとして嘲笑する気狂いがそこにいたのだ。

 

「人の身体を奪い現れ、人々の安寧を壊していく。…あれで神を名乗るとは」

 

 邪神エヒトの侵攻はもうすぐやってくる。その対策として事は急速に進んでいる。目の前の平原には王都の錬成師たちが総力を挙げ作り出した要塞ができており戦闘員たちはそこで対策と南雲ハジメから次々と送られるアーティファクトの使い方を学んでいる。

 

 各国々の重鎮達は集まってきており、物資の配送や分配、戦力の確認などを昼夜問わず行っている。決戦がもうすぐ始まる。その中で今一リリアーナは身が入らなかった。

 

(弟に任せてしまうとは、姉失格ですね)

 

 思わずため息が出てしまった。まだ十歳のはずのランデルは城内を走り回りできる事を探して必死だというのにその姉である自分はどうにも気合が入らなかったのだ。

 

 勿論原因は分かっていた 

 

(コウスケさん…ですよね)

 

 魔王城で見かけたときは何やら思い悩んでいたようだったが嬉しかったのと同時に何か嫌な予感がして危険だと伝えようとしたのだ。だが伝えることもできず状況は次々と変わっていき、エヒトが現れてしまったのだ。そしてエヒトがハジメの腹をぶち抜いて、エヒトが調子に乗ったと思えば体中の穴から血を噴出し、撤退していきそして何やかんやあって神の使徒と魔王が殲滅されコウスケは無事に戻ってきたのだった

 

「はぁ…せめて話をしたかったな」

 

「んー誰と?」

 

「コウスケさんですよ。現れたかと思えばエヒトに体を取られて死んでしまったのではと思ったらひょっこり現れて、酷く心配したのになんだか拍子抜けてしまって。何だかあの時の私って忘れられてるんじゃないのかなぁって」

 

「あ~ごめん。色々立て込んでいてな。話す時間も余裕もなかったのは俺の落ち度だったな。本当にごめん」

 

「別にそこまで謝らなくても……コウスケさん?」

 

「や、やっほー」

 

 横からの返事に答えていて、ふと懐かしさを感じ横を見ればそこにはうっすら透き通った魂だけのコウスケがそこにいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「居たのなら返事ぐらいしてもいいじゃないですか!?」

 

「ご、ごめんて!何か思い悩んでいたそうだし迂闊にビックリさせるのはどうかなって思ったんだよっ!?」

 

 突然のコウスケの訪問に驚くリリアーナ。どうしてコウスケと話すときは驚く事が多いような気がするのを感じながら大きく息を吐く。改めてコウスケを見るとその体は以前とは違って魂だけと形容すべき透明さと発光をしていたのだ。

 

「その体…大丈夫なのですか?」

 

 肉体が無くなり魂だけの状態。リリアーナの想像を超えるその体の容体を聞いたがコウスケはケロッとしていた。

 

「ん?大丈夫だよ。寧ろ軽くなった感じかな。ほらほら」

 

 笑いながら空中をふわふわ漂うコウスケ。その表情は肉体が取られたことに対する悲惨さが見受けられなかった

 

「大丈夫って…体を取られたんですよ!?」

 

「そんな大声出さなくても…本当に問題ないんだ。寧ろ体を亡くしたから滅茶苦茶なことが出来るっていうか…為るべくして為ったとでもいうべきか」

 

 ほんの少し暗く笑った顔がリリアーナの背筋をゾクリと振るわせる。何をしているのかは分からないが魂魄体と言う現状をコウスケは気に入ってるようだった。それがほんの少しだけ寂しさを感じさせた。まるで知っている人間が変わってしまったようで。

 

「…コウスケさん?」

 

「うぉ!?」

 

 恐る恐るコウスケの魂魄体に触れるリリアーナ。一瞬酷く寒気を感じたが驚いたコウスケが振り向いた瞬間その魂はひんやりとした温かいものになった。

 

「…意外と大胆ですね」

 

「心配させるようなことを言うからですよ! もぅ………」

 

「あのリリィさん?いつまで触っているのですか?」

 

「何と言うかコウスケさんの魂ってひんやりと仄かに暖かいんですね」

 

「なんだそりゃ?」

 

 何が気に入ったのか夢中でコウスケの魂魄体を触ってくるリリアーナ。とりあえずされるがままのコウスケだった。

 

 しばらくして満足したのか手を引っ込めるとマジマジと自身の手を見つめるリリアーナ。そこでようやく何故触っていたのかコウスケは理解することが出来たのだ。リリアーナの目の端にうっすらと光るものが溢れていた

 

「ちゃんと生きているんですね…魂だけになってしまったけど生きているんですねコウスケさんは…」

 

「…うん。ちょっと可笑しな状態だけど、俺は生きているんだ」

 

「…良かったぁ…本当にあの時死んでしまったと思ったんですよ…生きていて本当によかった…」

 

 涙をにじませながらクシャリと顔を歪ませたリリアーナにコウスケは非常にバツが悪そうな顔をするのだった。

 

 

 

 

 

 

 夜であり外という事なのでリリアーナに上着を渡し、月を眺めるコウスケ。世界はあともう少しで滅びるかもしれないと言うのに月はどこまでも淡く輝いていた。そんなコウスケの横にリリアーナがそっと近寄る。そして月を指さした。

 

「…見てくださいコウスケさん」

 

「ん?月か。綺麗だな。こんな時でも「ええ、死んでもいいわ」

 

 コウスケの言葉に被せる様にリリアーナが言葉を放ったのだ。途中で話を遮るというらしくない言い方と言った言葉の意味。両方に驚いてリリアーナを見れば悪戯が成功したような笑顔をしていた。

 

「リリィそれって」

 

「ウルの町で貴方が言ってたことです。あの時は意味が解らなかったのですが、香織に聞いて分かりました。貴方の故郷で想いを告げる言葉なのだと」

 

「香織ちゃん…余計な事を教えてくれちゃって」

 

 くすくす笑うリリアーナに顔を赤くしながらも今は親友と一緒に居る筈の香織にぼそりと不満を言うコウスケ。あの時は只の冗談で自分が居た言葉なのだが、リリアーナの方から意味を知って言ったとなると話が変わってくるのだ。

 

「コウスケさん、貴方の事が好きですよ」

 

 その言葉は愚かなほどに真っ直ぐだった。正真正銘のリリアーナの本音だった。魂だけとなり人の機微が何となく感じ取れる様になった今のコウスケにとってその言葉は何よりも心に突き刺さった。今すぐにでもこの娘を壊したいと思うほどの。

 

 だがその衝動を無理矢理抑え込む。それは決して汚してはいけない白百合の花。汚れた自分が触っていいものではなく、また理解できないものでもある。

 

「…前から疑問だったんだけど、いったい何時から俺の事が好きになったんだ?」

 

 何処が良いのかは前聞いたが何時から好意を持ったのかは聞いてはいなかった。出来る限りざわつく心を感じ取らせないように聞けばリリアーナは少しばかり考えて答えを出した。まだコウスケの動揺は伝わっていない

 

「そうですね。清水さんを助けようとしたあの時ですね」

 

「ウルの町で清水が瀕死になった時か。そうだったっけ」

 

「ええ、だってあの時コウスケさん泣いていたでしょう?」

 

「そう…だったかな。覚えていないや」

 

「泣いていましたよ。蒼く光る魔力を清水さんに注ぎながら、笑って悲しんで…泣いていました。あの姿に、誰かを想って泣くその涙を綺麗で美しいと感じて、そこからあなたの事を想うようになっていったのです。思えばもうあの時からあなたの虜になっていったんですね」

 

 恥ずかしそうに微笑みながら話すリリアーナを見ながらコウスケは思い返す。清水を助けようとしたときの事。

 

(あれは…あの時は俺は清水を助けようと考えていたけど、本当は俺の過去を変えようとして…どうなんだろ。どっちが本当なんだろ。助けようとしたのは俺か?それとも清水か。またはどちらもか?)

 

 先ほどの清水との会話。自身の過去とダブった清水を助ける自分は一体誰を助けようとしたかったのか。答えが出ない疑問をコウスケは無理矢理頭の奥に沈める事にした。どうせ考えても答えは出ない問題なのだ。

 

「…恥ずかしいところを見せたとしか思えないけどなぁ」

 

「私にとっては衝撃的でしたので、良いものを見させてもらいました」

 

「はぁ…本当に君って奴は。そろそろ寝ないと明日に響くぞ。ランデル君なんてもう寝てるだろ」

 

 話を終わらせようとするコウスケ。その意図が伝わったのかほんの少し頬を膨らせながらリリアーナも渋々納得する。

 

「ランデルは張り切っていますからね。またすぐ跳ね起きて城内を朝の早くから走り回りますね」

 

「そっか頑張ってんだな。ありゃ良い王様になるぞ」

 

「ええ、…本当にランデルは頑張っています。あの姿をお父様に見せたかったですね」

 

 寂しそうに笑うリリアーナにコウスケは頬を掻き遠くを見つめる。その目は此処ではないどこかを見ているようにリリアーナは感じた。

 

「知ってるよ。ハイリヒ国王は自分の息子が頑張っていることを知ってるさ」

 

「そう…ですね。お父様あれで結構心配性な所がありますから、たまに様子を見に来ているかもしれませんね」

 

「だろうね。そしてもちろん君の事も心配しているだろうさ。最愛の愛娘が倒れていないかって、自分の最後の言葉で傷ついていないかってずっと気にしていると思うよ」

 

 何故だか神妙に頷くコウスケ。その姿になにか違和感を感じたが恐らくコウスケなりの励ましなのだろうと思う事にした。  

 

「あの時のお父様はエヒトのせいでおかしくなっていたのです。ちゃんと私は分かっています。整理はついています。…最後に何を考えていたのまでかは知りませんが」

 

「そりゃ愛してるって」

 

「愛してっ!?…ああ、お父様でしたか」

 

 コウスケの行き成りの発言に多少は驚くも話の前後からして父親の事だなと察したリリアーナ。コウスケ自身は一向に目をつぶってうんうん頷いている。

 

「父親である以上愛娘の事は誰よりも気に掛けるのさ。だから死んだとき後悔して嘆いて、君達子供の事を愛してるって幸せになってほしいって願いながら……っとすまん。また踏み込み過ぎたな」

 

「いえ、大丈夫です。嘘でも慰めでも話してくれて有難うございますコウスケさん」

 

「嘘じゃ…まぁいいか。今日は話せてよかったよリリィ。それじゃお休み」

 

「はい、おやすみなさい。今日は楽しかったです。またこうやって話をしましょうね」 

 

 

 リリアーナの言葉にコウスケは手を振るとそのまま消えていった。話しに聞く空間魔法を使ったのだろう。

 

 エヒト降臨の日は近くで決戦はもうすぐ。それでもリリアーナは上機嫌に自身の部屋に帰っていくのだった。

 

 

 

 

 

 コウスケは話さなかった。自身がもうすぐこの世界から居られなくなることを自身に恋心を持つリリアーナに話さなかったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マスター面白いものがありましたよ」

 

 そう言って対エヒト用の訓練を終えてハジメとコウスケが休息していたリビングルームにやってきたのは何やら私用があるとの事で数日間出かけていたノインだった。

 

「面白い物?ってかノイン何処に行ってたんだ?」

 

 コウスケの対面のソファーに座り返事をせずにある物をコウスケに手渡す。手渡された物は長めの紙であり誰かに向けた物であろうと推測された。

 

「マスター貴方宛てです。撒いた種がついに開花しましたね」

 

「種?それに手紙って…」

 

 手渡された手紙を開け中にある文章を少し読み、驚きと困惑で顔を上げるコウスケ。隣にいたハジメが首をかしげて内容を聞き出した。

 

「誰からの手紙?」

 

「フリードからだ」

 

「はぁ!?」

 

 フリード・バグアー 魔人族の最高司令官であり魔王亡き今は魔人族の頂点にいるであろう男。そのフリードからコウスケ宛の手紙をノインは見つけて来たというのだ。コウスケが読んでいる手紙をハジメが横から覗き込んだ内容は以下の通りだった。

 

『勇者へ 

 

 貴様がこれを読んでいるとき私は、エヒトの傍にいるのだろう。もしくは死んだ時か。まぁどっちだっていい。重要なのは貴様に頼みがあるという事だ』 

 

 書かれていたことは、フリードが少数の魔人族を匿っているので、助けてほしいという事だった。匿われている魔人族たちは人間たちとの戦争に否定する者や穏健派など敵意を持ち合わせていない者に子供や老人、女性たちなど戦闘能力が低い者達ばかりなのだという

 

『アイツ等には事の次第を説明してある。信仰していた神が我らを玩具の様に弄んでいるとな。……私自身いまだに信じられないというのが本音でもありどこか納得もしているというのが現状だ。だがこのままでは我ら魔人族が全滅の危機に陥るかもしれない。だからお前達の力で保護を頼みたい。…厚かましいが私を正気にさせてしまったのだ、出来んとは言わせんぞ』

 

「…偉そうな奴」

 

「元々そんな感じの奴だったじゃないか。それよりさっさとその人達をどうにかしないと」

 

「その穏健派?の人たちの保護は私がやっておきましたので問題ありませんよ」

 

「仕事早っ!?」

 

 ノイン曰く手紙を見つけた時点でさっさと魔人族たちを捜索して魔人領のはずれにある集落へと送ったらしい。一応ノインの背格好や顔つきは神の使徒達と似通っているので誘導や説得などは簡単だったらしい。

 

「あの場所なら当分の間は人間族と交流することもないでしょうし、魔人族は細々と生き続ける事になりますね。ティオ様達竜人族の方々と同じように絶滅したとでも噂されるんじゃないでしょうか」

 

「ふーん ん?って事はノインお前魔王城に行ってたのか。どうして行ってたんだ?俺にも一言いえばよかったのに」

 

「…マスターはいろいろ忙しいでしょうし。私事なので…手を煩わせるわけにはいきませんよ」

 

 どうにも歯切れが悪そうなノイン。普段とは違いいつもの感情を感じさせない声音もどこか乱れているように感じ取れた。今は触れないでおくことにしたコウスケは手紙の続きを読むことにした。

 

『…本来ならお前たちの手を借りるつもりは無かった。私自身の手で同胞たちを守りたかった。だが無理だ。魔王アルヴ、神の使徒、そして狂信者イシュタル。奴らを欺く事は出来ない精々尤もらしい詭弁を言い弱き者達を非難させるのが私にできる限界だ。私の部下達や…友は、もう助けられない」

 

 悔やんでいるのだろうか字面が乱れている。それでも筆は続いている。

 

『私はエヒトに従う事にした。…狂い改造されてしまった部下たちを見捨てることが私には出来ないのだ…たとえそれが意味のない事だとしても私はアイツらと共に行くことにする、最期まで肩を並べる事にしたのだ。…正直な話お前の話を聞くべきでは無かった。何も理解できず分からず考えず神を謙虚に信仰する哀れな木偶になりたかった。…私は…』

 

 そこで文章が途切れてしまった。他にも字が書かれていることもない。何とも言えない空気になる中ハジメが口を開く

 

「で、コイツどうすんの?」

 

「どうするって…」

 

「正直な話僕はフリードが死のうが生きようがどうだっていいんだ。君はどうするんだいコウスケ」

 

「…俺は」

 

「その話、妾に詳しく聞かせてはくれぬか?」

 

 悩むコウスケに声を掛けられる、その声の主はティオだった。故郷への里帰りは済ませたらしく、ティオが言うにはいつでも里の人たちはこちらに来れるのだというのだ。

 

「長達は前日にやってくる予定じゃ、それでその手紙は魔人族のあ奴からの手紙か、妾にも読ませてくれるかの」

 

「いいけど、見たところで面白くはないよ」

 

 手紙を受け取り内容を改めるティオ。読むにつれ何かを思案し始めるように眉根が寄せられる。そして手紙をコウスケに渡して一言。

 

「フリード・バクアーと言ったな。あ奴は妾に任せてほしいのじゃ」

 

「ティオが?別にいいけど…どったの?」

 

「ちと顔を合わせて見たくなっての」

 

 何やら思うところがあったのかティオはフリードとの相手をするのだという。コウスケとしてもエヒトとの戦いと計画があるので余計なことに思考を割らずに住むので了承することになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でフリードはティオが担当することになりました」

 

「そうでしたか。よかったですね。面倒なことをせずに済んで」

 

 自室へと戻ったノインへと連絡するコウスケ。実は先ほど話をしている途中から居なくなってしまったのだ。気になるところがあったためノインの自室へ入ったコウスケ。

 

 返答を返してはいるが話を聞いているわけではなさそうなその表情にコウスケは先ほど聞いてみたかった事を聞く事にした

 

「ノイン、何で魔王城へ行ったんだ?何か手伝えるのなら」

 

「…はぁ マスターにはあまり関係のない事だとは思うのですが『私が何者か』を探していたのですよ」

 

 魔王城には神の眷属アルヴが居たので神の使徒について何かしらの資料があると踏んでの捜索だったのだ。だが見つかったのは手紙だけで神の使徒に対する資料は無かったのだ。

 

「以前マスターや南雲様に私は神の使徒の失敗作だと伝えました。ですがあれから時間がたって思うようになったのです。『本当に私は神の使徒の失敗作だったのだろうか』と。魔王城でほかの使徒達に出会っても私の事を知ってる様子はありませんでした。それはアルヴヘイトやエヒトルジェも同様です」

 

 ノインの真っ直ぐな視線がコウスケに向けられる。その目には感情が込められているようで何も期待していないのが伝わってくる

 

「『ノイント』だった時の事はどうだっていいんです。ですが今ここにいる私がどうやってこの世界に生を受けたのかが知りたかったんです。…結局わかりませんでしたが」

 

「……そうだな確かに俺も気にはなっていたんだ。果たして神の使徒とやらに失敗作なんてものがあるのかって、たった一人だけ変わった奴が出てくるのかって。でもさ」

 

 確かにコウスケにもなぜノイントだけがほかの使徒とは違うのか理由は分からない。何かしらおかしなことがあったりするのかも知れにないがこれだけはどうしても伝えたかった。

 

「お前はノインだ。俺の従者で可愛い顔して皮肉を吐きまくるクールな女の子。それでいいじゃないか」

 

「駄目です、根本的な解決になっていませんねそれ。オマケに最もなことを言ってますがテンプレ過ぎる言い方です。それで納得できるはずありませんよ」

 

「うぐっ」

 

 バッサリとコウスケの言い方を切り捨てるノインだが、その口元は少しだけ口角が上がっていた。結局のところはそういう事なのだ。ただ自身の過去が不可解なだけで今が変わる事では無かったのだ。

 

「うぅぅ、テンプレって言われた…カッコつけたらバッサリ言われてしまった…」

 

「…まぁそれで良しとしますか。()()()()()()

 

 がっくりと肩を落とすコウスケを見ながらノインは少しだけ微笑むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コウスケ何をしているの?」

 

「んーーちょいとな」

 

 決戦の重要な場所となる要塞の周りをうろつくのは魂魄体となったコウスケとその傍で歩くユエだった。要塞は赤レンガを基調としたデザインとなっており堅牢さと強固さを目的とされた作りとなっていた。土術師の天職、野村健太郎と王都の錬成師たちが死に物狂い健闘した結果なのだろう。

 

 その要塞を中心として八つの角となる場所へ小さな魔法陣を刻み込み、さらに要塞の周囲を回りながら見えない魔法の線を引いていく。丁度円の中心と八角形の中心が要塞の中央で屋上付近に集まるように。ユエがその魔力を見て何かに気付いたようだった。

 

「…再生魔法?それに重力魔法も…?」

 

「お、当たり。あの要塞に香織ちゃんが残る手はずになっててさ。それで一仕事お願いしようかと思ってるんだ」

 

 香織はエヒト戦へと連れて行けないことはハジメとは相談して決めたことだった。戦闘能力や役割など連れて行けない理由はあったが彼女にはやってほしい事があったのだ。

 

「…香織は納得したの?」

 

「現在南雲が説得中~ 納得してくれるかどうかは彼氏であるアイツが上手くやってくれるでしょう」

 

 ほのぼのと会話しながらも作業に手を抜く事なく進めていく。実行者は香織だがもろもろの準備はコウスケが担当しなければならない。皮肉にも今は魂だけの状態であると認識しているからかどんなに魔力を使っても問題なくむしろ好調だった

 

「…恋人になれて香織嬉しそうだった」

 

「長年?の恋が実ったからなー もっとイチャつけば良いと思うよ!ただし俺の居る前でヤルのは止めて欲しいけどなぁ!」

 

「コウスケは?リリィとイチャイチャしないの?」

 

「んーおっさんだからちょっと勇気がいるかなぁ。俺も高校生ぐらいだったらそりゃもう、ウヘヘヘな事をしたいんだけどなぁ」

 

 コウスケの笑い顔にユエはジッと視線を向ける。明らかに何かを隠している。又は誤魔化し自身に嘘をついているそんな悲しい顔だった。

 

「…コウスケ」

 

「ん?」

 

「恋する乙女を舐めないで」

 

「??? 了解?」

 

 何かを決心したようなユエに首を傾げなら頷くコウスケだった。

  

 

 

 

 

 

 

 清水の特訓があるというユエに別れを告げ一人コウスケは上空から要塞と平原、そして集まっている無数の人だかりを見る。騎士たちが集まり何かを話している。帝国の鎧を着た集団がうろついている。様々な格好の冒険者たちが独自のグループを作っている。そこに亜人族や竜人族も加わっていくのだろう。

 

 その光景を眺めながらこれから自分のする事、仕出かすことの重大さを再確認するコウスケ。

 

(…俺は悪くないって言うのは簡単だけど、実際これでいいのかねぇ?)

 

 メンバーの中で最も治癒能力と再生魔法に長けた香織を巻き込んでの計画の一部。それをするには建前はどんなに正しくても本質がどうにもコウスケの心に引っ掛かりを感じてしまうのだ。

 

(ふーむ…ん?あそこにいるのは)

 

 悩みながら空を漂っていると数多くいる冒険者の中でとても懐かしい気配を感じたコウスケ。目を凝らし会いたかった人物を発見するとコウスケはゆっくりと近づいていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 邪神エヒトに対抗するためとして収集されたウィル・クデタは集まった冒険者の中で一人考え事をしていた。

 

(この世界を玩具にする神…ですか。なら私たちこの世界に生きるすべての命はずっと気まぐれで生かされていたという事ですか…)

 

 戦う敵の事を深く考えすぎていたためか、集団から離れてしまった。独りになってしまったが元々ソロで冒険者をしていたので特に不便は無かった。少しばかり寂しさを感じてはいるのだが

   

(私も、そろそろ誰かと組んで冒険をするべきですかね)

 

 ウィルにとって冒険とは詰まる所自身の好奇心や冒険心を満たすものだった。だから功績がほしいわけで無く実益がほしいわけでもない。

 それについて行ける人がいるのかがウィルとっての問題であり、断固として譲るわけにはいかないラインだった。現状そんな奇特な人が居ないのが今ウィルが1人でいる理由でもあるのだが

 

「おーい ウィルー」

 

 そんな考え事としていた時ふいに上空からとても懐かしい声を掛けられた。見上げればそこにいたのはコウスケだった、にこやかな笑顔であいさつするその顔は前であった時と変わっていなかった。ただし体は妙に透けており空に浮かんでいるという事実を無視すればだったが… 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな事があったんですか…」

 

「ほんともう大変だったよー つっても体を取られたところで何も問題ないってのが皮肉なんだけどな!HAHAHA!!」

 

 事情を聴きケラケラと笑うコウスケを見るウィル。悲観さは見受けられないが異常な事態になっていると思うのだ。

 

「それでも大変なことに変わりはないでしょう?」

 

「…まぁね。それよりウィルも戦うのか?危ねぇぞ?他の奴らに任せてもいいんだぞ?」

 

 コウスケの見た限りではいくら才能があっても今のウィルでは使徒と戦うにはきついと感じたのだ。そしてそれはウィル自身が一番よく理解していた。確かに冒険者を始めてから異様な速度でランクを上げたがまだまだ新米冒険者であることに変わりなく経験不足なのは否めなかった。

 

 だがコウスケの心配をウィルは柔和な笑みで返した

 

「確かに危険です。でもだからと言って他の人に任せる訳にはいきませんよ」

 

「…どうして?死ぬかもしれないんだよ」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()。邪神エヒトは私たちの世界を脅かそうとしている、なら私たちが戦わないといけません。生きて明日を行くために自らの手で運命を切り開けなければ…」

 

 自身が弱くてもそれでもできる事があるはずだとウィルは考えていた。それは自分のため家族のため色々理由はあるが何よりこの世界トータスで生きる人間だからこそ目の前の脅威に怯える訳にはいかないし他人任せにもできなかった。

 

 ウィルのその言葉で何か思う事があったのかコウスケは少しだけ神妙に考え黙った後、宝物庫からある物を取り出してきた。それは肉厚の片刃の剣でありいつの日かウィルが見たコウスケの武器だった。

 

「ウィル。俺の武器『風伯』これを受け取ってほしい」

 

「…どうしたんですか。それは貴方にとって大切な物なのでは」

 

「色々と考えててな。お前の言葉で吹っ切れた、だから俺がこれを振るう資格は無くなった」

 

 手元にある風伯の刃をなぞりしばし望郷の念を見せるコウスケ。今までの旅路で使っていた愛用品を手渡すという事は何より辛かった。だがこれもまた一つの終わりであり始まりだった。

 

「今までずっとコイツと一緒だった。手放したくなんてないってのが本音だが、お前になら託すことが出来る」

 

「託すって…まるでこれから先死ぬような言い方じゃないですか。縁起でもないから止めて下さい」

 

「ごめんごめん、何にせよ俺が振るう必要は無くなったんだ。後で南雲の手でウィルが使いやすいように調整を頼んで置くから…受け取ってくれないだろうか。俺の『風伯()』を」

 

 笑ってはいるがその目はいつになく真剣だった。決意と悲しさが混じり合った目を見てウィルはこれがコウスケとの最後の会話になると直感で感じ取った。

 

「分かりました。貴方の思い受け取らせていただきます」

 

 差し出された風伯を受け取り改めてその武器の異質さを感じつウィル。刃も持ち手も何もかもが普通の武器であるはずなのに妙に手に馴染んでいく。気のせいか涼やかな風が流れるのを体が感じ取った。

 

「うん、結構様になっているんじゃないか」

 

「まだまだですよ。でも、いつかこの風伯に釣り合った冒険者になって見せます」

 

「その時を楽しみにしている」

 

 差し出された手を握り固い握手をする。その手の干渉を感じながら異世界との友人と交流を生涯忘れない様にと固く誓うウィルだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




決戦前の準備終了です。
次回からようやく本編を進めることが出来ます

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