ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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被害者は謳う

 

 

 時はさかのぼりメルドが使徒達の力を合わせた極大閃光をふさぐ前、香織は要塞の上で一人で戦場を見ていた。

 

 眼下に広がるは使徒と殺し合うトータス世界の人々達。そこにはさまざな人間が居た。ハイリヒ王国の兵士は勿論帝国やアンカジ公国の兵士、冒険者ギルドの数多の冒険者たち。そしてフェアベルゲンにいた森人、虎人、熊人、翼人、狐人、土人の亜人族の最優六種族の兵士たち。

   

 それぞれの地域に住むトータス世界の人間たちがエヒトの手駒である使徒と殺し合いをしていた。ある者は剣で使徒と打ちあい、ある者は魔法で、ハジメが作った銃火器で。それぞれが身命を掛けて戦っていた。侵略者に抗うように、大切な人たちを守るためにそれぞれがぞれぞれの意思で、どれだけの怪我を負おうとも自分の身を一切顧みず戦っていた。

 

「……ふふ」

 

 そんな戦場を香織は見つめていた。清楚とも呼べるような純白の衣装に身を包みまるで戦場に祈りをささげる巫女が如く、しかし口には薄っすらと嘲笑を浮かべて、ただ何をするわけでも無く見つめていた。

 

 

 

 

 

 奇跡と言う言葉がある。偶然と言う言葉がある。幸運と言う言葉がある。それぞれの意味は違えどその使徒はまさしくその言葉の加護を受けていた。

 

 決戦が始まって人間たちとの殺し合いのさなかその使徒は、運よく要塞にまで近づくことが出来た。様々な障害があった。王国を守る結界以上の強固さを誇った障壁、ハジメが作り上げた対空兵器、体から力を抜けさせる魔力、そして文字通り死に物狂いで襲い掛かってくる人間たち。

 様々な障害をすり抜け、その使徒―アハトはたった独り要塞にまで近づくことが出来たのだ。

 

「あれが、元凶」

 

 アハトはこの戦場に置いて敵の急所は何なのかを考えていたのだ。その結果導き出された答えは敵陣の後方に構える要塞の屋上でただ独り立っている少女こそがこの異様な戦場の元凶だと判断したのだ。

 

 何度も人を切った。振動をする大剣で切られた人間は一振りで終わるはずだった。だが結果に反して半身がちぎれようとも人間達の戦意は衰えなかった

 

 何度も魔法を放った。肉焦げ刻まれ吹き飛ばされる仲間たちを見ても恐怖と言う感情を人間たちは浮かべなかった。

 

 そして、何度も光が湧きだし、死ぬことは許されないとばかりに人間たちを癒して修復して再生させ、戦線に復帰した。

 

「――――狂ってる」

 

 思わず出てしまった言葉はアハトの言葉だけでなく使徒全ての共通の認識だった。普通はあり得ないその異常。誰かが糸を引いていると判断しそして一人要塞にまで近づくことが出来たのだ。まるで火に近づく虫の様に…近づいてしまったのだ。

 

「これで終わりにします」

 

 標的である少女は戦場に視線を下ろしたままアハトに気付いていなかった。死角からの一撃。これで終わりにするつもりだった、異様な人間達の首魁。その命を取る必殺の一撃である魔力弾は

 

 

 

「白崎!あぶねぇええええ!!」

 

「え?檜山、君?」

 

 

 

 たった一人の男が生み出した気まぐれによって巡り回って生かされた少年の罪悪感によって塞がれてしまったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 いきなりの衝撃で香織は突き飛ばされる、相手は何故かここに居ない筈のクラスメイト檜山大介だった。

 

 何故、どうして此処に?

 

 その言葉が出るまでもなく直後に檜山にめがけて飛んできた魔力弾は檜山のわき腹を容赦なく抉り、致命傷を与えた。突き飛ばされた香織は直ぐに体勢を整え、檜山に駆け寄る。上空にいる虫は眼中になかった。

 

 

「檜山君」

 

「しら、さき…」

 

 傍に駆け寄れば檜山の腹の半分が無くなっており、内臓が零れ落ちそうだった。明らかに致命傷、しかし即死しなかったのは皮肉にも訓練をしてステータスを高めたせいだろうか。檜山は死にかけながらもまだ息はあった。

 

「どうして?」

 

「すま…ねぇ……おれ」

 

 苦痛に歪み涙を流しながら香織を見る目は強い罪悪と謝罪の意味が込められた。呼吸にあえぎながらも檜山は必死に言葉を紡いだ。 

 

「おれ…おまえが…好きだったんだ。だからっゴホッ! おれが南雲に魔法を…」

 

 全ては自分の醜い嫉妬心だった。あの迷宮前夜、ハジメの部屋から出てきた香織を見かけたその時から醜い嫉妬心に心を捕らわれていたのだ。いつもはハジメをイジメて収まるその嫉妬心はあろう事かあの橋で爆発した。

 

『南雲を殺せば香織は手に入る』 

 

 その愚かな思考に歯止めを止めることが出来なかった。そして惨劇が起き…王都での騒動で牢屋にぶち込まれ知らない誰かによって正気に戻って(洗脳されて)からはずっと犯した過ちに対しての罪悪感を抱えたまま生きていた。

 

 これから人類の総決戦が起こると聞かされ牢屋から出され避難所にいた檜山はどうしても香織の力になりたいと考え愚っ直にも行動し、そして使徒によって不意打ちを食らいそうになってる香織を見て我武者羅で動いたのだ。

 

「…すまねぇ…全部、全部俺のせいなんだ…」

 

「檜山君…」

 

 横たわる檜山を香織が抱えると涙を何度も流し謝る檜山。その姿には学校で見たハジメをイジメている姿や嫉妬で狂った面影はなくただ自分の罪に後悔をして震えている普通の等身大の少年だった。

 

 

 

 

 

「狙いが外れましたか、まぁいいでしょうこの距離まで詰めればすべて同じこと」

 

 邪魔が入ったのは予想外だったが距離を詰めていけばこちらに分がある。そうアハトは判断し左右の手に大剣を取り出し悠然と歩を進める。相手は丸腰で武装をしていない。だから問題なしアハトは考えていた。そう考えていたのだが…

 

「…馬鹿だよ、檜山君」

 

 武装した敵が来ても香織は一向にこちらを向かず只々無関心だった。それがアハトの神経を逆なでる。人形として生み出された以上感傷を持っていない筈なのだがハジメ達と関わったせいか使徒に些細な、しかし大きな変化が起きたことをアハトは気付かない。 

 

「終わりですイレギュラーの仲間。神が呼び出した哀れな…っ」

 

 大剣を振り下ろす、それで終いとなるはずだった。だが実際にはできなかった。急に力が入らず大剣を取り落としてしまったのだ。

 

「な、にっ? 力が…」

 

「はぁ まだ気づいていなかったんだ。ほんと、お目出度い頭をしているね貴方達お人形さんは」

 

 力を入れようにも入れ方をまるで忘れてしまったがの如く、ついにアハトは膝から崩れ落ちてしまった。それでもと懸命に手足を使いもがくなか、アハトは大きな溜息を吐きながらこちらを見た香織の目を見てしまった。

 

「どうして死ぬと分かっていて近づいてくるのかな?飛んで火にいる夏の虫っていうけど所詮は虫にも劣る知能しか与えられなかったのかな」

 

 その目は暗く濁り澱んでいた。闇よりも深く深淵にも劣らない深く暗く濁った別の世界の(知らない)生き物の目だった。 

 

「な…にを、言って」

 

「ねぇ気付かないの?どうして戦っている人たちが皆怖がらず戦っているのか。思いつかないの?皆が傷ついても傷が治っていくのが何故なのか?」

 

 確かに疑問を感じていたが目の前の女が何かをしている位にしか考えなかった。そんな思考をアハトの表情で呼んだのか香織は可哀想な物を見る目で微笑んだ。その微笑がアハトの背筋を振るわせる。

 

「所でお仲間の死体はどこにあるのかな?ええっと、確か一杯いるんだよね貴方とそっくりのお人形さんは」 

 

「……あ」

 

 飛行しているときは仲間立が人間と戦っているのを目撃こそしたがどこにも倒れた使徒はいなかった。人間たちの異様さに目を奪われて倒れ伏した仲間たちの姿をアハトは目に入れなかったのだ。最も使徒は無尽蔵にいるので倒れていた仲間を見つけたところで助けようなどとは考えもしないアハトだったが香織のいやに優しい微笑みにどこか嫌な予感がしたのだ。

 

 そしてアハトは気付いた、無くなった使徒の体がどうして消えたのか、どうして人間たちは異様な再生能力と身体能力を得ているのか

 

「まさか…貴方は我らを!我々の肉体を!」

 

「気付いた?そう、利用させてもらったよ()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 花開いたような笑顔でそう宣った香織にアハトは驚愕と戦慄をする。出来る筈がないとどこかで頭が否定しても本能がやりかねないと警告してくる。知らずのうちに香織から距離を取ろうとアハトは這いつくばった体で後退しいていた。

 

「出来る筈が…そんな高等技術出来るはずがない。神でもない貴方なんかに」

 

「そうだよね普通は出来ないよね、でもほらこの世界ってファンタジーだから。それよりもお仲間に伝えなくていいの?逃げないと貴方達全員魔力にして分解しちゃうよ?」

 

 コテンと首を傾げ不思議そうにこちらを見る香織の顔にアハトのプライドが激しく傷つく。崇高なる神の使徒として負けるわけには行かないと八つ裂きにして勝つべきだと、しかし芽生え始めた感情が恐怖を募らせて来る。これに関わってはいけない、撤退して神と共にこの世界から逃げるべきだとそう主張してくる。

 

 アハトに伸し掛かって来るかのように相反する感情が決壊したのは香織のその言葉だった

 

「あ、でも貴方達って無尽蔵に出てくるんだっけ」

 

「ひっ!」

 

 ギョロリとむけられたその目は今までアハトが一度も目にしたことが無い目だった。地球と言う世界から現れた生き物(人間)の目が総意をもってアハトに向けられたように感じた。

 

「無尽蔵っていいよね、だって幾らでも付きない魔力が出てくるんだもん。どれだけの人が倒れても死んだ貴方達が直すんだからエコだよねエコ!ほらっ貴方達って魔物より高カロリーで栄養豊富でしょ?それを魔力にしているんだからみんな元気いっぱいに動いていてね。死なない様にって思ってはいたんだよ?それが貴方達のお陰で無問題!おまけに数は減らないからいくらでも使ってよし!リサイクルだね、環境に優しいよね!無限のエネルギー、良いよね地球にも欲しいな私貴方達が地球に来るのなら大歓迎しちゃうよ!それにしても流石は神の使徒、世界に優しい有効活用法を身をもって教えてくれるなんていい人だよねっ!」

 

 明るく矢継ぎ早に出た言葉はアハト、いやほかの使徒、そしてエヒトすらも歯牙に掛けていなかった。只々欲にまみれたその目が敵として見ずただの資源としてアハトを見ていたのだ

 

「だからほら、早く一杯連れてきてよ。無尽蔵の資源(人形)さん?」

 

「あ、ああ …あぁぁぁぁああああああああ!!!!!!!!!」

 

 わき目も降らずアハトは絶叫をあげ逃げ出した、何も考えられなかった、只々目の前の化け物から距離を取りたかった。だから動きの鈍い手足を使い要塞の屋上から身を投げ出しても思ったのは化け物の目から離れたことの安堵だけだった。

 

(神よ…我らは間違えました。アレは貴方が思っている以上に…)

 

 地面に激突する瞬間、アハトができたのはほかの使徒達に情報を流すのと自らの創造神であるエヒトに対する警告だけだった。

 

 そうして地面に顔から突っ込み果てたアハトは群がってきた兵士によって細かく切り刻まれ…そして彼等の傷を修復する栄養分へとなっていくのだった。

 

 

 

 

 

「どうして人に似せるのかな?機械の様に感情を載せなければいいのに」

 

 絶叫をあげながら無様に堕ちて行った使徒を見ながら香織は不思議そうに呟いた。昔見た映画の様に作業として襲ってくる機械兵士ならいざ知らず戦闘用の癖にしてどうして言葉を吐けるように作ったのか香織にはエヒトの考えが理解できなかった。

 

「……ヒュー…ゴフッ」

 

 そうこう無駄な事をしていたからだろうか抱きかかえていた檜山は風前の灯火だった。目から光が消えかけ呼吸が小さくか細くなってきている。死を迎える表情は涙の跡があるからか後悔と無念と惚れた人の胸で死ねる安堵の表情が混ざっていた。

 

「…ごめ……かあ…さ…おや…じ」

 

 最後の出てきた言葉は家族への謝罪だろうか。訳も分からぬ世界で死んでいくことへの詫びか、それとも罪を犯した息子としての謝罪か香織にはどうでも良かった。

 

「変なこと喋ってないでちょっと我慢してね」

 

「?……ギャァアア!?」

 

 怪訝な顔をする檜山に一言を告げると遠慮なく香織は傷ついたわき腹に向かって手を突っ込んだ。いきなりの衝撃と激痛に脂汗を浮かべながら悶絶する檜山を一切の無視をして香織は再生魔法を使う。

 

「『絶象』…変なネーミングセンス」

 

 一言呟きながら手を引っ込めると見る見るうちに時が巻き戻るかのように檜山のわき腹は復元されていく。自らの身体の変化に驚く檜山の顔も先ほどの青かった顔色が本来の血色のいい色付きになっていく。

 

「これは…助けてくれたのか」

 

「ハジメ君に余計なものを背負わせたくないからね。それよりも」

 

 檜山が無事に起き上がると座ったまま改めて檜山と向き合う香織。ここは戦場である以上そんな事をする暇はないのだがさっさと香織は事を終わらせたかったのだ。香織に真っ直ぐな視線を向けられた檜山は状況に狼狽しながらも背筋をピンと伸ばした。

 

「檜山君」

 

「お、おう!」

 

「さっきは助けてくれて有難う。貴方の勇気で私は助かりました。感謝を」

 

「あ、ああうん。…無事でよかった」

 

 ほんの少し照れくさそうに顔を背ける檜山はやはり以前までの香織の知る檜山とは根本的に違っていた。それが誰の手に依る物か香織は知っていて悲しく思う物のきっぱりと告げた。彼の言葉を借りるのなら物語の原点となった事への香織の思いを。

 

「そしてさっき檜山君が言ってたことなんだけど」

 

「…ああ」

 

「貴方の気持ちは嬉しいです。だけど私には大切な人…ハジメ君がいるの。だからあなたの気持ちには答えられません。ごめんなさい」

 

 香織は物語の原点となった檜山の自身への恋心にきっぱりと断りの言葉を言った。要はハッキリと振ったのだ。

 

「…だよなぁ ああ分かってたさ。学校にいた時からずっと白崎が誰が好きなのかを…ああ、なんだかすっきりした」

 

 そして振られた方の檜山はと言うと肩の力と安堵感にも似た悟りを得たような顔つきへとなっていった。元々香織が誰に恋をしているのか薄々感じながら学校でハジメをイジメていたのだ。今この場で香織がハッキリと言葉に出したことで心の呪縛が解かれていったような気持ちになったのだ。

 

「…俺は…もっと早く、いやもう済んでしまった話か。…すまんここにいても俺は邪魔になるよな」

 

「うん、ここは危険だよ。すぐに避難所に行った方が良い、えっとほかの皆は来ていないんだよね?」

 

「ああ、俺しか来なかった。…それじゃ白崎気を付けてな」

 

 僅かに名残惜しそうに香織を見た檜山はそう言うと今度こそ香織を見ることもなく屋上から去っていく。そうして要塞の上に残されたのは香織だけとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 改めて戦場へ目を向けると使徒が次元の裂け目で高密度の魔力を練っているのが遠目でも香織には見えた。そしてその放たれた魔力を騎士団長メルドが防いでいるのを香織はしっかりと把握した。

 

「あれは…メルドさん。なら私はっと」

 

 高密度の光線を防いだメルドに対して香織は星から吸い上げた魔力を流れさせる。目に見えて気力を取り戻したメルドが光線の打ち合いをしているのを遠目で観察しながら香織はこの線上にある仕掛けとそれを施したコウスケの事を想い返していた。

 

 

 この戦場の兵士たちの異様な戦意と回復能力はコウスケが描いた魔法陣によるものだった。そして魔法陣の本当の意味それは

 

「『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()』…そうだったよねコウスケさん」

 

 それは、香織が最初この世界で召喚されたときに心の片隅で考えたことだった。訳も分からず説明を受けていたが要は人類が滅びそうなので代わりに戦って来い。そう言う話を受けた香織は『()()()()()()()()()()()()()()()』と言う疑問を持ったのだ。

 

 のちに訓練が始まった時でも騎士団の連中は戦いの素人である自分たちが戦場に出る事に疑問を抱いた様子もなく王都の人間たちもまた罪悪感に捕らわれている人はあまりも少なかった。

 

『神の使徒として戦え』

 

 未成年の素人に世界の命運を託す異世界の人間を香織は侮蔑した。その思いは表に現れる事は無かったがどこかで積りに積もっていたのだ

 

『どうして人任せにできるのか?どうして自分達で何とかしようとは思えないのか?あまりも情けなく不甲斐ない己に疑問を抱くことは出来ないのか』

 

 コウスケが話したことはおおむねそんな言葉だった。だから彼は計画したのだ、召喚された被害者に頼るのなら相応の事をしてやろうと。

 

「怪我をしても死なない、だから戦え 恐怖を感じさせない、だから戦え 自分の命が尽きるまで戦え、…私達に当てにするのなら私たちは貴方達を利用する。

…そうでしょうトータスに生きる人間さん」

 

 再生魔法で傷を負わせない、だから死ぬことなんてありえない。魂魄魔法で士気を揺るがせない、だから恐怖に怯える事は無い。そしてそれらを実行する魔力の大本は…異世界()()()()から吸い上げているのだ。

 

 重力魔法は星のエネルギーに干渉する魔法である。ならばこの星全域に広がっている魔力をこの戦場に集める事にしたのだ。本来はエヒトであっても出来ない事をコウスケは少しの魔法陣だけで成し遂げてしまった。星の命が終わらない限り魔力は順当に循環し兵士たちに命を注ぎ込む。

 

 さらに香織はコウスケから託された技能『誘光』を使い使徒から魔力を吸い上げる事にも成功した。おかげで魔力の効率は思った以上に良くなり星への負担も軽減された。エヒトの侵略が元凶とは言え結果として星の寿命を延ばすことに成功しているのだ。

 

「使い勝手が良い技能… コウスケさんって本当に規格外だよね。中身は普通の男の人なのに」

 

『誘光』によって使徒はこの戦場に釘付けとなる。ほかの都市や町を襲う、避難所を探し出し人質を取るといった戦略的勝利を考え付かない様にされる。火に自ら入っていく虫の様にふらふらと誘われ、そして命を吸われていく。吸われた命は兵士たちに分配され、そして戦闘は続く。使徒が尽きるまで行われるその行為は使徒の数が無尽蔵である以上終わる事を知らない。

 

「終わらない戦場を作り出すコウスケさんと長年の間人を玩具にして遊ぶエヒト。どっちが悪いのかな?」

 

 香織の独白に答えるものは居ない。そして香織自身も分からない。ただどちらも悪辣なのだろう。人間である以上冷酷に無慈悲に玩具の様に異世界を蹂躙するその姿はどちらの方がより邪悪なのか。香織にはどうでもいい。

 

「ま、これから日本へと帰る私にとってはどうでも良いかな。アフターフォローもばっちりだし」

 

 使徒達と人間の戦いに終わりはつかないがエヒトが死んだその時こそが終わりである。その時になったらこの魔法陣は解除され効力は効き目を失うだろう。後に残るのは怪我一つなく死傷者を一人も出さずに聖戦終わらせた人間たちの歓声だ。

 我を失いながら戦っていた人間は魂魄魔法によって無理矢理、精神状態を戦場前の状態へと戻させ、この戦場を見ていた者や記録していた者は皆が死力を尽くして戦ったとしか明記出来ない様に記憶を改善される。

 

 これがコウスケによる優しさによるものか、人を玩具のように使った罪悪感を薄れさせる言い訳なのかやっぱり香織には分からないしどうでも良かった。

 

 さらに言えば香織のクラスメイト達を戦場に出させなかったのはコウスケの意思によるものでそれが醜い嫉妬と羨望であるのを香織は見なかった事にした。

 

『許せねぇよ。未成年がたとえ人形でも人殺しなんてやっちゃいけないだろ?…それに社会不適格者になるための言い訳を作るなんて…俺が許さない』

 

 善意と悪意が見え隠れするそのコウスケの意思を香織は責める事はしない。クラスメイトが人形殺しをしなくて済むのは良い事であるし こんな戦場に出てしまったらいずれ可笑しくなってしまう。そんな人を日本に連れて帰るのは香織でも御免だった 

 

「はぁー ああ、頭が痛い。ハジメ君、私真っ黒に染められちゃったよぅ」

 

 ズキンと痛む頭を片手で抑えながらおどけたように苦笑する香織。痛むのは良心が悲鳴を上げているからだろう、トータスの世界の人々を玩具のように使うなんて許さないとでも声をあげているのだろうか。だがその心の声を本音で押しつぶす。悪いのはエヒトであり自分達を当てにしたこの世界であると。

 

 この世界に召喚されたときはまだそこまで負の感情を露出させなかったのだがいつの間にか随分と悪感情を出す様になってきたと香織は思う。それが誰のせいによるものか、ハジメ達の仲間である女性陣のせいなのかそれともハジメの心を()()()()()()()()()()()()()()()あの男のせいなのか。香織にはわからない。

 

 

「さっさと終わって帰ってきてねハジメ君 もちろんコウスケさんもだよ」

 

 今頃エヒトを散々いたぶっているであろう二人を考え苦笑する香織だった。 

 

 

 

 




よーするに何で異世界の人間って召喚された人をアテにするの?ならこっちも好き勝手やらせてもらうって話です。

次回エヒト戦。 多分ですが後5話か6話ぐらいで終わります…多分

あと、ちょっとした疑問ですが後書きってどこに書くのでしょうか?本文の乗せるは違うと思うから、活動報告ですかね?ものすっごく長くなると思いますので疑問に思いました

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