ありふれた勇者の物語 【完結】   作:灰色の空

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詰めすぎた…

視にくいかもしれません。注意です。



自業自得

 

 ある男が居た。その男はある時亜人族の娘と恋に落ちた。恋仲となった両者は周りにばれてしまい禁を破ったとして男は処刑された。男は死ぬ前に問うた。『何故』と。帰ってきた答えは『神の教えに反したから』と言われた。恋人を略奪され無残に死んだ男の無念はずっと晴れる事は無かった。

 

 ある親子が居た。仲睦まじく暮らしていた親子は、ある日、生贄に選ばれた。戦争で進退窮まった教会の人間が神への助力を得ようとして贄として親子に火を掛けた。自身の身体が燃えるのも構わず親は子供を助けようとしたが無駄に終わった。なぜこうなったのかと言う親の無念と子供の疑問は誰も教えてくれなかった。

 

 ある亜人族が居た。家族ごと帝国につかまり、人間族の玩具となって執拗に辱めと拷問を受けた。逃げる手立てがあるはずだとお互い励まし合い必死に生き残ろうとした。だがその意思は無残にも踏みつぶされ家族は次々と死んでいった。亜人族は何故と聞いた。お前たちは弱い生き物だ、神から見放された悪しき種族だと。悲鳴をあげる同胞たちの声を聞きながら死んだ亜人族は思った。この世界は間違っていると。

 

 

 ある老人が居た。息子が戦争から帰ってくるようにと神に祈りを捧げていた。寄付をすれば信仰心が高まり神が息子を助けてくれると教会から教えられた老人は

家財を売り払い貧困に喘ぎながらも息子の無事を祈り続けた。帰ってきたのは息子の戦死の報だけだった。病気になり死を迎える瞬間誰かの嘲笑う声が聞こえた。

 

 ある兵士が居た。自分の故郷である小さな村を守るために怖くても武器をとることを決意した。戦って戦って死に物狂いで戦った兵士の耳に届いたのは自身の故郷が焼き払われていたという事だった。何故故郷が滅んだのか調べる内にそれが同じ人間族によるものだと判明した。敵である魔人族を根絶やしをするための自作自演だった。証拠隠滅の為に教会に殺された兵士は復讐を誓った。

 

 

 ある国王が居た。敵である魔人族との和平に尽力しそのたゆまぬ努力の結果、掛け替えのない魔人族の友を得ることが出来た。だが、和平条約を結んだ瞬間神の使徒によって脳を弄られ、神の操り人形と化した。意識がある中自身の身体が勝手に喋り…和平のために集まった、これからも手を共に取り合えるはずの友たちを次々と殺してしまった。国王は死ぬ最後の時まで操り人形と化し次々と殺戮を命じて行った。国王は自らを恨み死んでいく友たちを見ながら誓った必ずこの怨みを忘れぬと。

 

 

 

 

 男が居た女が居た子供がいた親が居た老人が居た青年が居た人間族が居た亜人族が居た魔人族が居た竜人族、吸血鬼……様々な人種がいた。様々な人間たちが居た。神の勝手な理由で次々と死んでいった。怨みは蓄積されていった、だが手段が無かった。憎悪が膨れ上がっていた。だが晴らす手立てが無かった。

 

 怨霊の数は増え、憎悪は日増しに強くなっていく。だが晴れる事は無く冷たい水底の中で数だけを増やしていった。神によって死んだ亡霊の数はどんどん増えていく。そして又晴れない怨みも蓄積されていく。

 

 そんな怨霊たちにある日声が聞こえた

 

『その恨みや憎悪。晴らしたくはないか?元凶にぶつけたくはないか?』

 

 怨霊たちは答えた。憤怒と憎悪とありとあらゆる負の感情をむき出しにして叫んだ。

 

『当たり前だ』

 

 声はその言葉を待っていたようでカラカラと笑うとぞっとするほど澄み切った声で契約を持ちかけた

 

『お前たちが死んだその元凶を教えてやろう。復讐の機会を授けてやろう。だから…俺の言いなりになれ』

 

 

 

 

 

『神域』の空は完全にひび割れ黒の亡霊が空を覆う 滲み出てきた怨霊たちは我先にとエヒトに飛びかかっていく。

 

『図に乗るな!貴様ら如き虫けらが我を殺そうなどと甘く見るな!』

 

 纏わりついていた子供亡霊を蹴散らし魂となったエヒトが光弾を放つ。当たった亡霊たちは霧散し消えていくが、又次から次へと湧きだしてきた。その数は

瞬く間に増えていく。空を覆う亡霊の数はもはや数万数十万を軽く超えてきた。

 

「お前がやらかしたその時から今現在までの死人を集めてきたんだ。俺がここで見ていてやるからさ、神様らしく成仏させてやれよ」

 

 愉快そうに笑う軽口が嫌にエヒトの耳に届く。魔力は常人を超し文字通りこの世界で最強であるはずのエヒトはしかして死者を弔うやり方を一つも知らなかった。成仏させる方法なんて知らず、ただ怨霊の群れに光弾や光を放つだけが精一杯だった。

 

 だがその光の力も徐々に弱まっていきついにはエヒトによって減っていく亡霊の数より纏わりつこうとする怨霊の方が数を上回っていた。

 

「クッ!? 何故だ!?何故我の力が弱まっているのだ!? この世界の絶対である我が! どうして!?」

 

「お前、人々の信仰心で強くなったんだろ、その信仰ってのが今この場で糞の役に立つとでも思っているのかよ。目出度い奴だな」

 

 エヒトは人々から得られる信仰心を己の力としていた。神として崇められ数千年もの間蓄積された信仰は エヒトの強さを底上げし、異世界から人を召還できるほどにまで極まった。だが、エヒトの所業を全世界の人間が知り、その信仰は瞬く間に消えていった。

 

『見つけた』『殺してやる』『我らを苦しませる元凶』『絶対に殺してやる』『今までの恨み晴らしてやる』『許さない』『許さない』『必ず殺してやる』『俺が先だ』『いいえ私が先よ』『僕もヤリタイ』『早い者勝ちだ』『…皆でやればいい』『そうだ、我らの恨みを一つ残らず』

 

 そしてこの亡霊たちの恨みと憎悪がエヒトの蓄積されてあった信仰の強さを削いでいった。エヒトが人々を騙し自ら得ていた信仰の力をエヒトの手によって殺された者たちが剥ぎ取り奪っていく。それは正に自業自得だった。

 

「来るな!この我を誰だとっ」

 

 喚き散らし抵抗を試みるがとうとう亡霊たちに接近されてしまう。火傷で顔が爛れた女がやってくる。顔がつぶれた男が、手足を失った子供が、枯れ木の様な老人が、体が捻じれている亜人族が、体の半分がちぎれた魔人族が。我先にとエヒトの元へとやってくる

 

「ひっ」

 

 情けなく声を上げてしまったエヒト。それはやってくる亡霊全てが笑顔だったからだ。顔を亡くしている物も壊れている物も種別なく区別なく全員が喜びの感情を爆発させていた。それは恐ろしいまでの純粋な歓喜であり長年の願いだった。

 

『ようやく、コイツをいたぶる事が出来る』

 

 その歓喜の意思を咆哮させると一斉に亡霊はエヒトに纏わりついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「や、やめろっぉぉおぉぉおおおお!!!!!」

 

 白き光が黒い怨霊に飲み込まれるのをハジメとコウスケは守護の結界の中でしっかりと見ていた。

 

「うーむ。強大な力を持った馬鹿が無力な人間によっていたぶられる。随分とメシウマな光景ですな」

 

 そう朗らかに笑うのはコウスケだった。先ほどからずっとエヒトを見て笑っていた。だがその目が一つも笑っていないのはハジメはちゃんと知っていた。寧ろその目に浮かぶものは憐憫と悲しみだった。

 

「…………」

 

 対してハジメはずっとエヒトと亡霊たちの戦いを黙って見ていた。目を逸らすこともなく、自分は無関係だという事もなくずっと見ていた。

 

 自分達を守るように張り巡らされた守護は淡い光となって結界となっていた。周りは亡霊の数が増えつつづけたせいでもはや神域は黒い世界と化している。

 

「ん?ああ、この結界から出るなよ南雲。いくらエヒトに矛先が向かっているとはいえ生者を羨ましがってお前に危害を加えないとも限らないし」

 

 コウスケが守護を使ったのは怨霊たちがハジメを襲わないための保険だった。いくらエヒトへの恨みが強くても、生きている人間に対して欲を掻かないとは言いかえれ無かったのだ。

 

「…これだけの数、良く集めたね」

 

「清水と一緒に世界を巡ったからな。中々大量だったぞ、特に凄かったのは帝国とメルジーネ海底遺跡」

 

 エヒトを倒すための作戦としてエヒトに殺された亡霊達を集めるというのはノインの言葉から発想を得たのだ。清水が今までのハジメ達の旅を聞いた話として纏めていた先に、戦力として使えるのではないかという発想が出てきたのだ。都合が良い事にコウスケは魂魄魔法の使い手であり、規格外の力を持っていた。

 

 そこで世界を巡り、亡霊たちを集め回ったのだ。合図があれば一気にエヒトが居る神域に来れる様に説得して回った。特に数が多かったのは解放者の試練であるメルジーネ海底遺跡と帝国だった。

 

 海底遺跡はエヒトの所業を知るためとして亡霊たちが途方もないほどにいたのだ。故にコウスケは海底遺跡で狂気に飲み込まれた亡霊たちを無理矢理

正気に戻らせ今ある苦しみが全てエヒトのせいだと教え込んだのだ。

 

「意外とあっさり説得が終わったのは拍子抜けだった。なんでだろうな」

 

「…この世界の人間って深く物事を判断できないようにできているからね。乾いたスポンジに水を染み込ませるようなものだよ」

 

 トータス世界の人間は物事を深く考えず目先で行動することが旅の途中多々あった。だからコウスケの話をすぐに理解しエヒトを倒す武器となったのだ。

 

「帝国は…よくもまぁ亜人族だとは言えあれだけ好き勝手同じ人の形をしたものを壊せるよ」

 

「人間だからできるんじゃない?」

 

 帝国にいた亡霊はやはりと言うべきか亜人族の数が尋常ではなかった。長い歴史の中いかに人間族が亜人族を捕まえ奴隷とし玩具として壊してきたのかが分かってしまった。最もだからこそ、その怨霊と化した同胞の声を聞いてしまったハウリア族はあそこまで残虐に人を殺したのかもしれないが…兎も角、今エヒトをいたぶっている亜人族を見ると帝国と言う国がいかに人の怨みを貯め込む魔都かを理解したコウスケだった。

 

「そのうちあの国滅びるな、自分たちが殺した人の手によって」

「何か言った?」

「何でもない」

 

「ふーん ともかく主人公が絶対にラスボスを倒さないといけない。その考え自体が間違いだったんだ。別に誰でもいいんだ」

 

 主人公であるハジメがエヒトを倒す。コウスケは小説を読んでいたためその考えから抜け出せなかったのだ。ハジメとしても自分が強いから、だからエヒトと戦わなければいけないと考えていた時にこの亡霊と言うアイディアは目から鱗だった。

 

「僕は確かに主人公かもしれない。でもそれはコウスケが知っている小説での話で僕がしなければいけない事じゃない」

 

 どうして自分が。その考えは根本的な所にあった。どうして自分がやたらと面倒に巻き込まれるのか、何故?と。だからエヒトによって殺された亡霊が因縁の相手に手を下すこの戦いをハジメは間違いではないと考えていた。

 

 だが隣にいる実行犯のコウスケは笑顔をやめてしまった。どうやら話しているうちにいろいろ考えてしまったらしい。

 

 どうしたの?と視線で促せば大きなため息が聞こえてきた。渋々と言った言葉がその重い口から出てくる。

 

「…ちょっと後悔している。本当なら成仏させてやるべきだったんじゃ無いのかなって」

 

 今もなお絶えないエヒトの悲鳴を聞きながらコウスケは溜息を吐いた。実際に魂魄魔法を極めてしまったコウスケなら今ここにいる亡霊たち全てを成仏させることが出来るのだ。だが、作戦としてエヒトに対抗するための策としてコウスケは亡霊たちを武器にすることにしたのだ。

 

「やっぱ亡霊って言っても人であることには違いないんだからさ、安らかに眠らせてあげるべきって考えちまうんだ。勿論あの人たちがエヒトに怨みを抱いていてその恨みを晴らすことが最善って事なのは分かるんだけど…」

 

 恨みを晴らすため、元凶を倒すため。色々言い訳ができるが本質としてコウスケは死んでしまった人たちを武器として使ってしまっているのだ。死者は安らかに眠る、それを捨て去り自分たちが楽をするために使ってしまったのがコウスケには引っかかってしまうのだ。

 

「……それについては本人たちに聞くのが一番じゃないのかな」

 

 考え込むコウスケにハジメは視線をコウスケの後方に目を向ける。つられてコウスケが見たのは…

 

「勇者殿。貴方のやってることは間違いではないのです」

 

「その通り。寧ろ私達の娘たちの未来のために戦えるのは貴方のお陰なのです」

 

 そこにいたのは、二人の壮年の男だった。一人は威厳がある髭を生やした王冠をかぶった男だった。もう一人はオールバックの金髪に何処かユエに似た雰囲気を持つ男だった。

 

「エリヒドさん…ディンリードさん。俺は本当に間違っていないのでしょうか?」

 

 男たちはリリアーナの父親であるエリヒド国王とユエの叔父であるディンリードだったのだ。コウスケが亡霊を集めているときに王都の墓所と魔人族領で見つけ出会ったのだ。ディンリードは悩むコウスケにフッと微笑んだ。その表情はどこかコウスケに年上ぶるユエと似ていた 

 

「君としては悩むものかもしれない。死者を戦力とし行動するのは間違いかと思うかもしれない、でも当事者である私たちはようやく娘たちを守れるチャンスを貴方から得られることが出来たのだよ。だから君が気にすることは一つもないんだ」

 

「……自身は何もせずただ貴方達に丸投げすることが間違っていない事だと、そう言うんですか」

 

「それは違うぞ勇者殿。本来なら我々が解決しなければいけない事だったのだ。戦争もあの邪神の事も。それを何も考えず何一つこの世界とは関係が無い被害者である貴方達に任せようとした私が愚かだったのだ」

 

 強大な力を持つ自分が事を終わらせるべきだったのでは無いかと問えば二人して違うのだという。自分が全力を出しエヒトを片づけて死者を眠らせれば…。悩むコウスケにはそんな考えが頭から離れない。そんな悪循環に嵌ってしまったコウスケにディンリードは頭をぐしゃぐしゃと掻きまわしてきた。

 

「わ!?」

 

「ふふっ アレーティアが気になってしまうのも仕方ない。貴方はどうしても自分を思いつめてしまうのですな。…そんなに私たちが頼りないですか?」

 

「そんなつもりは…」

 

「貴方方はよくやってくれた。 …もういいでしょう。後は私たちに任せてください。…アレーティアを助けてくれたこと、あの子に可愛い友達を引き合わせてくれたこと。感謝しています」

 

 そう言うとディンリードは光となってドンナ―に装填されてある弾丸へと姿を消していってしまった。難しい顔になってしまったコウスケにエリヒド国王は愉快そうに目を細める。

 

「自身とは全く無関係の、それも死者を想う貴方は優しいお方なのでしょうな。…娘には愛していると伝えてくれましたかな?」

 

「リリアーナに?あーうん。ボカシながらだけど…伝えたよ」

 

「ではもう一つ伝言を頼みます。ランデルにはいつまでも見守っていると。リリアーナにはお前の幸せを誰よりも願っていると、そうお伝えくださいコウスケ殿」

 

 そう告げるとコウスケの返事を待たずしてディンリードと同じように弾丸の中へと消えていくエリヒド国王。指導者であっても最後は親の顔となって消えていった男たちに励まされたコウスケは心が軽くなったのを感じた。

 

「間違っていない…か」

 

「決めるのは当事者達であって他の人が決める事じゃない。そういう事だよ」

 

 ドンナ―を抜き出し、最後の調整をするハジメ。レールガン機能は取り外され、只のリボルバー拳銃へと姿を変えていくドンナ―。たった一発を打てるだけの最後の改造を施すその手つきはとても優しかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やめっ やめよイシュタルゥゥウウウウウ!!?!?」

 

「エヒ…トさま…おいし……ちから……御力を…」

 

 エヒトの絶叫が響き何事かと見て見ればそこにはイシュタルの面影をわずかに残した亡霊がエヒトに対して噛みついているところだった。何度も何度も執拗に噛みつき美味そうにエヒトをむさぼるその亡霊は酷く醜かった。

 

 その光景を眺めていたハジメはドンナ―の調整を終えたのかポツリとコウスケに尋ねてきた。

 

「…聞きたいことがあるんだコウスケ」

 

「どうしたんだ」

 

 ハジメの視線の先には無数の亡霊たちによって身を縮こまらせ逃げるように手足をばたつかせるエヒトの姿があった。

 

――か、み……われ、は…かみ…なる、ぞ……なの、に…なぜ……

――まち…がって、な……ど、われ、こそ……

 

「あれは、君と出会わなかった並行世界の僕なんだろ」

 

 ハジメの目に映るのは強大な力を使い自分が間違ってないと断言し、結果増長し自分勝手に暴れ回る自身の姿をエヒトを見て垣間見たのだ。

 

 もし、コウスケと出会わず奈落にいたのだとしたら。もしたった独りでユエと出会ったのなら。自分を道を間違えてしまうのではないかと考えたことがあった。

エヒトと実際に出会ってその思いは強まった。自分を崇め間違っていないと言う者ばかりが周囲にいたのなら、身内以外敵だと思うようにねじ曲がってしまったのなら

 

「アレは僕自身だ。止める者もいない、対等に接する者もいない、自分が最強と言うの名の妄想に取り付かれてしまった僕自身の末路だ」

 

 断言するように強い口調の中には自分もまたそうなる可能性があるのだというハジメの確信があった。親友の自身を戒めるその口調に、コウスケは何度か口を閉口させ、大きく頷いた。

 

「…そうだ。その通りだ、どっかの誰かは否定したけど俺はハッキリ言わせてもらう。アレはお前だ。『ありふれた職業で世界最強』の主人公南雲ハジメと同じだ」

 

 ふぅと息を吐き、はっきりと断言した。あやふやな物言いはすることが出来なかったし、またコウスケ自身もそう思っていたのだ。

 

「…酷いね。僕あんなふうになっちゃうんだ」

 

「ああ、とても酷い。自分が間違っていないとか他の人に態度悪いとか…まぁそういう奴だ」

 

「耳に痛いなぁ。ホント辛い。…だから僕が終わらせないと」

 

 自虐の笑みを浮かべたハジメはよろけながらも立ち上がろうとする。

 

「やめとけ南雲。今のお前まだ体が回復しきっていないぞ」

 

「それでも…僕が終わらせなくちゃ。自分の事は自分で終わらせないと…駄目だよ」

 

 ふらふらとしながらも改造したドンナ―を手にするハジメをコウスケは頭をクシャリと撫でて座らせる。そしてそっと手を差し出した。

 

「ケリは俺が付ける。だからお前は何もしなくていいんだ」

 

「でも僕が…アレは僕だから」

 

「なんだ、それでもやろうってのなら俺と一緒に石破ラァッブラブ天驚拳、をかますことになるぞ?」

 

 冗談めかして笑えばハジメはポカンと呆けた後、くすくす笑った。そしてひとしきり笑った後ドンナ―をコウスケに手渡した。

 

「それは、御免だね。白崎さんと一緒ならできるけどコウスケとは出来ないや」

 

「はっ出来ると言ったらドン引きだったぞ」

 

 ニヤリと笑い差し出されたドンナ―の弾を確認する。そこには一発だけ銃弾が装填されていた。問題がない事を確認するとコウスケは自身が生み出し()()()()()()()()()()『守護』をハジメに渡した。

 

「それがある限りお前に周りの亡霊は危害を加えることが出来ない。だから大人しく待ってろよ。」

 

「わかったよ。 …ありがとうコウスケ」

 

「良いって事よ」

 

 親友の感謝の言葉効きコウスケは守護の結界内から抜け出し、エヒトの元へと歩みを進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 エヒトを終わらせる…エヒトを殺す役割をハジメから奪ったのはいくつか理由があった。

 

 一つはハジメに人殺しをさせない事。例えエヒトが人に分類されないものでものどうしても人殺しの業を背負ってほしく無かったのだ。自分はもう手遅れなので始末をつける事に躊躇は無かった。

 

 二つ目は亡霊がエヒトに怨みを抱いている者ばかりではない事。無論エヒトに怨みを抱いている物が主である。だがそこには自身が殺した帝国兵やエヒトの信奉者も交じっているのだ。全部が全部ディンリードたちの様に理性を保っているとは言い難かった。

 

 そして最後は、先ほどのエヒトについての話は自分も該当するところがあったのだ。結局の所、エヒトはコウスケ自身の未来図でもあった。強大な力に自分を信じてくれるがいたとしても自分もまた人間である以上どこかで過ちを犯してしまう。現に今もまた過ちを行っているのではないかと思うほどだ。

 

 

「……重いな」

 

 小説を見ていた時からずっと触ってみたかったドンナ―今この手にある。それはずっしりと重かった。改めて銃が人を殺すものだと教えてくれるその重さはコウスケにとって酷く心地よかった。ミレディから手渡されたナイフを弾丸にした概念魔法が強く埋め込まれている重みもまたしっかりと腕に馴染んできた。

 

 

――死に、たく……ないっ、死にた、く…な……い

――いや、だ……しに、たく…な、いっ

 

 エヒトはボロボロになっても死んではいなかった。強力な力を持つその異常さが皮肉にも怨霊たちが殺すほどには至らなかったのだ。今もまだエヒトに群がっている数えるのも馬鹿らしい亡霊の群れを心ひとつ念じてエヒトから遠ざける

 

 

――たすけ…………たす…

 

「助けを求めんなよ。これはお前が今までやってきたことが返ってきただけなんだから」

 

 口では突き放しながらも酷く哀れなエヒトのその姿に心に来るものがあった。強大な力を持った者は好き勝手暴れて誰かの迷惑になり続け、そして匿名の誰か達によってボロボロになる。酷く皮肉が効いていて凄く悲しかった。

 

――………

 

 もはや言葉も話すことも出来ずに衰弱したエヒトに照準を合わせるコウスケ。その時銃の重みが酷く腕に伸し掛かてってきた、今から人を殺すのだという感傷がのし掛かって来る。

 

「今更…今更の話だよな」

 

 人を殺さずに済めばよかった。そんな言葉を飲み込んで引き金に手を掛ける。腕の震えは悲しい事に全くなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さよなら、エヒトルジュエ」

 

 

 乾いた炸裂音はとても軽かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 黒い世界が晴れていき初めてここに来た時と同じように白い世界がやってくる。それは亡霊たちが成仏したこと同義であり元凶がこの世界から消えたことを意味したのだった。

 

「…やったんだね」

 

 ハジメが呟いた言葉と共にコウスケがやってくる。その表情は…何とも言えない複雑な表情だった。

 

「…すまん南雲。ドンナ―壊れちまった」

 

「いいんだ。ドンナ―はちゃんと役目を果たしてくれたから」

 

 一発の弾丸を放ったドンナーはその衝撃に耐えきれず壊れてしまった。ずっと自分を支えてくれた相棒を受け取り懐に入れるとハジメは気分を変える様にコウスケに話しかける。

 

「それで、コウスケ、この後どうなるの?」

 

「この後? …あ」

 

 呟いた瞬間白い空間が鳴動を始めた。創造主が居なくなったので空間が荒れだし崩壊を始めようとするのだ。

 

「やっべ逃げなきゃ!」

 

「ちょっ!ノープラン!?ええっとスカイボード…あ、宝物庫壊れている」

 

「うっそぉっんん!?!?なしてそんなに脆いもん作るの!?」

 

「君が!派手に動き過ぎるからだ!!!」

 

 ハジメが用意していた宝物庫は先ほどの戦いの衝撃で壊れてしまっていたのだ。確認していなかった事に罪を擦り付けながらも二人してあたふたとしてしまう。

 

「空間魔法で脱出は!?」

 

「魔力が空っけつですぅ。つーかさっきの守護であらかた使っちゃった」

 

「馬鹿ぁ!」

 

 テヘペロをリアルでしてくる親友に怒るハジメ。しかし怒ったところで問題が解決するわけではない。そんな万事休すな所に救いの手はあっさりとやってきた

 

『ちょあーーー! 絶妙なタイミングで現れるぅ、美少女戦士、ミレディ・ライセンたん☆ ここに参上! 私を呼んだのは君達かなっ? かなっ?』

 

「ピンチにやってくるミレディたんマジ天使」

 

「……来るの知ってたなコウスケ」

 

「何の事やら」

 

 とぼける親友に思いっきり溜息を吐くハジメ。そんないつものやり取りをしている二人に乱入してきたミレディは少し微笑んだ後周囲の崩壊を食い止めある物を取り出した。

 

『そんな馬鹿な事やってないで、ほい、これ【劣化版界越の矢】、最後の一本ね。こんな不安定な空間でないと碌に使えない不良品だけど脱出には十分なはずだから。後、サービスで回復薬だ! 矢の能力を発動させるくらいには回復するはずだよん!』

 

 差し出されたのは空間を超える魔法の矢。受け取ったハジメは何かを考えミレディを見た。

 

『どうしたのかなぁ~ お!もしかしてお姉さんに見惚れちゃった!? もぅミレディったんたらマジ美少女』

 

「見惚れる云々は置いといて、ミレディ、君残るつもりだろ」

 

 ハジメの一言でクネクネした挙動をしていたミレディはピタリと動きを止め頷いた。

 

『んもぉー勘が鋭いね! うん、残るよぉ~。こんなデタラメな空間を放置したら地上も巻き込んで連鎖崩壊しちゃいそうだからね。私が片付けるよ』

 

 口調は軽いがその言葉には真剣さがあった。そしてコウスケが悲しそうにミレディを見ていたのを見てハジメは察した。ミレディは自身の全力を使ってこの崩壊を止めるのだろうと。

 

「……そっか。ありがとうミレディ」

 

『お礼を言う事じゃないさぁ~ さぁ貴方の帰りを待つ人達への元へ』

 

 ミレディに促されハジメはコウスケにの方を見て先に帰る事を決めた。今この場で自分が居るのは場違いだろうと想ったのだ。

 

「先に行ってるよコウスケ」

「おう、後ですぐに追いつく」

「何だかフラグみたい。 それじゃあさよなら世界の守護者」

 

 そう言ってハジメは崩壊した空間へと飛び降りて行った。

 

 

 

 

 

 

 

『さぁ君も早くしないと』

 

「ミレディ。俺が本気を出せばこの空間は修復できる。だから俺に任せてくれないか」

 

 ミレディの言葉に被せる様にコウスケは言い放った。実際全力を出してしまえば神域の崩壊を食い止めることが出来るのだ、ミレディの命を使わずとも。

 

 だがコウスケの提案をミレディは首を振って拒否した

 

『駄目だよ~。だってそれを使ったら貴方もう帰ってこれなくなるよ?』

 

「っ!? …気付いていたのか?」

 

 鋭い指摘に驚愕するコウスケ。対してミレディはどこまでも優しげだった。

 

『地上のあの魔法陣。死者の浄化。そして()()()()()()()()()()()。色々使いすぎてしまったから、それ以上使うとなるとあなたは貴方ではない何かになっちゃう。ミレディちゃんはお見通しなのだよっ』

 

 ミレディの指摘通り、コウスケは自身の力を十全に使った。地上で誰もが死ぬことの無い様に魔法陣を書き亡霊をちゃんと成仏出来る様に施した事、そして清水の保険。コウスケは思い通りに魔力を使った、使いすぎてしまったのだ。

 

『魔力が枯渇するんじゃない。逆に溢れすぎてしまって人間の域を超えてしまう。それは駄目だよ、貴方は普通の人にならないと…本当の意味で神になっちゃう』

 

「そんな気はサラサラないんだが…って言えないのが俺なんだよなぁ」

 

『だから!ここは私に任せて、あの子たちの元へ。…ここから先は私の仕事だから』

 

 ミレディ・ゴーレムに重なるようにして十四、五歳くらいの金髪美少女が現れコウスケに微笑む。その決意はどうしても折れないもので、コウスケが何を言っても聞かない意思の強さを感じた

 

「すまん。心底嫌だけど…甘えさせてもらっていいかなミレディ」

 

『お!?オーくんが聞いたらびっくりするようなことを言うなんて、長生きはするもんだなぁ~』

 

 いつもの調子を崩さないミレディに苦笑するコウスケ。ここで一つでも解放者達との記憶を思い出せたらロマンチックなのだろうが……どうしても思い出せなかった。

 

 だからコウスケは一つだけ悪戯を仕掛けた。そして空間から身を投げる寸前振り返り思いっきり叫んだ

 

「じゃあなミレディちゃん!ずっっっっと思ってたけどお前のその口調滅茶苦茶好みだったわ!」

 

『知ってるよーあなたが私にメロメロだったことぐらい! じゃあね!さようなら私たちの勇者様!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そうしてコウスケは空間から消え、残されたのはミレディ一人となった。崩壊を始める空間の中一人ぶつくさと文句を言うミレディ。

 

『んも~最後に言う事がそれとか、ほんっと女心が分かっていないというか…』

 

 文句は言いつつも顔は幸せそうだった。本当ならもっと話したいことがあったが彼は自分たちの知る人とは少し変わってしまったのだ。昔の人間がでしゃばるよりも今の仲間たちに囲まれていた方が良い。さびしくてもそう納得するミレディ。

 

『でも、甘えてくるなんて珍しいねぇ~いつもは』

 

「いつもは男のメンツを気にして君に頼らなかったからね」

 

『そうそう、でもそういうのすぐに分かるから結局……え?」

 

 返事にあまりにも自然に返したが可笑しいと気付いて振り向替えったミレディ。そこにいたのは黒い黒衣を纏った温和そうな青年がいた。黒ぶちの眼鏡をかけ、長い黒髪を後ろで一括りにしている苦笑が良く似合う青年がそこで立っていたのだ。

 

 

『嘘……オー…くん?』

 

「何を呆けているんだいミレディ。さぁ早くさっさとこの崩壊を止めないと、彼らが頑張ってきた意味が無くなってしまう」

 

 その呆れたような態度は昔と寸分変わらずで逆に戸惑ってしまう。そんなミレディを苦笑すると青年は手を差し伸べてきた。

 

「皆も待ってる。…待たせちゃ駄目じゃないか」

 

『…あっはは そっか、そうだよね、迎えに来てくれたのに待たせちゃ駄目だよね!!待ってよオーくん!』

 

 いったい誰が奇跡を起こしたのかなんて答えが分かっている事を口に出すことはしない。青年がさし伸ばした手をしっかりと握りミレディは天真爛漫な声で大きく明朗に叫んだ。 

 

 

 

 

 

『みんなぁ、たっだいまぁーー!!』

 

 

「おかえり、ミレディ」

 

 

 

 

 




エヒトはあっさりと退場!おっつかれでした!

残り三話の予定です…多分
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