ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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遅くなりました
最初にグロシーン注意です
ではではどうぞ~


生者の足掻き

 

 

「何なんだよこりゃ…」

 

 ガハルドにとって戦いとはすなわち自身の強さを示す物であり絶対の価値観であった。勝った者が全て手に入れ、勝ちうるだけの実力を手にした者が世界の理、そういう考えが根付いていた。だからガハルドの治める帝国は実力主義が絶対視される国であり、自身もまたその考えこそが当たり前だった。

 

 そして戦いの拡大版となる戦争もまた強者だけが勝つそういう考えだった。自身には勝利しかないという自負と共に。

 

 

 その考えは神の使徒が襲い掛かってきて三十分もしないうちに崩れさせてしまった。勝利と敗北とかそういう話ではなかったのだ。

 

 

「ヒヒっ!イィイヒッヒヒイヒァァアアアアア!!」

 

 目の前で空から引きずり落とした使徒に対して馬乗りになり自身の拳が砕けるのも構わず何度も殴っているのは自身の手の者だった。本来なら諜報活動をしている者なのだが強者である以上戦場に駆り出されていたのだ。表情を消し事務的に行動するのが必須のはずが今は涎を飛ばしながら半狂乱で使徒を殴り殺している。

 

「死ね死ね死ね死死死死死死死死死死死死―――――――アアアァァァアアアアアア!!!!」

 

 下半身を吹き飛ばされているのに這いずり回り落ちてきた使徒の肉を素手で引きちぎっているのは自身の秘書だった。無論ガハルドのお付である以上戦闘能力はある。早々に渡されたライフル銃を捨て使徒に殴り掛かり大剣で両断されても構わず攻撃をやめなかった。その顔は白目をむき理性は無かった。

 

 数人の帝国兵が1人の使徒を地面に引き倒し群がるようにして殴打を繰り返す。死んでいるのか使徒は何も反撃を出さない。

 

 使徒達の魔法と両大剣によって帝国兵達がばらばらと肉片に変わる。即死を免れた者は体の一部が吹き飛び焼き焦がされ凍り付かされようが構わず前進を続け飛びかかっていく。その口からは獣のような唸り声をあげていた

 

「悪夢でも見てんのかよ…」

 

 思わず出てきてしまった言葉に返答をする者はいない。周りにいる誰しもが使徒に向かって狂笑をあげ飛びかかっていく。誰もが体から魔力を迸らせる。それは『限界突破』強者になった者だけが手にするその技能を誰もが使い自らの獣性を解放させていく。

 

 

 そして奇妙なことが起き始める。死んでいた者たちがムクリと体を起こすのだ。ふらふらと歩み続けるその体に光が補填される様に集まっていく。左腕を失ったものは左腕に光が集まり光が消えるとそこには傷一つない左腕が出来上がる。顔がない物は顔に、肉片となった者は肉片に光が集まる。そこで時が戻されるかの様に体が再生され息を吹き返していくのだ。

 

 

「アイツか…あの小娘がやったのか?」

 

 思い浮かぶのは決戦が始まる前に見た要塞の屋上に待機をしていた、黒髪の少女。想い返せばあの少女が祈りを始めてからナニカがおかしくなっていった。

 

(違う…あの小娘は囮だ。その背後にいるあの勇者か!)

 

 帝国で会った平凡な印象を受けた勇者。その男が絡んでいる筈。そこまでガハルドは思いついた。思いついたのまではよかったが次第に頭の中で次々とある衝動が湧き出始めてくる。そんなガハルドに冷たい無機質な声が聞こえてきた

 

「貴方がこの狂人共の長ですか」

 

「あぁん?」

 

 目の前の使徒が空からガハルドを見下ろしているのだ。気のせいか無表情なのに恐れを抱いているように見えた。その姿を見た瞬間視界の端が白くなってきていることを感じた。体中からブチブチと肉の裂ける音も一緒に

 

「何度息の根を止めても肉片に変えても歯向かってくる。屍人兵かと思い両断をしても治っていく。いったい何なのですか貴方達は」

 

 声を聴くたびに衝動が強くなる。頭が茹で上がり今にも熱で倒れそうだった。そのせいかユラリと体が揺れた。

 

「イレギュラーは貴方達に何を」

 

「戦場に出て来てゴチャゴチャうるせぇんだよ!この人形が!」

 

 勝手に声が出て勝手に体が動いていた。驚くほどスムーズに動いた体は只の拳打で使徒の顔を吹き飛ばしてしまった。

 

(あ~~滅茶苦茶気持ちいイイ)

 

 自身を見下していた相手を素手で打ち砕く感触が非常に気持ち良かったのだ。快感と言ってすら良かった。肉を殴る感触、骨を砕く衝撃、脳髄が腕に付着する全てが快感としてガハルドの全身を襲ったのだ。

 

(な~ルほどアイツら、こンナに気持ち良イ事をしてイタノカ…ナラ…俺モ…) 

 

 仲間達がしていることは気持ちが良いものだった。使徒を殺し暴力を思うがままに振るう。そう考えると自然と力が無限に湧き出していく。倒れ伏した使徒の身体が溶けるようにして地面に染み込んでいくを気にすることもなく次の獲物を求めてガハルドは駆け出していく

 

 

 そうして皇帝と呼ばれていた男は、他の帝国兵と同じように獣の声をあげながら狂気に飲み込まれていったのだった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぉぉおお!!」

 

 冒険者の男が使徒とつばぜり合いをしていた。アーティファクトの武器や防具を身に着け無理矢理『限界突破』を施された体で使徒と切り合っていたのだ。しかし相手は神の使徒多少は善戦するものの中々うまくはいかない

 

「ちくしょうっ!さっさと死にやがれこのアバズレが!」

 

「死ぬのは貴方の方です」

 

 歯ぎしりしながら力を籠め悪態をつくが状況が変わるわけではない。徐々に推されていくが、ほんの少し風が吹いたかと思えば使徒の身体が斜めから崩れ落ちていく。そのままどしゃりと崩れ落ちた先から見知った青年が駆けつけてきた

 

「大丈夫ですかガリティマさん!」

 

 新人冒険者達の中でも一番の新鋭であるウィル・クデタだった。僅か数か月で黒のランクまで到達してしまった成長著しい若者だった。ウィルの手には大ぶりの片刃の刃物が握られており刃を中心にして空気が渦巻いている。

 

「ウィル!?すまん助かった!」

 

「ここは私が引き受けます。ガリティマさんは他の人達をサポートして下さい」

 

「む、だがあの量をお前ひとりで…分かったここは任せた」

 

 未だ黒になっても新人であるウィルの言葉に一瞬口籠るも真摯なその目にガリティマは大人しくいう事を聞くことにした。確かに言われてみればほかの冒険者たちも苦戦しているようだった。後を頼むと一言つげ、その場から去ることにする。

 

(…この戦争が終わったら、俺の隊に誘ってみるか)

 

 精悍な顔つきの貴族の青年に興味を示しながら。

 

 

 

 

 

「切り刻め! 風刃!」

 

 見えぬ風の刃が空を駆けり使徒達の身体を切り飛ばしていく。その後方から現れる数十体の使徒。その数に全くひるまずウィルは風伯の刃に手を添える。巻き起こる風が暴風となって使徒たちを纏めて吹き飛ばす。

 

「巻き起これ! 飄風!」

 

 飛ばされた使徒は数度もがくが風に絡まれて身動きが取れなくなりその隙にほかの冒険者たちによって首を刎ねられていく。

 

(数が多い…少しでも数を減らさなくては!)

 

 コウスケから渡された風伯は驚くほど手に馴染んでいく。刃物としては丈夫であり使徒の大剣と打ちあっても刃こぼれ一つしなかった。施されている風の魔法は遠距離攻撃として使い勝手もよく絡めても使える万能武器だった。

 

 託された風伯をもって開戦からひたすら使徒を屠ってきたウィル。それでも一向に使徒の数は減らない。無尽蔵とでもいえるべき数の暴力によって人類を侵略してくるのだ。

 神を名乗る者の戦力は想像以上に豊富であり脅威だった。

 

「でも、誰も死んでいない。誰も倒れていない」

 

 そんな戦いでもウィルはどこか人類が負ける事は無いと思ってしまう。後方を見渡せば依然として冒険者の数は減らず兵士達は健在だった。誰もが使徒の攻撃を受けてしまう、それでも武器を振るうのだ。受けてしまった傷が回復していくのを気にせず。ただひたすらに目の前の敵を滅ぼさんと思わんばかりの攻撃をし続ける

 

「士気は減らず誰もが負けていない…異常なほどに」

 

 減らない敵は普通の人間にとって畏怖その物だ、それなのにいまだ人類の士気は衰えず逆に戦意が溢れているのだ。たとえどんなにベテランの冒険者でも怪我をすれば怯んでしまう。なのに怪我は綺麗に失くなっていき、また戦線に復帰をする。誰もが限界を突破し身体能力をあげさせ使徒に喰らいつく。

 

「コウスケさん、貴方の仕業ですね」

 

 普通じゃない人類の異常な力。思い浮かぶは異世界の友人だった。

 

 魂魄体となった彼がこの戦場となる場所で何をしていたのか、考えればたやすい事だった。彼は戦わせようとしているのだ、この世界の人間が自らの手で勝利を掴めるように。

 

 死なない様に治癒の効力を持った魔法陣を描いたのだろう、戦意が挫けない様に人々の心に折れぬ意思を植え付けるように細工を施したのだろう。出来上がったものが狂戦士の集団だがそれをウィルは思う事はある物の否定する気にはなれない。

 

(結果的に誰もが死なない。それはまるでおとぎ話の様で…っ!?)

 

「その首、頂きます」

 

 ほんの少し思考に耽った隙を見て使徒の大剣が襲ってくるのウィルは間一髪体を逸らすことで回避をする。だがその体制が整うわずかな隙が致命的だった。いくら身体能力や武器が素晴らしくてもウィルはまだまだ新人であることには変わらない。片手を地面に着き起き上がるころには使徒の大剣が自分に振り下ろされる。

 

(まだ、まだ私は死ぬわけにはっ!?)

  

 明らかなチェックメイトは使徒の胸から飛び出してきた槍によって妨害された。槍を引き抜かれ崩れ落ち行く使徒は足蹴にされる。

 

「まだ死んでいませんか?この世界でただ独りマスターの寵愛を受けた冒険者さん?」

 

「貴方は…」

 

 その場にいたのは銀髪の少女だった。使徒と同じ顔つきだが幼いためか印象が違いその目は無機質なのにどこか笑っているように見えた。使徒の身体から引き抜いた短槍をくるりと一回転すると無造作に投げつける。放たれた槍は勝手に飛んでいき隙を伺っていた使徒を串刺しにしていく。

 

「マスターから貴方の護衛を頼まれました。立てますか?」

 

「マスター?…いえ、平気です。ご助成感謝します」

 

 礼を言い立ち上がり、武器を構え直し魔力を注いで風を纏う。深呼吸を一回、それだけで先ほどの動揺は収まった。だが一連の行動で使徒に警戒されてしまったのか続々と数を増やし集結してくる。

 

「…すみませんがもう少しだけ手を貸してもらえませんか?少々厄介なことになりました」

 

「平気です。寧ろ望むところです。貴方がマスターから託された風伯をどこまで使いこなせるのか期待しています」

 

 護衛、託された。その言葉でこの少女が誰でどういう人物なのかを把握したウィル。背中合わせになり即席の連携をとる。

 

(…なんで寵愛?)

 

 一瞬変なことを考えながらも飛ばされてきた銀の羽を暴風を起こして弾き飛ばし大剣を潜り抜け使徒を袈裟切りに両断する。出来た隙は少女が短槍を振るい文字通り使徒を薙ぎ払っていく。

 使徒の魔法を風の防壁で防いでいる間に少女の槍が酷く歪な挙動を描いて次々と使徒の身体に風穴を開けていく

 

 

 今まで一人で戦い冒険してきたウィルにとっては背中に誰かが居るというのが酷く斬新な事だった。負担が減り、動きが楽になる。相手が自分より劣るものではないのがさらにウィルの動きをスムーズにさせていく。風伯を握る力が増していき、まだまだと気力が充実していく。

 

  

「そう言えば聞いていませんでしたね」

「いったい何をです?」

「貴方のお名前を伺っていませんでした。私の名はウィル・クデタ。まだまだ新米の冒険者です」

「これはどうもご丁寧に、私の名はノイン、とある人の侍従をしています」

 

 戦場に置いての無益と思える雑談、それをしてしまうほどにウィルはこの少女に全幅の信頼を置いていた。隣合い使徒を倒しながら話を続ける。それほどまでに一時的とはいえ相方と言う存在が頼もしかったのだ。

 

「とある人、コウスケさんですね」

「おや、よく分かりましたね」  

「貴方ほどの腕前の人の主なんて限られますから」

「それはそれは、随分と買ってくれますね」

 

 謙遜しながらも褒められたのが嬉しかったのかどうかは判断できなかったが中級魔法『砲皇』『緋槍』『凍雨』がまるで初級魔法のように矢継ぎ早にノインから連続で放たれる。魔法を直に喰らいバラバラに弾けていく使徒達。同じ顔の少女が同じ顔の使徒を倒していくのが一瞬だけホラーに見えたウィル。

 

「流石はイレギュラーの仲間達、ですがこの数を相手にまだ戦えますか」

 

 だがそれでもまだ使徒の数は減らない。周囲にいた使徒を倒しても新たに無尽蔵に現れるのだ。ざっと目の前に現れた数は五十以上。

 

「雨が降った後のタケノコみたいにニョキニョキと現れますね」

 

 そんな使徒の数を見ても鼻で笑うノイン。だからどうしたと言わんばかりにをくるりと短槍を一回転させる。ウィルもまたノインに続く、負ける気が無いとはっきりと声高く響かせる。

 

「幾らでも来るが良い邪神の使徒よ!我らはどれだけの数が相手になっても戦う!我らが挫けぬ限りお前たちに勝利は無い!」

 

 すらりと出てきた言葉は意外にも良く響いたようで後方からウィルの声に同意する幾多の咆哮が響き渡った。その戦意にイラつき始めたのか使徒が大剣を振りかざしウィルに襲い掛かってくる。全身全霊のスピードで突撃してきた使徒は大剣を振りかざして

 

「いかんのぅ…隙だらけじゃ」

 

 突如現れたうさ耳の生えた老人によってあっさりと地面へと叩きつけられてしまった。まるで力の無い手の動きだけで使徒が生み出した推進力を地面へと流した老人。ウィルを見ると孫を見るかのように穏やかに笑った。

 

「若造、良い啖呵じゃった」

「あ、えっと ありがとうございます?」

 

 いきなりの老人に狼狽してしまうウィル。見るからにひ弱そうな老人だったのだ。穏やかな陽光を浴びながら孫を慈しむ。そんな感傷を感じさせる笑みと雰囲気を持った老人が使徒の息の根を止めてしまったのだ。

 

 そしてウィルの狼狽は続く

 

「ふんぬらばぁあああああああああっ」

「ぬぅりやぁあああああああああああああっ」

 

 野太い雄たけびが響いた時、使徒たちはぬるりとあらわれた巨漢の集団によってそれぞれが技を掛けられ絶命していったのだ。ある者はサバ折をある者はパイルドライバーを仕掛けられ悉くがぐちゃぐちゃに砕けていく。

 

「ん~駄目ねぇ、人形じゃ滾らないわぁ~」

「もっと感情を見せてくれないとねぇ~」

「そんなのより~あの股間を熱くさせる声を出した殿方はどこ~」

 

 支給品の装備に身を固めつつもどこかに可愛らしいワンポイントアクセサリーをつけた巨漢の軍団がわらわらと集まってくる。クネクネとした動きをする巨漢のオネェの集団で急にカオスになり始めた戦場でウィルは傍らにいたはずのノインが自身の陰に隠れていることに気付いた。

 

(意外と、ああいう人たちが苦手なんですね)

 

 そんな現実逃避にも似た感想を覚えた時だった。 

 

「あ、見・つ・け・た❤」

 

 ほとんど同時にぎょろりと視線を向けられたウィル。舌なめずりをしながら妙に熱っぽく、ねっとりとした視線を受け後退しようとする足を何とか踏みとどめるウィル。一応いきなりとはいえ助けてもらった立場なので逃げるわけにはいかなかったのだ。

 

「あら素敵なオジサマ発見。うふふ、今晩どうかしら」

「馬鹿モン、儂ぁは婆さん一筋じゃ。他を当たっとくれ」

「あらぁん振られちゃった~ん。でも、一途な男って、ス・テ・キ」

 

 隣で聞こえる会話を耳に入れながら取りあえず、取りあえず今は使徒と戦うべきだと自身の尻を熱っぽく見ているオネェの集団へ話をしようとしたところで場の空気を打ち破る救世主が空から降ってきた。 

 

「熱き咆哮を聞き『金剛』のリキ ここに推参ッ!」

「同じく『不壊』イオ 到着ッ!」

 

 現れたのはうさ耳を付けた筋肉だった。一人の兎人族の若者は大事なところは大きな葉っぱで隠し傷だらけの盛り上がった筋肉を誇示するかの様にポージングをしている。もう一人のうさ耳の青年はやたらとアクロバティックに踊る様に着地をしてきた。もちろん上半身は裸で鍛えられた細身の体が異様に眩しく光っていた。

 

「むっ!? イオどうやら俺たちは遅れて到着してきたみたいだな」

「いるのは見目麗しい美女達しかいないとは…見せ場無しか!?」

「ぬぅ!?この溢れんばかりのピリオドを発散できんとは、不覚ッ!」

 

 驚きながらもなぜかオネェの集団に向かってポージングをしでかす兎人族の若者二人。ゴクリとオネェの集団から生唾を飲み込む音が聞こえ、隣の老人がやれやれと首を振る。そうこうして居る内に甲高い声が響いてきた。

 

「リキのアニィ!イオの兄貴!お願いだから服を着て!兎人族の恥になってることに気付いて! ってうわぁ!何このマッチョの集団!?」

 

 うさ耳をはやした美少年が筋肉二人に駆け寄ってくるが哀れなまじ顔が良い物だから少年もまたオネェの集団の標的に加わってしまう。場の状況が一気に可笑しくなったところで、老人が若者二人に近づき軽くチョップを繰り出す。

 

「この戯け共、アホな事を言うとらんで、さっさと害虫駆除に出るぞ」

「フフ、筋肉が滾って仕方ないな!」

「そちらのステキなレディたち?どうかこのイオとリキと共に踊っていただけませんか」

 

「むふっ いやぁんステキなお誘い方。熱くなっちゃう~」

「あの筋肉頬ずりしたい…はっ駄目よ今は大事な時。でも…味見だけなら」

「あの美少年可愛いわね、どうやって唾つけようかしら?」

「私はそっちの女の子が良いんだけど~ あぁん!殺気が心地ぃん!」

「ウィル・クデタね、名前は覚えたわ。後はチャンスを伺う・だ・け」

 

 ぞろぞろと好き勝手な言葉を繰りかしながら戦場へと舞い踊っていく巨漢のオネェ達、いつの間にか数は多くなっていき気のせいか百人は居そうである。オネェと兎人族の者達は一つの集団となって使徒を攻撃していく。

 

「なんとも濃い人たちですね… ノインさん?」

 

 取りあえず標的にはならなくなった所でホッと一息つけばノインは絶妙に微妙な表情を筋肉の集団に向けて浮かべていた。ウィルが尋ねるとハッとした顔になり、短槍を構えなおす。

 

「いえ、何でもありません。ちょっと人見知りをしただけです。それよりも使徒達を倒していきましょう。倒せば倒すほどこちらが有利になります」

 

「?それは一体どういう…」

 

 ノインの言葉が分からず、首を傾げたウィル、気になり何気なく辺りを見回してようやく気が付いた。先ほどまで自分たちが倒していた使徒が何一つ残されていないのだ。両断された遺体や肉片すら一つも残されておらず血痕の一滴もない。まるで地面に染み渡るようにして消えていたのだ。

 

「コレは一体?…もしかして」

 

「マスターや彼女は恐ろしい。エヒトはあの悪意に気付かず人形達も気づけないでしょう。…ま、気付いたところで遅いんですけどね」

 

 薄く嘲笑を浮かべながらノインは無尽蔵に湧く神の使徒達を嘲笑うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぜぇああああああ!!」

 

 気合の咆哮と共に巨剣を大きく薙ぎ払えば使徒は体を引きちぎりながらまとめて肉塊へと変わっていく。たった一人で三百から四百の使徒を叩き切ったが未だ使徒の数は健在だった。

 

(まだ、敵はいる。おれはまだ、戦える!)

 

 戦意をみなぎらせるのはハイリヒ王国騎士団団長メルド・ロギンスだった。白銀の甲冑を使徒の血で赤く汚しながら戦記の如く猛り突撃を繰り返す。

 

 メルドは早々にて指揮権をホセに頼んだのだ。自身の甲冑のアーティファクトはほかの騎士団たちのより高性能で足並みをそろえるのが難しかった。またメルドが使う巨剣は長さもあり誰かと一緒に戦うには余りにも不得意なものだった。

 

 ほぼ孤軍奮闘 それが現在のメルドの戦い方だった。だがそれもメルドの剣の技量とハジメ特性の鎧と剣によって難なく行動できている。

 

 

 オオオォォォオォオオオオオオ!!!!! 

 

 

 遠くから雄たけびが聞こえる。獣のような咆哮は帝国の人間たちが居たところだっただろうか。戦意と狂気によって出される声は戦場のものと分かっていても異質に感じる。明らかに何かからの影響を受けているのだ

 

「いやはや、人間と言う物は一皮めくれば獣になるのですな 団長殿?」

 

「…何が起きているのか知っての発言だとしたら強い皮肉だな 族長殿」

 

 素手で使徒の頭を砕きながら笑みを浮かべるのは、近ず離れずの距離で共闘している兎人族の長カム・ハウリアだった。メルドが1人になってからどうしてか、気付いたら近くで戦っているのだ。あるいは引き寄せられるかのように。

 

「何が起きているのか。無論、彼等は精神に影響を受けているのでしょう。目の前の敵を一人でも多く殺せと脳髄に叩き込まれているのでしょう。まるで誰かに操られているかのように」

 

 揶揄するような言い方に思わず小さな舌打ちをするメルド。その推測通りだったからだ。そんなメルドを気にせずカムは続ける。

 

「本来の目的なら、戦線離脱や士気が崩壊しない様に行われるはずだったのが…帝国の方々には刺激が強かったのでしょうな。彼等は己を律することが出来ずただがむしゃらに暴力を振るう畜生へとなり果ててしまっている」

 

 大当たり 小さな呟きは使徒を粉砕することで黙殺する。メルドはこの戦場で何が起きているのか知っているのだ

 

 メルドがハジメから聞かされたことは支給する騎士団のアーティファクトと自身が身に着ける甲冑の説明と戦場でコウスケが行う事だった。

 

 コウスケが戦場で施した魔法陣はハジメ曰く『士気が崩れない様に補強する』のと『怪我を治す』との事だったのだ。そしてその言葉通り兵士や冒険者、騎士団からは戦線逃亡をしたものは誰も居なく、弱音や泣き言をいうものは存在しなかった。

 

 誰かたった一人が弱音を吐いた瞬間それは周りの者に病気の様に伝染していくのだ。怖気づき恐慌に陥った者を止めるすべは難しく指揮官が有能でなければ戦線は崩壊する。その事をよく知っていたメルドはその申し出を了承した。何せ相手は邪神の使徒、一蹴されてしまった自分はその実力をよく把握しているし、何より数が無尽蔵なのだ。終わらない戦いに誰かが恐怖するのもあり得ない話ではない。

 

 そして怪我を治すというのもメルドからすれば有り難かった。人は多少の怪我でも手足を止めてしまう。負傷者が多くなり一々怪我を直す者が増えればそれだけ戦線が崩れてしまう。それにこの大きな戦いが終わった後のことも有るのだ。負傷者は少なければ少ないほどいいに決まってる。

 

 そうしてできたのが狂戦士が生み出される戦場だった。幸いにも騎士団からは狂気に飲まれた者は出てこず、兵士たちは雄たけびをあげながら戦っている程度だった。まだ、メルドの許容内だった。

 

「その点、帝国兵に比べ貴方方騎士団は優秀だ。実力は申し分なく何より誰かを守ろうとする気骨が良い」

 

「…アイツらと会ったのか?」

 

「うさ耳で会話を盗聴しています。各人するべき事がよく分かって守りが薄い所をカバーしています。長が優秀なのでしょうな」

 

 実際兜を通してメルドの騎士団は各自に散らばりそれぞれの場所をカバーしている。ほぼ誰にも聞かれない筈の会話を盗聴するうさ耳に戦慄しながらもどこか納得するメルド。彼等もまたハジメ達と同じように強いのだ。

 

「それより世辞はいらん。いったい何の目的が合って近づいてきた?」

 

「ふむ、分かっていることを聞くのはしっかりとした確証が欲しいからでしょうかな?まぁ かまいません。メルド・ロギンス 人間達の騎士団長よ、どうか我ら兎人族と盟を組んでくれますかな」

 

 チラリとカムを盗み見る。その目は嘘をついているわけでもなく、実に静かだった。頭の中で亜人族との盟を実行する事が何を意味するのかを整理する。

 友好的になるという事はつまり強力な戦力を確保できる、しかし亜人差別がいまだ根強い中同盟を組めば騎士団の立場がどうなるのか…一瞬で考え苦笑する。これは副長ホセが考えるべき事であり自分の分野ではない。

 

「戦場で政治を語る気はないんだがな」

 

「私もです。だからもっと簡単に考えてください。貴方方が気に入った、だから酒を酌み交わしたいのだと」

 

 そう言われてしまえばメルドは嫌とは言えない。腹の探り合いは何よりの苦手だし、何だかんだで隣で戦うこの兎人族の長を気に入ったというのもあるのだ。

 

「悪いが、俺は負け知らずでな。恥を掻いても知らんぞ?」

 

「ほほぅそれは楽しみです。我が部族が誇る秘蔵の一品を出しましょう」

 

 両者顔を見合わせニヤリと笑う、どうにも馬が合う者同士この戦いの後が楽しみになったのだ。

 

 そうして笑いあった瞬間、それはいきなり起こった。

 

「あ、ああ」

 

 それが誰の声なのか最初解らなかった。明らかな狼狽の声であり今まで聞いた中でそんな声を聞いたことが無かったのだ。両者で音がどこから聞こえるか確認して驚愕した。

 

「わ、私たちは間違えた、神は間違えた 呼ぶべきではなかった 戦うべきではなかった 間違えた失敗した触れるべきではなかった あの『人間』に」

 

 声の主は今まさに戦ってる使徒だったのだ。その表情は恐怖に満ちており、顔が真っ青に青ざめていた。明らかに怯え恐慌しているという事実は流石のメルドとカムでも驚くしかなかった。

 

 ガタガタと揺れ出し恐慌に陥った使徒たちは一目散に飛び出していく。逃亡を始めたのかと一瞬考えたもののそれは間違いだった。次元の裂け目と逃げるようにして集まった使徒達は揉みくちゃとなりながらも一斉に魔力を収束させていくのだ。

 

「あれは…決着をつける気か!?」

 

「どうやら誰かが使徒達を恐慌に陥らせたみたいですな」

 

 誰かと言う言葉を聞いて一瞬メルドは要塞の屋上へと目を向ける。しかし追及している暇はなさそうだった。一千を越えて万へと届くかと言う数の使徒が魔力をかき集めこちらへと閃光を放とうとしているのだ。

 

(遂に…この時が来たか!)

 

 ハジメから説明を受けた甲冑の秘密兵器を思い出すメルド。ほんの少し息を吐き部下たちにアレの対処をしてくると伝える。

 

『ホセ!今から俺は』

『了解しました。我ら一同武運を祈ってます』

『…もうちょっとだけ言わせてくれよ』

『お断りします。それよりも帰ったら今までに溜めに溜め切った書類が待ってますのでどうかご覚悟を』

 

 部下からの容赦のない言葉に苦笑する。後の事を考えるとどれだけの書類仕事をしなければいけなくなるのか、少しげんなりしつつも甲冑の姿を切り替える為に練習してきた言葉をひねり出す

 

「…仮面ライダートータス モード、メサイア!」

「?なんですかなその言葉は」

「アイツらの世界の架空のヒーローの名前らしい」

 

 怪訝な顔をするカムと話しながらも甲冑は背中に大きなブースターが付いた飛行形態へと姿を切り替えていく。一応制御の仕方などはハジメが教えてくれ訓練はしたので問題は無かった。巨剣を担ぎなおすと次元のはざまに集まる使徒たちに吶喊する。

  

 

   

「アレは駄目だ」「触れてはいけない」「間違えた」「人間だ」「逃げなければ」「何処へ」「殺される」「使徒である私たちは」「我らは餌だった」「我らは間違えた」「敵う訳が無かった」「アレは侵略者」「神へ助力の要請を」「神は気付けない」「我々は愚かだった」

 

 万のと言う数の様々な声が聞こえてくる中、収束された魔力光は今正に要塞に向けて放たれようとしていた。

 

 閃光が放たれたのとメルドが間に合ったのはほぼ同時だった 

 

「させるかぁぁあああ!!」

 

 絶叫と共に巨剣を閃光に向ける。瞬間巨剣は姿形を変えていく、漆黒の刃は分割されていきメルドの傍へ飛びあがり即席のオプションへと変わっていく。黒き刃が解かれ出てきたのは純白の剣だった。その剣に魔力が収束していき

 

「うぉぉおおおお!!!」

 

 メルドの絶叫と共に極大のビームが発射される オプションも合わせてメルドへと魔力を送っていく。これがハジメの考えた決戦兵器だった。普段は只の剣として、有事の際は巨大な砲撃兵器へと姿を変えていく。それがメルドに託された武器だったのだ。

 

 正面からぶつかり合った両者の閃光は轟音と共に世界を揺るがしていく

 

 彗星を受け止めでもしたかのような衝撃、押し潰さんとする圧力。こちらは一人であちらは数万、圧倒的な物量さがメルドを襲う。歯を食いしばりそれでもと魔力を打ち出していくメルド。

 

 幸いにも使徒達は考える余裕が無いのか回り込んで撃とうとはせず真正面から打ち破ろうとして要塞に向かって閃光を放ってくる。

 

(ぐっ! …まだだ!まだ俺は負けん!)

 

 少しずつ押されながらメルドは真っ向から立ち向かっていた。その心中にあるのは使命と罪悪感だった。人を守るという使命、騎士としての本懐。それと合わせて神によって召喚された者を何一つ考えず戦列に加えこもうとした浅はかな自分への罰。それらが混ざり合って魔力を出していた。

 

 甲冑の中でメルドの生命力が少しずつ削られていく。秘中の秘である生命力を魔力へと変換していく技能。それを使う反動でメルドは白髪へと変わっていく。それでもメルドは止めようとはしなかった。

 

(俺が…騎士としての俺がすべきことは何一つできなかった。ただ誰かに助けられてばかりだった。これは俺が今できる最後の)

  

 視界が薄暗くなっていく。それでもと力んだ時、ふと隣に誰かが居るのを感じた。

 

「責任感が強いというのは美徳ですが、この場合は悪癖ですな」

 

 蒼のスパークが隣から放たれて行き押されていたメルドが止まる。閃光が放たれる視界の中隣にいた人物を見てメルドは声を出した

 

「…カム・ハウリア」

「私も手を貸しましょう。これは我らの戦いです」

 

 両手を合わせて放った青の閃光はメルドの魔力光と混ざり合い少しずつ使徒を押していく。数秒数分に続く閃光の押し合いはメルドとカムの両者が打ち勝ったのだ。

 

「これで…」

 

「いいえ、まだです」

 

 終わりか、そう出した言葉は新たに表れた使徒たちによって閉じてしまった。現れた使徒もまた恐慌に陥っておりほぼ我武者羅に魔力をつなぎ合わせようとしている。そして又放たれようとする第二弾の要塞に向かっての極大の閃光。

 

「もう一度は流石キツイな」

「いえ、今度は楽になりますよ」

 

 どうして、と聞こうとした時だった。急にメルドの脳内に声が聞こえてきたのだ。

 

『メルドさん聞こえますか』

 

 それは念話によって出された声だった。どこかで聞いたことがある声と思い出して該当者を思い出す。ハジメ達と一緒に召喚された少女で神域に向かわなかった少女。

 

「香織か!?一体どうやって!?」

『詮索は後です。それよりも今から貴方達に力を送ります』

「力?」

『受け取ってください。()()()()()()

 

 言葉と同時にメルドの中で暖かなものが宿るを感じ取った。それはメルドの白髪をなおし、溢れんばかりの生命力と魔力を与えてくれたのだ。用途不明の無償の力。怪しむものであるが受け取るたびにまるで揺り加護に包まれているような安心感があった。

 

「これならいける。何度だって止めて見せる!」

「根競べという奴ですな。人の意地の強さと言うのを見せつけましょう」

 

 放たれる閃光に騎士と部族の長達は何度でも立ち向かうのだった。

 

 

 

 

 

 




本当なら香織が出てくるシーンがあるのですが次回に持ち越しになりました。
なので次回はちょっと短いかも。その分早く投稿できるように頑張ります

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