ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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咆哮と決意

 

 

 

ハジメが各それぞれの国や町の代表と話をしている中コウスケは要塞の屋上に取り付けられた壇上の整備を行っていた。此処がこの戦場にとっての大事な要となるので念入りにチェックを行っていたのだ。

 

「魔法範囲…良し、識別反応…良し、魔力収縮率…OK、懸念事項のバックアップ…これも問題なし!」

 

 自分が施した魔法陣のチェックを終えたコウスケ。目論見通りならこれで決戦の場が整ったのでうんと伸びをして体のコリをほぐす。最も魂魄体となっているので疲れとは無縁ではあるのだが何となくしておきたかったのだ。

 

 改めて自身が施した魔法陣を眺め口の端を吊り上げる。この魔法陣が何の意味をもたらすかはすぐに分かる事だがこの魔法陣の本当の意味を知る人間はいったいどれだけの数だろうかと考えるとどうしても嗤いたくなってしまうのだ。

 

「コウスケさん?こんな所にいたんだ」

 

「香織ちゃん?あれ南雲と一緒に居たはずじゃ」

 

 エヒトと遜色ない笑顔になっているコウスケに声をかけてきたのはこの現場での最重要人物である香織だった。確か先ほどまでハジメと一緒に居たはずだったのだがどうしてここに来たのだろうか。そんなコウスケの目線に気付いたのか少しだけ気恥しそうにする香織。

 

「皆と話しているハジメ君に見惚れそうになってきて…邪魔になると思ったからここに来たの」

 

「正式に恋人になったから堂々としていればいいのに」

 

「そういう訳にはいかないのっ」

 

 真剣な表情で話しているハジメの姿を想い返したのか頬を赤く染める香織に呆れと微笑ましさを混じらせた笑みを向けるコウスケ。決戦までもう少しだというのにハジメの事が優先されるのは果たして良い事なのだろうか。

 

「まぁいいや、それより最後の確認。悪いけど香織ちゃんはここに残って皆の無事を祈っててほしいんだ」

 

「それはハジメ君から聞いたけど…それだけでいいの?」

 

 香織がハジメから聞いたのは要塞の屋上にある祭壇でただひたすら祈り、治癒魔法を使い続けるだけだと言う物だった。

 治癒魔法、再生魔法に関しては確かに他の誰よりも負ける気はないという自負を持つ香織だったが果たしてそれだけでいいのかと言う疑問はあったのだ。

 

「それだけでいい、むしろ君にしかできない。もっと秘密にするつもりだったけど、説明するよ。この魔法陣と君の役割を」

 

 そしてコウスケは語った。計画の一部である香織がなすべき事とすべき事。それはとても単純な事だった。

 

「戦場にいる人たちの怪我を治す?…確かに大切なことだけど、どうしてここで?」

 

「この祭壇で治癒魔法…いいや再生魔法を使えば戦場全域に魔法が拡散することになってる。君の絶対的な治癒魔法がこの戦場全ての人間たちに降り注ぐんだ。無尽蔵で無遠慮で無慈悲なほどに、そうすれば戦死者ゼロになる」

 

 香織の治癒魔法は抜き出ているが一人一人を治癒していくのでは余りにも時間が無さ過ぎる。だったら広域に魔法を拡散すればいい、余りにも力づくのコウスケの考え方に一瞬呆気にとられた香織は疑問を口に出す

 

「えっと、その方法は分かったんだけど私そこまで魔力量豊富じゃないよ?すぐに力尽きるかも」

 

「それなら問題ない、魔力を豊富にため込んでおきながらいざって時に何もしない奴に働いてもらうし。おまけにちょうど良いのがあるから。つーか使う、使わせる。異論は絶対に認めない」

 

「奴…? 兎も角コウスケさんが手を抜くわけないから…大丈夫だよね」

 

「そうそう大丈夫さ ってもまぁ怪我を治すってのは建前なんだけどね。この祭壇と魔法陣は…はもっと別の意味と効果があるんだ」

 

「え?」

 

 香織の耳元で囁く。エヒトと戦う一連のこの戦いの本当の意味を香織に教えるのだ。それはハジメと清水と共謀した計画の本質。悪辣で非道でしかし世界で最も意義のある行動

 

「……そんな事」

 

「卑怯だって思う?それともエヒトと変わらないって思ってしまう?大丈夫きっとそれは正しい。でも決めたんだ、もう遠慮するのは止めようって。最期だから派手にやろうって。だからごめん、この計画に君も巻き込む事になった」

 

「…ううん、謝らないで。確かにどうかなって思うけどハジメ君や清水君、そしてコウスケさんが考えたことなら私も賛成するよ」

 

 勘の良い者には気付かれ悪評が出回るかもしれないが、香織にとってはもはやどうだっていい事だった。ハジメが居る。仲間がいる。だったらそれでいいのだ。それに結果的にエヒトに勝った後はこの世界とは別れる事になる。だから香織にとっては特に痛みは無いのだ。

 

「そっか。なら香織ちゃんこれをあげるよ」

 

 そう言ったコウスケの手のひらから蒼く仄かに光る拳大の光が浮かび上がってくる。その光の玉は差し出された香織の手の平に着地すると溶けるようにして香織の身体へと消えていった

 

「これ…技能?」

 

「俺が持ってた技能の一つ『誘光』。本来なら魔物をおびき寄せたり魔法を引き付けるためにあったんだけど、もっと別の使い方があるんだ」

 

「別の使い方?」

 

「『魔力を引き寄せる』これさえあればさっきの魔力の云々はほぼ解消される」

 

 コウスケが最初期に生み出した『誘光』この使い方を香織にレクチャーする。無くても問題は無かったがあった方がさらに効率が良く問題点が解消されるのだ。使い方を香織に教えるとすぐに香織はモノにしてしまった。やはり香織は誰かを治すことに一番長けている。苦笑いをするコウスケに香織が小さくつぶやく

 

「コウスケさん…ハジメ君の事よろしくお願いします」

 

「ああ、任せて。必ず無事に連れて帰ってくるよ」

 

 ハジメが会談をしている中、小さく二人は約束を交わすのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「竜人族が来たってのに挨拶無しってのはどうかと思うよ」

 

「今更新キャラが出てきてもな。物語が終わるって時に急に新キャラが出てきても困らないか?」

 

 広場にて竜人族の面々が出てきた中コウスケは姿を現さなかった。その事を咎めるもコウスケは耳を貸す気はない。ハジメが小さく溜息を吐くのは仕方が無かった。なにせ各国々の代表との顔合わせすらしなかったのだ。

 

「それは仕方ないかもしれないけどティオの故郷の人々だよ。挨拶の一つぐらい…それに他の人達にも」

 

「確かにティオには悪い事をしたかもな。後で謝っておこう。他の人達は…ランデルに宴の準備をしといてくれって頼めばよかったかな?」

 

「あ、それもう用意しているって。何処から聞いたのか知らないけど『勝利の美酒は上手い!』とか『同じ釜の飯を食えば溝は無くなる!』とか何とか」

 

「はっはは なんだそりゃ」

 

 戦いが終わった後の事を張り切っているだろうランデルを想像すると苦笑が漏れてしまった。どうやらランデルはこのトータス世界の命運をかけた戦いが勝利で終わると確信しているようだった。その信頼と自負はとても心地いい。

 

 しばらく二人して戦いの準備の確認をして、どちらともなく遠くを見つめていた。無言ではあったが気まずい空気ではなく 穏やかな雰囲気だった。

 

「…ついにここまで来たな」

 

 感傷を載せながらコウスケはポツリとつぶやいた。長かった旅は終わりへと向かい今最終局面へと移った。その声にまたハジメも答える。今までの旅、思い出を振り返りながら相槌を打った。

 

「うん、ようやく終わりが来た。このトータスでの最後のお仕事だね」

「正真正銘の大仕事だな。思えば短かったような、長かったような…どっちだろ?」  

「さて、どっちかな?どっちでもいいんじゃない?」

「言えてる」

 

 顔を見合わせケラケラと笑う。永い永い旅だった。奈落の底から始まった旅は終わりへと向かっていく。その証拠に宙が明るくなってきた。日の出が近づいてきたのだ。まもなくエヒトと人類との決戦が始まる。

 

「…南雲」

「なに?」

「ありがとう。お前が居てよかった」

「それなんかフラグ臭くない?」

「確かにそう思うけど言える時言っておこうと」

「はぁ それはこっちもだよ。ありがとうコウスケ。君のおかげでここまでこれた」

「…面と向かって真顔で言うなよ。照れる」

「なら変なこと言わないでよ」

 

 頬が赤いのは日の出のせいだ。両者そう思いながら真っ赤に燃える太陽を眺めた。もっと話がしたい、でもどうにも気恥ずかしい。そんな事を考えていたその瞬間、世界が赤黒く脈動した。

 

 

 

 決戦の始まりだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神山の上空に亀裂が走り空が割れ始める。破砕音と主に空に刻まれる罅が大きくなる中、いち早く我に返ったメルドが拡声型のアーティファクトを使い声を張り上げた。

 

「総員!戦闘態勢をとれ!」

 

 その声で我に返った兵士たちは役割をこなすべき動き出す。メルド率いる騎士団は事前に打ち合わせをしていたので直ぐにメルドを先頭として集合した。

 優秀で誰よりも信頼のおける部下であり戦友たちの顔を見渡すメルド。そして平原に響き渡るほどの大声を力のあらん限り腹の奥底から叫んだ

 

「お前ら!騎士としての誇りをもう一度思い出せ!」

「応!!」

「俺達は誰かを守るために騎士となった!だが今、何も成し遂げていない!それでいいのか!!!」

「否!!!」

「今までこの世界にまったく関係のない奴らに助けられてきた!それで良しとするのか!!」

「否!!否!!」

「だったら今ここで俺達の力を見せつけるぞ!!俺達こそが世界最強の騎士団だと!誇りある騎士だと!!」

「我らこそ本物の騎士なり!!」

 

 大地を震え揺るがすほどの咆哮を上げた騎士団は全員がハジメから手渡されたベルト型のアーティファクトに手を載せる。使い方は事前にメルドから行き渡っていた。

 

 ひときわ大きく装飾が施された剣をモチーフにしたバックルに手を翳し深く沈み込む様に息を整えるメルド。弱きものを守る、自分達こそが今度こそ守るのだと決意はっきりと、想いを強く強固に。祈りは決して無駄ではない 蓄えたその誇りを大きく叫び咆哮する!

 

「変……身!!!」

 

 バックルから風が吹き出し、光がメルドを包む。そして光が収まったときそこから出てきたのは白銀の全身甲冑の鎧を装着したメルド・ロギンスだった。背中から流れる群青のマントと鈍い輝きを放つ鎧が並大抵のアーティファクトでは無いことをうかがわせる。そしてその後ろではメルドの部下たちが声を揃え合わせ同じく魂を絞り出すかのように絶叫を上げた

 

「「「変身!!!」」」

 

 光を纏い現れたのは黒金の全身鎧に身を包み込んだ精鋭騎士団。ハジメが構想を練って作ったロマンあふれる煌く鎧のアーティファクト。その部下たちの声なき騎士の咆哮と願いを背中で感じ取ったメルドは虚空に手を伸ばす。

 

 そこから現れたのは大剣…を超えた漆黒の巨剣だった。大きさはメルドの身長を優に超えており剣の幅は肉厚を通り越して巨塊と化している。

 その見るものが圧倒してしまう巨剣をいとも簡単に軽く振り払いひび割れた空間に向ける。

 

「…構え」

 

 後ろの黒金の騎士団もメルドと同じようにそれぞれが最も得意とする武器を虚空から呼び出す。武器を手に取り無言で誰もがこれから現れる『敵』

に戦意を滾らせる。その熱気が感染していくのか周りで呆気に取られていた兵士たちもそれぞれが武器を構え目を血走らせ戦意を高めていく。

 

「行くぞ。今こそ我らの誇りを見せる時!」

 

 異様な姿の騎士たちは今度こそ世界を守るのだと敵を睨みつけた。

 

 

  

 

  

 

 

 

 

 

 

「ようやくだ…」

 

 静かな声だった。対して大きな声を出したわけでは無い。しかしその呟きは風に乗って亜人族全員の耳に届いた。

 

「不謹慎だが私はこの瞬間を誰よりも待っていた」

 

 静かに瞑目する男の名はカム・ハウリア。亜人族を纏め上げたその男はひび割れた空間を慈しむような目で見た。

 

「我ら亜人族が弱者ではないと見せつけるためではない。無論自身のためでは無い」

 

 打ち震えるような歓喜の声だった。激情を無理矢理にでも抑え込み今にも飛び出しそうな体を理性で押さえつけているその様子と声。異様な雰囲気のカムにしかし誰も声を掛けない。なぜなら亜人族たちはカムが何を言いたいの変わっていたからだ。

 

「ようやく我らの恩人に恩返しができる…これまで積み上げられてきた多大な恩をようやく返すことが出来るのだ」

 

 恩人であるハジメ達に恩を返す。それがカムやハウリア族の願いだった。しかしハジメ達は苦境に陥ることもなく困難に会う事もなく寧ろ自分達が何度も助けられたのだ。思い返せば出会いからして助けれ続けていたのだ。

 

「恩をを忘れのうのうと生きる事は我らにはできない。だから私は嬉しい。ハジメ殿たちの故郷を侵略しようとするやつらをぶちのめすことはすなわち彼らへの恩返しでもあるのだ」

 

 いっそ親愛の情すら見える視線で遠くのひび割れている空間を見て呟くカム。同じくハウリア族もそれぞれが思い思いに頷いた。皆思う事は一緒だった、

 そしてそれはほかの亜人族も同じ。奴隷から助けてくれ家族のもとへ貸してくれた多大な恩人であり、同じように連れ去られてしまった家族を引き合わせてくれた人でもある   

 

 

 目をつぶり深く呼吸をし、闘気を徐々に解放させていくカム。体中からあふれ出す力も戦うための揺るぎないない意思も彼らから授かった物。それを返す時が来たのだ。カムの呼吸と合わせ徐々に膨れ上がる闘気はほかの亜人族や人間たちにも視認できるほどに大きくなってきた。

 

「闘気…解放」

 

 その言葉と共に一気に膨れ上がった力はまるで天を衝くかの様に放たれ、戦場にいる人間たちの背筋をビリビリと痺れさせた。カム・ハウリアはここにいるのだと言わんばかりの闘気。それに合わせるように他のハウリア族も同じく一気に戦意を爆発させる。

 

「それでは諸君。行こうではないか」 

 

 静かに放たれた言葉とは裏腹にカム率いる亜人族たちは皆獰猛な笑みを浮かべていた。まるでこれから狩をおこうなのだと言わんばかりに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦意に吠える人類を一瞥するとハジメはすぐさま空間から次々と現れる使徒たちに先制攻撃を加えた。成層圏内からの爆撃に擬似太陽を模して造られたレーザー、そして太陽エネルギーを一纏にした超大型熱量爆弾。それらの先制攻撃で神山の地形が変わってしまったが気勢を制することは出来たのだ。

 

 いきなりの先制攻撃に絶叫に沸く兵士たちを尻目にハジメは香織と顔を合わせた。少しばかり手を貸したが後はこの世界の人間たちに任せるのだ。

後は自分たちがする役割をこなすだけ

 

「白崎さん。後の事はお願い」

 

「分かったよハジメ君、後は任せて。コウスケさんからちゃんと話は聞いたから」

 

 この戦場に残るのは香織とノインだけだった。後のメンバーはエヒトへの決戦に向かう事となっている。香織にすべき事を託したハジメは ほんの少しだけ名残惜しそうに目線を緩ませる。本当は離れるのが不安だとか危険はないのかと心配する部分もあるのだ。

 

 そんなハジメの気持ちを察したのか香織はふわりと笑うとグッとハジメの顔に近づいて――

 

「!?」

 

「ふふ、続きは帰ってからね」

 

 顔を赤くしながら香織は微笑みハジメは突然の唇を襲った湿った感触で一瞬だけ思考がストップしてしまった。ハジメと香織の周りでは仲間たちが

冷やかすような微笑ましい物を見るような視線を遠慮なくぶつけていた。ハッと我に返ったハジメは慌ててスカイボードを展開する。

 

「っ皆ほらさっさと行くよ!そんなニヤニヤしない!」

 

 顔を赤くして仲間たちに指示を出すハジメ。そんなハジメを微笑ましく想いながらコウスケはノインに目配せをする。ノインに残ってもらうように頼んだのはコウスケだ。どうしてもコウスケにとって心配な事があり頼みごとをしたのだ。

 

「ノイン」

「ええ、了解しました。…寵愛が過ぎるというのも考え物ですね」

「言ってろ。後それは誤解を招くから贔屓ってのが正しい」

 

 スカイボードに乗り全員が乗ったことを確認する。これから向かう場所は決戦の場であり旅の終着点でもある。しかし気負うことなくハジメとコウスケはただ一言

 

「それじゃ行ってくるよ」

「じゃ、また後で」

 

「いってらっしゃい」

「ご帰還お待ちしております」

 

 

 直後ハジメ達を載せたスカイボードは一気に神山上空の空間の裂け目へと飛んでいくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『聞け皆の物! これは我らこの世界に生きる者のための戦いである! 敵は我らを弄び嘲る邪神である、何も臆することは無い!正義は我らにあるのだ!』

 

「へぇランデルが指揮官やってんのか。中々すごいなアイツ」

 

 無線から流れるランデルの演説を聞いて感心するコウスケ。現場にはメルドはガハルドなど戦いになれたものが士気を高揚させるものなのだが意外にもランデル自身憶する事なく叫んでいたのだ。 

 

「細かいところはリリアーナ王女がサポートするけど安全な所で縮こまっていられないってさ」

 

『我らこそがこの世界を守る守護者なり!我らの手で自分たちの手で明日を切り開くのだ!気勢を上げろ!我らを侮る邪神に吠え面を掻かせてやれ!貴様が相手をするのは只の狩られるだけの獲物では無いという事をその性根に刻み、我ら人の強さを証明してやれ!』

 

「カッコいいな」

 

「ん、よく頑張ってる」

 

「コウスケ、ユエさん感心しているのは構わないんだけどアレ見ろよ」

 

 ランデルの鼓舞をコウスケとユエが感心している中若干顔をひきつらせた清水が完全に砕け散った空間を指さす。空間から依然として銀の雨の如く使徒がわらわらと振り落ち向かってきているのだ。同じ顔の人形が向かってくる、それは確かに顔が引きつるのも仕方なかった。

 

「ん。対策はあるんでしょコウスケ」

「お、バレテーラ」

「じゃあさっさとやってくれませんかねぇ?あの群れの中に飛び込むんだろオレ達」

「うじゃうじゃ気持ち悪いですぅ」

「ううむ、ハルツィナ樹海を思い出すのぅ」

「あーそれだ。マンホールの中のゴキブリがわらわらと飛び出してきたって感じ」

 

 あーだこーだと雑談しながら油断はせずとも緊張感のまるでないやり取り。それが心底可笑しくまた面白いと感じたコウスケはすっと立ち上がりみんなの前に一歩進みでる。

 

「所で南雲、清水。RPGでエンカウントを減少させる魔法とか道具って知ってるか?」

「トヘロスとか聖水、かな」

「後は忍び足とか隠れるとか」

「うむうむ模範的な回答ありがとう。今から俺がするのはそれと同じだ。最も――」

 

 言い終わると同時に前方に手を伸ばしまずは向かってくる銀の分解砲撃を無力化させるための『守護』を展開する。久しぶりに使う守るための光の蒼き盾は使徒の分解に瞬く間に弾き受け止める。

 

「―ちっとばかっし凶悪だけどなぁ!」

 

 開いた手のひらをぐっと握り込めると同時に目の前に無数にいた使徒たちがまるでこと切れたかのようにボトボトと落ちていく。その様子はさながら急に力尽きてしまったかのようだ。

 

「うわっ何アレ蚊トンボのように落ちていく!」

「ん。いったい何をやったのコウスケ?」

「うっはっはは!なーに簡単な事よ。ただ退けるだけじゃあ味気ねぇからな!経験値とHPとMPをごっそり頂いているだけよ!」

 

 コウスケがやったのは単純で悪辣極まりない事だった。向かってくる使徒たちの魔力を根こそぎ奪っているのだ。それはいつかのハルツィナ迷宮でゴキブリたちにやった時と同じで使徒の核となる魔力を食い漁っているのだ。

 

「えげつねぇ」

「規格外じゃ」

「論外という奴ですぅ」

「ん。有効利用?」

「悪食だなぁ」

「むっふっふっふ。使えるもんは何でも使うんでねぇ。そら!もうちょっとで着くぞ!」

 

 無傷であり消耗どころかむしろ魔力を奪い取るという容赦のない行動で使徒達がまともに足止めすら出来ない内に、ハジメ達はついにヘドロのようなドス黒い瘴気を吹き出す空間の裂け目に到達した。

 

「やっぱり開いてないか」

「かまへんかまへん!お次に取り出したるは、この剣でございます!銘は『次元刀』次元を切り裂く刀でございます」

 

 開いている片方の手に光を集め作り出したのはごく普通の長剣だった。だが込められた魔力の大きさは半端ではなく、光の輝きが目の前の瘴気と互角であった。

 

「それって」

「俺の好きなキャラの武器。折角ファンタジーに来たからな。ちょっとぐらいはイイだろ」

 

 おどけながらも次元刀を軽く一閃。たったそれだけの動作で強固だったはずの瘴気はビキビキと音を立て砕け散ってしまった。そして同じように次元刀も光となり霧散してしまった。光となった次元刀を名残惜しそうに見つめると開かれた空間へと目を向ける。

 

 神域の道が、開いたのだ。終わりの時はもうすぐ

 

 

 未だ力尽き落ちていく使徒を尻目にハジメ達は神域へと突入をしたのだった 

  

 

 

 

 

 

 

 


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